ひとことで言うと、こども基本法は、国・地方公共団体のこども施策の基本理念と責務、政府が定める「こども大綱」などを決めた法律です(令和4年法律第77号、令和5年4月1日施行)。「こども」は「心身の発達の過程にある者」と定められ(2条1項)、年齢の区切りが書かれていません。基本理念は3条の6つの号で、11条は、施策の策定・実施・評価にこどもなどの意見を反映させる措置を求めています。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の社会の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、制度の骨組みを知るために読んでください。
「こども基本法」は略称ではなく、法律の題名です。この法律は「こども」とひらがなで書き、児童福祉法や条約の訳文は「児童」と書きます。この記事は、それぞれの法令の表記どおりに書き分けます。個別の施策の中身、予算の額、給付や手当の制度は扱いません。条文は令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確かめました。
身近な例で考えると
市役所で、こども施策の計画づくりの担当になったあおいさんの仕事を、条文の順にたどってみます。
- 国の側では、政府が、こども施策を総合的に推進するため「こども大綱」を定める(9条1項)。案を作るのは、こども家庭庁に置かれるこども政策推進会議(17条2項1号)。
- あおいさんの市は、こども大綱(県の計画があればそれも)を勘案して、市町村こども計画を定めるよう努める(10条2項)。
- 市は、施策を策定し、実施し、評価するときに、対象になるこどもや、こどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずる(11条)。
- 国の側では、政府が毎年、国会にこどもをめぐる状況と施策の実施の状況の報告を出し、公表する(8条1項)。
たとえると、こども大綱は「国全体の設計図」、都道府県・市町村のこども計画は「地域ごとの間取り図」です。ただし本物のルールでは、設計図(こども大綱)は政府が定めなければならないのに対し、地域の計画は定めるよう努めるもので、義務の強さが違います。
条文ではこう決まっている
- 1条(目的):日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり、基本理念を定め、国の責務などを明らかにし、こども施策の基本となる事項を定め、こども政策推進会議を置くことなどにより、こども施策を総合的に推進することを目的とする。
- 2条1項(こども):「この法律において「こども」とは、心身の発達の過程にある者をいう。」
- 2条2項(こども施策):①新生児期・乳幼児期・学童期・思春期の各段階を経て、おとなになるまでの心身の発達の過程を通じて切れ目なく行われる健やかな成長への支援、②就労・結婚・妊娠・出産・育児等の各段階に応じた支援、③家庭における養育環境その他の養育環境の整備、などの施策。
- 4条・5条(責務):国はこども施策を総合的に策定し実施する責務、地方公共団体は国や他の地方公共団体と連携しながら区域内のこどもの状況に応じた施策を策定し実施する責務を有する。
- 6条・7条(努力):事業主は、雇用する労働者の職業生活と家庭生活の充実のため必要な雇用環境の整備に努める。国民は、こども施策への関心と理解を深め、施策に協力するよう努める。
6つの基本理念(3条)を表にすると
3条の柱書は「こども施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない」です。こども家庭庁も「6つの基本理念」と説明しています。
| 号 | 中身(条文の言葉の要点) |
|---|---|
| 1号 | 全てのこどもが個人として尊重され、基本的人権が保障され、差別的取扱いを受けることがないようにする |
| 2号 | 適切に養育され、生活を保障され、愛され保護されるなどの福祉に係る権利が等しく保障され、教育基本法の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられる |
| 3号 | 年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会と、多様な社会的活動に参画する機会が確保される |
| 4号 | 年齢及び発達の程度に応じて、意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮される |
| 5号 | 養育は家庭を基本とし、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識の下で十分に支援し、家庭での養育が困難なこどもにはできる限り家庭と同様の養育環境を確保する |
| 6号 | 家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境を整備する |
3号は「意見を表明する機会」、4号は「意見が尊重され、最善の利益が優先して考慮される」で、段階が分かれています。どちらにも「その年齢及び発達の程度に応じて」が付いています。
こども大綱・計画・会議・こども家庭庁は、だれが何をするか
| しくみ | だれが・何を | 条 |
|---|---|---|
| こども大綱 | 政府が定めなければならない | 9条1項 |
| 都道府県こども計画 | 都道府県が、こども大綱を勘案して定めるよう努める | 10条1項 |
| 市町村こども計画 | 市町村が、こども大綱(都道府県こども計画があればそれも)を勘案して定めるよう努める | 10条2項 |
| 意見の反映 | 国と地方公共団体が、策定・実施・評価に当たり、こどもや養育する者その他の関係者の意見を反映させる措置を講ずる | 11条 |
| 年次報告 | 政府が毎年、国会に報告を出し、公表しなければならない | 8条1項 |
| こども政策推進会議 | こども家庭庁に特別の機関として置く。こども大綱の案を作る。会長は内閣総理大臣 | 17条1項・2項1号、18条2項 |
こども家庭庁は、こども家庭庁設置法(令和4年法律第75号)で、内閣府の外局として置かれました(2条1項)。長はこども家庭庁長官です(2条2項)。設置法もこども基本法も令和4年6月22日に公布され、どちらも附則1条で令和5年4月1日から施行されています。こども家庭庁の説明では、政府は令和5年12月22日に、こども基本法に基づくこども大綱を閣議決定しました。
「こども」「児童」「未成年者」は、どう違うか
| 法令の言葉 | 定義 | 条 |
|---|---|---|
| こども(こども基本法) | 心身の発達の過程にある者。年齢の定めはない | 2条1項 |
| 児童(児童福祉法) | 満18歳に満たない者。乳児・幼児・少年に分ける | 4条1項 |
| 成年(民法) | 年齢18歳をもって成年とする。成年に達しない者が未成年者 | 4条 |
民法の未成年者が契約をするときのルールは制限行為能力者の記事で扱っています。18歳未満の「青少年」を対象にする法律の例は、青少年インターネット環境整備法の記事で扱っています。こども基本法1条が「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」と書き、15条で国がこの法律と条約の趣旨・内容を周知するよう努めるとしている点は、条約の側から子どもの権利条約の記事で確かめられます。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:市が、こども施策を評価する段階で、対象のこどもや保護者の意見を反映させる措置をとる。11条は、策定だけでなく「実施し、及び評価するに当たって」も対象にしています。
- 当てはまる例:こども施策を定める市町村こども計画。10条2項で、市町村は定めるよう努めるとされています。
- 当てはまらない例:「こども基本法のこどもは18歳未満の者」という説明。2条1項は年齢を書いておらず、18歳未満と定めているのは児童福祉法4条1項の「児童」です。
- 当てはまらない例:事業主の雇用環境の整備(6条)を「義務」とする説明。6条の文末は「努めるものとする」で、見出しも「事業主の努力」です。
- ひっかけやすい例:こども政策推進会議の会長。こども家庭庁に置かれる会議ですが、会長はこども家庭庁長官ではなく内閣総理大臣です(18条2項)。
試験ではここをまちがえやすい
- こどもの定義:心身の発達の過程にある者(2条1項)。18歳未満は児童福祉法の「児童」。
- 義務と努力義務:こども大綱は政府の義務(9条1項)、都道府県・市町村のこども計画は努力義務(10条)。
- 意見の反映:策定・実施・評価のすべての段階。相手はこども本人と、養育する者その他の関係者(11条)。
- 会議の会長:こども政策推進会議の会長は内閣総理大臣(18条2項)。
- 施行日:こども基本法とこども家庭庁設置法は、どちらも令和5年4月1日。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんは、市の計画の対象を考えるため、こども基本法の定義を確かめた。こども基本法は、2条1項で、この法律の「こども」を、児童福祉法の「児童」と同じく満18歳に満たない者と定めている。
答え:✕ 分かれ目は、年齢で区切るかどうかです。2条1項は「心身の発達の過程にある者をいう」とだけ定め、年齢を書いていません。正しくは、年齢の定めのない定義です。2条2項1号も、おとなになるまでの心身の発達の過程を通じて切れ目なく行われる支援を、こども施策に挙げています。満18歳に満たない者と定めているのは児童福祉法4条1項の「児童」で、その定義と取り違えた誤りです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんの市がこども施策を実施した後、その施策を評価する場合にも、市は、対象となるこどもや、こどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとされている。
答え:○ 分かれ目は、意見を反映させる段階です。11条は、国及び地方公共団体は、こども施策を「策定し、実施し、及び評価するに当たっては」、対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとしています。意見を聴くのは計画を作る最初だけ、と考えると✕に見えます。3条3号・4号の基本理念(意見を表明する機会、意見の尊重)を、施策の手続の側で受けた条文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんの市がある県は、まだ都道府県こども計画を定めていない。こども基本法では、政府がこども大綱を定めたときは、都道府県も、こども大綱を勘案して都道府県こども計画を定める義務を負う。
答え:✕ 分かれ目は、義務か努力義務かです。政府がこども大綱を定めることは「定めなければならない」(9条1項)ですが、都道府県こども計画は「定めるよう努めるものとする」(10条1項)です。正しくは、都道府県の計画は努力義務です。市町村こども計画も同じく努力義務です(10条2項)。国の大綱の義務を、地方の計画にも広げた誤りです。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- こども基本法(令和4年法律第77号)とこども家庭庁設置法(令和4年法律第75号)は、どちらも令和5年4月1日施行。
- 「こども」は心身の発達の過程にある者で、年齢の定めはない。18歳未満は児童福祉法の「児童」。
- 基本理念は3条の6つの号。3号は意見を表明する機会、4号は意見の尊重と最善の利益。
- こども大綱は政府の義務、都道府県・市町村のこども計画は努力義務。意見の反映は策定・実施・評価の全部(11条)。
- こども政策推進会議はこども家庭庁に置かれ、会長は内閣総理大臣。
このサイトで次に読むなら、子どもの権利条約の記事です。こども基本法1条が精神にのっとるとした条約の側から、意見の尊重や最善の利益の考え方を確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に確かめました。こども家庭庁の説明も同じ日に確かめています。
- e-Gov法令検索「こども基本法」(1条〜11条・15条・17条・18条、附則1条)
- e-Gov法令検索「こども家庭庁設置法」(1条〜3条、附則1条)
- e-Gov法令検索「児童福祉法」(4条1項)
- e-Gov法令検索「民法」(4条)
- こども家庭庁「こども基本法」(成立・施行、6つの基本理念)
- こども家庭庁「こども大綱の推進」(令和5年12月22日の閣議決定)
働く人の法律試験ノート