期限の利益をわかりやすく:放棄できる場合と、137条の3つの喪失・契約で決める喪失

ひとことで言うと、期限の利益は「返す日が来るまでは、返さなくてよい」という債務者の利益です。期限は債務者のために定めたものと推定され(民法136条1項)、債務者はこの利益を放棄して早く返せます。ただし、放棄で相手の利益を害することはできません(同条2項)。債務者が破産手続開始の決定を受けたときなど3つの場合は、期限の利益を主張できなくなります(137条)。

この記事では、①期限の利益がだれのものか、②放棄、③137条の3つの喪失、④契約で決める喪失(分割払いの遅れ)、⑤相殺・保証とのつながり、を扱います。条件と期限の違いは停止条件の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

登場人物は、家の改修のお金を借りるたいちさんと、貸すおじのしんごさんです。借りる人=たいちさん、貸す人=しんごさんです。

  1. たいちさんは、しんごさんから300万円を借りた。返す日は3年後と決めた。
  2. たいちさんは、自分の家に抵当権(ていとうけん=返せないときに家から先に回収できる権利)を付けた。
  3. 1年後、しんごさんが「やはり今すぐ返して」と言った。たいちさんは「返す日はまだ先です」と断れる。これが期限の利益。
  4. その後、たいちさんの台所の火の不始末で、抵当権を付けた家が焼けてしまった。
  5. 担保を自分で滅失させたので、たいちさんは期限の利益を主張できない(137条2号)。しんごさんは、返す日の前でも返すよう求められる。

期限の利益は、返す日までの「待ってもらえる権利」です。待ってもらえるのは、返してもらえる見込みがあるからです。その見込みを債務者自身がこわしたら、待ってもらう理由がなくなる、というのが137条の考え方です。

たとえるなら、レンタル店で「返却は1週間後でよい」と言われたのと同じで、早く返すのは借りた人の自由です。ただし本物のルールでは、利息付きの貸し借りのように、貸す側も期限まで利息を受け取る利益を持つことがあります。その場合、早く返すことはできても、相手の損害を賠償する必要が出てきます。

条文ではこう決まっている

  • 135条1項:始期(しき=ここから履行する、という期限)を付けたときは、期限が到来するまで履行を請求できない。
  • 136条1項:「期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。」推定なので、債権者のためでもあると示せれば、そのように扱われる。
  • 136条2項:「期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。」
  • 137条:次の場合、債務者は期限の利益を主張できない。
号場合ポイント
1号債務者が破産手続開始の決定を受けたとき申立ての段階ではなく「決定」
2号債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき主語は「債務者が」
3号債務者が担保を供する義務を負うのに、供しないとき担保を出す約束を守らない

早く返すとき(136条2項・591条)

お金の貸し借り(消費貸借)では、借主は、返す時期の定めがあってもなくても、いつでも返せます(591条2項)。返す時期を決めていた場合に、早く返されたことで貸主が損害を受けたときは、貸主は賠償を請求できます(同条3項)。136条2項ただし書の「相手方の利益を害することはできない」を、消費貸借について具体的にした形です。

契約で決める喪失(分割払いの遅れ)

137条の3つのほかに、契約で「分割払いを怠ったら、残りを全部すぐに払う」と決めることもできます。最高裁判所第二小法廷昭和42年6月23日判決は、割賦払の約束に違反したら「債権者の請求により」残りの全額を払う、という約束の事案で、1回の不払いがあっても各回の分の時効はそれぞれの支払日から進み、残りの全額の時効は、債権者が全額の支払を求める意思表示をした時から進むとしました(改正前の166条のもとでの判決)。請求があって初めて期限の利益を失う約束では、不払いだけで残り全部の支払日が来るわけではない、ということです。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(不注意で担保を失わせた):上の例。2号は「滅失させ」と書くだけで、わざとかどうかを分けていません。火の不始末で焼いた場合も、債務者が滅失させた場面です。
  • 当てはまらない(地震で壊れた):家が地震で壊れた場合は、「債務者が」滅失させたとは言えないので、2号の文言に当たりません。ただし、契約で「担保がなくなったら期限の利益を失う」と決めていれば、その約束によります。
  • 当てはまらない(破産の申立てをしただけ):たいちさんが破産手続開始の申立てをしただけの段階では、1号に当たりません。1号は「開始の決定を受けたとき」です。
  • 当てはまる(担保を出す約束を守らない):「来月までに、持っている土地に抵当権を付ける」と約束して借りたのに、それをしない。3号の場面です。
  • ひっかけやすい(利息付きの早い返済):年2%の利息付きで3年後に返す約束なら、たいちさんは1年後に返すこともできます。ただし、しんごさんが早く返されたことで損害を受けたら、その賠償が要ります(591条3項)。「期限は債務者のためだから、何の負担もなく返せる」とは限りません。

似ているルールとの違い

比べる点期限の利益の喪失契約の解除
契約はどうなるか続く。返す日が早まるだけなくなり、元に戻す(545条)
債権者ができること残りを今すぐ返すよう求める原状回復と損害賠償を求める
条文137条、契約の喪失の約束541条・542条

期限の利益の放棄は、相殺の場面でも使います。相殺する側は、自分の借り(受働債権)の期限の利益を放棄して、相殺できる状態を作れます(505条1項・136条2項)。反対に、自分が持つ債権(自働債権)の期限は相手の期限の利益なので、こちらから勝手に早めることはできません。くわしくは弁済と相殺の記事にあります。

保証が付いている借金で、主たる債務者が期限の利益を失ったときは、債権者は、それを知った時から2か月以内に保証人に知らせなければなりません(458条の3第1項)。知らせないと、その間の遅延損害金(期限の利益を失わなくても生じた分を除く)を保証人に請求できません(同条2項)。この通知の決まりは、保証人が法人のときは使われません(同条3項)。保証の全体は保証と連帯保証の記事で扱っています。契約の前・途中の情報提供とあわせた3つのルールは個人の保証人を守るルールで比べています。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、条件・期限が主な論点の問題は5問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では1問でした。期限の利益だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • だれのための期限か:債務者の利益のためと「推定」(136条1項)。債権者のためと推定する形、「みなす」とする形は誤りです。
  • 放棄のただし書を消す形:放棄はできますが、相手方の利益は害せません(136条2項ただし書)。
  • 1号の段階のずらし:破産手続開始の「決定」を受けたとき。申立てをしたときではありません。
  • 2号の主語:「債務者が」担保を滅失・損傷・減少させたとき。わざとかどうかは書かれていません。
  • 喪失と解除の混同:期限の利益を失っても、契約はなくなりません。残りを今すぐ請求できるようになるだけです。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
たいちさんは、しんごさんから返す日を3年後と決めてお金を借りた(契約に期限の利益を失う約束はない)。返す日の前に、たいちさんが裁判所に破産手続開始の申立てをした時点で、たいちさんは期限の利益を主張できなくなる。

答え:✕ 分かれ目は、破産手続のどの段階かです。債務者が期限の利益を主張できなくなるのは、「破産手続開始の決定を受けたとき」です(民法137条1号)。正しくは、申立てをしただけでは期限の利益を失わず、開始の決定を受けた時に主張できなくなります。契約で「申立てがあったら期限の利益を失う」と約束していれば、その約束によるので、前提の「約束はない」が効いています。

問2(このサイトのオリジナル問題)
たいちさんは、年2%の利息付きで、返す日を3年後と決めて、しんごさんから300万円を借りた。たいちさんは返す日の前でも全額を返すことができるが、それによってしんごさんが損害を受けたときは、その賠償をしなければならない。

答え:○ 分かれ目は、期限の利益の放棄と相手方の利益の関係です。期限の利益は放棄できますが、相手方の利益を害することはできません(民法136条2項)。消費貸借では、借主はいつでも返せ、返す時期を決めていた場合に貸主が早い返済で損害を受けたときは、貸主は賠償を請求できます(591条2項・3項)。期限は債務者のためと推定されるので、負担なく返せると考えると✕にしてしまいます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
たいちさんは、自分の家に抵当権を設定して、しんごさんからお金を借りた。たいちさんが台所の火の不始末でその家を焼いてしまった場合、返す日の前であっても、たいちさんは期限の利益を主張することができない。

答え:○ 分かれ目は、2号が「わざと」の場合に限られるかです。債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたときは、期限の利益を主張できません(民法137条2号)。条文は、わざとかどうかを分けていないので、不注意で焼いた場合も当たります。わざと壊したときだけと考えると✕にしてしまいます。地震で壊れたように、債務者がさせたとは言えない場合は2号の文言から外れ、担保を出す約束を守らない3号とも別の場面です。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 期限は債務者の利益のためと推定する(136条1項)。
  • 期限の利益は放棄できるが、相手方の利益は害せない(136条2項)。消費貸借では早く返せるが、貸主の損害は賠償する(591条)。
  • 破産手続開始の決定、債務者が担保を滅失・損傷・減少させた、担保を供しない、の3つで期限の利益を主張できない(137条)。
  • 契約で喪失を決めることもできる。請求で失う約束なら、残りの全額の時効は請求の意思表示の時から(判例)。
  • 喪失は契約を終わらせない。解除とは別。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。

このサイトで次に読むなら、消費貸借の記事です。返す時期を決めなかったときの催告や、利息の特約など、期限の利益と組み合わさる貸し借りのルールを確かめられます。

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