法定地上権の成立要件と判例:更地・建て替え・共有・抵当権が2つあるとき

法定地上権(ほうていちじょうけん)は、同じ人が持つ土地と建物の一方または両方に抵当権が付けられ、競売で土地と建物の持ち主が分かれたとき、建物のために地上権(他人の土地に建物を持つ権利)があるとみなす制度です(民法388条)。建物を壊さずに済むようにするための仕組みです。

成立するかどうかは、ほとんどが「抵当権を付けた時に、土地の上に建物があり、土地と建物の持ち主が同じだったか」で決まります。この記事では、4つの要件を表にし、更地・建て替え・共有・二つの抵当権の判例を、成立と不成立に分けて確かめます。

身近な例で考えると

人物立場したこと
はるとさん土地と家の持ち主土地に抵当権を付けてお金を借りた
みのりさんお金を貸した人(抵当権者)返済が止まり、土地を競売にかけた
だいちさん競売で土地を買った人はるとさんに「家をどけて」と言いたい
  1. はるとさんは、自分の土地の上に自分の家を持っている。
  2. はるとさんは、みのりさんから1,500万円を借り、土地だけに抵当権を付けた。
  3. 返済が止まり、みのりさんは土地を競売にかけた。だいちさんが土地を買った。
  4. 土地はだいちさん、家ははるとさん。持ち主が分かれた。

日本では、土地と建物は別々の不動産です。はるとさんは、自分の土地に自分の家を建てていたので、土地を借りる契約をしていません。そのままだと、だいちさんの土地の上に、使う権利のない家が建っていることになります。

そこで388条は、このとき家のために地上権が設定されたものとみなします。はるとさんは家を壊さずに済みます。その代わり、地代(土地の使用料)を払います。地代は、当事者が求めれば裁判所が決めます。

みのりさんの側から見ると、土地を評価する時に「上に家がある土地」として評価しているはずです。家が残っても、みのりさんが思わぬ損をするわけではありません。この「抵当権者が何を前提に評価したか」が、判例を読むときの軸になります。

条文ではこう決まっている

要件中身
①建物の存在抵当権を付けた時に、土地の上に建物がある
②同じ持ち主抵当権を付けた時に、土地と建物の持ち主が同じ
③抵当権土地・建物の一方または両方に抵当権が付けられた
④持ち主が分かれる抵当権の実行(競売)で、土地と建物の持ち主が別々になった
  • 効果(388条):建物について、地上権が設定されたものとみなす。地代は、当事者の請求により裁判所が定める。
  • 一括競売(389条1項):抵当権を付けた後に抵当地に建物が建てられたときは、抵当権者は土地とともに建物も競売できる。ただし、優先して受け取れるのは土地の代金の分だけ。
  • 389条2項:建物の持ち主が、抵当権者に対抗できる土地の利用権を持っているときは、一括競売はできない。

判例で成立・不成立を分ける

更地に抵当権を付け、後から建物(最高裁昭和36年2月10日判決)

  • 事案の一行:抵当権を付けた時、建物はまだ完成しておらず、土地は更地として評価されていた。
  • 結論:抵当権者が建物を建てることを前もって承認していても、388条は適用されない(不成立。第二小法廷)。
  • まちがえやすい所:要件①は「抵当権を付けた時」で見る。更地のときに使えるのは389条の一括競売。

建物の登記がまだだった(最高裁昭和48年9月18日判決)

  • 事案の一行:土地と建物の持ち主が、建物を買ったときの移転登記をしないまま、土地に抵当権を付けた。
  • 結論:法定地上権の成立は妨げられない(成立。第三小法廷)。
  • まちがえやすい所:要件②は「実際に同じ持ち主か」で見る。建物の登記名義が前の持ち主のままでも成立する。

土地だけに抵当権、その後に建て替え(最高裁昭和52年10月11日判決)

  • 事案の一行:土地と木造の家の持ち主が、土地に抵当権を付けた後、家を壊して堅固な(鉄筋などの)建物を建てた。
  • 結論:抵当権者が、近い将来の建て替えを見込んで土地を評価していた事情のもとで、堅固な建物の所有を目的とする法定地上権が成立するとされた(第三小法廷)。
  • まちがえやすい所:建て替えたから不成立、ではない。土地だけに抵当権を付けた場面と、次の共同抵当の場面を分ける。

土地と建物の両方に抵当権、その後に建て替え(最高裁平成9年2月14日判決)

  • 事案の一行:土地と建物の両方に抵当権(共同抵当権)を付けた後、建物が壊され、新しい建物が建てられた。
  • 結論:新しい建物の持ち主が土地の持ち主と同じで、新しい建物にも土地と同じ順位の共同抵当権が付けられたなどの特段の事情がない限り、新しい建物のための法定地上権は成立しない(第三小法廷)。
  • 理由の要点:共同抵当権者は、土地と建物全体の担保価値を押さえている。建物が壊されたときは、更地としての価値を押さえるのが当事者の合理的な意思だ、とした。

建物が共有、土地は共有者の一人のもの(最高裁昭和46年12月21日判決)

  • 事案の一行:建物を共有する人の一人が、その敷地の土地を一人で持ち、土地に抵当権が付けられて競売された。
  • 結論:建物の共有者全員のために法定地上権が成立する(第三小法廷)。
  • まちがえやすい所:土地を持つ一人のためだけではない。

土地が共有(最高裁平成6年12月20日判決)

  • 事案の一行:土地は甲と妻子の共有、建物は甲を含む9人の共有だった。甲の借金のために、土地の共有者全員がそれぞれの持分に抵当権を付けた。
  • 結論:法定地上権は成立しない(第三小法廷)。
  • まちがえやすい所:建物が共有の昭和46年判決(成立)と、土地が共有のこの判決(不成立)を逆に覚えない。

抵当権が二つあり、事情が変わった(平成2年と平成19年)

  • 最高裁平成2年1月22日判決(第二小法廷):一番抵当権を付けた時は土地と建物の持ち主が違い、二番抵当権を付けた時には同じ持ち主になっていた。抵当権の実行で一番抵当権が消えるときは、法定地上権は成立しない。
  • 最高裁平成19年7月6日判決(第二小法廷):同じ事情で、一番抵当権が設定契約の解除で先に消えていた。その後に二番抵当権が実行されたときは、二番抵当権を付けた時に同じ持ち主なら、法定地上権が成立する。
  • 二つを合わせると:競売のときに残っている一番古い抵当権を付けた時を見る、と整理できる。一番抵当権が残っていればその時、先に消えていれば二番抵当権の時。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:家の登記が古い名義のまま

はるとさんが中古の家と土地を買い、家の移転登記をしないまま土地に抵当権を付けました。実際の持ち主は土地も家もはるとさんなので、競売で持ち主が分かれれば法定地上権が成立します(昭和48年判決)。

当てはまらない例:更地に付けた抵当権

はるとさんが更地に抵当権を付けた後に家を建てました。みのりさんが建てることを承知していても、法定地上権は成立しません(昭和36年判決)。みのりさんは、土地とともに家も競売にかけられます(389条1項)。

ひっかけやすい例:土地と家の両方に抵当権を付けて建て替え

はるとさんが土地と家の両方に抵当権を付けた後、家を建て替えました。新しい家にみのりさんの同じ順位の抵当権が付けられたなどの特段の事情がなければ、法定地上権は成立しません(平成9年判決)。土地だけに抵当権を付けて建て替えた場合(昭和52年判決は成立)と分けます。

似ているルールとの違い

場面法定地上権判例
更地に抵当権→建物不成立(一括競売で対応)昭和36年
土地だけに抵当権→建て替え成立した事例あり昭和52年
土地と建物に共同抵当→建て替え原則不成立平成9年
建物共有・土地は一人のもの全員のために成立昭和46年
土地共有・持分に抵当権不成立とされた事例平成6年

388条の法定地上権と、389条の一括競売は、役割が逆です。法定地上権は「建物を残す」ための制度、一括競売は「更地として評価した抵当権者が、建物ごと売れる」ための制度です。

試験ではここをまちがえやすい

  • 基準の時は「抵当権を付けた時」:競売の時に同じ持ち主でも、付けた時に別なら成立しない。
  • 抵当権者の承認は関係しない:更地に付けたなら、建築を承認していても不成立。
  • 建物の登記は要らない:実際に同じ持ち主なら成立する。
  • 建て替えは「土地だけ」か「共同抵当」かで結論が分かれる。
  • 共有は、建物共有なら成立、土地共有なら不成立とされた。
  • 抵当権が二つ:一番抵当権が残っているか、先に消えたかで基準の時が変わる。

事例を読んだら、まず「抵当権を付けた時」の土地・建物の状態と持ち主を書き出し、次に建て替え・共有・抵当権の数の事情を当てはめます。宅建試験の権利関係でも、更地に抵当権を付けた後に建てた建物の扱い(388条と389条の違い)は同じ考え方です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
はるとさんは、建物のない自分の土地に、みのりさんのための抵当権を付けた。みのりさんは、はるとさんが家を建てることを前もって承認していた。その後に家が建ち、抵当権の実行でだいちさんが土地を買った場合、家のために法定地上権が成立する。

答え:✕ 分かれ目は、抵当権を付けた時に建物があったかです。最高裁昭和36年2月10日判決は、更地として評価して抵当権を付けた場合は、抵当権者が建物の建築をあらかじめ承認していても388条は適用されないとしました。正しくは、法定地上権は成立しません。このときみのりさんが使えるのは、土地とともに建物も競売できる389条の一括競売です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
はるとさんの土地には、土地と家の持ち主が別々だった時に、さくらさんの一番抵当権が付けられた。はるとさんが家も取得した後、みのりさんの二番抵当権が付けられた。一番抵当権が設定契約の解除で消えた後に二番抵当権が実行された場合、法定地上権は成立する。

答え:○ 分かれ目は、一番抵当権が競売のときに残っているかです。最高裁平成19年7月6日判決は、一番抵当権が解除で消えた後に二番抵当権が実行されたときは、二番抵当権を付けた時に土地と建物が同じ持ち主なら、法定地上権が成立するとしました。一番抵当権を付けた時に持ち主が別だったので成立しない、と考えると✕に見えます。それは一番抵当権が実行で消える場合の平成2年1月22日判決の結論です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
はるとさんと弟のそうまさんが家を共有し、その敷地の土地ははるとさん一人が持っている。土地に付けた抵当権が実行され、だいちさんが土地を買った場合、はるとさんとそうまさんの両方のために法定地上権が成立する。

答え:○ 分かれ目は、共有なのが建物か土地かです。最高裁昭和46年12月21日判決は、建物の共有者の一人がその敷地を所有し、土地の抵当権が実行されたときは、建物共有者全員のために法定地上権が成立するとしました。持ち主が同じなのははるとさんだけなので、そうまさんには成立しないと考えると✕に見えます。土地が共有で、共有者全員が持分に抵当権を付けた平成6年12月20日判決の事例では、成立しないとされました。

民法の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 法定地上権の4要件:抵当権を付けた時に建物があり、土地と建物の持ち主が同じで、抵当権の実行で持ち主が分かれた。
  • 更地に付けた抵当権では成立しない。抵当権者の承認があっても同じ。使うのは389条の一括競売。
  • 建て替えは、土地だけの抵当権なら成立した例があり、共同抵当なら原則不成立。
  • 建物が共有なら全員のために成立、土地が共有の事例では不成立。
  • 抵当権が二つなら、競売のときに残っている一番古い抵当権を付けた時を見る。

抵当権の効力の範囲と基本の例は抵当権の記事、地上権そのものは地上権の記事、競売や抵当権の処分は抵当権の処分の記事で確かめられます。次に読むなら、物上代位の記事がおすすめです。同じ抵当権で、家賃など「お金」に効力が及ぶ場面の判例がまとまっています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年度試験の出題の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。