ひとことで言うと、抵当権は、土地や建物にくっついて一体になった物(付加一体物=ふかいったいぶつ)に及びます(民法370条)。設定のときから庭に置かれていた石灯籠のような「従物(じゅうぶつ)」にも及ぶ、とした最高裁の判例があります。ただし、土地の抵当権は上の建物には及びません。家賃のような果実(かじつ)に及ぶのは、返済が滞った後に生じた分からです(371条)。
この記事では、①370条の付加一体物と87条の従物の関係、②庭石・ガソリンスタンドの設備・借地権の3つの判例、③371条の果実、を「及ぶ・及ばない・いつから」で表にします。物がくっついたときにだれの物になるか(付合)は付合の記事、家賃の差押え(物上代位)は物上代位の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。天然果実と法定果実の区別と、だれのものになるか(88条・89条)は天然果実と法定果実の記事にあります。
身近な例で考えると
登場人物は、家を持つひなたさんと、お金を貸すつばさ銀行、競売で家を買うかいとさんです(架空の話です)。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ひなたさん | お金を借りる人 | 自分の土地と家に抵当権を付けた |
| つばさ銀行 | 抵当権者 | 1,500万円を貸し、抵当権を登記した |
| かいとさん | 買受人 | 競売で土地と家を買った |
- ひなたさんの庭には、植木と、地面に深く据えた大きな庭石がある。ほかに、持ち運べる石灯籠(いしどうろう)と小さな庭石も、庭の飾りとして置いてある。
- ひなたさんは、土地と家につばさ銀行の抵当権を付けて登記した。
- その後、家に浴室を建て増しした。建て増しの部分は、家とつながっていて、それだけでは使えない。
- 返済が止まり、つばさ銀行が抵当権を実行した。かいとさんが競売で土地と家を買った。
- かいとさんが手に入れるのは、土地と家だけか。庭石・石灯籠・浴室もついてくるか。
答えは、どれもついてきます。植木や据え付けた庭石は、土地の一部(構成部分)です。浴室も、家の一部になっています。持ち運べる石灯籠と小さな庭石は、土地とは別の物ですが、庭のために置かれた従物です。判例は、設定のときからあった従物にも抵当権が及ぶとしています。
たとえるなら、抵当権は「家とその付属品のセット」にかかる担保です。ただし本物のルールでは、土地と家は別の不動産です。土地だけに抵当権を付けたなら、上の家にまでは及びません。セットの範囲は、条文と判例で決まります。
条文ではこう決まっている
抵当権の効力の及ぶ範囲(370条)
- 本文:抵当権は、「抵当地の上に存する建物を除き」、抵当不動産に「付加して一体となっている物」に及ぶ。
- ただし書:①設定行為(抵当権を付ける契約)に別段の定めがある場合、②債務者がほかの債権者を害する行為で物を付け加え、詐害行為取消請求(424条3項)ができる場合は、及ばない。
主物と従物(87条)・不動産(86条)
- 従物(87条1項):物の所有者が、その物の「常用に供するため」(ふだん使うため)、「自己の所有に属する他の物」を付属させたとき、付属させた物を従物とする。
- 処分に従う(87条2項):「従物は、主物の処分に従う。」主物を売れば、特に決めなくても従物も一緒に移る。
- 不動産(86条1項):土地とその定着物(ていちゃくぶつ)は不動産。建物は土地とは別の不動産として扱われます。
87条1項の要件は3つです。①主物の役に立つために付属させた、②主物と同じ持ち主の物、③主物とは別の独立した物。②があるので、借りている人が自分で持ち込んだ物は、建物の持ち主の従物にはなりません。
果実(371条・88条)
- 371条:抵当権は、「その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた」抵当不動産の果実に及ぶ。
- 果実の種類(88条):畑の作物のように物の使い方に従って取れる物が天然果実、家賃・地代のように物を使わせた対価が法定果実です。
372条は、304条(物上代位)などを抵当権に準用しています。家賃の債権を差し押さえる方法は物上代位の話で、371条とは別の入口です。
及ぶもの・及ばないもの(当てはまる例・当てはまらない例)
| 物 | 及ぶか | 根拠 |
|---|---|---|
| 植木・取り外しの困難な庭石 | 及ぶ(土地の構成部分) | 370条、昭和44年判決 |
| 石灯籠・取り外せる庭石(設定のときからある) | 及ぶ(従物)。登記で対抗力も | 昭和44年判決 |
| 建物と一体の増築部分 | 及ぶ(付加一体物) | 370条 |
| ガソリンスタンドの地下タンク・計量機・洗車機 | 建物の抵当権が及ぶ(従物) | 平成2年判決 |
| 借地上の建物の借地権(賃借権) | 原則として及ぶ | 昭和40年判決 |
| 土地の上の建物 | 土地の抵当権は及ばない | 370条本文 |
| 家賃・地代(果実) | 不履行の後に生じた分から | 371条 |
| 別段の定めをした物 | 及ばない | 370条ただし書 |
例1:庭石と石灯籠(当てはまる例)
最高裁判所第二小法廷昭和44年3月28日判決(昭和43年(オ)第1250号)は、宅地に付けた根抵当権の事件です。判決は、植木と取り外しの困難な庭石を宅地の構成部分、石灯籠と取り外しのできる庭石を宅地の従物としました。そのうえで、宅地の抵当権の効力は、特段の事情のない限り、設定当時に宅地の従物であった石灯籠と庭石にも及び、設定登記による対抗力は従物にも生じる、としました。理由の中では、従物についての対抗力を370条によるものと述べています。
例2:ガソリンスタンドの設備(当てはまる例)
最高裁判所第一小法廷平成2年4月19日判決(昭和62年(オ)第524号)は、ガソリンスタンドの店舗用の建物(借地上の建物)に付けた抵当権の効力が、設定当時に建物の従物であった地下タンク、計量機、洗車機などの設備に及ぶとされた事例です。判決によると、設備はすべて借地の上か地下に建物に近接して置かれ、一部は管で建物の中の設備とつながっていました。建物を店舗とし、設備が付属してガソリンスタンドとして使われ、経済的に一体をなしていた事情から、設備を建物の従物とし、建物を競売で買った人は設備の所有権も取得したとした原審の判断を是認しています。建物の外にある設備でも、置かれ方と使われ方によっては従物になる例です。
例3:借地上の建物と借地権(当てはまる例)
最高裁判所第三小法廷昭和40年5月4日判決(昭和39年(オ)第1033号)は、土地を借りている人が、その土地の上の自分の建物に抵当権を付けた事件です。判決は、抵当権の効力は原則として土地の賃借権に及び、建物を競売で買った人と賃借人の間では、建物の所有権とともに賃借権も買った人に移るとしました。建物は、土地を使う権利がなければ建っていられないからです。
ただし、賃借権が移ることと、地主に主張できることは別です。賃借権の譲渡には地主の承諾がいります(612条1項)。地主が承諾しないときは、競売で建物を買った人が、代金を払った後2か月以内に、承諾に代わる裁判所の許可を求められます(借地借家法20条1項・3項)。この手続は借地権の譲渡・転貸の記事で扱っています。
例4:エアコンのような設備(ひっかけやすい例)
エアコンに抵当権が及ぶかは、一つの答えに決まりません。考える順番は次のとおりです。①だれの物か。借りている人が自分で付けたなら、建物の持ち主の物ではないので、87条の従物には当たりません。②建物の持ち主の物なら、取り外せる独立の物か、建物と一体になっているか。取り外せる物で、建物の常用のために付けたなら従物の問題、一体になっているなら構成部分の問題です。「設備ならどれも及ぶ」「取り外せるから及ばない」とは言えません。
例5:土地の上の建物(当てはまらない例)
ひなたさんが土地だけに抵当権を付けたなら、上の家には及びません。370条本文が「抵当地の上に存する建物を除き」と書いているからです。植木や据え付けた庭石は土地の一部になりますが、建物は土地の一部になりません。土地と建物の持ち主が分かれる場面は、法定地上権(388条)の話になります。
似ているルールとの違い
同じ「くっついた物」でも、付合・従物・付加一体物は、答える問いが違います。
| ルール | 答える問い | ポイント |
|---|---|---|
| 付合(242条) | くっついた物はだれの物か | 権原で付属させた人の権利は残る(ただし書) |
| 従物(87条) | 主物を売ったら一緒に移るか | 同じ持ち主・独立の物・常用のため |
| 付加一体物(370条) | 抵当権がどこまで及ぶか | 土地の上の建物は除く |
| 果実(371条) | 家賃などに及ぶか | 不履行の後に生じた分から |
付合で建物の持ち主の物になった増築部分は、建物の一部なので、建物の抵当権が及びます。反対に、付合しないで独立の物のままなら、従物に当たるかを考えます。順番は「だれの物か(付合)→主物と同じ持ち主の独立の物か(従物)→抵当権が及ぶか(370条)」です。
371条と物上代位も分けます。371条は「家賃に抵当権が及ぶ」とする規定です。物上代位は、賃借人が払う前の家賃の債権を差し押さえて取る方法です(372条・304条)。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、抵当権が主な論点の問題は29問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では5問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも7問あります。効力の及ぶ範囲だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 従物は動産だから及ばない、とする形:設定当時からの従物には及び、抵当権の登記で対抗力も生じる(昭和44年判決)。動産の引渡し(178条)は要りません。
- 土地の抵当権が建物に及ぶ、とする形:370条本文は建物を除いています。植木や据え付けた庭石(土地の一部)と区別します。
- 借地権に及ばない、とする形:借地上の建物の抵当権は、原則として土地の賃借権に及ぶ(昭和40年判決)。ただし、地主との関係では承諾か裁判所の許可が要ります。
- 果実にいつでも及ぶ、とする形:371条は「不履行があったときは、その後に生じた」果実です。設定の後に付け加わった物にも及ぶ370条とは時点の決め方が違います。
- 借りた人の設備も従物、とする形:87条1項は「自己の所有に属する他の物」です。持ち主が違えば従物になりません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ひなたさんは、設定の前から庭に取り外しのできる石灯籠を飾りとして置いていた宅地に、つばさ銀行の抵当権を設定して登記した。特段の事情がなければ、抵当権の効力は石灯籠にも及び、その登記で第三者にも対抗できる。
答え:○ 分かれ目は、取り外せる従物に、土地の抵当権と登記の力が及ぶかです。最高裁判所第二小法廷昭和44年3月28日判決は、宅地の抵当権の効力は、特段の事情のない限り、設定当時に宅地の従物であった石灯籠と庭石に及び、設定登記による対抗力も従物に生じるとしました。石灯籠は動産なので、別に引渡しがないと第三者に対抗できないと考えると✕に見えます。動産の譲渡の対抗要件(178条の引渡し)と取り違えた考え方です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ひなたさんは、のぞみさんから借りた土地(賃借権)の上に自分の家を建て、その家につばさ銀行の抵当権を設定した。競売で家を買ったかいとさんは、家と一緒に土地の賃借権も取得し、のぞみさんの承諾がなくても、のぞみさんに賃借権を主張できる。
答え:✕ 分かれ目は、賃借権が移ることと、地主に主張できることを分けるかです。最高裁判所第三小法廷昭和40年5月4日判決は、借地上の建物の抵当権の効力は原則として土地の賃借権に及び、建物の買受人と賃借人の間では賃借権も移るとしました。しかし、賃借権の譲渡には賃貸人の承諾がいります(民法612条1項)。正しくは、のぞみさんが承諾しないときは、かいとさんが、建物の代金を払った後2か月以内に、承諾に代わる裁判所の許可を求めます(借地借家法20条1項・3項)。譲渡に承諾が要らないのは、借地権が地上権の場合で、それと取り違えた文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
ひなたさんは、つばさ銀行の抵当権が付いた自分の家を、設定の後にけいとさんに月8万円で貸した。その1年後、ひなたさんの返済が滞った。返済が滞る前の期間に対応する家賃にも、民法371条により抵当権の効力が及ぶ。
答え:✕ 分かれ目は、果実に及ぶ時点です。371条は、担保する債権について「不履行があったときは、その後に生じた」抵当不動産の果実に抵当権が及ぶとしています。正しくは、返済が滞った後に生じた家賃から及びます。設定の後に付け加わった物にも及ぶ370条(付加一体物)の考え方を、果実にそのまま当てはめた取り違えです。家賃の債権を差し押さえる物上代位(372条・304条)は、また別の方法です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 抵当権は付加一体物に及ぶが、土地の抵当権は上の建物に及ばない(370条本文)。別段の定めなどがあれば及ばない(ただし書)。
- 植木・取り外しの困難な庭石は土地の構成部分。石灯籠・取り外せる庭石は従物で、設定当時からあれば抵当権が及び、登記で対抗力も生じる(昭和44年判決)。
- 従物は、主物と同じ持ち主の独立の物で、主物の常用のためのもの(87条1項)。借りた人の設備は従物にならない。
- 借地上の建物の抵当権は、原則として借地権に及ぶ(昭和40年判決)。地主には承諾か裁判所の許可が要る。
- 果実(家賃など)は、不履行があった後に生じた分から(371条)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法・借地借家法を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、昭和44年判決と平成2年判決は判決全文も確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(86条、87条、88条、242条、370条、371条、372条、612条)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(20条)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和44年3月28日判決(昭和43年(オ)第1250号)」(宅地上の従物と抵当権の効力)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成2年4月19日判決(昭和62年(オ)第524号)」(ガソリンスタンドの設備と建物の抵当権)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和40年5月4日判決(昭和39年(オ)第1033号)」(地上建物の抵当権と土地の賃借権)
このサイトで次に読むなら、宅建の抵当権の問題です。順位・法定地上権・物上代位とあわせて、効力の及ぶ範囲を場面で解き直せます。
働く人の法律試験ノート