相続人がいないとき:相続財産清算人・特別縁故者への分与・共有持分の行方(令和5年4月施行の改正後)

亡くなった人に相続人がいるかどうかが明らかでないとき、相続財産は法人(ほうじん=人と同じように権利を持てるもの)になります。家庭裁判所が選ぶ相続財産の清算人(せいさんにん)が、借金を払って財産を整理します(民法951条・952条)。

ひとことで言うと、流れは「清算人を選んで公告→相続人を待つ6か月以上の期間→借金と遺贈を払う→特別縁故者(とくべつえんこしゃ)に分ける→残りは国へ」です(952条・957条〜959条)。特別縁故者とは、一緒に暮らしていた人や療養看護に努めた人など、亡くなった人と特に縁の深かった人です。家庭裁判所が相当と認めるときに、残った財産の全部か一部を受けられます(958条の2)。

この手続は、令和5年4月1日施行の改正で短くなり、名前も「相続財産の管理人」から「相続財産の清算人」に変わりました。この記事では改正後の流れと、共有の持分の行き先の判例を扱います。申立ての書類や税金の話は扱いません。だれが相続人になるかは相続の記事にあります。相続人が全員放棄したとき、放棄した人が財産をどこまで保存するかは相続放棄をした人の保存義務の記事で扱っています。

身近な例で考えると

人物立場事情
たけおさん亡くなった人妻も子もなく、両親もきょうだいも先に亡くなっている
みちこさんいとこ10年以上、通院の付き添いや身の回りの世話をしてきた
こうじさん友人たけおさんと山あいの土地を2分の1ずつ共有している
やまだ商店債権者たけおさんから代金の払いを受けていない

たけおさんには、配偶者も、子も、親などの直系尊属も、きょうだいもいません。いとこは相続人の範囲に入らない(887条・889条)ので、相続人がいないことになります。財産は、預金と自宅、こうじさんとの共有の土地の持分です。

  1. たけおさんが亡くなる。相続人のあることが明らかでないので、相続財産は法人になる(951条)。
  2. みちこさんが利害関係人として家庭裁判所に請求し、相続財産の清算人が選ばれる(952条1項)。
  3. 家庭裁判所は、清算人を選んだことと、相続人がいれば一定の期間内に権利を主張するよう公告する。期間は6か月以上(952条2項)。
  4. 清算人は、債権者と受遺者(遺贈を受ける人)に、2か月以上の期間を定めて申し出るよう公告する。この期間は、3の期間の中で終わるようにする(957条1項)。やまだ商店は申し出て、払いを受ける。
  5. 3の期間内に、相続人は名乗り出なかった。相続人と、清算人に知られなかった債権者は、もう権利を使えない(958条)。
  6. みちこさんは、3の期間が終わってから3か月以内に、特別縁故者として財産を分けてほしいと家庭裁判所に請求する(958条の2第2項)。
  7. 家庭裁判所が相当と認めれば、残った財産の全部か一部がみちこさんに与えられる。分けられなかった財産は国庫に帰属する(959条)。

共有の土地の持分は、まず特別縁故者への分与の対象になり、分与されなかったときに、ほかの共有者のこうじさんのものになります(255条と判例。次の節で説明します)。

たとえるなら、清算人は「持ち主のいない荷物の係」です。荷物を預かり、つけを払い、縁の深かった人に分け、残りを国に渡します。ただし本物のルールでは、縁の深い人に分けるかどうか、どれだけ分けるかは家庭裁判所が決めます。請求すれば当然にもらえる権利ではありません。

条文ではこう決まっている

手続の流れ(951条〜959条)

  • 相続財産法人(951条):相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人とする。
  • 清算人の選任(952条1項):家庭裁判所は、利害関係人か検察官の請求で、相続財産の清算人を選ばなければならない。
  • 公告(952条2項):家庭裁判所は、遅れずに、選んだことと、相続人がいれば一定の期間内に権利を主張すべきことを公告する。期間は「六箇月を下ることができない」。
  • 清算人の立場(953条〜956条):不在者の財産管理人の規定(27条〜29条)を準用する。債権者や受遺者に求められたら、財産の状況を報告する(954条)。相続人が現れたら、法人は成立しなかったものとみなす。ただし、清算人が権限内でした行為の効力は失われない(955条)。
  • 債権者・受遺者への公告(957条1項):清算人は、2か月以上の期間を定めて請求の申出を公告する。この期間は、952条2項の期間内に満了するものでなければならない。
  • 権利を主張する人がいないとき(958条):952条2項の期間内に相続人として権利を主張する人がいなければ、相続人と、清算人に知れなかった債権者・受遺者は、権利を行使できない。
  • 特別縁故者への分与(958条の2):家庭裁判所は、相当と認めるときは、亡くなった人と生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人、そのほか特別の縁故があった人の請求で、清算後に残った財産の全部か一部を与えることができる。請求は、952条2項の期間の満了後3か月以内にする。
  • 国庫へ(959条):958条の2で処分されなかった財産は、国庫に帰属する。

共有の持分はどこへ行くか(255条と判例)

  • 255条:共有者の一人が持分を放棄したとき、または死亡して相続人がないときは、その持分はほかの共有者に帰属する。
  • 判例(最高裁判所第二小法廷 平成元年11月24日判決):共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、債権者などへの清算の手続が終わったときは、その持分は特別縁故者への財産分与の対象となり、分与がされないときに、255条によりほかの共有者に帰属する。判決当時の958条の3は、いまの958条の2です。

改正で何が変わったか(令和5年4月1日施行)

比べる点改正前改正後
公告選任・債権者への申出・相続人の捜索の3つの公告を順に行う選任と相続人の捜索を1つの公告にまとめ、債権者への公告を並行して行う
権利関係が決まるまで最低でも10か月最低で合計6か月
名前相続財産の管理人相続財産の清算人

改正前の欄は、法務省の説明資料によります。同じ資料は、3つの公告を順に行う必要があったため権利関係が決まるまで最低でも10か月かかっていたこと、職務の中身に合わせて名前を「清算人」に改め、最低限必要な期間を合計6か月に短くしたことを説明しています。施行日より前に選任された管理人の手続は、改正前の例によります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(全員が放棄):亡くなった人の子が全員放棄し、次の順位の親やきょうだいもいない(または全員放棄した)。放棄した人は初めから相続人でなかったことになる(939条)ので、相続人のあることが明らかでない場合にあたる。
  • 当てはまらない(行方の分からない相続人):子はいるが、どこにいるか分からない。相続人はいるので、この手続ではなく、不在者の財産管理(25条)などを使う場面です。不在者の財産管理と失踪宣告は不在者と失踪宣告の記事で扱っています。
  • 当てはまらない(全財産の包括受遺者がいる):たけおさんが「全財産をみちこさんに包括して遺贈する」という遺言を残していた。相続人がいなくても、相続財産全部の包括受遺者がいるときは、951条の「相続人のあることが明かでないとき」にあたらない(最高裁判所第二小法廷 平成9年9月12日判決)。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を持つ(990条)。
  • ひっかけやすい(内縁の相手):婚姻届を出さずに長く一緒に暮らした人は、相続人ではありません。相続人がいないときは、生計を同じくしていた人として、特別縁故者の請求をする道があります。内縁の判例は内縁の記事にあります。
  • ひっかけやすい(親族かどうか):みちこさんが特別縁故者になりうるのは、いとこだからではなく、療養看護に努めたなどの縁故があるからです。958条の2は、親族であることを要件にしていません。
  • ひっかけやすい(期限):分与の請求は、相続人を探す公告の期間が終わってから3か月以内です。債権者への公告の期間(2か月以上)と混ぜないようにします。

似ているルールとの違い

家庭裁判所が人を選んで財産を任せる制度は、ほかにもあります。

比べる点不在者の財産管理人相続財産の清算人
使う場面住所を去った人が管理人を置いていない相続人のあることが明らかでない
選ぶところ家庭裁判所(25条1項)家庭裁判所(952条1項)
請求する人利害関係人・検察官利害関係人・検察官
役目本人の財産を管理する借金を払い、残りを整理する

もう一つ、255条(ほかの共有者のものになる)と959条(国庫に帰属する)は、どちらも「相続人がいない財産の行き先」を決めています。共有の持分では、特別縁故者への分与が先、次にほかの共有者で、国庫には行きません(平成元年判決)。共有の基本は共有の記事で確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している宅建試験の問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、相続が主な論点の問題は27問で、直近10回(平成30年度〜令和7年度)では8問でした。相続人の不存在だけの数は、分けて数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 期間の数字:相続人を探す公告は6か月以上、債権者への公告は2か月以上、分与の請求は期間満了後3か月以内。
  • 当然にもらえるか:特別縁故者への分与は、家庭裁判所が相当と認めるときに、全部か一部。
  • 共有の持分の順番:特別縁故者への分与が先、されなければほかの共有者(255条)。国庫ではない。
  • 知れなかった債権者:期間内に申し出ず、清算人にも知られなかった債権者は、権利を行使できない(958条)。
  • 包括受遺者:全財産の包括受遺者がいれば、この手続にならない(平成9年判決)。
  • 改正前の名前と期間:「相続財産の管理人」「最低10か月」は改正前の説明。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
相続人のいないたけおさんの財産について、相続財産の清算人が選ばれ、相続人を探す公告がされた。その期間が満了してから4か月後に、たけおさんの療養看護に努めたみちこさんが、特別縁故者として財産の分与を請求した場合、この請求は期限内である。

答え:✕ 分かれ目は、分与を請求できる期間です。特別縁故者への分与の請求は、952条2項の期間(相続人を探す公告の期間)の満了後3か月以内にしなければなりません(民法958条の2第2項)。正しくは、4か月後の請求は期限を過ぎています。6か月は相続人を探す公告の期間の下限(952条2項)、2か月は債権者への公告の期間の下限(957条1項)で、これらと取り違えた文です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
たけおさんとこうじさんが2分の1ずつ共有する土地について、たけおさんが相続人なく亡くなり、清算の手続が終わって特別縁故者への分与もされないことになった。この場合、たけおさんの持分はこうじさんに帰属し、国庫には帰属しない。

答え:○ 分かれ目は、相続人のいない共有持分の行き先です。最高裁判所第二小法廷平成元年11月24日判決は、こうした持分はまず特別縁故者への分与の対象となり、分与がされないときに、255条によりほかの共有者に帰属するとしました。分与されなかった財産は国庫に帰属するという959条を当てはめると✕にしてしまいます。分与がされる場合は、ほかの共有者より特別縁故者が先になる点もあわせて押さえます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
たけおさんには相続人がいないが、「全財産をみちこさんに包括して遺贈する」という遺言を残していた。この場合、相続財産の清算人を選ぶ必要はなく、みちこさんが相続人と同じ権利義務を持って財産を受け継ぐ。

答え:○ 分かれ目は、「相続人のあることが明らかでないとき」(民法951条)にあたるかです。最高裁判所第二小法廷平成9年9月12日判決は、相続人はいないが相続財産全部の包括受遺者がいる場合は、これにあたらないとしました。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持ちます(990条)。相続人がいない以上は清算人の手続になると考えると✕にしてしまいます。特定の財産だけを遺贈した場合とは分けて考えます。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 相続人のあることが明らかでないと、相続財産は法人になり、家庭裁判所が相続財産の清算人を選ぶ(951条・952条)。
  • 相続人を探す公告は6か月以上、債権者・受遺者への公告は2か月以上で、その中で終わる(952条2項・957条1項)。
  • 期間内に名乗り出なかった相続人と、知れなかった債権者は、権利を行使できない(958条)。
  • 特別縁故者への分与は、期間満了後3か月以内の請求で、家庭裁判所が相当と認めるとき。残りは国庫(958条の2・959条)。
  • 共有の持分は、特別縁故者への分与が先、されなければほかの共有者(平成元年判決)。

次に読むなら、限定承認と単純承認がおすすめです。相続人がいる場合にも、限定承認をすると家庭裁判所が相続財産の清算人を選ぶことがあり、公告と弁済の流れを比べて確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。

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