ひとことで言うと、自己借地権(じこしゃくちけん)は、土地の持ち主(地主)が、自分の土地に自分の借地権を持つことです。民法の原則では、同じ人に権利と義務が重なると権利は消えるので(混同=こんどう)、ふつうは持てません。借地借家法15条は、他の者と共に持つことになる場合に限り、例外として認めています。
この記事では、混同の原則(民法179条・520条)と15条1項・2項の関係を扱います。借地権の存続期間や更新は借地借家法の記事、地上権そのものは地上権の記事に任せます。登記の手続や税は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法・借地借家法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| こうじさん | 土地の持ち主(地主) | 自分の土地に借地権付きの分譲マンションを建てた |
| あやかさん | マンションの1室を買った人 | 部屋と、敷地の借地権の持分を手に入れた |
| だいすけさん | 別の1室を買った人 | 同じく部屋と借地権の持分を手に入れた |
- こうじさんは、自分の土地の上に、土地は売らずに借地として使うマンションを建てることにした。
- 部屋を買った人は、部屋の所有権と、敷地の借地権の持分を手に入れる。借地権は、部屋を持つ人たちが共に持つ形になる。
- こうじさんも1室を自分で持ち続けたい。すると、こうじさんも、自分の土地の借地権の持分を、あやかさん・だいすけさんと共に持つことになる。
3番目は、地主が自分の土地を借りる形です。混同の原則のままだと、こうじさんの持分は生まれたそばから消えてしまい、こうじさんが1室を持つ形が作れません。そこで15条1項は、こうじさんが他の者(あやかさん・だいすけさん)と共に借地権を持つことになる場合に限って、自分も借地権を持てるとしました。
たとえるなら、自分の家の合鍵を自分あてに作っても意味がないので、ふつうは作りません。でも、家族みんなで1本ずつ持つなら、自分の分を作っても意味があります。ただし本物のルールでは、「意味があるか」ではなく、条文の「他の者と共に有することとなるとき」に当たるかどうかで決まります。
条文ではこう決まっている
原則:混同で消える(民法179条・520条)
- 借地権は「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」です(借地借家法2条1号)。地上権は物権、賃借権は債権です。
- 物権の混同:同じ物について、所有権と他の物権が同じ人に帰属したときは、他の物権は消滅する。ただし、その物や他の物権が第三者の権利の目的であるときは消滅しない(民法179条1項)。
- 債権の混同:債権と債務が同じ人に帰属したときは、債権は消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは消滅しない(民法520条)。
例外:自己借地権(借地借家法15条)
- 1項(設定するとき):「借地権を設定する場合においては、他の者と共に有することとなるときに限り、借地権設定者が自らその借地権を有することを妨げない。」借地権設定者(しゃくちけんせっていしゃ)は、借地権を設定している人、つまり地主です(2条3号)。
- 2項(あとで戻ってきたとき):「借地権が借地権設定者に帰した場合であっても、他の者と共にその借地権を有するときは、その借地権は、消滅しない。」
1項は最初に設定する場面、2項はいったん他人が持っていた借地権(の持分)が地主に戻ってくる場面です。どちらも、鍵は「他の者と共に」です。地主だけが持つ借地権は、1項でも2項でも認められません。
当てはまる例・当てはまらない例
| 場面 | 結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| こうじさんが、購入者と共に持つ借地権を設定し、自分も持分を持つ | 設定できる | 15条1項 |
| こうじさんが、自分だけを借地権者として自分の土地に借地権を設定する | 設定できない | 15条1項の「他の者と共に」に当たらない |
| あやかさんの部屋と持分をこうじさんが買い戻した(だいすけさんは持ち続けている) | 持分は消えない | 15条2項 |
| こうじさんが全部の部屋と持分を買い戻し、借地権を一人で持つことになった | 原則として混同で消える | 民法179条1項・520条 |
当てはまらない例:将来に備えて自分だけの借地権
こうじさんが「いつか土地だけ売るときのために、今のうちに自分の家のための借地権を作っておこう」と考えても、自分一人が借地権者になるなら15条1項に当たりません。他の者と共に持つことになるときに「限り」だからです。
ひっかけやすい例:最後の1人から買い戻した
こうじさんが部屋を少しずつ買い戻し、最後にだいすけさんの持分も手に入れると、借地権を共に持つ他の者がいなくなります。15条2項の「他の者と共にその借地権を有するとき」に当たらないので、原則に戻って混同の問題になります。
ひっかけやすい例:借地権に抵当権が付いていた
借地権が地上権で、その地上権に銀行の抵当権が設定されていたとします(地上権は抵当権の目的にできます。民法369条2項)。こうじさんがその地上権を一人で持つことになっても、地上権は第三者の権利の目的なので、混同で消滅しません(179条1項ただし書)。15条ではなく、民法の混同の例外で結論が決まる場面です。
似ているルールとの違い
| ルール | 何が同じ人に重なるか | 消えない場合 |
|---|---|---|
| 物権の混同(民法179条) | 所有権と他の物権(地上権など) | 物や他の物権が第三者の権利の目的のとき |
| 債権の混同(民法520条) | 債権と債務(賃借権なら貸す側と借りる側) | 債権が第三者の権利の目的のとき |
| 自己借地権(借地借家法15条) | 地主と借地権者 | 他の者と共に借地権を持つとき |
民法の混同の例外は「第三者の権利の目的かどうか」、15条の例外は「他の者と共に持つかどうか」です。見る所が違うので、問題文の事実をどちらの例外に当てはめるのかを先に決めます。混同は、債権が消える場面の一つとして代物弁済・更改・免除・混同の記事でも扱っています。
自分の土地と建物に抵当権を付けたあと競売で持ち主が分かれる場面の法定地上権は、15条とは別の制度です(法定地上権の記事)。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、借地借家法の借地が主な論点の問題は37問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では10問でした。ほかの論点が主な問題の中に副の論点として含むものは5問です。自己借地権だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 限定の外し:「地主は自分の土地に自分の借地権を設定できる」と言い切る形。できるのは、他の者と共に有することとなるときに「限り」です(15条1項)。
- 2項の見落とし:借地権が地主に戻ったら「常に」混同で消えるとする形。他の者と共に持つなら消えません(15条2項)。
- 例外の取り違え:「第三者の権利の目的だから15条で消えない」と、民法の混同の例外と15条を混ぜる形。15条の要件は「他の者と共に」です。
- 主体の取り違え:借地権設定者を借地権者と読み違える形。15条で自分の借地権を持つのは、借地権を設定している側(地主)です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
土地の持ち主のこうじさんは、その土地に自分の住む家を建てるにあたり、将来土地だけを売る場合に備えて、自分一人を借地権者とする借地権を設定しておくことができる。
答え:✕ 分かれ目は、他の者と共に借地権を持つことになるかです。借地借家法15条1項は、借地権を設定する場合に「他の者と共に有することとなるときに限り」、借地権設定者が自らその借地権を持つことを認めています。正しくは、こうじさん一人が借地権者になる設定はできません。取り違えの相手は、マンションの購入者と共に持つ場合のように、15条1項に当たる自己借地権です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
こうじさんは自分の土地に借地権付きのマンションを建てて分譲し、敷地の借地権は購入者のあやかさん・だいすけさんが共に持っている。こうじさんがあやかさんの部屋と借地権の持分を買い取っても、その持分は混同によって消滅しない。
答え:○ 分かれ目は、借地権が地主に戻ったときに、他に共に持つ人がいるかです。15条2項は「借地権が借地権設定者に帰した場合であっても、他の者と共にその借地権を有するときは、その借地権は、消滅しない」と定めます。地主に戻ったのだから混同で消える、と民法の原則だけで考えると✕にしてしまいます。反対に、こうじさんが最後の持分まで買い取り一人で持つことになれば、15条2項には当たりません。
問3(このサイトのオリジナル問題)
こうじさんの土地に、えりさんが建物の所有を目的とする地上権を持ち、その地上権には銀行の抵当権が設定されている。こうじさんがえりさんから地上権を買い取り一人で持つことになった場合、その地上権は存続する。
答え:○ 分かれ目は、地上権が第三者の権利の目的になっているかです。民法179条1項は、所有権と他の物権が同じ人に帰属したときは他の物権が消滅するとしつつ、ただし書で、その物権が第三者の権利の目的であるときは消滅しないと定めます。地上権は抵当権の目的にできるので(369条2項)、銀行の抵当権が付いた地上権は消えません。共に持つ人がいないから15条2項に当たらず消える、と考えると✕にしてしまいます。この問の結論を決めるのは15条ではなく、民法の混同のただし書です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 原則:同じ人に所有権と地上権、債権と債務が重なると、混同で消える(民法179条・520条)。
- 15条1項:設定のとき、他の者と共に持つことになる場合に限り、地主も自分の借地権を持てる。
- 15条2項:借地権が地主に戻っても、他の者と共に持つなら消えない。
- 地主一人だけの借地権は、1項でも2項でも認められない。
- 第三者の権利の目的なら消えないのは、民法の混同のただし書(15条とは別)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法・借地借家法を確かめました。この記事は条文だけで説明し、判例には触れていません。
- e-Gov法令検索「借地借家法」(2条、15条)
- e-Gov法令検索「民法」(179条、369条、520条)
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