責任能力と監督義務者の責任:子どもや認知症の人が起こした事故で、だれが賠償するか

ひとことで言うと、自分のしたことの責任が分からない人(責任無能力者)は、他人に損害を与えても賠償の責任を負わず、代わりに、その人を監督する法定の義務を負う人が責任を負うしくみです(民法712条〜714条)。ただし監督義務者は、義務を怠らなかったこと、または怠らなくても損害が生じたことを示せば、責任を免れます(714条1項ただし書)。

この記事では、①責任能力がないとされる2つの場合、②714条の監督義務者の責任と免れる場合、③親・家族についての判例、④責任能力のある未成年者の親の責任、を扱います。だれかを責めるための話ではなく、条文と判例がどこで線を引いているかを確かめる記事です。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

登場人物は、小学生のはるとさんと、その母のみさきさん、近所に住むゆいさんです。

  1. はるとさんは、公園でボール遊びをしていた。
  2. 投げたボールが公園の外へ飛び、通りかかったゆいさんの自転車に当たって、自転車が壊れた。
  3. はるとさんは、まだ自分の行為の責任を弁識する(わきまえる)知能を備えていないとされた。この場合、はるとさんは賠償の責任を負わない(712条)。
  4. 代わりに、親権者であるみさきさんが、法定の監督義務者として賠償の責任を負うのが原則(714条1項本文)。
  5. みさきさんが、監督の義務を怠らなかったこと(または怠らなくても損害が生じたこと)を示せば、責任を免れる(714条1項ただし書)。

714条は、被害者が「監督義務者が義務を怠った」ことを証明するのではなく、監督義務者の側が「怠らなかった」ことを示す形になっています。被害者が救われやすいように、証明の向きを逆にしているのです。

たとえるなら、試合中の選手のミスを、まず監督が引き受ける形です。ただし本物のルールでは、監督がふだんから必要な指導をしていたと示せれば、監督も責任を負いません。いつでも監督が払う、というしくみではありません。

条文ではこう決まっている

条要件効果
712条未成年者が、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったその行為について賠償の責任を負わない
713条本文精神上の障害で、責任を弁識する能力を欠く状態の間に損害を加えた賠償の責任を負わない
713条ただし書故意又は過失によって一時的にその状態を招いた責任を負う
714条1項712条・713条で本人が責任を負わない責任無能力者を監督する法定の義務を負う者が賠償する
714条2項監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者同じ責任を負う
  • 714条1項ただし書:「監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」
  • 年齢の線はない:712条は「知能を備えていなかったとき」と書くだけで、何歳までと決めていません。責任能力と、意思能力・行為能力との違いは4つの「能力」の違いの記事で比べています。
  • 代わりに監督する人(714条2項):親から子どもを預かって監督する立場の人も、同じ責任を負い、同じただし書で免れることができます。

判例で決まっていること

判例場面結論
最一小 平成27年4月9日責任能力のない子が校庭でゴールに向けて蹴ったボールが道路に出て、事故が起きた判示の事情の下では、親権者は714条1項の監督義務を怠らなかった
最三小 平成28年3月1日認知症で責任能力のない人が線路に入り、鉄道会社に損害が出た同居の配偶者だからといって、法定の監督義務者に当たるとはいえない
最二小 昭和49年3月22日責任能力のある未成年者が不法行為をした監督義務者の義務違反と結果との間に相当因果関係があれば、監督義務者に709条の不法行為が成立する

平成27年の判決は、子が開放された校庭で、設置されたゴールに向けて練習していて、ことさら道路に向けて蹴ったなどの事情はなく、ボールが道路に出ることが常態だったともいえず、親は日ごろから通常のしつけをしていた、などの事情を挙げました。理由の中では、「通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は」、具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない、と述べています。親に対する損害賠償の請求は棄却されました。

平成28年の判決(一般に「JR東海事件」と呼ばれる)は、さらに、法定の監督義務者に当たらない人でも、日常の接触の状況などから監督を現に引き受けたとみるべき特段の事情があれば「法定の監督義務者に準ずべき者」として714条1項が類推適用される、としました。判断では、その人自身の生活や心身の状況、本人との親族関係の濃さ、同居の有無などの日常的な接触の程度、財産管理への関わり、本人の心身の状況、実際の介護の様子などを総合して考えます。この事案では、妻も長男も、準ずべき者には当たらないとされました。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(714条):上のはるとさんの例。はるとさんは責任を負わず、みさきさんが714条の責任を負うのが原則です。みさきさんが義務を怠らなかったと示せれば免れます。
  • 当てはまらない(本人に責任能力がある):中学生のそうたさんが自転車で人の車に傷をつけ、そうたさんに責任能力があった。本人が709条の責任を負うので、親は714条の責任を負いません。ただし、親の監督の義務違反と損害の間に相当因果関係があれば、親自身も709条の責任を負います(昭和49年判決)。
  • 当てはまらない(自分で招いた状態):大人のこうじさんが、自分で多量に酒を飲んで判断できない状態になり、その間に隣の家の窓を割った。故意又は過失で一時的にその状態を招いたので、こうじさん自身が責任を負います(713条ただし書)。
  • ひっかけやすい(家族なら当然に監督義務者):認知症の人と同居している配偶者だというだけでは、法定の監督義務者に当たりません(平成28年判決)。準ずべき者に当たるかは、特段の事情を総合して判断されます。

似ているルールとの違い

本人ではない人が賠償する不法行為の規定を並べると、免れる道の有無が違います。

規定責任を負う人免れる道
714条(監督義務者)責任無能力者を監督する法定の義務を負う者義務を怠らなかった、または怠らなくても損害が生じた
715条(使用者)事業のために他人を使用する者選任と監督に相当の注意をした、または注意しても損害が生じた
717条(工作物)まず占有者、次に所有者占有者は必要な注意をすれば免れる。所有者には免れる道がない

714条と715条は、どちらも「注意を尽くしたら免れる」形です。所有者が注意していても免れないのは717条です。使用者責任は使用者責任の判例の記事、工作物責任は工作物責任の記事、不法行為の全体は不法行為の記事で扱っています。

契約の場面の「制限行為能力」(未成年者が親の同意なく結んだ契約を取り消せるか)とは、別の話です。不法行為の責任能力は、損害を与えた行為の責任をわきまえる力があったかで決まり、未成年者でも責任能力があれば本人が賠償します。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、不法行為が主な論点の問題は18問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では3問でした。ほかの論点が主な問題の中に、不法行為を副の論点として含むものも5問あります。監督義務者の責任だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 監督義務者は免れないとする形:714条1項ただし書で免れる道があります。免れる道がないのは、717条の所有者です。
  • 責任能力のある子の親は責任を負わないとする形:714条の責任は負いませんが、709条の責任を負うことがあります(昭和49年判決)。
  • 713条ただし書を消す形:故意又は過失で一時的にその状態を招いたときは、本人が責任を負います。
  • 同居の配偶者を当然に監督義務者とする形:判例は否定しました。準ずべき者として類推適用されるのは、監督を引き受けたとみるべき特段の事情があるときです(平成28年判決)。
  • 証明の向き:被害者が監督義務者の落ち度を証明するのではなく、監督義務者が「怠らなかった」ことを示して免れる形です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
中学生のそうたさんは、自転車に乗っていて不注意で他人の車に傷をつけた。そうたさんには責任能力があり、自分で709条の責任を負う。この場合でも、親の監督義務の違反とその損害との間に相当因果関係があれば、親も709条により賠償の責任を負う。

答え:○ 分かれ目は、714条が使えない場面で親の責任が残るかです。最高裁判所第二小法廷昭和49年3月22日判決は、未成年者が責任能力を有する場合でも、監督義務者の義務違反と未成年者の不法行為で生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者に709条の不法行為が成立するとしました。714条は本人が責任を負わない場合の規定なので、親の責任はないと考えると✕にしてしまいます。この場合、被害者は親の義務違反を709条の要件として示すことになります。

問2(このサイトのオリジナル問題)
小学生のはるとさん(責任能力はない)が公園で投げたボールで、ゆいさんの自転車が壊れた。ゆいさんが母のみさきさんに714条の賠償を求めるには、ゆいさんの側で、みさきさんが監督の義務を怠ったことを証明する必要がある。

答え:✕ 分かれ目は、だれが何を証明するかです。714条1項は、本文で監督義務者が責任を負うとし、ただし書で、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又は怠らなくても損害が生ずべきであったときは責任を負わないとしています。正しくは、ゆいさんは義務違反を証明しなくてよく、みさきさんの側が、義務を怠らなかったことなどを示せば免れます(それが認められた例が、最高裁 平成27年4月9日判決)。被害者が相手の過失を証明するのは、709条の一般の不法行為や、責任能力のある子の親に709条で請求する場合(昭和49年判決)です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
大人のこうじさんは、自分で多量に酒を飲んで、自分の行為の責任をわきまえる能力を一時的に失い、その間に隣の家の窓ガラスを割った。この場合、こうじさんは賠償の責任を負わない。

答え:✕ 分かれ目は、その状態を自分で招いたかです。精神上の障害で責任を弁識する能力を欠く状態の間に損害を加えた者は責任を負いませんが、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りではありません(民法713条)。正しくは、こうじさんは自分で酒を飲んで招いたので、賠償の責任を負います。本文だけを読むと責任を負わないと考えてしまいますが、ただし書が答えを決めます。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 責任を弁識する知能のない未成年者、精神上の障害で弁識能力を欠く状態の人は、賠償の責任を負わない(712条・713条)。自分で一時的に招いた状態なら負う。
  • その場合、監督する法定の義務を負う者(と代わりに監督する者)が責任を負う(714条)。
  • 監督義務者は、義務を怠らなかった、または怠らなくても損害が生じたと示せば免れる。
  • 同居の配偶者というだけでは法定の監督義務者に当たらない。特段の事情があれば準ずべき者として類推適用(平成28年判決)。
  • 責任能力のある未成年者の親も、義務違反と結果に相当因果関係があれば709条で責任を負う(昭和49年判決)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、平成28年の判決は判決全文も確かめました。

このサイトで次に読むなら、共同不法行為の記事です。何人かが関わって損害が生じたときに、だれがどこまで賠償し、あとでどう負担を分けるかを確かめられます。

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