ひとことで言うと、原処分主義(げんしょぶんしゅぎ)は「処分の違法は処分の取消しの訴えで争い、裁決の取消しの訴えでは裁決そのものの違法(裁決固有の瑕疵=かし)だけを争う」という決まりです(行政事件訴訟法10条2項)。裁決主義は、個別の法律が「裁決に対してだけ訴えを起こせる」と定めた場合の形で、このときは裁決の取消しの訴えの中で処分の違法も主張できます。
審査請求をして棄却されたあと、何を相手に訴えるかで結果が変わる論点です。この記事は、令和8年4月1日時点の行政事件訴訟法などで、訴える相手の選び方を整理します。審理と判決のルールは取消訴訟の審理と判決、訴えの入口の要件は取消訴訟の要件をわかりやすくで扱っています。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| そらさん | 飲食店の店主 | 営業許可を取り消され、審査請求をした |
| B県知事 | 処分庁・審査庁 | 取消処分をし、審査請求を棄却した |
| 審理員 | 県の職員 | 審査請求の審理をした |
- B県知事が、そらさんの営業許可を取り消した(原処分=もとの処分)。
- そらさんは知事に審査請求をした。この例では許可を県の自治事務とします。知事には上級行政庁がないので、知事自身が審査庁になる(行政不服審査法4条1号)。
- そらさんは口頭で意見を述べたいと申し立てたが、審理員は、困難な事情もないのに機会を与えなかった。
- 知事は、審査請求を棄却する裁決をした。
- そらさんの不満は2つある。「お店に違反はなかった(取消処分の中身がおかしい)」と「意見を言わせてもらえなかった(審査請求の手続がおかしい)」。
原処分主義によれば、1つ目は処分の取消しの訴えで、2つ目は裁決の取消しの訴えで主張します。どちらの訴えも、被告はB県です。たとえるなら、試合の判定(処分)への不満は判定そのものに、抗議の受付の対応(裁決)への不満は受付に言う、という分け方です。ただし本物のルールでは、法律が「受付の対応にだけ文句を言える」と決めている場合(裁決主義)があり、そのときは受付への申立ての中で判定の誤りも言えます。
条文ではこう決まっている
2つの訴え(3条2項・3項)
- 処分の取消しの訴え:行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(裁決などを除く)の取消しを求める訴えです(3条2項)。
- 裁決の取消しの訴え:審査請求その他の不服申立てに対する行政庁の裁決・決定その他の行為の取消しを求める訴えです(3条3項)。再調査の請求への「決定」も、この「裁決」に入ります。
原処分主義(10条2項)
「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」(行政事件訴訟法10条2項)
- 処分の違法(処分の要件を欠く、事実誤認など)は、処分の取消しの訴えで主張します。
- 裁決の取消しの訴えで主張できるのは、裁決固有の瑕疵です。審理員が口頭意見陳述の機会を与えなかった(行政不服審査法31条1項)、裁決書に理由が書かれていない(同法50条1項4号)など、審査請求の手続や裁決そのものの違法です。
- 被告は、処分の取消しの訴えなら処分をした行政庁の所属する国・公共団体、裁決の取消しの訴えなら裁決をした行政庁の所属する国・公共団体です(11条1項1号・2号)。
両方を起こすとき(20条)
処分の取消しの訴えを、その処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えに併合して起こすときは、処分の取消しの訴えの被告の同意は要りません。そして出訴期間については、処分の取消しの訴えは、裁決の取消しの訴えを起こした時に起こしたものとみなされます(20条)。裁決の訴えだけ先に起こしていた人が、あとから処分の訴えを足す場面の救済です。
裁決主義(個別の法律)
- 電波法96条の2は、同法による総務大臣の処分に不服がある者は「当該処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ、取消しの訴えを提起することができる」としています。
- 10条2項は「両方を提起することができる場合」の決まりです。裁決しか訴えられない裁決主義の場合はこれに当たらず、10条2項の制限は及びません。処分の違法は、裁決の取消しの訴えの中で主張することになります。
- 行政庁は、法律に裁決に対してのみ取消訴訟を提起できる旨の定めがある処分をするときは、相手方に、その定めがある旨を書面で教示しなければなりません(46条2項。口頭でする処分を除く)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(処分の違法):そらさんの「店に違反はなかった」は処分の違法です。処分の取消しの訴えで主張します。裁決の取消しの訴えだけを起こして、この点を主張することはできません(10条2項)。
- 当てはまる(裁決固有の瑕疵):「意見を言わせてもらえなかった」は審査請求の手続の違法です。裁決の取消しの訴えで主張します。
- 当てはまらない(裁決主義):電波法にもとづく総務大臣の処分では、処分の取消しの訴えは起こせず、裁決の取消しの訴えだけです。その中で、処分の違法も主張できます。
- ひっかけやすい(修正裁決):国家公務員の懲戒処分について、人事院が内容を修正する裁決をした。最高裁判所第三小法廷昭和62年4月21日判決は、処分は消滅するのではなく、当初から修正された内容の懲戒処分として存在していたものとみなされるとし、その処分の取消しを求める訴えの利益は失われないとしました。
- ひっかけやすい(審査請求をしないで訴える):審査請求ができる処分でも、法律に定めがなければ、直ちに処分の取消しの訴えを起こせます(8条1項)。原処分主義は、審査請求をして裁決が出たあとの「訴える相手」の話です。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 原処分主義(原則) | 裁決主義(個別の法律) |
|---|---|---|
| 訴えられるもの | 処分と裁決の両方 | 裁決だけ |
| 処分の違法を言う訴え | 処分の取消しの訴え | 裁決の取消しの訴え |
| 裁決の訴えで言える違法 | 裁決固有の瑕疵だけ | 処分の違法も言える |
| 根拠 | 行政事件訴訟法10条2項 | 電波法96条の2など |
| 教示 | 被告・出訴期間など(46条1項) | 裁決だけ訴えられる旨(46条2項) |
裁決主義と取り違えやすいのが、審査請求前置です。審査請求前置は「法律に定めがあれば、裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを起こせない」という順番の決まりで(8条1項ただし書)、訴える対象は処分のままです。裁決主義は、訴える対象そのものが裁決に限られる決まりです。前置の場合は、審査請求から3か月たっても裁決がないときなどに、裁決を待たずに処分の取消しの訴えを起こせます(8条2項1号)。前置を定めている法律の例は自由選択主義と審査請求前置の記事にあります。
審査請求と取消訴訟の手続全体の違いは行政不服審査法と行政事件訴訟法の違い一覧で、出訴期間の数え方と被告の決め方は取消訴訟の出訴期間・被告・管轄で確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
- 主張の振り分けの逆転:「裁決の取消しの訴えで処分の違法を主張できる」は原処分主義の場面では誤り。逆に「裁決の手続の違法は処分の訴えで主張する」も誤りです。
- 裁決主義での主張:裁決主義の法律では、裁決の訴えの中で処分の違法を主張できます。10条2項を裁決主義にまで当てはめる形に注意します。
- 前置と裁決主義の混同:前置は「順番」、裁決主義は「対象」。前置なら最後に訴えるのは処分です。
- 被告の取り違え:裁決の取消しの訴えの被告は、裁決をした行政庁の所属する国・公共団体です。処分庁と審査庁の所属が違うときは、被告も変わります(11条1項2号)。
- 修正裁決:修正された内容の処分として残るので、処分の訴えの利益は消えません(昭和62年判決)。「処分は消滅した」とする形は判例と逆です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
総務大臣から電波法にもとづく処分を受けたAが審査請求をしたところ、棄却の裁決を受けた。Aは、裁決の取消しの訴えの中で、もとの処分が違法であることを理由に、裁決の取消しを求めることができる。
答え:○ 分かれ目は、裁決主義がとられているかです。電波法96条の2は、総務大臣の処分に不服がある者は、審査請求に対する裁決に対してのみ取消しの訴えを提起できるとしています。行政事件訴訟法10条2項は処分と裁決の両方を訴えられる場合の決まりなので、処分を直接訴えられないこの場合には制限が及ばず、裁決の訴えで処分の違法も主張できます。裁決の訴えでは処分の違法を言えない、という原処分主義の原則だけを覚えていると✕にしてしまいます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
B県知事から営業許可の取消処分を受けたCが審査請求をしたところ、審理員は困難な事情もないのにCの口頭意見陳述の申立てを退け、知事は棄却の裁決をした。この手続の違法は、処分の取消しの訴えで主張すべきもので、裁決の取消しの訴えでは主張できない。
答え:✕ 分かれ目は、違法が処分にあるか裁決にあるかです。審理員は、申立てがあれば、申立人の所在その他の事情で困難な場合を除き、口頭で意見を述べる機会を与えなければなりません(行政不服審査法31条1項)。これに反したのは審査請求の手続、つまり裁決の違法です。正しくは、裁決固有の瑕疵として裁決の取消しの訴えで主張します。行政事件訴訟法10条2項が裁決の訴えで主張できないとしているのは「処分の違法」で、裁決の手続の違法ではありません。
問3(このサイトのオリジナル問題)
国家公務員Dが懲戒処分を受け、人事院が審査請求についてその内容を修正する裁決をした。判例によれば、もとの懲戒処分は修正裁決によって消滅したものとみなされ、Dがもとの処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。
答え:✕ 分かれ目は、修正裁決のあと、もとの処分がどう扱われるかです。最高裁判所第三小法廷昭和62年4月21日判決は、懲戒処分は消滅するのではなく、当初から修正された内容の懲戒処分として存在していたものとみなされるとし、処分の取消しを求める訴えの利益は失われないとしました。正しくは、Dは修正後の内容の懲戒処分の取消しを求めて争えます。原審の「処分は一体として消滅した」という考え方と取り違えた誤りです。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 原処分主義:処分の違法は処分の取消しの訴えで、裁決の取消しの訴えでは裁決固有の瑕疵だけ(10条2項)。
- 裁決固有の瑕疵の例:口頭意見陳述の機会を与えない、裁決書に理由がないなど、審査請求の手続や裁決そのものの違法。
- 裁決主義:法律が裁決に対してだけ訴えを認める(電波法96条の2など)。裁決の訴えで処分の違法も主張できる。教示は46条2項。
- 処分の訴えを裁決の訴えに併合すると、出訴期間は裁決の訴えを起こした時を基準にする(20条)。
- 修正裁決があっても、処分は修正された内容で残り、処分の訴えの利益は消えない(昭和62年判決)。
このサイトで次に読むなら、審査請求をわかりやすくです。裁決固有の瑕疵になりうる審査請求の手続(審理員の指名、口頭意見陳述、諮問)を、流れの順に確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、訴えの利益についての判断は判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」(3条2項・3項、8条1項・2項、10条2項、11条1項、20条、46条1項・2項)
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」(31条1項、50条1項)
- e-Gov法令検索「電波法」(96条の2)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和62年4月21日判決(昭和59年(行ツ)第68号)」(修正裁決と懲戒処分の帰すう)
働く人の法律試験ノート