ひとことで言うと、障害者差別解消法は、行政機関等と事業者に、①障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないこと、②社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮(合理的配慮)をすること、を求める法律です(7条・8条)。令和3年の改正で、事業者の合理的配慮の提供が努力義務から義務になり、令和6年4月1日に施行されました。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の社会の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、制度の骨組みを知るために読んでください。
正式な題名は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号)です。「障害者差別解消法」は略した呼び方です。この記事は条文と内閣府の説明の言葉で書き、障害の種類ごとの説明や、具体的な場面の描写はしません。条文は令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確かめました。
身近な例で考えると
市役所で窓口の仕事をするなおさんと、商店を営むはるさんの立場で、法律がだれに何を求めているかを分けてみます。
- なおさんの市役所は「行政機関等」(2条3号)に当たる。はるさんの商店は「事業者」(2条7号:商業その他の事業を行う者)に当たる。
- どちらも、障害を理由として、障害者でない者と比べて不当な差別的取扱いをし、障害者の権利利益を侵害してはならない(7条1項・8条1項)。
- 障害者から、現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があり、その実施に伴う負担が過重でないときは、どちらも合理的配慮をしなければならない(7条2項・8条2項)。
- はるさんの商店の合理的配慮は、令和6年3月までは「努めなければならない」(努力義務)だった。令和6年4月1日から「しなければならない」(義務)になった。
「社会的障壁」は、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものです(2条2号)。障害者の定義(2条1号)も、心身の機能の障害だけでなく「障害及び社会的障壁により」生活に相当な制限を受ける状態にある者としていて、制限が社会の側の障壁からも生じる、という組み立てになっています。ただし本物のルールでは、合理的配慮は求めがあれば何でもするという意味ではなく、条文の要件(意思の表明・負担が過重でないこと)で範囲が決まります。
条文ではこう決まっている
- 1条(目的):障害者基本法の基本的な理念にのっとり、行政機関等と事業者の差別を解消するための措置などを定め、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資する。
- 2条1号(障害者):身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者で、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの。
- 5条(環境の整備):行政機関等と事業者は、合理的配慮を的確に行うため、施設の構造の改善、設備の整備、関係職員の研修などの必要な環境の整備に努めなければならない。
- 6条(基本方針):政府は、差別の解消の推進に関する基本方針を定めなければならない。内閣府の説明では、今の基本方針は令和5年3月14日に閣議決定されたもの。
- 12条(報告の徴収など):主務大臣は、8条の施行に関し、特に必要があると認めるときは、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
だれに何を求めるかを、改正の前後で表にすると
| だれに | 不当な差別的取扱い | 合理的配慮(改正前) | 合理的配慮(令和6年4月1日から) |
|---|---|---|---|
| 行政機関等 | 禁止(7条1項) | 義務 | 義務(7条2項) |
| 事業者 | 禁止(8条1項) | 努力義務 | 義務(8条2項) |
改正法は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」(令和3年法律第56号)です。内閣府は「令和3年に障害者差別解消法が改正され、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました」と説明し、改正法は令和6年4月1日に施行されたとしています。e-Gov 法令検索で令和6年3月時点の8条2項を見ると、文末は「するように努めなければならない」でした。もとの法律は平成25年6月26日に公布され、平成28年4月1日から施行されています(附則1条)。
合理的配慮の要件を分けると
7条2項と8条2項は、主語が違うだけで同じ組み立てです。要件を分けると次のとおりです。
- 事務又は事業を行うに当たって(事業者は「その事業を行うに当たり」)
- 障害者から、現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合で
- その実施に伴う負担が過重でないとき
- 障害者の権利利益を侵害することとならないよう、性別、年齢及び障害の状態に応じて
- 社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮をしなければならない
個々の求めに応じる合理的配慮(7条2項・8条2項。義務)と、前もって施設や研修を整える環境の整備(5条。努力義務)は、別の条文です。
罰則はあるか
罰則の条文は2つです。合理的配慮をしなかったことや、不当な差別的取扱いをしたこと、それ自体に罰則は付いていません。事業者に対しては、主務大臣の報告の求め・助言・指導・勧告(12条)が置かれています。
| 条 | 対象になる行為 | 罰 |
|---|---|---|
| 26条 | 12条の報告をせず、又は虚偽の報告をした | 20万円以下の過料 |
| 25条 | 障害者差別解消支援地域協議会の事務に関して知り得た秘密を、正当な理由なく漏らした(19条の違反) | 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
過料(かりょう)は刑罰ではない金銭の制裁で、罰金(刑罰)とは別のものです。25条の「拘禁刑」は、令和7年6月1日施行の刑法等の改正のあとの文言です。
障害者基本法と障害者権利条約とのつながり
- 障害者基本法4条:1項は「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」。2項は、社会的障壁の除去について、負担が過重でないときは必要かつ合理的な配慮がされなければならない、とする。障害者差別解消法は、この基本的な理念にのっとった法律です(1条)。
- 障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約):外務省の説明では、2006年12月13日に国連総会で採択され、日本は2014年1月20日に批准書を寄託し、同年2月19日に日本について効力が生じた。「署名」「批准」「締結」の言葉の違いは条約の署名・批准・締結の違いの記事で扱っています。
- 条約2条の「合理的配慮」:外務省の和文では「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」。
法の下の平等の考え方は法の下の平等の記事、働く場面の性別による差別の禁止は男女雇用機会均等法の記事で扱っています。同じ平成28年に施行された、罰則を置かない差別の解消の2つの法律はヘイトスピーチ解消法と部落差別解消推進法の記事、アイヌの人々についての法律はアイヌ施策推進法の記事で扱っています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:個人で商店を営むはるさん。「商業その他の事業を行う者」なので、会社でなくても事業者です(2条7号)。
- 当てはまる例:国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体、地方独立行政法人。いずれも「行政機関等」です(2条3号)。ただし、地方独立行政法人のうち地方独立行政法人法21条3号の業務を行うものは、2条6号のかっこ書きで除かれています。
- 当てはまらない例:意思の表明があっても、実施に伴う負担が過重であるとき。7条2項・8条2項の合理的配慮の義務の要件に当たりません。
- ひっかけやすい例:地方公共団体が経営する企業のうち、地方公営企業法第3章の規定の適用を受けるものは、2条3号のかっこ書きで「地方公共団体」から除かれ、「行政機関等」に入りません。かっこ書きは「第七号…において同じ」と続くので、7号が「事業者」から除く「地方公共団体」にもこうした企業は含まれません。そのため、こうした企業は「事業者」として8条の規定の対象になります。
- ひっかけやすい例:「障害者基本法4条は何人もを対象にするので、差別解消法も個人の私生活に義務を課す」は誤りです。差別解消法7条・8条が義務を課すのは、行政機関等と事業者です。
試験ではここをまちがえやすい
- 義務と努力義務:不当な差別的取扱いの禁止は、もとから行政機関等・事業者の両方。改正で変わったのは、事業者の合理的配慮(努力義務→義務)。
- 施行日:もとの法律は平成28年4月1日、令和3年の改正法は令和6年4月1日。
- 合理的配慮の要件:意思の表明があり、負担が過重でないとき。性別、年齢及び障害の状態に応じる。
- 環境の整備:施設・設備・研修などの環境の整備は5条で努力義務のまま。
- 罰則:報告をしない・虚偽の報告は20万円以下の過料(26条)、協議会の秘密を漏らすと刑罰(25条)。配慮をしないこと自体への罰則はない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
令和3年の改正(令和6年4月1日施行)で事業者の義務になったのは、不当な差別的取扱いの禁止である。事業者の合理的配慮の提供は、改正のあとも努力義務にとどまっている。
答え:✕ 分かれ目は、改正で何が義務になったかです。事業者の不当な差別的取扱いの禁止(8条1項)は、改正の前から定められていました。正しくは、改正で義務になったのは事業者の合理的配慮の提供で、8条2項の文末が「努めなければならない」から「しなければならない」に変わりました。内閣府も、改正で事業者による合理的配慮の提供が義務化されたと説明しています。差別的取扱いの禁止と合理的配慮の2つを入れ替えた誤りです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
主務大臣が8条の施行に関して事業者に報告を求めたのに、事業者が報告をしなかったときは、過料の対象になる。一方、合理的配慮をしなかったことそれ自体を理由として事業者を罰する規定は、この法律に置かれていない。
答え:○ 26条は、12条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者を20万円以下の過料に処するとしています。罰則はこれと、協議会の秘密を漏らした場合の25条だけで、7条・8条の違反そのものには付いていません。合理的配慮が「義務」になったので罰則もあると考えると✕に見えます。義務への対応は、主務大臣の報告の求め・助言・指導・勧告(12条)という形で定められています。
問3(このサイトのオリジナル問題)
合理的配慮を的確に行うための施設の構造の改善、設備の整備、関係職員の研修などの環境の整備は、行政機関等についても事業者についても、5条で努力義務とされている。
答え:○ 5条は、行政機関等と事業者は、必要な環境の整備に「努めなければならない」としています。令和6年4月1日から事業者の合理的配慮も義務になったので、環境の整備も義務になったと考えると✕に見えます。義務になったのは、個々の意思の表明に応じる合理的配慮(8条2項)のほうです。前もって整える環境の整備(5条)と、求めに応じる配慮(7条2項・8条2項)を分けて覚えます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 正式な題名は障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号、平成28年4月1日施行)。
- 行政機関等も事業者も、不当な差別的取扱いは禁止。合理的配慮は、令和6年4月1日から両方とも義務。
- 合理的配慮は、意思の表明があり、負担が過重でないとき。環境の整備(5条)は努力義務。
- 罰則は26条の過料(報告)と25条(秘密の漏えい)。配慮をしないこと自体への罰則はない。
このサイトで次に読むなら、労働三法の記事です。同じ社会の分野で、憲法の権利を具体化する法律の組み立てを条文で確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令(改正前の8条は令和6年3月1日時点の版)を、2026年10月17日に確かめました。内閣府と外務省の説明も同じ日に確かめています。
- e-Gov法令検索「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(1条・2条・5条〜8条・12条・19条・25条・26条、附則1条)
- e-Gov法令検索「障害者基本法」(4条)
- 内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進」(改正法の施行、基本方針の閣議決定)
- 内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」
- 内閣府「令和6年版 障害者白書」第1章「改正障害者差別解消法の施行」(令和3年法律第56号)
- 外務省「障害者の権利に関する条約」(採択・批准書の寄託・効力発生)
働く人の法律試験ノート