宅建業者の標識をわかりやすく:事務所・案内所・現地で掲げるものと記載事項、クーリング・オフの表示

宅建業者は、事務所と、案内所などの業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に標識(ひょうしき=「宅地建物取引業者票」と書いた掲示板)を掲げなければなりません(宅地建物取引業法50条1項)。掲げる場所は、事務所、契約や申込みを受ける案内所、契約も申込みも受けない案内所、分譲の現地(物件のある場所)、展示会などの場所です。免許証そのもの(交付・書換え・再交付・返納)と標識の違いは宅建業の免許証の記事にあります。

標識に何を書くかは、場所ごとに施行規則19条2項が6つの様式で決めています。押さえどころは2つです。一つは、事務所の標識は令和7年4月から、専任の宅建士の「氏名」ではなく「数」を書く形になったこと。もう一つは、クーリング・オフができる場所にある案内所などの標識には、「クーリング・オフ制度の適用があります」という文言を表示することです。

この記事は、標識の「場所」と「中身」を扱います。専任の宅建士の人数や、案内所の10日前の届出は事務所と案内所のルールの記事で説明しています。条文は令和8年4月1日時点のものです。

身近な例で考えると:マンションの分譲と3つの標識

登場人物を紹介します。

人物立場したこと
ひばりホーム宅建業者(売主)30戸のマンションを分譲する
みなと不動産宅建業者(愛知県知事の免許)ひばりホームから販売の代理を頼まれた
おおたさんみなと不動産の社長本店の事務所と案内所を運営する
ゆいさん買いたい人(業者ではない)案内所でマンションの話を聞く
  1. みなと不動産の本店(事務所)には、もともと標識が掲げてあります。書いてあるのは、免許証番号、免許の有効期間、商号、代表者の氏名、この事務所の代表者の氏名、この事務所に置かれている専任の宅建士の数などです。
  2. ひばりホームは、マンションの建設地(現地)に標識を掲げます。現地の標識を掲げるのは、分譲をするひばりホームです。
  3. みなと不動産は、駅前の空き地にテントを張って案内所を作り、そこで購入の申込みを受けることにしました。申込みを受ける案内所なので、専任の宅建士を1人置き、前もって届け出たうえで、標識を掲げます。
  4. この標識には、売主の欄があります。みなと不動産は代理をしているだけなので、売主がひばりホームであることが分かるようにします。
  5. テントは土地に定着する建物ではありません。そのため、ここで申し込んだゆいさんは、ほかの条件を満たせばクーリング・オフができます。標識にも、「この場所においてした契約等については、宅地建物取引業法第37条の2の規定によるクーリング・オフ制度の適用があります。」という文言を表示します。

標識は、お店の入り口の「営業許可証」のようなものです。お客さんは、だれが免許を持つ業者で、だれが売主か、ここで申し込んだらクーリング・オフができるかを、標識で確かめられます。ただし本物のルールでは、標識に書いてあるかどうかでクーリング・オフの可否が決まるわけではありません。可否は37条の2と施行規則16条の5の「場所」の決まりで決まり、標識はそれを知らせる役目です。

条文ではこう決まっている

掲げる義務(50条1項)

宅建業者は、「事務所等」と、事務所等以外の国土交通省令で定める業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に、省令で定める標識を掲げます。

  • 事務所等:事務所と、施行規則15条の5の2の場所(契約を結んだり申込みを受けたりする場所)。15条の5の2の場所は、①事務所以外で継続的に業務を行える施設がある場所、②10区画以上の一団の宅地か10戸以上の一団の建物の分譲(一団の宅地建物の分譲)をする案内所、③ほかの業者の一団の分譲を代理・媒介する案内所、④展示会などの催しの場所、です。
  • 事務所等以外の場所(施行規則19条1項):上の①〜④と同じ種類の場所のうち、契約も申込みも受けないもの。それに加えて、一団の宅地建物の分譲をする宅地・建物の所在する場所(現地)です。

つまり、契約や申込みを受けるかどうかに関係なく、案内所・展示会の場所・分譲の現地には標識がいります。

標識の様式(施行規則19条2項)

様式は、場所の区分ごとに次の6つです。

  • 事務所:別記様式第九号
  • 継続的な施設・自ら分譲の案内所・展示会の場所で、専任の宅建士を置くべきもの:別記様式第十号
  • 同じ種類の場所で、専任の宅建士を置かないもの:別記様式第十号の二
  • 分譲の現地:別記様式第十一号
  • ほかの業者の分譲を代理・媒介する案内所で、専任の宅建士を置くべきもの:別記様式第十一号の二
  • 同じ種類の案内所で、専任の宅建士を置かないもの:別記様式第十一号の三

標識の中身(国土交通省の様式で確かめたもの)

当サイトが国土交通省の「宅地建物取引業者票様式」(令和7年12月1日以降の版)で確かめた、3つの様式の主な欄は次のとおりです。

  • 第九号(事務所):免許証番号、免許有効期間、商号又は名称、代表者氏名、この事務所の代表者氏名、この事務所に置かれている専任の宅地建物取引士の数(あわせて宅建業に従事する者の数)、主たる事務所の所在地、電話番号。
  • 第十号(宅建士を置くべき案内所など):その場所の名称・所在地、この場所における業務の内容、業務の態様、取り扱う宅地建物の内容、商号又は名称、代表者氏名、免許証番号、免許有効期間、主たる事務所の所在地。
  • 第十一号の二(代理・媒介の案内所で宅建士を置くべきもの):第十号とほぼ同じ欄に、「売主」の欄が加わります。

第十号と第十一号の二には注記があり、標識を掲げる場所が施行規則16条の5に当たらない場所であるときは、クーリング・オフ制度の適用がある旨の文言を、2センチメートル四方以上の文字で表示します。16条の5は、クーリング・オフができない「事務所等」を決めた条で、案内所なら「土地に定着する建物内に設けられるもの」に限られています。

令和7年の様式の見直し

事務所の標識は、令和7年4月1日から様式が変わりました。神奈川県の案内によると、表示項目に「この事務所の代表者氏名」が加わり、専任の宅建士の「氏名」に代わって「人数」を表示し、従事者数も表示することになりました。いまの国土交通省の様式第九号には、従事者数は専任の宅建士の数が変わったときだけ書き換える、という注記があります。さらに令和7年12月1日公布・施行の省令(令和7年国土交通省令第117号)で別記様式第九号が改められましたが、これは標識の大きさの基準の見直しで、書く項目は変わっていません。古い教材の「事務所の標識に専任の宅建士の氏名を書く」は、いまの様式と合いません。

罰則(83条1項)

  • 50条1項(標識の掲示)に違反した者:50万円以下の罰金(83条1項2号)。
  • 50条2項の届出をしない、またはうその届出をした者:50万円以下の罰金(83条1項1号)。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例

  • 自ら売主として20区画の宅地を分譲し、現地にプレハブの案内所を置いた。申込みは本店で受ける。→ 案内所にも現地にも標識がいります(施行規則19条1項2号・3号)。
  • 宅建業者が、ショッピングモールで物件の展示会を開き、パンフレットを配るだけにした。→ 契約も申込みも受けなくても、展示会の場所に標識を掲げます(施行規則19条1項5号)。
  • テント張りの案内所で申込みを受ける。→ 専任の宅建士を置く場所なので様式は第十号(代理なら第十一号の二)。土地に定着する建物ではないので、クーリング・オフ制度の適用がある旨を表示します。

当てはまらない例

  • 駅前のビルの一室に案内所を設け、専任の宅建士を置いて申込みを受ける。→ 土地に定着する建物内の案内所なので16条の5に当たり、ここでの申込みはクーリング・オフの対象外です。標識にクーリング・オフ制度の適用がある旨の文言は入れません。
  • 事務所の標識に、専任の宅建士の全員の氏名を書く。→ いまの様式第九号は「数」を書く欄です。氏名を書く欄はありません。

ひっかけやすい例

  • 代理の案内所の標識。→ 案内所を設けて標識を掲げるのは代理をする業者(みなと不動産)で、標識には売主の欄があります。現地の標識は分譲する業者(ひばりホーム)が掲げます。
  • 「契約しない案内所なら標識はいらない」。→ 契約しない案内所で外れるのは、専任の宅建士の設置と10日前の届出です。標識は必要です。
  • 報酬額の掲示。→ 報酬額を掲示するのは事務所ごとです(46条4項)。案内所に標識を掲げる義務と混ぜないようにします。

似ているルールとの違い

標識・届出・掲示・名簿は、どれも「場所」に結びついたルールです。中身と行き先を比べます。

ルールどこで・だれに書くこと・知らせること条文
標識事務所・案内所・現地・展示会に掲げる免許・商号・業務の内容など(様式で決まる)50条1項
案内所等の届出免許権者と所在地の知事へ、10日前まで所在地・業務内容・期間・専任の宅建士の氏名50条2項
報酬額の掲示事務所ごと国土交通大臣が定めた報酬の額46条4項
変更の届出免許権者へ、30日以内商号・役員・事務所・専任の宅建士の氏名など9条

専任の宅建士の「氏名」が出てくるのは、届出のほう(50条2項の届出と9条の変更の届出)です。事務所の標識に書くのは「数」です。氏名と数の取り違えに注意します。変更の届出と、免許権者が備える宅建業者名簿の関係は宅建業者名簿の記事で整理しています。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが機構の公開問題(昭和63年度〜令和7年度の40回・2,000問)を1問ずつ読んで分けた集計では、「事務所・案内所等」を主な論点とする問は全40回で21問、直近10回で2問でした。副の論点として出てくる問は全40回で26問、直近10回で7問あり、ほかの論点と組み合わせて問われる形が多い論点です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。標識だけの数は数えていません)。取り違えやすいのは次の組み合わせです。

  • 場所の範囲:標識は、契約しない案内所・現地・展示会にもいる。専任の宅建士と10日前の届出は、契約や申込みを受ける場所だけ。
  • だれが掲げるか:代理・媒介の案内所は、案内所を設けた業者。分譲の現地は、分譲する業者。
  • クーリング・オフの表示:土地に定着する建物内でない案内所などで申込みを受けるなら、標識にクーリング・オフ制度の適用がある旨を表示する。
  • 改正前の様式:事務所の標識は令和7年4月から専任の宅建士の「数」。「氏名」と書かれた古い説明に注意します。
  • 罰則:標識を掲げないことには50万円以下の罰金の定めがある(83条1項2号)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは、宅建業者Bが行う一団の建物の分譲の代理を、Aが設けた案内所で行い、そこで買受けの申込みを受ける。この場合、Aがこの案内所に掲げる標識には、Aの免許証番号などのほか、売主としてBを表示する。

答え:○ 分かれ目は、代理・媒介の案内所の標識に売主を書くかです。ほかの業者の一団の分譲を案内所を設けて代理する場合、その案内所は標識を掲げる場所で(施行規則19条1項4号)、掲げるのは案内所を設けたAです。申込みを受けるので様式は第十一号の二で(19条2項5号)、この様式には「売主」の欄があります。標識には掲げる業者自身の免許の内容だけを書く、と考えると✕にしやすい肢です。自ら分譲する業者の案内所の様式第十号や、事務所の様式第九号には売主の欄がなく、その様式と取り違えないようにします。

問2(このサイトのオリジナル問題)
甲県知事の免許を受けた宅建業者Aは、本店の事務所に成年者である専任の宅建士を3人置いている。Aは、この事務所に掲げる標識に、その3人の専任の宅建士の氏名を記載しなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、事務所の標識に書くのが氏名か数かです。令和7年4月からの様式第九号は、「この事務所に置かれている専任の宅地建物取引士の数」を書く形で、氏名の欄はありません(施行規則19条2項1号)。正しくは、3人の氏名ではなく、専任の宅建士の数(とあわせて宅建業に従事する者の数)を書きます。専任の宅建士の氏名を知らせるのは、案内所等の届出(50条2項)と、変更の届出の対象になる免許の申請事項(9条・4条1項5号)のほうで、その届出と取り違えた文です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
個人である宅建業者Aは、自ら売主として20区画の宅地を分譲しているが、その宅地の所在する場所(現地)に標識を掲げていない。この場合、Aは、50万円以下の罰金に処せられることがある。

答え:○ 分かれ目は、契約をしない現地にも標識の義務と罰則があるかです。一団の宅地建物の分譲をする宅地の所在する場所は、標識を掲げる場所に入ります(50条1項、施行規則19条1項2号)。50条1項に違反した者は、50万円以下の罰金に処せられます(83条1項2号)。現地では契約も申込みも受けないので義務はない、と考えると✕に見えます。契約や申込みを受ける場所に限られるのは、成年者である専任の宅建士の設置(31条の3第1項)と10日前の届出(50条2項)で、標識とは範囲が違います。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」で続けて解けます。

まとめ

  • 標識は、事務所・案内所・分譲の現地・展示会の場所に掲げる。契約や申込みを受けない場所にもいる。
  • 様式は場所ごとに6つ(施行規則19条2項)。代理・媒介の案内所の標識には売主の欄がある。
  • 事務所の標識は、令和7年4月から専任の宅建士の「数」を書く。氏名を知らせるのは届出のほう。
  • 土地に定着する建物内でない案内所などでは、標識にクーリング・オフ制度の適用がある旨を表示する。
  • 標識を掲げないと50万円以下の罰金(83条1項2号)。

このサイトで次に読むなら、クーリング・オフの記事がおすすめです。標識の文言の前提になっている「クーリング・オフができない場所」を、条文の要件から確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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