取締役の選任と累積投票:少数株主が取締役を選べる仕組み、解任の決議と解任の訴え(会社法342条・339条・854条)

ひとことで言うと、累積投票(るいせきとうひょう)は、2人以上の取締役を一度に選ぶ株主総会で、1株につき「選ぶ人数と同じ数」の議決権を与え、その票を1人の候補者に集めて投じてもよいとする選び方です(会社法342条)。ふつうの選び方では、議決権の過半数を持つ株主が全員を決められます。累積投票なら、少数の株主も自分の推す人を取締役にできる場合があります。

株主は総会の日の5日前までに請求でき、会社は定款で累積投票をしないと定めることもできます。累積投票で選ばれた取締役を解任するときは、ふつうの取締役と違って特別決議が要ります(309条2項7号)。この記事は、選任・解任の決議の要件と累積投票の計算、解任の訴え(854条)を扱います。株主総会・取締役・監査役の役割の全体は株式会社の機関の記事に任せます。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

舞台は、取締役会設置会社の「みなと食品株式会社」です(架空の話です)。議決権の総数は1,000個で、単元株の定めはなく、1株に1個の議決権があります。定款に累積投票を排除する定めはありません。

人物立場この話での役
けんたさん株主(議決権700個)取締役3人を全部自分の推す人にしたい
はるかさん株主(議決権300個)みさきさんを取締役にしたい
みさきさん候補者はるかさんが推す人
  1. みなと食品は、6月の定時株主総会で、取締役3人を選ぶことにした。
  2. ふつうの選び方なら、候補者ごとに賛否を決めるので、700個を持つけんたさんの推す3人が全員選ばれる。
  3. そこで、はるかさんは、総会の日の5日前までに、累積投票で選ぶよう会社に請求した(342条1項・2項)。
  4. 総会では、1株に3個の議決権が与えられる。はるかさんは900票、けんたさんは2,100票を持つ(342条3項)。
  5. はるかさんは900票を全部みさきさんに投じた。けんたさんは2人に1,050票ずつ投じた。票の多い順に、けんたさんの推す2人と、みさきさんが選ばれた(342条4項)。

たとえるなら、累積投票は「1人3票を持って、好きな配り方をしてよい学級委員の選挙」です。3票を全部1人に入れてもかまいません。ただし本物のルールでは、票の数は「人数」ではなく「持っている株の数×選ぶ人数」で決まり、株主が請求したときにだけこの方法になります。

条文ではこう決まっている

選任の決議(329条・341条)

  • 取締役などの役員は、株主総会の決議で選ぶ(329条1項)。
  • 役員を選ぶ・解任する決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決める。出席の割合(定足数)は定款で下げられるが、3分の1より下にはできない。賛成の割合は定款で上げられる(341条)。
  • ふつうの決議(309条1項)は定款で定足数をなくすこともできます。役員の選任・解任はそれができない点が違います。

累積投票(342条、会社法施行規則97条)

  • 総会の目的が2人以上の取締役の選任であるとき、取締役の選任について議決権を行使できる株主は、定款に別段の定めがあるときを除き、累積投票で選ぶよう会社に請求できる(342条1項)。持っている議決権の割合や保有期間の要件はない。
  • 請求は、総会の日の5日前までにする(同条2項)。
  • 請求があったときは、1株(単元株を定めた会社では1単元)につき、選ぶ取締役の数と同じ数の議決権を持つ。株主は、その票を1人に集めても、2人以上に分けてもよい(同条3項)。
  • 票の多い候補者から順に取締役に選ばれる(同条4項)。手続の細かい点は法務省令で定める(同条5項)。施行規則97条は、決議の前に議長などが累積投票で選ぶことを明らかにすること、同じ票数の人がいて順に選べないときの扱いを定めています。
  • 累積投票で選ばれた取締役の解任の決議には、341条を適用しない(342条6項)。かわりに特別決議になる(309条2項7号)。
  • 監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役と、それ以外の取締役を分けて扱う(342条1項かっこ書)。

解任と解任の訴え(339条・309条2項7号・854条)

  • 役員は、いつでも、株主総会の決議で解任できる(339条1項)。解任された人は、解任に正当な理由がある場合を除き、会社に損害の賠償を請求できる(同条2項)。
  • 特別決議(議決権の過半数の出席で、出席した議決権の3分の2以上の賛成。定足数は定款で3分の1まで下げられる)が要るのは、累積投票で選ばれた取締役(監査等委員である取締役を除く)、監査等委員である取締役、監査役を解任する場合(309条2項7号)。
  • 役員の職務の執行に不正の行為、または法令・定款に違反する重大な事実があったのに、解任の議案が否決されたときなどは、一定の株主が、総会の日から30日以内に、訴えで解任を求められる(854条1項)。
  • 訴えを起こせるのは、総株主の議決権の3%以上、または発行済株式の3%以上を、6か月前から引き続き持つ株主(定款で割合・期間を下げられる)。公開会社でない会社は6か月の要件がない(854条1項・2項)。

累積投票では何票あれば1人を選べるか

みなと食品の例で、票の数を確かめます。3人を選ぶので、1株に3票です。

株主議決権票(×3)投じ方
はるかさん300個900票みさきさんに900票
けんたさん700個2,100票2人に1,050票ずつ

けんたさんが3人全員を当選させるには、3人のそれぞれに、みさきさんの900票より多い票を入れる必要があります。901票×3人=2,703票が要りますが、けんたさんの票は2,100票です。どう分けても、900票を超えるのは2人までです。だから、みさきさんは、けんたさんがどう投票しても3位以内に入ります。

一般には、3人を選ぶとき、自分の票(自分の株×3)が、ほかの株主の票(残りの株×3)を3人で割った数より多ければ1人を選べます。式にすると「自分の株 > 残りの株÷3」で、全体の4分の1を超える議決権があればよい計算です。ちょうど4分の1(1,000個のうち250個)だと、相手が750票ずつ3人に配れば同じ票数になり、施行規則97条の同数の扱いの問題になります。

同じ300個でも、ふつうの選び方なら、みさきさんへの賛成は300個で過半数に届かず、選ばれません。累積投票で変わるのは「票を1人に集められる」点です。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:議決権を10個しか持たない株主も、2人以上を選ぶ総会なら累積投票を請求できます。342条には議決権の割合や保有期間の要件がありません。持っている議決権が少なければ1人を選ぶ票には届きませんが、請求する権利はあります。
  • 当てはまらない例:取締役を1人だけ選ぶ総会では、累積投票は使えません。342条1項は「二人以上の取締役」の選任を前提にしています。
  • 当てはまらない例:定款に「取締役の選任は累積投票によらない」と定めた会社では、株主が請求しても累積投票になりません(342条1項「定款に別段の定めがあるときを除き」)。
  • ひっかけやすい例:はるかさんが、総会の3日前に請求した。5日前までという期限に間に合わないので、累積投票にはなりません(342条2項)。議題の提案(303条2項)の「8週間前」と混ぜないようにします。
  • ひっかけやすい例:累積投票で選ばれたみさきさんを解任するには、特別決議が要ります(309条2項7号)。もし普通決議で解任できるなら、けんたさんは総会のあと、すぐに700個の議決権でみさきさんをやめさせられてしまいます。特別決議にしたのは、少数の株主が選んだ取締役を守るためと考えると覚えやすくなります。

似ているルールとの違い:選任・解任の決議と訴え

場面決め方条文
取締役の選任普通決議。定足数は定款でも3分の1まで329条・341条
累積投票での選任票の多い順。5日前までの請求342条
取締役の解任(原則)普通決議。定足数は定款でも3分の1まで339条・341条
累積投票で選ばれた取締役・監査役などの解任特別決議309条2項7号
総会で否決されたときの解任訴え。3%・6か月、30日以内854条

少数株主権の割合と期間をまとめて見たいときは会社法で覚える数字の一覧を使ってください。総会の決議に手続の違反があったときに決議そのものを争う方法は、株主総会決議取消しの訴えで扱っています。854条の訴えは「取締役をやめさせる」訴え、831条の訴えは「決議を取り消す」訴えで、目的が違います。

試験ではここをまちがえやすい

  • 請求できる株主の要件の付け足し:累積投票の請求に、1%や3%の割合、6か月の保有の要件はありません。議題提案権(303条2項)や解任の訴え(854条)の要件と混ぜないようにします。
  • 期限の入れ替え:累積投票の請求は総会の日の5日前まで。議題提案・議案要領の通知請求は8週間前まで(303条2項・305条1項)。
  • 排除できるか:累積投票は定款で排除できます。「株主の権利だから定款でも奪えない」とする文は誤りです。
  • 解任の決議の種類:取締役の解任は原則として普通決議(341条)。累積投票で選ばれた取締役・監査等委員である取締役・監査役の解任は特別決議(309条2項7号)。
  • 解任と損害賠償:解任は「いつでも」できます。正当な理由がないときは、解任された人が会社に損害の賠償を請求できます(339条2項)。解任そのものが無効になるのではありません。
  • 票の数の計算:票は「株の数×選ぶ人数」。単元株を定めた会社では「単元の数×選ぶ人数」です(342条3項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
議決権の総数が1,000個のA社の株主総会で取締役3人を選ぶ。定款に累積投票を排除する定めはなく、議決権300個を持つ株主Bが期限内に累積投票を請求した。Bは、自分の票を全部1人の候補者Cに投じれば、ほかの株主がどう投票しても、Cを取締役にすることができる。

答え:○ 分かれ目は、累積投票の票の数え方です。請求があると、1株に選ぶ人数と同じ数の議決権が与えられ、1人に集めて投じられます(会社法342条3項)。Bは900票、ほかの株主は2,100票で、3人全員にCより多い票を入れるには2,703票が要るので、Cは票の多い順で3位以内に入ります(同条4項)。議決権の過半数がなければ1人も選べない、という普通決議の考え方で読むと✕に見えます。3人を選ぶときは、全体の4分の1を超えれば1人を選べる計算です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の総会で累積投票により選ばれた取締役Cを、A社は、その後の株主総会の特別決議で解任した。解任に正当な理由がなかったときは、この決議は効力を生じず、Cは任期の満了まで取締役の地位にとどまる。

答え:✕ 分かれ目は、正当な理由のない解任の効果です。役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任でき(会社法339条1項)、累積投票で選ばれたCの解任は特別決議によります(309条2項7号)。正しくは、正当な理由がなくても解任の決議は効力を生じ、Cは、解任によって生じた損害の賠償をA社に請求できます(339条2項)。正当な理由は、解任ができるかどうかの要件ではなく、損害の賠償を請求できるかどうかの分かれ目で、ここを取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
取締役会設置会社であるE社は、株主総会で取締役2人を選ぶ。E社の定款に累積投票についての定めはない。議決権を1個だけ持つ株主Fも、総会の日の5日前までに請求すれば、E社に累積投票による選任を求めることができる。

答え:○ 分かれ目は、請求できる株主の要件です。342条1項は、取締役の選任について議決権を行使できる株主であれば請求できるとし、議決権の割合や保有期間を求めていません。期限は総会の日の5日前までです(同条2項)。取締役会設置会社の議題提案権(303条2項)は議決権の1%以上か300個以上・8週間前までが要件で(公開会社なら6か月の保有も要る)、これと同じだと考えると✕にしてしまいます。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 累積投票は、2人以上の取締役を選ぶときに、1株に選ぶ人数分の票を与え、1人に集めて投じられる仕組み(342条)。
  • 請求は総会の日の5日前まで。割合・保有期間の要件はない。定款で排除できる。
  • 3人を選ぶなら、議決権の4分の1を超える株主は1人を選べる計算になる。
  • 解任はいつでも株主総会の決議で(339条)。原則は普通決議、累積投票で選ばれた取締役・監査役などは特別決議(309条2項7号)。正当な理由がなければ損害賠償。
  • 解任の議案が否決されたときは、3%・6か月の株主が、総会の日から30日以内に解任の訴え(854条)。

このサイトで次に読むなら、社外取締役の記事です。選ばれた取締役のうち、会社の外から監督する役の要件と、置かなければならない会社が分かります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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