同時死亡の推定(どうじしぼうのすいてい)は、亡くなった何人かのうち、だれが先に亡くなったか分からないときに、同時に死亡したものと推定するルールです(民法32条の2)。推定(すいてい)とは、反対の証拠がなければそうだとして扱う、という意味です。
ひとことで言うと、同時に死亡したとされる人どうしは、互いに相続しません。それでも、亡くなった子に子(孫)がいれば、孫が代わりに相続する代襲相続(だいしゅうそうぞく)は起きます(887条2項)。一方、遺言で財産をあげる遺贈(いぞう)は、受け取る人が同時に亡くなっていると効力を生じません(994条1項)。
この記事では、親子が同じ日に亡くなった家族の例で、相続人と相続分がどう変わるかを確かめます。「推定する」と「みなす」の違いそのものは基礎法学の記事で扱っています。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | 事情 |
|---|---|---|
| しげるさん | 父 | けんじさんと同じ日に亡くなった |
| ひろこさん | 母(しげるさんの妻) | しげるさんの相続人 |
| けんじさん | 長男 | 妻のなおみさん、子のゆうきさんがいる |
| こうたさん | 次男 | しげるさんの相続人 |
しげるさんとけんじさんは、同じ事故で亡くなりました。どちらが先に亡くなったかは分かりません。32条の2により、2人は同時に死亡したものと推定されます。まず、しげるさんの相続を見ます。
- 同時に死亡したとされる人は、相手が亡くなった時に生きていたことにならない。だから、けんじさんは、しげるさんの相続人にならない。
- ただし、けんじさんは「相続の開始以前に死亡した」子にあたるので、子のゆうきさんが代わって相続する(887条2項)。
- しげるさんの相続人は、ひろこさん(2分の1)、こうたさん(4分の1)、ゆうきさん(4分の1)。ゆうきさんは、けんじさんが受けるはずだった分を受ける(900条1号・4号、901条1項)。
- なおみさんは、しげるさんの相続人ではない。
次に、けんじさんの相続です。しげるさんは、けんじさんの相続人になりません。けんじさんの相続人は、妻のなおみさん(2分の1)と子のゆうきさん(2分の1)です(900条1号)。
もし、けんじさんがしげるさんより少しでも後に亡くなったと分かれば、結果が変わります。けんじさんがしげるさんの相続人として4分の1を受け、その4分の1が、けんじさんの相続でなおみさんとゆうきさんに半分ずつ受け継がれます。しげるさんの財産の行き先を比べると、次のとおりです。
| 人物 | 同時死亡の推定が働く | けんじさんが後と分かった |
|---|---|---|
| ひろこさん | 2分の1 | 2分の1 |
| こうたさん | 4分の1 | 4分の1 |
| ゆうきさん | 4分の1(代襲相続) | 8分の1(けんじさんから) |
| なおみさん | なし | 8分の1(けんじさんから) |
たとえるなら、同時死亡の推定は「同着のゴール」です。同着の2人の間では、バトンの受け渡し(相続)が起きません。ただし本物のルールでは「推定」なので、どちらが先かを示す証拠があれば、その順番で扱います。
条文ではこう決まっている
- 32条の2:「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。」
- 対象:「数人の者が死亡した場合」で、同じ事故や災害で亡くなったことは要件になっていない。亡くなった場所が違っても、先後が明らかでなければ働く。
- 推定:反対の証拠があれば覆る(くつがえる)。証拠で先後が分かれば、その順番で相続を考える。
- 代襲相続(887条2項):子が「相続の開始以前に死亡したとき」は、その子の子が代わって相続人になる。「以前」には、同時に死亡した場合も入る。きょうだいが相続人になる場面でも、おい・めいが代わって相続する(889条2項)。
- 遺贈の失効(994条1項):「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」同時に死亡した受遺者も、この「以前」にあたる。
- 失効した遺贈の行き先(995条):受遺者が受けるはずだった財産は、相続人に帰属する。ただし、遺言者が遺言で別の意思を示していたときは、それに従う。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(場所が違う):しげるさんは自宅で、けんじさんは出張先で、同じ夜に亡くなった。どちらが先か分からなければ、同じ事故でなくても推定は働く。
- 当てはまらない(順番が分かる):記録から、けんじさんが後に亡くなったと分かった。推定は覆り、けんじさんはしげるさんの相続人になる。なおみさんは、けんじさんの相続を通じて、しげるさんの財産の一部を受け継ぐ。
- 当てはまる(子のいない長男):けんじさんに子がいなかったとする。しげるさんの相続人は、代わって相続する人がいないので、ひろこさん(2分の1)とこうたさん(2分の1)。けんじさんの相続人は、なおみさんと母のひろこさんで、なおみさん3分の2、ひろこさん3分の1(889条1項1号・900条2号)。
- ひっかけやすい(遺贈):しげるさんが「土地をけんじさんに遺贈する」という遺言を残していた。遺贈は効力を生じず(994条1項)、遺贈には代襲の定めがないので、ゆうきさんが代わって受けることはない。土地は相続人に帰属し(995条)、ゆうきさんは代襲相続人として相続分の範囲で受ける。
相続人と相続分を、代襲・半血・放棄の入った家族で順に出す練習は相続分の計算にあります。遺言の方式と効力は遺言の記事で扱っています。
似ているルールとの違い
亡くなったかどうか、いつ亡くなったかを法律で扱う制度に、失踪宣告(しっそうせんこく)があります。
| 比べる点 | 同時死亡の推定 | 失踪宣告 |
|---|---|---|
| 何を決めるか | 死亡の先後 | 生死が分からない人を死亡とする |
| 条文の言葉 | 推定する(32条の2) | みなす(31条) |
| 手続 | 要らない | 家庭裁判所の宣告(30条) |
| 覆し方 | 先後が分かる証拠を示す | 家庭裁判所が取り消す(32条1項) |
失踪宣告では、普通は7年の期間が満了した時に、戦地・沈没した船・その他の危難にあった人は危難が去った時に、死亡したものとみなされます(30条・31条)。生きていると分かっても、取り消されるまでは死亡の扱いが続きます。くわしくは不在者の財産管理と失踪宣告で確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している宅建試験の問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、相続が主な論点の問題は27問で、直近10回(平成30年度〜令和7年度)では8問でした。同時死亡の推定だけの数は、分けて数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 互いに相続するか:同時に死亡したとされる人どうしは相続しない。どちらかが他方を相続する、とした文は誤り。
- 代襲相続:同時死亡でも代襲相続は起きる(887条2項の「以前」)。
- 遺贈:受遺者が同時に亡くなると遺贈は効力を生じず、代わって受ける人もいない(994条1項)。相続と遺贈で結論が分かれる。
- 推定とみなす:同時死亡は推定で、証拠で覆る。失踪宣告はみなすで、取消しが要る。
- 場面の広さ:同じ事故に限らない。危難を要件にしているのは、失踪宣告の危難失踪のほう。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんは自宅で、次男のこうたさんは旅行先で、同じ夜に亡くなり、どちらが先に亡くなったかは明らかでない。この場合も、2人は同時に死亡したものと推定される。
答え:○ 分かれ目は、同時死亡の推定が同じ事故の場合に限られるかです。民法32条の2は「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないとき」と定め、同じ危難で亡くなったことを要件にしていません。場所も原因も違うので推定は働かないと考えると✕にしてしまいます。危難にあったことを要件にしているのは、失踪宣告のうち危難の場合(30条2項)です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんと長男けんじさんに同時死亡の推定が働き、けんじさんには子がなく、妻のなおみさんと母のひろこさんがいる。この場合、けんじさんの相続人は、なおみさん、しげるさん、ひろこさんの3人である。
答え:✕ 分かれ目は、同時に死亡したとされる人どうしが相続するかです。同時に死亡したものと推定される人は、相手が亡くなった時に生きていたことにならないので、互いの相続人になりません(民法32条の2)。正しくは、けんじさんの相続人はなおみさんとひろこさんの2人で、相続分はなおみさん3分の2、ひろこさん3分の1です(889条1項1号・900条2号)。けんじさんが後に亡くなった場合(後の人が先の人を相続する)と同じに扱った文です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
しげるさんは「自宅の土地を長男けんじさんに遺贈する」という遺言を残していた。しげるさんとけんじさんに同時死亡の推定が働くとき、けんじさんの子ゆうきさんが、けんじさんに代わってこの遺贈を受ける。
答え:✕ 分かれ目は、遺贈に代襲があるかです。遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは効力を生じません(民法994条1項)。同時に死亡したと推定されるけんじさんは、この「以前」にあたります。正しくは、遺贈は効力を生じず、土地は、遺言に別の定めがなければ相続人に帰属します(995条)。ゆうきさんが受けるのは、代襲相続人としての相続分の範囲です。相続では孫が代わって相続する(887条2項)ので遺贈も同じ、と考えた文です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- だれが先に亡くなったか明らかでないとき、同時に死亡したものと推定する(32条の2)。同じ事故に限らない。
- 同時に死亡したとされる人どうしは、互いに相続しない。
- それでも代襲相続は起きる。孫が、亡くなった子の分を受ける(887条2項)。
- 遺贈は、受遺者が同時に亡くなると効力を生じない。代わって受ける人はなく、財産は相続人に帰属する(994条1項・995条)。
- 推定なので、先後が分かる証拠があれば覆る。失踪宣告の「みなす」とは違う。
次に読むなら、相続人がいないときがおすすめです。同時死亡で相続人の顔ぶれが変わった結果、相続人がだれもいなくなる場面の手続(相続財産の清算人・特別縁故者)を確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(30条、31条、32条1項、32条の2、887条、889条、900条、901条、994条、995条)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
- 不動産適正取引推進機構(宅建試験の問題の公開。出題数は当サイトが数えたもので、公式の内訳ではありません)
働く人の法律試験ノート