永小作権:他人の土地で耕作・牧畜をする物権、地上権・土地の賃借権との違いと存続期間(民法270条〜279条)

ひとことで言うと、永小作権(えいこさくけん)は、小作料(こさくりょう)を払って、他人の土地で耕作(こうさく=田畑を耕して作物を育てること)や牧畜をする物権です(民法270条)。物権なので、登記をすれば、土地を買った人などにも主張できます。存続期間は20年以上50年以下で、定めなかったときは、別段の慣習がなければ30年です(278条)。

同じ「他人の土地を使う権利」でも、地上権は工作物や竹木を持つための物権、土地の賃借権は賃料を払って使わせてもらう債権です。この記事では、永小作権の条文(270条〜279条)を読み、地上権・土地の賃借権と「目的・期間・譲渡・対価・対抗要件」の表で比べます。抹消登記の手続や書類は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法・農地法・不動産登記法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
たけしさん畑の持ち主みのりさんのために永小作権を設定した
みのりさん永小作人(えいこさくにん)小作料を払って畑で野菜を育てる
あきらさん隣の畑の賃借人別の持ち主から畑を借りて耕している
  1. 4月:たけしさんは、農業委員会の許可を受けて、みのりさんのために畑に永小作権を設定した。期間は決めず、その地域に別段の慣習もない。小作料は年1回払う約束にした。
  2. 同じ月:永小作権の登記をした。
  3. 翌年の秋:台風で、みのりさんの畑もあきらさんの畑も、収穫が大きく減った。
  4. その後:たけしさんは、畑をまさるさんに売った。

1番目で期間を決めていないので、みのりさんの永小作権の期間は30年です(278条3項)。3番目の台風は不可抗力(ふかこうりょく=だれのせいでもない、防げない出来事)です。永小作人のみのりさんは、不可抗力で収益が減っても、小作料の免除や減額を請求できません(274条)。一方、土地を借りて耕しているあきらさんは、収益が賃料より少なくなったときは、収益の額まで賃料の減額を請求できます(609条)。同じ畑の被害でも、物権か賃貸借かで結論が変わります。

4番目で、畑の持ち主がまさるさんに変わっても、みのりさんは登記をしているので、まさるさんに永小作権を主張できます(177条)。たとえるなら、永小作権は「畑を耕す権利そのものを、土地に結びつけて持っている」状態です。持ち主が替わっても権利は畑についていきます。ただし本物のルールでは、そのためには登記が要り、期間が終われば権利は消えます。

条文ではこう決まっている

中身と義務(270条〜273条)

  • 内容(270条):永小作人は、小作料を支払って他人の土地で耕作または牧畜をする権利を持つ。小作料は、この権利の中身の一部です。
  • 土地の変更の制限(271条):永小作人は、土地に「回復することのできない損害を生ずべき変更」を加えることができない。
  • 譲渡と賃貸(272条):永小作人は、権利を他人に譲り渡すことができ、存続期間の中で、耕作や牧畜のために土地を賃貸することもできる。ただし、設定行為(せっていこうい=永小作権を作る契約など)で禁じたときは、できない。
  • 賃貸借の規定の準用(273条):永小作人の義務は、この章の規定と設定行為で定めるもののほか、性質に反しない限り、賃貸借の規定による。

収益が減ったとき・小作料を払わないとき(274条〜277条)

  • 小作料の減免(274条):不可抗力で収益に損失を受けても、小作料の免除や減額を請求できない。
  • 放棄(275条):不可抗力で、引き続き3年以上まったく収益を得ないか、5年以上小作料より少ない収益しか得ないときは、権利を放棄できる。
  • 消滅請求(276条):永小作人が引き続き2年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は永小作権の消滅を請求できる。
  • 慣習(277条):271条から276条までと異なる慣習があるときは、慣習に従う。278条(期間)はこの範囲に入っていません。

存続期間と終わったとき(278条・279条)

  • 期間(278条1項):20年以上50年以下。設定行為で50年より長く定めても、50年になる。
  • 更新(278条2項):更新できる。ただし、更新の時から50年を超えられない。
  • 定めがないとき(278条3項):別段の慣習がある場合を除き、30年。
  • 終わったとき(279条):地上権の269条を準用する。永小作人は土地を元に戻して工作物や竹木を取り去れるが、土地の所有者が時価で買い取ると申し出たら、正当な理由がなければ断れない。

年数を条文で並べ直すと、2年(276条の消滅請求)、3年と5年(275条の放棄)、20年と50年(278条1項)、30年(278条3項)です。消滅請求の2年は、土地の所有者が使う数字で、放棄の3年・5年は永小作人が使う数字です。

ほかの法律とのつながり

  • 登記(不動産登記法3条3号):永小作権は、登記できる権利として挙げられている。対抗には登記が要る(民法177条)。
  • 農地(農地法3条1項):農地や採草放牧地に永小作権を設定し、または移転するときは、原則として農業委員会の許可が要る。くわしくは農地法の3条・4条・5条の記事へ。
  • 小作料の増減(農地法20条1項):農地の永小作権の小作料も「借賃等」に含まれ、農産物の価格や生産費の変動などの経済事情の変動で不相当になったときは、将来に向かって増減を請求できる。274条の「不可抗力による収益の損失」とは別の場面です。
  • 抵当権(民法369条2項):地上権と永小作権は、抵当権の目的にできる。

3つの権利を1枚で比べると

比べる点永小作権地上権土地の賃借権
目的耕作・牧畜(270条)工作物・竹木を持つ(265条)物の使用・収益(601条)
期間20〜50年。定めなしは慣習→30年(278条)定めなしは268条(放棄か、裁判所が20〜50年)50年まで(604条)
譲渡・賃貸できる。設定行為で禁止できる(272条)承諾の定めなし貸主の承諾が要る(612条)
対価小作料が中身(270条)地代は条件でない(266条)賃料が中身(601条)
対抗要件登記(177条)登記(177条)登記(605条)。農地は引渡し(農地法16条)

表の読み方のこつは3つです。①永小作権と賃借権は、どちらも対価(小作料・賃料)が権利の中身に入っている。地上権だけは、地代がなくても成り立つ。②譲渡について、永小作権は「できる。ただし設定行為で禁止できる」で、賃借権は「承諾がなければできない」。原則と例外が逆です。③農地の賃貸借は、登記がなくても引渡しで対抗できますが(農地法16条)、この条文は賃貸借の規定で、永小作権には書かれていません。

物権と債権の違いそのもの(だれにでも主張できるか、特定の人にだけ言えるか)は、物権と債権の違いの記事で確かめられます。なお、地下や空中の一部だけを目的にする「区分地上権」(269条の2)は地上権の一種で、永小作権にはこれにあたる条文がありません。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:小作料を2年以上払わない

みのりさんが、小作料を引き続き2年以上払わなかったとします。たけしさんは、永小作権の消滅を請求できます(276条)。条文の言葉は「引き続き二年以上」で、請求するのは土地の所有者の側です。

当てはまらない例:家を建てるために使う

他人の土地に住宅を建てて持つための権利は、耕作や牧畜が目的ではないので、永小作権になりません。工作物を持つための地上権か、土地の賃借権の話です。建物の所有が目的なら、借地借家法の借地権にもなります(地上権の記事で説明しています)。

ひっかけやすい例:期間を定めなかった

期間を定めずに設定した永小作権は、別段の慣習がなければ30年です(278条3項)。地上権で期間を定めなかったときは、地上権者がいつでも放棄できるか(地代を払う場合は予告などが要る)、放棄しなければ裁判所が当事者の請求で20年以上50年以下の範囲で決めます(268条)。「20年以上50年以下」という同じ数字が出てくるので、どちらの条文の話かを分けて読みます。

ひっかけやすい例:地代を払う地上権

地上権者が定期の地代を払わなければならない場合には、永小作権の274条〜276条が準用されます(266条1項)。地代のある地上権でも、2年以上続けて地代を怠れば、土地の所有者は消滅を請求できます。地上権の条文だけを見て「消滅請求の規定はない」とすると誤りです。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、地上権が主な論点の問題は3問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では2問でした。当サイトの分類で「所有権・物権(その他)」とした論点は、主な論点として2問、直近10回で1問です。永小作権だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 減額請求の入れ替え:永小作人も不可抗力の減収で小作料の減額を請求できる、とする形。できないのが永小作権(274条)、収益の額まで減額を請求できるのは耕作・牧畜目的の土地の賃借人(609条)です。
  • 期間の入れ替え:期間を定めない永小作権について、裁判所が20年以上50年以下で決めるとする形。それは地上権の268条2項で、永小作権は30年(278条3項)です。
  • 譲渡の原則と例外:永小作権の譲渡に土地の所有者の承諾が要るとする形。民法上は譲渡でき、設定行為で禁じたときだけできません(272条)。農地なら、別に農業委員会の許可(農地法3条1項)が要ります。
  • 対抗要件の流用:農地の賃貸借の「引渡しで対抗」(農地法16条)を永小作権にも当てはめる形。永小作権は物権で、177条により登記が要ります。
  • 年数の入れ替え:消滅請求の2年(276条)と、放棄の3年・5年(275条)を取り違える形。請求するのはだれか(土地の所有者か永小作人か)とセットで覚えます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
台風(不可抗力)で、たけしさんの畑に永小作権を持つみのりさんも、隣の畑を賃借して耕すあきらさんも、収益が小作料・賃料より少なくなった。その地域に別段の慣習はない。みのりさんはこの減収を理由に小作料の減額を請求できないが、あきらさんは収益の額まで賃料の減額を請求できる。

答え:○ 分かれ目は、物権の永小作権か、土地の賃貸借かです。274条は、永小作人は不可抗力により収益について損失を受けたときでも小作料の免除や減額を請求できないとし(異なる慣習があれば慣習に従う。277条)、耕作を目的とする土地の賃借人には、609条が収益の額までの賃料の減額請求を認めています。永小作権は賃借権より強い権利なので減額も認められそうに見え、✕にしやすいところです。取り違えの相手は609条です。農地法20条の小作料の増減の請求は、経済事情の変動などで額が不相当になったときのもので、不可抗力による減収そのものを理由とする請求ではありません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
たけしさんは、期間を定めずに、みのりさんのために畑に永小作権を設定した。その地域に別段の慣習はない。この場合、永小作権の存続期間は、当事者の請求により、裁判所が20年以上50年以下の範囲で定める。

答え:✕ 分かれ目は、期間を定めなかったときの決まり方です。278条3項は、設定行為で存続期間を定めなかったときは、別段の慣習がある場合を除き30年としています。正しくは、みのりさんの永小作権の期間は30年です。取り違えの相手は、期間を定めなかった地上権について、放棄しない場合に裁判所が20年以上50年以下で期間を定めるとする268条2項です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みのりさんは、農業委員会の許可を受けてたけしさんの畑に永小作権の設定を受け、畑の引渡しを受けて耕作しているが、永小作権の登記はしていない。その後、たけしさんがこの畑をまさるさんに売った。みのりさんは、まさるさんに永小作権を対抗できる。

答え:✕ 分かれ目は、永小作権の対抗要件です。永小作権は不動産に関する物権なので、177条により、登記をしなければ第三者に対抗できません。正しくは、登記のないみのりさんは、畑を買ったまさるさんに永小作権を対抗できません。取り違えの相手は、農地の賃貸借は登記がなくても引渡しがあれば対抗できるとする農地法16条で、この条文は賃貸借についての規定です。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 永小作権は、小作料を払って他人の土地で耕作・牧畜をする物権(270条)。対抗には登記(177条)。
  • 存続期間は20年以上50年以下。定めなければ慣習、慣習もなければ30年(278条)。
  • 譲渡・賃貸はできる。設定行為で禁止できる(272条)。農地なら農業委員会の許可も要る。
  • 不可抗力の減収でも小作料の減免は請求できない(274条)。土地の賃借人は減額を請求できる(609条)。
  • 小作料を引き続き2年以上怠れば、所有者は消滅を請求できる(276条)。地代を払う地上権にも準用(266条1項)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。

このサイトで次に読むなら、農地の賃貸借の記事です。同じ畑を「借りる」場合の対抗要件・更新・解約の制限を確かめると、永小作権との違いがはっきりします。

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