ひとことで言うと、相続人が、相続を承認するか放棄するかを決めないうちに亡くなると、その人の相続人が「選ぶ立場」ごと受け継ぎます。これを再転相続(さいてんそうぞく)といいます。受け継いだ人の3か月の熟慮期間(じゅくりょきかん=承認か放棄かを考える期間)は、自分のために相続の開始があったことを知った時から数えます(民法916条)。最高裁は、この「知った時」を、亡くなった人が選ばなかった相続の相続人の地位を、自分が受け継いだと知った時としています。
この記事では、①916条の熟慮期間の数え方と令和元年の最高裁判決、②二つの相続をどう選べるか(4通り)、③数次相続・代襲相続との違い、を扱います。熟慮期間の一般のルールと単純承認とみなされる場合は限定承認と単純承認の記事、相続分の計算は相続分の計算の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は、祖父のげんじろうさん、その子で相続人の父ひでおさん、ひでおさんの子のかなさん(成人)です(架空の話です)。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| げんじろうさん | 第1の相続の被相続人 | 1月10日に亡くなった |
| ひでおさん | げんじろうさんの相続人。第2の相続の被相続人 | 承認も放棄もしないまま、2月20日に亡くなった |
| かなさん | ひでおさんの相続人(再転相続人) | 二つの相続について選ぶ |
- 1月10日、げんじろうさんが亡くなった。ひでおさんは同じ日に、自分が相続人になったと知った。
- ひでおさんは、3か月の熟慮期間の途中で、承認も放棄もしないまま2月20日に亡くなった。
- かなさんは、2月20日に、父が亡くなったことと、父が祖父の相続人だったことを知った。
- かなさんは、①父の相続(第2の相続)と、②父が選ばなかった祖父の相続(第1の相続)について、承認か放棄かを選ぶ。
かなさんの、祖父の相続についての熟慮期間は、父に残っていた期間ではなく、かなさんが2月20日に知った時から3か月です(916条)。父の相続についても、2月20日に知った時から3か月です(915条1項)。父の相続を放棄すると、祖父の相続を選ぶ立場も受け継がないことになります。この順番の話は、次の節の条文で確かめます。
たとえるなら、ひでおさんは「祖父の相続について選ぶ権利の書かれた封筒」を開けないまま亡くなり、その封筒が、ひでおさんの財産と一緒にかなさんに渡った形です。ただし本物のルールでは、封筒だけを受け取ることはできません。ひでおさんの相続を受け入れることで、封筒を開ける立場が手に入ります。
条文ではこう決まっている
- 熟慮期間(915条1項):相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に、単純承認・限定承認・放棄のどれかをしなければならない。家庭裁判所で期間を延ばしてもらうこともできる(ただし書)。
- 再転相続(916条):相続人が承認または放棄をしないで死亡したときは、915条1項の期間は、「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から」数える。
- 受け継ぐもの(896条):相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(一身に専属したものを除く)。
- 放棄の効力(939条):相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。放棄は家庭裁判所に申述してする(938条)。
- 期間内に選ばなかったとき(921条2号):915条1項の期間内に限定承認も放棄もしなかったときは、単純承認をしたものとみなす。
「知った時」の意味(令和元年判決)
最高裁判所第二小法廷令和元年8月9日判決(平成30年(受)第1626号)は、916条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意味を示しました。判決は、相続の承認または放棄をしないで死亡した者の相続人が、その死亡した者からの相続によって、死亡した者が承認または放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいう、としています。
理由として判決は、916条の趣旨を、再転相続人に第1の相続について承認か放棄かを選ぶ機会を保障することにあるとしました。父の相続が始まったと知っても、父が別の相続の相続人だったことを当然に知るわけではないので、それを知らないうちから期間を数えるのは趣旨に反する、という考え方です。また、死亡した者が自分が相続人になったことを知っていたかどうかにかかわらず、916条は適用されるとしています。
二つの相続の選び方(896条・939条から)
かなさんが祖父の相続について選べるのは、父の相続によって、父が持っていた「祖父の相続人としての地位」を受け継ぐからです(896条。令和元年判決も、再転相続人は死亡した者から相続人の地位を承継するという構造で述べています)。父の相続を放棄すると、かなさんは父の相続に関して初めから相続人でなかったことになります(939条)。そのため、父から受け継ぐはずだった祖父の相続人としての地位も受け継がず、祖父の相続を選ぶ立場がありません。
当てはまる例・当てはまらない例
| 父の相続(第2) | 祖父の相続(第1) | 結果 |
|---|---|---|
| 承認 | 承認 | 祖父の分も父の分も受け継ぐ |
| 承認 | 放棄 | 父の分だけ受け継ぐ。祖父の分は受け継がない |
| 放棄 | 選べない | 父の相続人でないので、祖父の相続を選ぶ立場もない。どちらも受け継がない |
| 期間内に選ばない | 期間内に選ばない | どちらも単純承認とみなされる(921条2号)。祖父の相続の期間は、かなさんが知った時から数える(916条) |
例1:祖父の借金だけを受け継ぎたくない(当てはまる例)
祖父には借金が多く、父には預金があったとします。かなさんは、父の相続を承認したうえで、祖父の相続だけを放棄できます(表の2行目)。祖父の相続の熟慮期間は、916条により、かなさんが知った時から数えます。どちらの放棄も、家庭裁判所への申述でします(938条)。
例2:父が相続人だったと後で知った(ひっかけやすい例)
令和元年判決の事案を、名前を変えて簡単にした例です。伯父のしげるさんが亡くなり、しげるさんの子たちが相続放棄をしたため、弟のひでおさん(かなさんの父)が相続人になりました。ひでおさんは、そのことを知らないまま亡くなりました。かなさんは、父が亡くなったことはすぐ知りましたが、父が伯父の相続人になっていたことは、何年も後に裁判の書類が届いて初めて知りました。
この場合、伯父の相続についての熟慮期間は、父が亡くなったと知った時ではなく、伯父の相続人の地位を自分が受け継いだと知った時から数えます。判決は、書類の送達を受けて知った時から数え、その後3か月以内にした放棄を有効としました。父自身が相続人になったことを知らなかった場合でも、916条は適用されます。
例3:父が承認した後に亡くなった(当てはまらない例)
ひでおさんが、祖父の相続を単純承認した後に亡くなったとします。916条は「承認又は放棄をしないで死亡したとき」の規定なので、この場合は再転相続ではありません。祖父の財産と借金は、すでに父のものになっています。かなさんが選べるのは、それを含めた父の相続を承認するか放棄するかだけです。父が3か月のうちに何も選ばなかったときは単純承認とみなされるので(921条2号)、その後に父が亡くなった場合も同じです。このように、承認か放棄が済んだ後に次の相続が起きるものは、数次相続と呼ばれて区別されます。
例4:父に残っていた期間で数える(ひっかけやすい例)
冒頭の例で、父には祖父の相続について1か月ほどの期間が残っていました。かなさんの期間は、その残りの1か月ではありません。916条は、かなさんが「自己のために相続の開始があったことを知った時から」数えるとしています。
似ているルールとの違い
| ルール | 起きる順番 | かなさんが選べること |
|---|---|---|
| 再転相続(916条) | 祖父→父が選ぶ前に亡くなる | 父の相続と、父が選ばなかった祖父の相続 |
| 数次相続 | 祖父→父が承認した後に亡くなる | 祖父の分を含めた父の相続だけ |
| 代襲相続(887条2項) | 父が祖父より先に亡くなる | 祖父の相続を、父の代わりに直接受ける |
代襲相続では、かなさんは父の地位を経由せず、祖父の相続人として直接相続します。父と祖父のどちらが先に亡くなったか分からない場合は、同時に死亡したと推定され(32条の2)、この場合も代襲相続の問題になります。くわしくは同時死亡の推定の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、相続が主な論点の問題は27問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では8問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも4問あります。再転相続だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 父に残っていた期間で数える、とする形:再転相続人が知った時から数えます(916条)。
- 父が亡くなったと知った時から数える、とする形:令和元年判決は、父が選ばなかった相続の相続人の地位を、自分が受け継いだと知った時としています。
- 父の相続を放棄しても祖父の相続は選べる、とする形:放棄すると父の相続人でなかったことになり(939条)、祖父の相続人の地位を受け継ぎません。
- 父が承認した後でも祖父の相続だけ放棄できる、とする形:916条は「承認又は放棄をしないで死亡したとき」の規定です。
- 代襲相続と混ぜる形:父が祖父より先に亡くなれば代襲相続(887条2項)、後に選ばないまま亡くなれば再転相続です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
伯父しげるさんの相続人となったひでおさんが、承認も放棄もしないまま亡くなった。ひでおさんの子かなさんが、父の死亡を5月10日に知り、父が伯父の相続人だったことを11月1日に初めて知った場合、伯父の相続についてのかなさんの熟慮期間は、11月1日から数える。
答え:○ 分かれ目は、916条の「知った時」の意味です。最高裁判所第二小法廷令和元年8月9日判決は、死亡した者が承認または放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうとしました。かなさんがそれを知ったのは11月1日です。父の死亡を知った5月10日から数えると考えると✕に見えます。916条の「知った時」を、第2の相続(父の相続)の起算点と取り違えた考え方です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
祖父げんじろうさんの相続人である父ひでおさんが、承認も放棄もしないまま亡くなった。かなさんが家庭裁判所に申述して父の相続を放棄しても、そのことは、かなさんが祖父の相続を承認して祖父の財産を受け継ぐ妨げにならない。
答え:✕ 分かれ目は、父の相続の放棄が、祖父の相続を選ぶ立場にどう響くかです。かなさんが祖父の相続について選べるのは、父の相続によって父の相続人としての地位を受け継ぐからです(896条・916条)。父の相続を放棄すると、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(939条)。正しくは、かなさんは祖父の相続人の地位を受け継がず、祖父の相続を承認することはできません。二つの相続を、互いに関係のない別々の選択と考えた取り違えです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
祖父げんじろうさんの相続人である父ひでおさんは、祖父の相続を単純承認した後に亡くなった。この場合、かなさんは、父の相続を承認したうえで、祖父の相続についてだけ放棄することができる。
答え:✕ 分かれ目は、父が承認を済ませていたかです。916条は、相続人が「承認又は放棄をしないで死亡したとき」の規定です。父が単純承認をしていれば、祖父の財産と借金はすでに父のものになっています。正しくは、かなさんが選べるのは、それを含めた父の相続を承認するか放棄するかだけです。承認が済んだ後に次の相続が起きる数次相続を、再転相続と取り違えた文です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 相続人が承認も放棄もしないで亡くなると、その相続人が選ぶ立場も受け継ぐ(再転相続)。
- 熟慮期間は、再転相続人が知った時から3か月(916条)。亡くなった人に残っていた期間ではない。
- 「知った時」は、選ばれなかった相続の相続人の地位を自分が受け継いだと知った時(令和元年判決)。
- 父の相続を放棄すると、祖父の相続を選ぶ立場も受け継がない(939条)。父の相続を承認して祖父の相続だけ放棄するのはよい。
- 父が承認した後に亡くなれば数次相続、先に亡くなれば代襲相続。どちらも916条の場面ではない。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、判決全文で理由と事案も確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(32条の2、887条、896条、915条、916条、921条、938条、939条)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 令和元年8月9日判決(平成30年(受)第1626号)」(民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義)
このサイトで次に読むなら、宅建の相続の問題です。相続人・相続分・放棄・遺言・遺留分を場面で解き直し、再転相続とほかの論点の区別を確かめられます。
働く人の法律試験ノート