ひとことで言うと、りんごや野菜のように物の使い方に従って取れる物が「天然果実(てんねんかじつ)」、家賃や地代のように物を使わせた対価が「法定果実(ほうていかじつ)」です(民法88条)。天然果実は、元の物から離れる(分離する)時に、それを取る権利のある人のものになります。法定果実は、取る権利のあった期間に応じて日割りで分けます(89条)。
この記事では、①85条〜89条の言葉の意味、②売買(575条)と占有(189条・190条)のときに果実がだれのものになるか、③家賃の日割りの考え方、を表にします。果実を生む元の物を「元物(げんぶつ)」と呼びます。主物と従物(87条)、抵当権が果実に及ぶ時点(371条)は抵当権の効力が及ぶ範囲の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は次の5人です(架空の話です)。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| みのるさん | 果樹園の売主 | りんご畑をはなこさんに売った |
| はなこさん | 果樹園の買主 | 引渡しは秋の予定 |
| あきらさん | 貸家の売主 | こうへいさんに貸している家を売った |
| ともみさん | 貸家の買主 | 月の途中で引渡しを受けた |
| こうへいさん | 家の借主 | 家賃を月末に払う |
- みのるさんは、春に果樹園をはなこさんに売る契約をした。代金の支払と引渡しは秋の予定。
- 夏、引渡しの前に、みのるさんがりんごを収穫した。このりんごはだれのものか。
- あきらさんは、こうへいさんに月10万円で貸している家を、ともみさんに売った。4月16日に引渡しと登記をすませた。
- 4月分の家賃10万円は、あきらさんとともみさんのどちらのものか。
りんごは、みのるさんのものです。売買では、まだ引き渡していない物から生まれた果実は売主のものになるからです(575条1項)。4月分の家賃は、特約がなければ、あきらさんとともみさんが日数で分けます。4月1日〜15日の15日分があきらさん、16日〜30日の15日分がともみさんで、5万円ずつです。
たとえるなら、天然果実は「木からもいだ時に、もぐ権利のある人の物」、法定果実は「家賃という水が毎日少しずつたまる水槽」です。水槽の持ち主が月の途中で替われば、たまった日数で分けます。ただし本物のルールでは、家賃を払う相手は契約と賃貸人の地位で決まります。日割りは、売主と買主のように「取る権利のある人どうし」の分け方です。
条文ではこう決まっている
物・不動産・果実の言葉(85条・86条・88条)
- 物(85条):「この法律において「物」とは、有体物をいう。」形のある物のことです。
- 不動産と動産(86条):土地とその定着物(ていちゃくぶつ=土地にしっかり付いた物)は不動産。それ以外の物はすべて動産。
- 天然果実(88条1項):「物の用法に従い収取する産出物」。果樹園のりんご、畑の野菜のように、物の使い方どおりに取れる物です。
- 法定果実(88条2項):「物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物」。家賃・地代のように、物を人に使わせた見返りです。
果実はだれのものか(89条)
- 天然果実(1項):「その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。」収穫した時点で、取る権利があった人のものです。
- 法定果実(2項):「これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。」
売買のときの特別のルール(575条)
- 果実(1項):「まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。」
- 代金の利息(2項):買主は、引渡しの日から代金の利息を払う。ただし、代金の支払に期限があるときは、その期限が来るまでは利息を払わなくてよい。
引渡しまでは売主が果実を取り、買主は代金の利息を払わない。引渡しの後は、買主が果実を取り、代金の利息を払う。果実と利息を、引渡しの日で切り替える仕組みです。所有権がいつ移るか(176条)とは別に、引渡しで決めている点が大事です。
占有している人と果実(189条・190条)
- 善意の占有者(189条1項):自分に権利があると信じて物を持っている人は、その物から生まれる果実を取得する。
- 訴えで負けたとき(189条2項):善意の占有者が本権の訴え(ほんけんのうったえ=所有権などにもとづく訴え)で敗訴したときは、「その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす」。
- 悪意の占有者(190条1項):果実を返し、すでに使ってしまった果実、過失で傷めた果実、取るのを怠った果実の代価を償う。暴行・強迫・隠して占有している人も同じ(2項)。
当てはまる例・当てはまらない例
| 場面 | だれのものか | 根拠 |
|---|---|---|
| 引渡し前に収穫したりんご(売買) | 売主 | 575条1項 |
| 引渡し後に収穫したりんご(売買) | 買主 | 89条1項 |
| 月の途中で引き渡した貸家の家賃 | 売主と買主で日割り | 89条2項(575条でも同じ結論) |
| 善意の占有者が取った野菜 | 占有者 | 189条1項 |
| 本権の訴えを起こされた後の野菜 | 返す(悪意とみなされる) | 189条2項・190条1項 |
| 家を売った代金 | 果実ではない | 88条2項(使用の対価でない) |
例1:引渡し前のりんご(当てはまる例)
みのるさんとはなこさんの売買で、所有権が契約の時に移ったとしても、引渡しの前に生まれたりんごは、みのるさんのものです(575条1項)。はなこさんは、引渡しまで代金の利息を払いません。「所有権が移ったのだから、りんごも買主のもの」と考えると誤ります。
例2:家賃の日割り(当てはまる例)
家賃は法定果実なので、取る権利のあった日数で分けます(89条2項)。月末に払われる家賃でも、「支払日に賃貸人だった人が全部取る」わけではありません。売買なので575条1項で見ても、引渡しの前の分は売主、後の分は買主のものになり、結論は同じです。売主と買主が精算のしかたを別に取り決めたときは、その取り決めが問題になります。この記事の例は、特約がない場面です。
例3:自分の畑だと信じていた(ひっかけやすい例)
ゆうたさんが、境界をまちがえて、となりの畑も自分の畑だと信じて野菜を育て、収穫したとします。善意の占有者なので、収穫した野菜を取得します(189条1項)。ところが、持ち主から所有権にもとづく訴えを起こされて負けると、訴えを起こされた時から悪意の占有者とみなされます(同条2項)。その後に取った野菜は返し、食べてしまった分は代価を償います(190条1項)。占有の全体は占有の記事で扱っています。
例4:家を売った代金(当てはまらない例)
法定果実は「物の使用の対価」です。家を売った代金は、使わせた見返りではなく、物そのものと引換えのお金なので、果実ではありません。家賃・地代は使用の対価なので、法定果実です。
似ているルールとの違い
「果実」が出てくる条文は、それぞれ答える問いが違います。
| 条文 | 答える問い | 決め手 |
|---|---|---|
| 89条 | 果実はだれのものか(原則) | 分離の時の収取権者/日割り |
| 575条 | 売買の売主と買主のどちらか | 引渡しの前か後か |
| 189条・190条 | 持ち主でない占有者が取れるか | 善意か悪意か |
| 371条 | 抵当権が果実に及ぶか | 債務の不履行の後か |
同じ「売買」でも、果実の行方を決めるのは引渡し(575条)、所有権が移る時を決めるのは当事者の意思表示(176条)、第三者に主張できるかを決めるのは登記(177条)です。物の権利の全体像は物権と債権の違いの記事、一物一権主義などの物権の原則は物権の原則の記事、引渡しと代金の順番は同時履行の抗弁権の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、所有権や物権の一般的な問題(当サイトの分類で「所有権・物権(その他)」)が主な論点の問題は2問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では1問でした。果実だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。果実は、売買・占有・抵当権の問の1肢として出てくる言葉です。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 天然果実と法定果実の入れ替え:日割りは法定果実(89条2項)。天然果実は分離の時(1項)です。
- 売買で所有権の移転に合わせる形:引渡し前の果実は売主(575条1項)。所有権がいつ移ったかでは決めません。
- 代金の利息の起算点:買主は引渡しの日から利息を払う(575条2項)。契約の日ではありません。支払の期限があれば、その期限まで利息はいりません(ただし書)。
- 善意の占有者は最後まで果実を取れるとする形:本権の訴えで負けると、訴えの提起の時から悪意とみなされます(189条2項)。判決の時からではありません。
- 代金や売却益を法定果実とする形:法定果実は「物の使用の対価」です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
みのるさんは、果樹園をはなこさんに売る契約をした。所有権は契約の時に移る約束だが、代金の支払と引渡しはまだである。この間にみのるさんが収穫したりんごは、みのるさんのものとなる。
答え:○ 分かれ目は、果実の行方を所有権で決めるか、引渡しで決めるかです。575条1項は「まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する」としています。所有権がすでに買主に移っているので、果実も買主のものだと考えると✕に見えます。所有権の移転(176条)と果実の帰属(575条)を取り違えないようにします。代わりに、はなこさんは引渡しの日まで代金の利息を払いません(同条2項)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
あきらさんは、こうへいさんに月末払いで貸している家をともみさんに売り、4月16日に引渡しと登記をすませて、賃貸人の地位もともみさんに移った。特約がなければ、4月分の家賃は、あきらさんとともみさんの間で、日数に応じて分けられる。
答え:○ 分かれ目は、法定果実の分け方です。家賃は物の使用の対価なので法定果実で(88条2項)、89条2項は「収取する権利の存続期間に応じて、日割計算により」取得するとしています。月末の支払日に賃貸人であるともみさんが全部受け取れると考えると✕に見えます。575条1項で見ても、引渡し前の分は売主のものなので、結論は同じです。分離の時で決める天然果実(89条1項)と取り違えないようにします。
問3(このサイトのオリジナル問題)
ゆうたさんは、となりの畑も自分の畑だと信じて野菜を育てていたが、持ち主から所有権にもとづく訴えを起こされ、敗訴した。ゆうたさんは、訴えを起こされた後に収穫した野菜も、善意の占有者として取得でき、返す必要はない。
答え:✕ 分かれ目は、善意の扱いがいつまで続くかです。189条2項は、善意の占有者が本権の訴えで敗訴したときは「その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす」としています。正しくは、訴えを起こされた後に収穫した野菜は返し、使ってしまった分は代価を償います(190条1項)。訴えの前に取った野菜は、善意の占有者として取得できます(189条1項)。取り違えの相手は、悪意とみなされる時点を「判決の時」とする考え方です。条文の起算点は、訴えの提起の時です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 天然果実=物の用法に従い収取する産出物(りんご・野菜)。法定果実=物の使用の対価(家賃・地代)(88条)。
- 天然果実は元物から分離する時の収取権者のもの。法定果実は権利の存続期間に応じて日割り(89条)。
- 売買では、引渡し前の果実は売主。買主は引渡しの日から代金の利息を払う。期限があれば期限まで不要(575条)。
- 善意の占有者は果実を取得する。本権の訴えで負けると、訴えの提起の時から悪意とみなされる(189条)。悪意の占有者は果実を返す(190条)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(85条、86条、88条、89条、176条、177条、189条、190条、371条、575条)
このサイトで次に読むなら、抵当権の効力が及ぶ範囲の記事です。家賃のような果実に抵当権が及ぶのはいつからか(371条)を、付加一体物・従物とあわせて表にしています。
働く人の法律試験ノート