ラーニングピラミッド(講義を聞くと5%、読むと10%、人に教えると90%が残る、という図)の数字は、元になった実験が見つかっていません。図を広めたとされる研究所自身が「数字を裏づける元の研究はもう持っておらず、見つけることもできない」と答えており、出どころを調べた論文は、この数字を使うべきではないと結論づけています。
一方で、「説明すると覚える」ことには、別の実験の裏づけがあります。ただし効いていたのは、ノートを見ずに、自分の頭から思い出して説明した場合でした。この記事では、数字の出どころを調べた論文を確かめた範囲で紹介し、そのうえで、行政書士試験・宅建試験の勉強で何を残して何を捨てるかを表にします。
ラーニングピラミッドとは、どんな図か
よく出回っているのは、アメリカの NTL Institute(National Training Laboratories。「アメリカ国立訓練研究所」と訳されることがあります)の名前で紹介される版です。Letrud(2012年)の論文によると、この版は勉強のしかたを7段に分け、下の段ほど「残る割合」が大きいとしています。
- 講義を聞く:5%
- 読む:10%
- 視聴覚(映像・音声など):20%
- 実演を見る:30%
- グループで話し合う:50%
- 自分でやってみる:75%
- 人に教える・すぐに使う:90%
図だけを見ると、「講義や読書はほとんど残らないので、人に教える勉強に切り替えるべきだ」と読めます。問題は、この数字がどんな実験から出てきたのか、という点です。
数字の出どころは、見つかっているのか
出どころを調べた論文は、どれも「数字を裏づける研究は見つからない」という結果でした。
- Letrud(2012年):NTL Institute に問い合わせたところ、2009年の回答は「この図は1960年代のはじめに研究所の施設で作られたが、数字を裏づける元の研究は、もう持っておらず、見つけることもできない」というものでした。論文は、この図は実証の研究に支えられていないと結論づけています。また、似た割合の表は1906年〜1940年の文献にさかのぼれる、とも書いています。
- Letrud と Hernes(2018年):電子図書館を広く調べ、ピラミッドの仲間の図は160年以上前から教育の議論に出てくることを示しました。そこから、この図は実験から生まれたものではない、と結論づけています。さらに、図が前提にしている記憶の見方は、認知心理学(人の記憶や学習を実験で調べる心理学)の標準的な見方とかなり違う、としています。
- Masters(2013年):ピラミッドやその数字を引用している医学教育の論文43本を調べたところ、出どころに疑いがあると書いていたのは1本だけで、その1本も数字を使っていました。著者が引用を元までたどり、NTL Institute にも問い合わせましたが、数字を裏づける研究のデータは示されませんでした。論文は、ピラミッドとその数字は医学教育の文献で受け入れるべきではない、と結論づけています。
「ラーニングピラミッドは嘘か」と聞かれれば、正確には「数字を裏づける研究が確かめられていない図」です。論文や研修の資料に載っていても、それは引用が重なっているだけで、元の実験があることの証明にはなりません。
デールの「経験の円錐」とは、どう違うのか
ラーニングピラミッドは、教育学者エドガー・デール(Edgar Dale)の「経験の円錐」と結びつけて紹介されることがあります。Masters(2013年)によると、経験の円錐は、デールの本『Audio-Visual Methods in Teaching』(1946年。1954年・1969年に改訂)に出てくる図です。
- 経験の円錐は、教材を「どれだけ具体的か・抽象的か」で並べた分類の図でした。
- 円錐には数字(割合)が入っていません。Masters は、デール自身が、この図は学び方の順位を正確に示すものではない、と書いていることを紹介しています。
- Letrud(2012年)は、ピラミッドは、この円錐と、出どころの分からない割合の表が合わさって作られたもの、と見ています。
つまり、図の段の並びは、もとは「どの方法が何%残るか」ではなく、「どの教材が具体的か」の並びでした。数字はあとから付いたもので、デールの研究の結果ではありません。
数字がそれらしく見えても、使えないのはなぜか
出どころの問題とは別に、図そのものにも、試験勉強の判断に使いにくい点があります。Letrud(2012年)と Masters(2013年)が挙げている点を、試験勉強の場面に置き換えると次のとおりです。
- 何を・いつ測ったかが分からない:どんな内容を、どれくらいの時間学び、何日後に確かめたのかが示されていません。直後に確かめるか1か月後に確かめるかで、残る量は大きく変わりえます。
- 段どうしが、別々の方法になっていない:人に教えるには、その前に講義を聞くか、読むかして中身を知っている必要があります。「講義をやめて教える」は選べません。
- きれいすぎる数字:Masters は、人の行動が5や10の倍数のきれいな割合に分かれることは、まずない、と指摘しています。
Letrud は、図が「なんとなく正しく感じる」のは、印象に残った学びの経験を思い出しやすいからではないか、とも書いています。もっともらしく感じることは、根拠があることとは別です。
「教えると覚える」は、研究ではどんな条件で確かめられているか
図の数字は使えなくても、「教える」ことの効果そのものを調べた実験はあります。結果は「教えれば90%」のような話ではなく、条件つきでした。
- 教えるつもりで学ぶ・実際に説明する(Fiorella と Mayer、2013年):学生が、音の高さが変わるしくみ(ドップラー効果)の教材を学びました。「あとで教える」つもりで学んだ組は、「あとでテストがある」つもりの組より、すぐあとのテストでよい成績でした。1週間後のテストでは、実際にカメラに向かって説明の講義をした組が、教えるつもりで学んだだけの組を上回りました。
- ノートを見ずに説明するか(Koh・Lee・Lim、2018年):124人の学生が同じドップラー効果の教材を学んだあと、4つの組に分かれました。①ノートを見ずに5分間カメラに向かって説明する、②用意された原稿を読み上げて説明する、③覚えていることを書き出す(思い出す練習)、④計算問題をする。1週間後の予告なしのテストでは、①と③が②と④を上回り、①と③はほぼ同じでした。著者は、教えることの効果は、思い出す練習によるものと考えています。
- まとめた研究(Kobayashi、2019年):28の研究をまとめたメタ分析(たくさんの実験の結果をまとめて計算し直す方法)では、教える準備をするだけでも効果があり、準備のあとに実際に教えると、効果はさらに大きくなっていました。やりとりのある教え方のほうが、効果が大きい結果でした。
3つを合わせて読むと、効いているのは「人に教える」という形そのものより、自分の頭から中身を取り出して、筋の通った説明に組み立てる作業だと読めます。原稿を読み上げて説明した組は、ノートを見ずに説明した組に及びませんでした。テキストを閉じて思い出すこと自体の効果は、読むより思い出すほうが覚える記事で扱っています。
よく言われる話と、研究で分かっていることを並べると
ここまでを1枚にまとめます。右の列の使い方は、研究の結果をもとにした当サイトの目安です。
| よく言われる話 | 研究で分かっていること | 行政書士・宅建の勉強での使い方 |
|---|---|---|
| 講義を聞くだけでは5%しか残らない | 数字の元になった実験は見つかっていない(Letrud 2012、Masters 2013) | 講義・テキストは入口として使い、聞いた・読んだあとに閉じて思い出す時間をとる |
| 人に教えると90%残る | ノートを見ずに説明すると、書き出す練習と同じくらい残った。原稿を読み上げた組はこれに及ばなかった(Koh ら 2018) | テキストを閉じて、要件と例外を声に出して説明する |
| 教える準備をするだけでも違う | 直後のテストではよかったが、1週間後は実際に説明した組が上回った(Fiorella と Mayer 2013) | 「あとで説明する」つもりで読み、その日のうちに説明まで終える |
| 図の下の段の方法ほどよい | 段の並びは、もとは具体・抽象の分類で、効果の順位ではない(Masters 2013) | 方法を選ぶ基準は、思い出す作業が入っているかどうか |
行政書士・宅建の勉強では、どう使えばよいか
独学では、教える相手がいないこともあります。研究の結果から見ると、相手がいなくても、ノートを見ずに説明すれば、効いている部分は使えます。たとえば次のようにします。
- 読む前に「説明する」と決める:テキストの1節(たとえば行政手続法の聴聞の節、宅建業法の重要事項説明の節)を読む前に、「読み終えたら、何も見ずに3分で説明する」と決めます。
- 閉じて、声に出すか紙に書く:「だれが・どんなときに・何をしなければならないか・例外は何か」の順に説明します。相手は、同じ試験を受ける架空の友人でかまいません。スマホで録音してもよいでしょう。
- テキストと照らして、抜けた所に印をつける:言えなかった要件、取り違えた主体、あいまいだった数字に印をつけます。印の付け方は○・△・✕で理解を判定する記事、抜けの残し方は間違いノートの記事が参考になります。
- その分野の問題を解く:説明がうまくできても、試験の○✕は、数字や「できる・しなければならない」の一語で分かれます。説明のあとに問題で確かめます。
反対に、ピラミッドを理由に「読むのは効率が悪いから、テキストはざっと眺めるだけ」にするのは避けたいところです。説明するには、まず中身を読んで知っている必要があります。読み返しや線引きにかける時間の減らし方は、時間のわりに効果が薄い勉強のしかたの記事にまとめています。
なお、説明の時間は、勉強の時間を減らすためのものではありません。読んだあとに数分の説明を足すぶん、1節あたりの時間は少し長くなります。そのかわり、同じ節を何度も読み返す時間を減らせる、というのが当サイトの考えです。
今日からやること
- ラーニングピラミッドの割合は、勉強法を選ぶ根拠にしない。
- 今日読む節を1つ決め、読む前に「読み終えたら何も見ずに3分で説明する」と決める。
- 説明は「だれが・どんなときに・何を・例外は」の順で、声に出すか紙に書く。
- 説明のあとにテキストを開き、言えなかった所に印をつけて、その分野の問題を解く。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Letrud, K. (2012). A rebuttal of NTL Institute’s learning pyramid. Education, 133(1), 117–124.(DOI なし)
- Letrud, K., & Hernes, S. (2018). Excavating the origins of the learning pyramid myths. Cogent Education, 5(1), Article 1518638. https://doi.org/10.1080/2331186X.2018.1518638
- Masters, K. (2013). Edgar Dale’s Pyramid of Learning in medical education: A literature review. Medical Teacher, 35(11), e1584–e1593. https://doi.org/10.3109/0142159X.2013.800636
- Fiorella, L., & Mayer, R. E. (2013). The relative benefits of learning by teaching and teaching expectancy. Contemporary Educational Psychology, 38(4), 281–288. https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2013.06.001
- Koh, A. W. L., Lee, S. C., & Lim, S. W. H. (2018). The learning benefits of teaching: A retrieval practice hypothesis. Applied Cognitive Psychology, 32(3), 401–410. https://doi.org/10.1002/acp.3410
- Kobayashi, K. (2019). Learning by preparing-to-teach and teaching: A meta-analysis. Japanese Psychological Research, 61(3), 192–203. https://doi.org/10.1111/jpr.12221
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