ひとことで言うと、弁済供託(べんさいきょうたく)は、払おうとしても受け取ってもらえないときなどに、払うはずのお金や物を供託所に預けて、借りを消す方法です(民法494条)。できるのは、①提供したのに受け取りを拒まれた、②債権者が受け取れない、③過失なく債権者がだれか分からない、の3つの場合で、供託した時に債権は消えます。あわせて、払った額が借り全部に足りないときにどれに充てるか(弁済の充当=じゅうとう)も、488条〜490条で決まっています。
この記事では、①供託の原因と効果、②供託所・通知・取戻し・自助売却・還付、③充当の順番、を扱います。だれが払えるか・だれに払えば有効かなど弁済全体は弁済と相殺の記事、現実の提供と口頭の提供の違いは弁済の提供の記事に任せます。供託書の書き方・必要書類・手数料など手続の細目は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法と供託法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は、家を借りているだいちさんと、貸しているみさきさんです(架空の話です)。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| だいちさん | 借主(家賃を払う人) | 月8万円の家賃を払おうとした |
| みさきさん | 貸主(家賃を受け取る人) | 「10万円でなければ受け取らない」と言った |
- みさきさんが、家賃を10万円に上げると言い出し、8万円では受け取らないと伝えてきた。
- だいちさんは、支払日に8万円を持って行ったが、みさきさんは受け取らなかった。
- だいちさんは、家賃を払う場所(債務の履行地)の供託所に8万円を供託した。
- だいちさんは、みさきさんに供託したことを知らせた。
だいちさんの8万円の家賃の債務は、供託した時に消えます(494条1項後段)。みさきさんは、供託所に還付(かんぷ=渡すこと)を請求して8万円を受け取れます(498条1項)。受け取ってもらえないまま家賃の債務が残り続ける状態を、だいちさんの側から終わらせられます。
たとえるなら、供託は「相手に渡すはずのお金を、公の金庫に預けて、渡したことにしてもらう」仕組みです。ただし本物のルールでは、だれでもいつでも預けられるわけではありません。494条の3つの原因のどれかに当たることが必要です。
条文ではこう決まっている
供託できる場合と効果(494条)
- 1項1号(受領拒絶):「弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき」。
- 1項2号(受領不能):「債権者が弁済を受領することができないとき」。
- 2項(債権者不確知):弁済者が債権者を確知(かくち=はっきり知ること)できないときも同じ。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
- 効果(1項後段):弁済者が供託をした時に、その債権は消滅する。
1号は、条文が「弁済の提供をした場合」と書いているので、提供をしてから拒まれたことが前提です。債権者があらかじめ受け取りを拒んでいるときは、弁済の準備をしたことを知らせて受け取るよう求める「口頭の提供」で足ります(493条ただし書)。2号と2項には、提供をしたことという要件は書かれていません。
供託所・通知・取戻し・自助売却・還付(495条〜498条)
- 供託所(495条1項・2項):債務の履行地の供託所にする。法令に供託所の定めがないときは、裁判所が弁済者の請求で供託所の指定と保管者の選任をする。金銭と有価証券の供託所は、法務局・地方法務局とその支局、法務大臣が指定する出張所です(供託法1条)。
- 通知(495条3項):供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。
- 取戻し(496条):債権者が供託を受諾せず、または供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は供託物を取り戻せる。取り戻すと、供託をしなかったものとみなす。ただし、供託によって質権または抵当権が消滅した場合は、取り戻せない(2項)。
- 自助売却(497条):物が供託に適しない、価格が下がるおそれがある、保存に過分の費用がかかる、その他供託が困難な事情があるときは、裁判所の許可を得て競売し、その代金を供託できる。
- 還付(498条):債権者は供託物の還付を請求できる。債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合(引換えの関係にある場合)は、債権者はその給付をしなければ供託物を受け取れない。
弁済の充当(488条〜490条)
- 指定(488条1項〜3項):同じ債権者に同種の債務が数個あり、払った額が全部を消すのに足りないときは、払う人が払う時に、どれに充てるかを指定できる。払う人が指定しなければ、受け取る人が受け取る時に指定できるが、払う人が直ちに異議を述べたときは、この限りでない。指定は相手方への意思表示でする。
- 法定充当(488条4項):どちらも指定しないときは、①弁済期にあるものに先に、②全部が弁済期にある(または全部がない)ときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に、③利益が等しいときは、弁済期が先に来た(または先に来る)ものに先に、④それも等しいときは、各債務の額に応じて充てる。
- 費用・利息・元本(489条):元本のほか利息と費用も払うべき場合に、全部を消すのに足りない額を払ったときは、「順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない」。488条1項は「次条第一項に規定する場合を除く」としているので、この場面では払う人の指定で順番を変えられない。
- 合意(490条):488条・489条にかかわらず、払う人と受け取る人の間に充当の順序の合意があれば、その順序に従う。
当てはまる例・当てはまらない例
| 項目 | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 原因 | 提供して拒まれた/受け取れない/過失なく債権者が分からない | 494条1項・2項 |
| 効果 | 供託した時に債権が消える | 494条1項後段 |
| どこへ | 債務の履行地の供託所 | 495条1項 |
| 通知 | 遅滞なく債権者へ | 495条3項 |
| 取戻し | 受諾・有効判決の確定まで。質権・抵当権が消えたときは不可 | 496条 |
| 物が預けにくい | 裁判所の許可で競売し、代金を供託 | 497条 |
| 受け取り | 債権者が還付を請求。引換えの給付が先 | 498条 |
例1:債権を譲り受けたと名乗る人が現れた(当てはまる例・過失に注意)
だいちさんがみさきさんから借りたお金について、別の人が「みさきさんから債権を譲り受けた」と名乗り出て、みさきさんは譲っていないと言い張っているとします。だいちさんが、どちらが本当の債権者かを過失なく知ることができないなら、供託できます(494条2項本文)。少し確かめれば分かるのに確かめなかったときは、過失があるので、2項では供託できません(ただし書)。
例2:抵当権付きの借金を供託した(ひっかけやすい例)
だいちさんが、自分の土地に抵当権を付けてみさきさんから借りたお金を供託したとします。供託で債権が消えると、抵当権も消えます。この場合、みさきさんがまだ供託を受諾していなくても、だいちさんは供託物を取り戻せません(496条2項)。「受諾の前ならいつでも取り戻せる」と1項だけで覚えると誤ります。
例3:払う人が「元本に充てて」と指定した(当てはまらない例)
だいちさんは、みさきさんに、元本30万円、利息2万円、費用1万円を払う義務があります。だいちさんが10万円を払い、「元本に充ててほしい」と指定しました。みさきさんは同意していません。489条1項により、10万円は次の順に充てられます。
- 費用1万円に充てる(残り9万円)。
- 利息2万円に充てる(残り7万円)。
- 元本に7万円を充てる。残る元本は30万円-7万円=23万円。
だいちさんの指定は、この場面では効きません(488条1項かっこ書)。順番を変えるには、みさきさんとの合意がいります(490条)。費用・利息・元本のどれか一つも消せない額を払ったときは、その中で488条の指定・法定充当を使います(489条2項)。
例4:2口の借金に、指定なしで払った(当てはまる例)
だいちさんが、みさきさんから甲(20万円・弁済期4月末)と乙(20万円・弁済期12月末)を借りていて、どちらも無利息だとします。6月に15万円を払い、だいちさんもみさきさんも指定しなかったときは、弁済期が来ている甲に先に充てます(488条4項1号)。甲の残りは5万円、乙は20万円のままです。だいちさんが払う時に「乙に充てる」と指定していれば、乙に充てられます(488条1項)。
似ているルールとの違い
| ルール | 何が起きるか | 債務は消えるか |
|---|---|---|
| 弁済の提供(492条) | 履行しない責任を免れる | 消えない |
| 供託(494条) | 供託所に預ける | 供託した時に消える |
| 代物弁済(482条) | 契約で別の物を渡す | 渡した時に消える |
| 相殺(505条・506条) | 互いの債権を対当額で消す | 意思表示により、相殺に適した時にさかのぼって消える |
提供だけでは債務は消えません。受け取ってもらえないまま債務を消したいときに使うのが供託です。代物弁済と相殺は債権が消える4つの場合の記事と弁済と相殺の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、弁済が主な論点の問題は7問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では1問でした。副の論点として含む問題は0問でした。供託・充当だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 受領拒絶の供託は提供と関係がない、とする形:1項1号の条文は「弁済の提供をした場合において」と書いています。あらかじめ拒まれているときは、口頭の提供で足ります(493条ただし書)。
- 債権者が分からなければ過失があっても供託できる、とする形:2項ただし書で、過失があるときはできません。
- 債権者が還付を受けた時に債権が消える、とする形:消えるのは供託した時です(494条1項後段)。
- 受諾の前なら例外なく取り戻せる、とする形:質権・抵当権が消えたときは取り戻せません(496条2項)。
- 払う人の指定で元本に先に充てられる、とする形:費用・利息・元本の順は指定で変えられず、変えるには合意がいります(489条1項・490条)。
- 法定充当で弁済期の先後を先に見る、とする形:2号の「弁済の利益」が先で、弁済期の先後は利益が等しいときの3号です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
だいちさんは、自分の土地に抵当権を設定してみさきさんから借りた50万円を、受け取りを拒まれて供託し、その抵当権は消滅した。みさきさんが供託を受諾せず、供託を有効とする判決も確定していない間は、だいちさんは供託した50万円を取り戻すことができる。
答え:✕ 分かれ目は、供託で抵当権が消えたかです。債権者が受諾せず、有効とする判決も確定しない間は、原則として供託物を取り戻せます(496条1項)。しかし、供託によって質権または抵当権が消滅した場合には、この取戻しの規定は適用されません(同条2項)。正しくは、抵当権が消えたこの場面では、だいちさんは50万円を取り戻せません。1項の取戻しの原則を、2項の例外の場面にまで広げた取り違えです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
だいちさんは、みさきさんに元本40万円・利息3万円・費用1万円を払う義務がある。だいちさんが15万円を払う時に元本に充てるよう指定し、みさきさんが同意しなかった場合、元本に充てられるのは11万円である。
答え:○ 分かれ目は、払う人の指定が効く場面かです。元本のほか利息と費用を払うべき場合に足りない額を払ったときは、費用・利息・元本の順に充てなければなりません(489条1項)。488条1項の指定は、この場面を除いています。15万円は費用1万円、利息3万円に充てられ、元本には残りの11万円です。払う人が指定すればそのとおりになる(488条1項)と考えると✕に見えますが、それは同種の債務が数個ある場面の規定です。順番を変えられるのは合意(490条)です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
だいちさんがみさきさんから借りた甲・乙2口は、どちらも弁済期が到来しており、弁済期が先に来たのは乙だが、だいちさんにとって弁済の利益が多いのは甲である。両方を消すには足りない額を、二人とも指定せずに払ったときは、乙に先に充てられる。
答え:✕ 分かれ目は、法定充当の2号と3号の順番です。全部の債務が弁済期にあるときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充てます(488条4項2号)。弁済期が先に来たものに先に充てるのは、利益が相等しいときです(同項3号)。正しくは、だいちさんの利益が多い甲に先に充てられます。3号の弁済期の基準を、2号より先に当てはめた取り違えです。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 供託できるのは、提供して拒まれた・受け取れない・過失なく債権者が分からない、の3つ(494条)。供託した時に債権が消える。
- 債務の履行地の供託所にし、遅滞なく債権者に通知する(495条)。
- 受諾か有効判決の確定までは取り戻せるが、質権・抵当権が消えたときは取り戻せない(496条)。
- 充当は、合意があれば合意(490条)。利息・費用があれば費用→利息→元本の順で、指定では変えられない(489条)。
- 同種の債務が数個なら、払う人→受け取る人の指定、なければ弁済期・利益・弁済期の先後・按分の順(488条)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法・供託法を確かめました。受領拒絶と提供の関係について、この記事では判例を引いていません(条文で説明しています)。
- e-Gov法令検索「民法」(482条、488条〜498条、505条、506条)
- e-Gov法令検索「供託法」(1条)
このサイトで次に読むなら、弁済による代位の記事です。保証人などが払ったあと、債権者が持っていた抵当権を使えるかを、同じ弁済の流れで確かめられます。
働く人の法律試験ノート