代物弁済・更改・免除・混同:弁済と相殺のほかに債権がなくなる4つの場合

ひとことで言うと、債権(さいけん=相手に何かをしてもらえる権利)は、弁済と相殺のほかに、代物弁済(だいぶつべんさい)・更改(こうかい)・免除(めんじょ)・混同(こんどう)の4つでも消えます。4つは「どうやって消えるか」「相手の同意がいるか」「担保がどうなるか」がそれぞれ違います。

この記事では、令和8年4月1日時点の民法で、4つの成り立ちと効果を比べます。弁済と相殺そのものは弁済と相殺の記事で扱っています。代物弁済の予約(払えなかったら物を渡すと前もって決めておく担保の使い方)と、登記の手続・税金は扱いません。

身近な例で考えると

カフェを営むあおいさんは、知人のけんじさんから300万円を借りています。お金で返す以外に、借金をなくす道を4つ見てみます。

人物立場
あおいさんカフェの店主。300万円の債務者
けんじさんお金を貸した債権者
だいちさんあおいさんの兄
  1. 代物弁済:「300万円の代わりに、店の業務用オーブンを渡す」とけんじさんと約束し、実際にオーブンを渡した。渡した時に、300万円を払ったのと同じ効力が生じる(482条)。
  2. 更改:けんじさんとだいちさんが「あおいさんの借金をやめて、だいちさんが新しく300万円の債務を負う」と契約し、けんじさんがあおいさんにそのことを知らせた。知らせた時に古い債務は消え、新しい債務が生まれる(513条2号・514条1項)。
  3. 免除:けんじさんが「もう返さなくていい」とあおいさんに伝えた。その意思表示だけで債権が消える(519条)。
  4. 混同:けんじさんが、この貸金債権を、ほかでもないあおいさん本人に売った。債権者と債務者が同じ人になるので、債権は消える(520条)。土地の持ち主が自分の土地に借地権を持つ場合に混同で消えないしくみは自己借地権の記事にあります。

たとえるなら、代物弁済は「現金の代わりに品物で支払う」、更改は「借用書を書き直して古いほうを破る」、免除は「借用書を返してあげる」、混同は「自分で自分に貸している状態になって意味がなくなる」です。ただし本物のルールでは、更改のときに古い借用書の担保が新しいほうへ当然には移らない、などの違いがあります。

条文ではこう決まっている

代物弁済(482条)

  • 要件①:弁済をすることができる者(弁済者)と債権者が、本来の給付に代えて他の給付をすることで債務を消す、という契約をする。債務者本人に限らず、弁済できる第三者も弁済者に入ります。
  • 要件②:弁済者が、その他の給付を実際にする。
  • 効果:その給付は「弁済と同一の効力を有する」。つまり債務が消えます。
  • 改正前の482条は「債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたとき」と書いていました。令和2年4月施行の改正で、契約は合意だけで成り立ち、債務が消えるのは給付をした時、と分けて書かれました。

不動産で代物弁済をする場合について、最高裁判所第二小法廷の昭和40年4月30日判決(昭和39年(オ)第665号)があります。債務が消える効力は、原則として、所有権を移す意思表示だけでは足りず、所有権移転の登記手続の完了によって生じる、とした判決です。改正前の条文のもとの判例ですが、今の482条も「他の給付をしたとき」に効力が生じると定めています。

更改(513条〜518条)

513条:当事者が、従前の債務に代えて、新たな債務を発生させる契約をしたときは、従前の債務は更改によって消えます。新しい債務は、次の3つの型のどれかです。

型だれの契約か注意すること
給付の内容の重要な変更(1号)債権者と債務者お金の債務を品物を納める債務にする、など
債務者の交替(2号)債権者と新しい債務者(514条1項)債権者が前の債務者に通知した時に効力。新しい債務者は前の債務者に求償できない(同条2項)
債権者の交替(3号)前の債権者・新しい債権者・債務者の3人(515条1項)確定日付のある証書でしないと第三者に対抗できない(同条2項)
  • 518条1項:債権者(債権者の交替なら前の債権者)は、更改前の債務の目的の限度で、その債務の担保の質権・抵当権を、更改後の債務に移すことができる。第三者が設定した担保なら、その第三者の承諾がいる。
  • 518条2項:担保を移す意思表示は、あらかじめ又は更改と同時に、更改の相手方(債権者の交替なら債務者)に対してする。
  • 改正前の513条は「債務の要素を変更する契約」と書き、条件を付ける・外すことも要素の変更とみなしていました。今は3つの型を条文に並べています。

免除(519条)と混同(520条)

  • 519条:債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は消える。契約ではないので、債務者の承諾はいりません(単独行為=一人の意思表示だけで効果が出る行為)。
  • 520条本文:債権と債務が同じ人に帰属したときは、その債権は消える。
  • 520条ただし書:その債権が第三者の権利の目的であるとき(例:債権に質権が設定されているとき)は、消えない。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(第三者の代物弁済):兄のだいちさんが、けんじさんとの合意で、あおいさんの借金の代わりに自分の車を渡した。弁済できる第三者も482条の「弁済者」に入るので、渡した時に債務は消えます。
  • 当てはまらない(約束しただけ):あおいさんとけんじさんが「オーブンで払う」と合意したが、まだ渡していない。契約は成り立っていますが、債務が消えるのは給付をした時です。
  • ひっかけやすい(土地の代物弁済):オーブンではなく土地で代物弁済をする場合は、所有権移転の登記手続が終わるまで、原則として債務は消えません(昭和40年4月30日判決)。
  • 当てはまらない(混同の例外):けんじさんが、この貸金債権に、自分の取引先のための質権を設定していた。その後にあおいさんが債権を買い取っても、債権は第三者の権利の目的なので消えません(520条ただし書)。
  • ひっかけやすい(更改と担保):あおいさんの借金に、あおいさんの土地の抵当権が付いていた。更改で古い債務が消えると、その担保も一緒に消えます。新しい債務に移すには、518条の意思表示が要ります。

似ているルールとの違い

制度どうやって消えるかだれの合意がいるか担保
代物弁済契約+実際の給付弁済者と債権者債務が消えれば消える
更改新しい債務を生む契約型による(債務者の交替は債権者と新しい債務者)当然には移らない(518条で移せる)
免除債権者の意思表示いらない(債務者の承諾も不要)債務が消えれば消える
混同債権者と債務者が同じ人になる—第三者の権利の目的なら債権は残る

債務者が替わる場面は、更改のほかに債務引受でも起きます。免責的債務引受は、債務が同じ内容のまま引受人に移る点が、古い債務を消して新しい債務を生む更改と違います。担保を移す手続(472条の4)は、更改の518条とよく似た作りです。

連帯債務(複数の人が同じ債務の全部を負う形)では、だれか一人に起きたことが他の人に及ぶかどうかが、更改・混同・免除で分かれます。詳しくは連帯債務の記事にあります。不可分債務や連帯債権で同じことが起きたときは不可分債務・連帯債権の記事で扱っています。

連帯債務者の一人に起きたこと他の連帯債務者への効力条文
更改全員の利益のために債権が消える438条
混同その人が弁済をしたものとみなす440条
免除及ばない(別段の意思表示があればそれに従う)441条

連帯保証人について生じた更改・混同は、458条で438条・440条が準用され、主たる債務者にも効力が及びます。免除は441条の原則どおりです。

試験ではここをまちがえやすい

  • 代物弁済の「成立」と「債務が消える時」:契約は合意で成り立つ。債務が消えるのは給付をした時で、不動産なら原則として登記の完了の時(判例)。改正前の「債権者の承諾を得て給付したとき」の形と混ぜない。
  • 更改の契約の当事者:債務者の交替は債権者と新しい債務者の契約で、効力は前の債務者への通知の時。債権者の交替は3人の契約で、第三者への対抗は確定日付のある証書。
  • 更改と担保:担保は当然には移らない。移せるのは質権・抵当権で、更改前の債務の目的の限度まで。第三者が設定したものはその承諾がいる。
  • 免除は単独行為:債務者の承諾はいらない。連帯債務者の一人への免除は、他の人には及ばないのが原則。
  • 混同のただし書:債権が第三者の権利の目的なら消えない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんは、けんじさんから借りた300万円の代わりに自分の土地を渡す契約をけんじさんと結び、所有権を移す意思表示もした。所有権移転の登記はまだしておらず、特別の事情もない。この時点では、300万円の債務はまだ残っている。

答え:○ 分かれ目は、代物弁済で債務が消える時点です。482条は、弁済者が他の給付を「したとき」に弁済と同じ効力が生じるとし、最高裁判所第二小法廷昭和40年4月30日判決(改正前の482条のもとの判決)は、不動産の場合、債務が消える効力は原則として所有権移転の登記手続の完了で生じるとしました。契約も意思表示も済んだのだから債務も消えた、と考えると✕に見えます。代物弁済の契約が合意だけで成り立つことと、債務が消える時点は別の話です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんは、けんじさんに50万円の借金がある。けんじさんは、この貸金債権に、自分の借入先であるみなと信用金庫のための質権を設定していたので、その後にあおいさんがけんじさんからこの貸金債権を買い取っても、貸金債権は消えずに残る。

答え:○ 分かれ目は、520条ただし書の例外に当たるかです。520条本文は、債権と債務が同じ人に帰属したときは債権が消えるとしますが、ただし書は、その債権が第三者の権利の目的であるときは消えないとしています。債務者のあおいさんが債権者になったのだから消える、と本文だけで考えると✕に見えます。質権を持つ信用金庫の権利を守るための例外で、原則(本文)と取り違えないようにします。

問3(このサイトのオリジナル問題)
あおいさんがけんじさんから借りた300万円には、あおいさんの土地の抵当権が付いている。2人は、この借金を、業務用冷蔵庫1台をけんじさんに納める債務に切り替える更改をした。この抵当権は、特に何もしなくても新しい債務を担保する。

答え:✕ 分かれ目は、更改のときに担保が当然に移るかです。更改では古い債務が消えるので、その担保も消えるのが原則です。正しくは、債権者は、更改前の債務の目的の限度で、あらかじめ又は更改と同時に相手方へ意思表示をすれば、抵当権を新しい債務に移すことができます(518条)。債権がそのまま他人に移る債権譲渡では抵当権もついていくので、それと取り違えた誤りです。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 代物弁済は合意で成り立ち、給付をした時に債務が消える(482条)。不動産なら原則として登記の完了の時(判例)。
  • 更改は3つの型。債務者の交替は債権者と新しい債務者の契約、債権者の交替は3人の契約で確定日付。
  • 更改の担保は当然には移らず、518条の意思表示で移す(第三者が設定したものはその承諾)。
  • 免除は債権者の意思表示だけ(519条)。混同は第三者の権利の目的なら消えない(520条ただし書)。
  • 連帯債務では、更改は全員に、混同は弁済とみなして全員に及び、免除は及ばない。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。改正前の482条・513条は、同じ法令の令和2年3月1日時点の版で確かめました。

このサイトで次に読むなら、弁済と相殺の記事です。だれが弁済できるか、だれに払えば有効かを押さえておくと、代物弁済の「弁済者」がだれかも読み解けます。

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