地上権(ちじょうけん)と賃借権(ちんしゃくけん)は、どちらも「他人の土地を使う権利」です。建物を建てるために土地を借りるとき、そのどちらかで借りることになります。
ひとことで言うと、地上権は「土地を直接使える強い権利」、賃借権は「貸主に使わせてもらう約束にもとづく権利」です。民法でも、地上権は物権の編、賃貸借は債権の編に置かれています。この差が、譲渡に承諾がいるか、地代が要件か、抵当権を付けられるか、といった違いになって表れます。
この記事では、民法の地上権と土地の賃借権を比べ、借地借家法の借地権との関係と、国土利用計画法の届出での扱いまでつなげます。借地借家法のくわしいルールは借地借家法の記事で扱っています。
身近な例で考えると
登場人物は3人です。土地を2か所持っている人=はるかさん、東の土地を地上権で借りる人=そうたさん、西の土地を賃借権で借りる人=りなさんです。
はるかさんは、駅前に東と西の2つの土地を持っています。どちらの土地にも、借りた人が建物を建てる予定です。
- 東の土地には、そうたさんのために地上権を設定した。そうたさんは、そこにビルを建てた。
- 西の土地は、りなさんに毎月の賃料で貸した(土地の賃貸借)。りなさんは、そこにお店を建てた。
- 数年後、そうたさんは、ビルと一緒に地上権を会社Dに売りたくなった。地上権なので、はるかさんの承諾はいらない。
- りなさんも、お店と一緒に土地の賃借権を人に譲りたくなった。こちらは賃借権なので、はるかさんの承諾がいる(民法612条)。はるかさんが承諾しないときは、裁判所に、承諾に代わる許可を求める道がある(借地借家法19条)。
- そうたさんは、ビルを建てるお金を借りるため、地上権に抵当権を付けた。地上権は抵当権の目的にできる(民法369条2項)。
たとえるなら、地上権は「土地の使い道を買い取った」ような権利で、賃借権は「大家さんから部屋を借りる」ような権利です。ただし本物のルールでは、地上権も期間が終われば消えますし、土地の持ち主ではありません。
条文ではこう決まっている
地上権(民法265条〜269条の2)
- 中身(265条):「他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利」。工作物は、建物・橋・トンネル・電柱などの、土地に作った物。
- 地代(266条):定期の地代を払わなければならない場合のルールを置いている。地代を払うことは、地上権の成立の条件ではない。
- 期間(268条):期間を決めず、慣習もないときは、地上権者はいつでも権利を放棄できる(地代を払う場合は1年前の予告などが必要)。放棄しないときは、裁判所が20年以上50年以下で期間を決める。
- 終わったとき(269条):地上権者は、土地を元に戻して工作物を取り外せる。土地の持ち主が時価で買い取ると申し出たら、正当な理由がなければ断れない。
- 地下や空中だけの地上権(269条の2):上下の範囲を決めて、地下や空中だけを地上権の目的にできる(区分地上権)。
- 譲渡:地上権の条文には、譲渡に土地の持ち主の承諾を求める定めがない。
土地の賃借権(民法601条〜)
- 成立(601条):使わせることと、賃料を払うことを約束して成立する。賃料は成立の条件。
- 期間(604条):50年を超えられない。
- 対抗(605条):登記をすれば、土地を買った人などにも主張できる。
- 譲渡・転貸(612条):貸主の承諾がなければ、賃借権を譲ったり又貸ししたりできない。無断でしたら、貸主は解除できる。
借地借家法とのつながり
- 借地権(2条1号):「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」。建物を建てるための地上権・賃借権は、どちらも借地権として借地借家法で守られる。
- 存続期間(3条):借地権の期間は30年。契約でこれより長い期間を決めたら、その期間になる。
- 対抗(10条1項):借地権の登記がなくても、借地の上に借地権者の名前で登記した建物があれば、第三者に主張できる。
- 地代の増減(11条):「地代又は土地の借賃」の増減を請求できる。地上権の地代も、賃借権の借賃も対象。
- 譲渡の許可(19条):借地上の建物を譲るときに、貸主が賃借権の譲渡を承諾しない場合、裁判所が承諾に代わる許可を出せる。地上権には承諾がもともといらないので、この手続は賃借権のためのもの。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(地上権の譲渡):そうたさんが、はるかさんにだまって地上権をDに譲った。地上権の譲渡に承諾はいらないので、はるかさんは文句を言えない。
- 当てはまらない(賃借権の譲渡):りなさんが、はるかさんにだまって賃借権をEに譲った。承諾がないので、はるかさんは解除できる(612条2項)。ここが地上権との一番の違い。
- ひっかけやすい(地代がない地上権):はるかさんが、地代を取らない約束でそうたさんに地上権を設定した。地代は地上権の条件ではないので、地上権として成り立つ。一方、土地をタダで貸す約束を賃貸借としてすることはできない。賃料がないなら使用貸借になる(使用貸借の記事)。
- 当てはまる(建物を建てない地上権):電柱や橋を置くため、竹や木を植えるための地上権もある。建物を建てる目的でなければ借地権ではないので、借地借家法は使えない。期間は民法のルールで考える。
- ひっかけやすい(国土利用計画法):市街化区域の2,500平方メートルの土地に、はるかさんが権利金を受け取ってそうたさんの地上権を設定した。地上権の設定も、対価があれば「土地売買等の契約」にあたる(国土利用計画法14条1項・施行令5条)。権利を取得するそうたさんが、契約日から2週間以内に事後届出をする(23条1項)。
- 当てはまる(農地):農地に地上権や賃借権を設定するときは、農業委員会の許可がいる(農地法3条1項)。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 地上権 | 土地の賃借権 |
|---|---|---|
| 権利の性質 | 土地を直接使う物権 | 貸主に使わせてもらう債権 |
| お金 | 地代は条件ではない | 賃料が条件(601条) |
| 譲渡・又貸し | 承諾はいらない | 貸主の承諾が必要(612条) |
| 抵当権を付ける | できる(369条2項) | 条文上の定めなし |
| 民法での期間 | 定めないときは268条 | 50年まで(604条) |
| 登記 | できる(不動産登記法3条2号) | できる(同8号) |
| 建物を建てる目的なら | 借地権(借地借家法) | 借地権(借地借家法) |
最後の行が大切です。建物を建てるためなら、地上権でも賃借権でも借地権になります。そのため、期間30年、建物の登記による対抗、地代の増減請求、期間が終わったときの建物買取請求(13条)は、どちらにも同じように働きます。違いが残るのは、主に「譲渡・又貸しに承諾がいるか」です。
もう一つ、タダで土地を使わせる使用貸借(使用借権)を並べると、権利の強さは「地上権>賃借権>使用借権」の順になります。使用借権は登記もできず、借地借家法も使えません。抵当権と地上権の関係(土地と建物の持ち主が分かれたときの法定地上権)は、抵当権の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
- 承諾の要否を入れかえる型:「地上権を譲るには土地の持ち主の承諾がいる」は誤り。承諾がいるのは賃借権です。
- 借地借家法19条の型:裁判所の許可で承諾に代える手続は、借地権のうち賃借権の話です。地上権者が裁判所の許可を求める場面ではありません。
- 地代の型:地上権は無償でも設定できます。賃貸借は賃料が条件です。
- 期間の型:建物を建てる目的なら、期間はまず借地借家法3条の30年で考えます。268条2項の「20年以上50年以下」は、期間を決めなかった地上権について裁判所が期間を決めるときの数字で、借地権の存続期間とは別の話です。
- 国土利用計画法の型:届出の対象は、所有権の売買だけではありません。地上権や賃借権の設定・移転でも、対価があれば対象です。届け出るのは権利を取得する側です。くわしくは国土利用計画法の届出の記事で確かめてください。
宅建試験では、地上権だけを覚えるより、借地借家法や国土利用計画法の場面で「地上権でも同じか」を確かめる形で身につけます。問題文に「地上権」とあったら、借地権にあたるか、譲渡の承諾の話か、届出の話かを先に見分けます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
そうたさんは、はるかさんの土地にビルを建てる目的で地上権の設定を受けていたが、はるかさんの承諾を得ずに、ビルとともに地上権をDに譲渡した。この場合、はるかさんは、承諾がないことを理由に地上権の設定契約を解除することができる。
答え:✕ 分かれ目は、地上権か賃借権かです。民法の地上権の条文(265条〜269条の2)には、譲渡に土地の持ち主の承諾を求める定めがありません。正しくは、そうたさんは承諾なしに譲渡でき、はるかさんは解除できません。取り違えの相手は土地の賃借権で、譲渡・又貸しには貸主の承諾がいり、無断なら解除の問題になります(612条)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
はるかさんは、そうたさんのために、地代を受け取らない約束で、工作物を所有する目的の地上権を設定した。地代の定めがなくても、この地上権は成立する。
答え:○ 分かれ目は、お金が成立の条件かどうかです。地上権は工作物などを所有するため土地を使う権利で(265条)、地代は「支払わなければならない場合」の定めがあるだけです(266条1項)。タダでは成り立たないように見えますが、地代は条件ではありません。取り違えの相手は賃貸借で、賃料を払う約束が成立の条件です(601条)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
市街化区域内の2,500平方メートルの土地に、はるかさんが権利金を受け取って、そうたさんのためにビルを建てる目的の地上権を設定した(注視区域・監視区域などの指定はない)。この場合、地上権を設定したはるかさんが、契約を結んだ日から2週間以内に、国土利用計画法の事後届出をしなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、届け出る人です。事後届出をするのは、契約で権利の移転や設定を受ける「権利取得者」で(国土利用計画法23条1項)、ここでは地上権を取得したそうたさんです。正しくは、そうたさんが契約日から2週間以内に届け出ます。地上権の設定も、対価を得て行えば「土地売買等の契約」にあたり(14条1項)、市街化区域の2,000平方メートル以上なので届出の対象です(23条2項1号イ)。取り違えの相手は、土地の持ち主(売主や設定者)を届け出る人とする誤りです。
まとめ
- 地上権は、他人の土地で工作物や竹木を持つために土地を使う物権。賃借権は、賃料を払って使わせてもらう債権。
- 地上権の譲渡に承諾はいらない。賃借権の譲渡・又貸しには貸主の承諾がいる(借地なら裁判所の許可で代えられる)。
- 地上権は地代がなくても成り立ち、抵当権も付けられる。賃貸借は賃料が条件。
- 建物を建てる目的なら、どちらも借地権。期間30年・建物の登記での対抗・建物買取請求は共通。
- 対価のある地上権・賃借権の設定は、国土利用計画法の届出の対象になる。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」の借地借家法(借地)の問題で続けて解けます。
次に読むなら、借地借家法の記事がおすすめです。この記事で「どちらにも共通」とした借地権のルール(更新・定期借地権・建物買取請求)を、まとめて確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(265条〜269条の2、369条、601条、604条、605条、612条)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(2条、3条、10条、11条、13条、19条)
- e-Gov法令検索「国土利用計画法」(14条、23条)、同施行令(5条)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(3条)
- e-Gov法令検索「農地法」(3条)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
働く人の法律試験ノート