分野別では解けるのに模試で解けない理由:問題を「混ぜて解く」練習のしかた

分野別の問題集で解けるのに、模試や年度別の過去問で解けない。その原因の一つは、「この問題はどのルールを使うのか」を自分で見分ける練習が足りないことです。分野別の問題集では、章の名前(「聴聞」「8種制限」など)が、そのままヒントになっています。本番には、そのヒントがありません。

そこで、基本を一通り終えた分野から、似た分野の問題を混ぜて解く時間を作ります。混ぜて解くと、練習中の正答率は下がります。それでも、あとのテストでは混ぜたほうが成績がよかった、という研究があります。ただし、その研究の多くは数学の問題や絵の見分けで調べたものです。法律の択一式で同じ効果があるかを直接調べた研究は、当サイトでは見つけられていません。この記事の当てはめには、推測がふくまれます。その点も分けて書きます。

なぜ分野別では解けるのに、模試では解けないのか

分野別の問題集を解いているときは、「今は聴聞の章だから、聴聞の話だ」と分かった状態で問題を読んでいます。問題を解く前に、使うルールがもう決まっているのです。

本番は違います。たとえば行政手続法では、行政庁が不利益処分(相手の権利を制限したり、義務を課したりする処分)をしようとするとき、相手の言い分を聞く手続を、処分の種類によって「聴聞」と「弁明の機会の付与」に分けています(行政手続法13条1項)。混ざった問題では、まず「この処分ならどちらの手続か」を自分で決めてから、中身を考えなければなりません。

宅建も同じです。8種制限(宅建業者が自分で売主になる取引の特別なルール)は、買主も宅建業者である取引には適用されません(宅建業法78条2項)。8種制限の章で解いていれば、この確認は要りません。混ざった問題では、「売主は誰か」「買主は業者か」を先に確かめる必要があります。

つまり、試験で求められる力は2つあります。

  1. ルールを知っている力:聴聞の手続の中身を言える。
  2. どのルールを使うか選ぶ力:この問題は聴聞の話だ、と見分けられる。

分野別の問題集は、1つめの力をつけるのに向いています。2つめの力は、問題が混ざった状態でないと練習できません。「分野別では解けるのに」という悩みは、2つめの練習が足りないサインと考えられます。

混ぜて解くと何が変わるのか:研究で分かっていること

同じ種類の問題をまとめて解くことを「ブロック練習」、種類の違う問題を混ぜて解くことを「交互練習」といいます。交互練習の研究を3つ紹介します。

数学の問題を混ぜた実験(Rohrer と Taylor、2007年)

どんな実験か:アメリカの大学生18人が、なじみのない4種類の立体の体積を求める練習をしました。どちらの組も、同じ説明を読み、同じ問題を解きます。違うのは並べ方だけです。片方は種類ごとにまとめて解き、もう片方は4種類を混ぜて解きました。練習は1週間おいて2回、テストはその1週間後です。

分かったこと:練習中の正答率は、まとめて解いた組が平均89%、混ぜた組が60%でした。ところが1週間後のテストでは、混ぜた組が63%、まとめて解いた組が20%でした。まとめて解いた組の誤りは、主に「使う公式の選び間違い」でした。著者らは、混ぜて解くと「どの解き方を使うか」を学ぶことになるからだ、と説明しています。人数の少ない実験であることは、著者ら自身も書いています。

中学校の授業での実験(Rohrer ら、2015年)

どんな実験か:アメリカの公立中学校の7年生126人が、ふだんの宿題として、グラフの問題と傾きの問題を練習しました。混ぜた宿題と、まとめた宿題を比べています。テストは1日後か30日後です。

分かったこと:混ぜた練習のほうが、どちらのテストでも点が高くなりました(1日後は80%と64%、30日後は74%と42%)。著者らは、混ぜた練習では、問題そのものを見て解き方を選ばなければならない点を、効果の理由に挙げています。

画家の絵を見分ける実験(Kornell と Bjork、2008年)

どんな実験か:アメリカの大学生が、あまり知られていない12人の画家の風景画を見て覚えました。1人の画家の絵をまとめて見る方法と、いろいろな画家の絵を混ぜて見る方法を比べます。テストでは、初めて見る絵が誰の作品かを当てました。

分かったこと:混ぜて見たほうが、初めての絵の画家をよく当てられました(最初の実験で61%と35%)。おもしろいのは、参加者の感じ方です。最初の実験では、混ぜたほうが成績がよかった人が78%いました。それなのに、78%の人が「まとめて見るほうが、同じかそれ以上によかった」と答えています。まとめて見ると、すらすら分かる感じがするためと、著者らは考えています。

学習法の研究をまとめて評価した Dunlosky ら(2013年)は、交互練習を3段階の真ん中の「中くらいの有用性」としています。効果を示す研究はあるが、まだ証拠が限られている、という評価です。「どんな勉強にも効く方法」とまでは言えません。

法律の択一式にも当てはまるのか(ここは推測です)

先に、分かっていないことを書きます。上の研究は、数学の問題と絵の見分けです。行政書士試験や宅建試験のような、法律の択一式で交互練習を試した研究は、当サイトでは見つけられませんでした。ですから、ここから先の当てはめは推測です。「63%と20%」のような数字も、その実験の条件でのものです。法律の勉強で同じ差が出るとは言えません。

手がかりになるのが、Brunmair と Richter(2019年)のメタ分析(たくさんの研究の結果をまとめて数える方法)です。59の研究、のべ8,466人分の結果を集めています。分かったことは次のとおりです。

  • 全体では、混ぜたほうがよいという中くらいの効果があった。
  • 効果がいちばん大きかったのは絵画。数学の問題では小さめの効果だった。
  • 説明文(教科書のような文章)では、はっきりした効果が出なかった。単語の学習では、まとめたほうがよい結果だった(ただし研究の数が少なく、慎重に読むべきと著者らは書いている)。
  • 種類どうしが似ているほど、混ぜる効果が大きかった。

これを法律の勉強に置きかえると、当サイトの考えは次のとおりです。法律の問題には、数学に似た部分があります。「どの公式を使うか」を選ぶように、「どのルールを使うか」を選ぶ部分です。ここには、混ぜる練習が役に立つ可能性があります。一方で、条文や用語を読んで覚える部分は、説明文や単語の学習に近いものです。ここは混ぜても得にならないかもしれません。

そこでこの記事では、「全部を混ぜる」ことはすすめません。見分けが必要な、似たもの同士だけを混ぜるやり方をすすめます。

何と何を混ぜればよいか

混ぜる相手は、「取り違えやすい組」です。憲法と商法のように遠いもの同士を混ぜても、見分ける練習にはなりにくいと考えられます。似ているほど効果が大きかった、というメタ分析の結果とも合います。組の例を挙げます。

試験混ぜる組見分けるところ
行政書士聴聞と弁明の機会の付与どちらの手続になる処分か
行政書士審査請求と取消訴訟出す先・期間(3か月か6か月か)・不当も争えるか
共通心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫本心とずれた原因と、相手や第三者が知っていたか
共通無権代理と表見代理本人に原因があり、相手が信じた正当な理由があるか
宅建35条書面と37条書面いつ・誰に渡すか、説明が要るか、何を書くか
宅建農地法3条・4条・5条農地のまま権利が動くか、転用か、両方か

組の中身は、論点の記事でくわしく説明しています。たとえば聴聞と弁明の分かれ目は聴聞と弁明の機会の付与の記事、8種制限が使われる取引は8種制限の記事にあります。自分が模試で取り違えた組があれば、それがいちばんの候補です。

分野別の問題集で混ぜる、具体的なやり方

新しい問題集を買う必要はありません。今使っている分野別の問題集の、解く順番を変えるだけです。

  1. 新しい章は、まずまとめて解く:初めての章は、ルールそのものを知らない状態です。ここで混ぜても、見分ける以前でつまずきます。上の研究でも、練習の前に解き方の説明を受けています。まず分野別で、1つめの力をつけます。
  2. 次の日以降に「混ぜセット」を作る:今の章と、取り違えやすい前の章から、問題番号を5問ずつ書き出します。順番をばらばらにして、メモ帳やスマホのメモに並べます。問題集アプリにランダム出題の機能があれば、範囲を2〜3章にしぼって使います。
  3. 解く前に、何の問題かを一言書く:選択肢を読む前に、「弁明の問題」「37条書面の問題」と余白に書きます。見分ける作業を、わざと目に見える形にするのです。この一言がまちがっていたら、そこが弱点です。
  4. 答え合わせでは、見分けを先に確かめる:正解かどうかより先に、一言が合っていたかを見ます。一言が合っていて答えがまちがいなら「ルールを知らない」。一言がまちがっていたら「選び間違い」です。直し方が違います(次の章で書きます)。

働く人の時間に当てはめると、たとえば次のようになります。

使える時間分野別混ぜセット
平日30分新しい章を10分前の章と混ぜて15分+答え合わせ5分
平日60分新しい章を20分2〜3章を混ぜて30分+確認10分
休日3時間なし(または弱い章だけ)その週の範囲全部を混ぜて解く。残りは年度別の過去問か模試

行政書士の行政法なら、1週間の例はこうです。月曜の夜に、聴聞の章を分野別で解きます。水曜の通勤で、聴聞・弁明・申請に対する処分の問題を混ぜて10問。土曜に、行政手続法と行政不服審査法の範囲を混ぜて30問。宅建なら、月曜に35条書面、水曜に35条と37条を混ぜて、土曜に宅建業法の前半を混ぜる、という具合です。間をあけて同じ範囲に戻る組み方は、間をあけて繰り返す復習の記事とも合わせられます。

年度別の過去問や模試と、何が違うのか

年度別の過去問や模試も、問題が混ざっています。ただ、1回分の中に、同じ組は何問も入っていません。取り違えやすい組を、くり返し練習するには量が足りないのです。年度別や模試は、本番の時間(行政書士試験は3時間、宅建試験は2時間)で解き切る練習と、弱い組を見つける材料として使います。見つけた組を、平日の混ぜセットでくり返す。この分担がおすすめです。年度別の使い方は過去問の記事に書いています。

混ぜると正答率が下がる。それでも続けてよいか

混ぜセットを始めると、正答率は下がります。Rohrer と Taylor の実験でも、練習中は混ぜた組のほうが30ポイント近く低くなりました。Kornell と Bjork の実験では、成績がよかったのは混ぜたほうなのに、多くの参加者が「まとめたほうがよかった」と感じていました。練習中の手ごたえと、あとで残る力は、ずれることがあるのです。

ですから、正答率が少し下がっただけでやめる必要はありません。ただし、下がり方は見ます。判断の目安は、前の章で書いた「一言」です。

  • 一言は合っているのに答えがまちがう:ルールの中身が足りません。その章を、分野別に戻して解き直します。
  • 一言がまちがう:見分ける力が足りません。混ぜセットを続けます。取り違えた組を、間違いの記録に残します。
  • ほとんど解けない:混ぜる範囲が広すぎます。2章だけにしぼります。

難しすぎて手が止まる状態が続くと、勉強そのものが続かなくなります。問題の難しさの調整は、簡単すぎず難しすぎない問題を混ぜる記事にまとめています。

今日からやること

  • 最後に受けた模試か年度別の過去問から、取り違えた組を1つ書き出す(なければ上の表から1つ選ぶ)。
  • その組の問題を、分野別の問題集から5問ずつ選び、順番をばらばらにしてメモに並べる。
  • 次の平日の15分で解く。選択肢を読む前に、「何の問題か」を一言書く。
  • 答え合わせでは、一言が合っていたかを先に見て、「知らない」と「選び間違い」に分ける。

次に読むなら、間違いノートの作り方の記事がおすすめです。混ぜセットで見つけた「選び間違い」を、時間をかけずに記録して、くり返し使える形にする方法を書いています。

参考にした研究・資料(2026年10月確認)

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