集中できる環境づくりで最初にやることは、勉強している間、スマホの通知を止めることです。通知は、見なくても注意をそらすという研究があります。次に、1回の勉強でやることを一つに決め、休む時刻を先に決めてから始めます。
「スマホが机にあるだけで集中力が落ちる」という話を聞いたことがあるかもしれません。もとになった研究(Ward ら 2017年)はありますが、その後の追試では同じ結果が出なかったものもあり、まだ結論は出ていません。この記事では、研究で分かっていることと分かっていないことを分けたうえで、働きながら勉強する人が今日からできる環境の整え方を説明します。
スマホは近くにあるだけで集中をじゃまするのか
よく紹介されるのが、Ward、Duke、Gneezy、Bos の4人が2017年に発表した研究です。アメリカの大学生(1つ目の実験で約520人)を、スマホを「机の上に伏せて置く(音は消す)」「ポケットやかばんに入れる」「別の部屋に置く」の3つのグループに分けました。そのうえで、ワーキングメモリ(頭の中に情報を一時的に置いておく力)を測る課題と、図形のパターンを見ぬく課題を解いてもらいました。結果は、別の部屋に置いたグループの成績がいちばんよく、机の上に置いたグループが低いというものでした。2つ目の実験では、スマホの電源が入っているかどうかで差は出ませんでした。
この研究は大きく話題になりましたが、その後の検証では結果が分かれています。
- 同じ手順でやり直した追試:Ruiz Pardo と Minda(2022年)は、Ward らの2つ目の実験を、事前に計画を登録したうえでやり直しました。結果は、スマホの置き場所によるワーキングメモリと注意の成績の差は見られず、「置いてあるだけで成績が下がる」という結果は再現されませんでした。
- 複数の研究をまとめた分析(その1):Hartanto ら(2024年)は、33の研究(53のサンプル)をまとめました。スマホが「ただそこにあるだけ」の影響は、全体としてはっきりした差がありませんでした。伏せて置くかどうかや、スマホへの依存の強さなどによっても、結果は変わらなかったとしています。
- 複数の研究をまとめた分析(その2):Böttger ら(2023年)は、22の研究をまとめ、全体としては小さなマイナスの影響があり、とくに記憶の課題で影響が見られたとしています。ただし、この分析はスマホを「使った」研究と「置いてあるだけ」の研究を分けずにまとめています。研究ごとの結果のばらつきも大きいと書かれています。
まとめると、「置いてあるだけで頭の働きが落ちる」かどうかは、まだはっきりしていません。「スマホを別の部屋に置かないと集中できない」と思いこむ必要はありません。一方で、スマホを別の部屋に置いて損をすることもありません。勉強にスマホを使わない時間なら、手の届かない所に置くのは手軽な対策の一つです。
通知は、見なくても注意をそらすのか
置き場所とは別に、通知そのものの影響を調べた実験があります。Stothart ら(2015年)の実験では、大学生166人が、画面に出る数字を見てボタンを押す注意の課題に取り組みました。その最中に、研究者が本人のスマホに電話をかけたりメッセージを送ったりしました。通知を受けたグループは、通知のないグループより誤りが増えました。スマホを見たり、電話に出たりしなくても、です。
この実験は、短い単純な課題での結果です。法律の問題を解く場面にそのまま当てはまるとは言えません。それでも、「通知が鳴る→気になる→注意がそれる」という流れは、勉強中にも起こりえます。通知を止めるのは、お金も手間もかからない対策です。
スマホで勉強する人はどうするか
問題集のアプリや、条文・過去問のPDFをスマホで見る人もいるでしょう。その場合は、スマホを遠ざけるのではなく、勉強の間だけ通知を止める設定(おやすみモードなど)を使います。あわせて、次のことをしておくと、勉強のつもりでSNSを開いてしまうことが減ります。
- ホーム画面の最初のページに、勉強に使うアプリだけを置く。
- 開く前に「今から○✕を20問」のように、やる量を決めておく。終わったら閉じる。
- 家での勉強は紙の問題集、スマホは通勤とすき間時間、と使い分ける。
通勤や昼休みにスマホでやる中身は通勤・昼休みの15分の記事で扱っています。
1回の勉強で、やることを一つに決める理由
勉強の途中でメッセージに返事をし、また問題に戻る。こうした行き来には時間のロスがあります。Rubinstein、Meyer、Evans(2001年)の実験では、図形の分類や計算の課題で、同じ作業を続ける場合と、別の作業に切りかえる場合を比べました。切りかえるたびに反応が遅くなり、ルールが複雑な作業ほど、そのロスは大きくなりました。
実験で測られたロスは、1回あたり1秒前後の短いものです。ただ、法律の問題は「どの条文の、どの要件か」を考える、ルールの複雑な作業です。勉強中に別のことを何度もはさむと、そのたびに頭を戻す手間が積み重なります。そこで、始める前に「今回は行政手続法の分野別の問題を15問」「今回は宅建業法の✕の解き直し」のように、やることを一つに決めておきます。
なお、これは「同じ分野の問題だけを解き続けなさい」という意味ではありません。問題集の中でいろいろな分野の問題をまぜて解くのは、見分ける力をつけるための練習で、勉強の中身そのものです。じゃまになるのは、SNSや家事など、勉強と関係のない作業をはさむことです。まぜて解くやり方は混ぜて解く記事で説明しています。
時間は何分で区切ればよいか
「人の集中は10〜15分しか続かない」という話を見かけます。しかし、大学の講義の研究を調べなおした Bradbury(2016年)は、もとになった資料をたどると根拠が弱く、手に入るデータは「10〜15分で集中が切れる」という考えを支えていない、と結論づけています。決まった分数で集中が切れる、と考える必要はありません。
一方で、「休む時刻を先に決めておく」ことには意味がありそうです。Biwer ら(2023年)は、オランダの大学生87人の、ふだんの自習の1日を調べました。学生を3つのグループに分けています。
- 24分勉強したら6分休む
- 12分勉強したら3分休む
- 好きなときに休む
休む時刻を決めていた2つのグループは、好きなときに休んだグループより、疲れや気の散りを感じることが少なく、集中ややる気を高く感じていました。やり終えた課題の量は3つのグループで差がありませんでした。休み方を決めたグループは、同じ量をより短い時間で終えたことになります。ただし、対象は大学生の1日だけの調査です。働いたあとの疲れた夜にも同じになるかは分かっていません。
ここから言えるのは、「何分がいちばんよいか」より、「区切りを先に決めて、そのとおりに休む」ことのほうが大事らしい、ということです。働く人の時間に合わせると、たとえば次のように組めます。
| 使える時間 | 区切り方の例 | 中身の例 |
|---|---|---|
| 平日夜30分 | 25分+5分休み | 分野別の問題15問と答え合わせ |
| 平日夜60分 | 25分+5分を2回 | 前半は問題、後半は✕の解き直し |
| 休日3時間 | 50分+10分を3回 | 通し演習の練習や弱点の分野 |
表の分数は当サイトの例です。行政書士試験の本番は3時間、宅建は2時間あり、本番では途中で休めません。直前期の通し演習だけは、区切らずに本番と同じ長さで解きます。
場所はどう選ぶか
場所について、研究から「ここがいちばんよい」とは言えません。ここでは、気が散る原因を減らすという考え方で、場所ごとの工夫を挙げます。
- 家:机の上は、今日使う問題集・筆記用具・時計だけにする。テレビや家族の声が気になるなら、家族に「この時間は勉強」と伝えておく。机がなければ、勉強のときだけ座る場所を決める。
- 図書館・カフェ:移動の時間がかかるぶん、着いたらすぐ始められるように、やることを家で決めて出る。
- 職場の近く:退勤後に家へ帰るとそのまま休んでしまう人は、帰り道の途中で30分だけ勉強してから帰る。
本番の会場は、ふだんと違う知らない部屋です。家でしか解いたことがないと、まわりの物音に慣れていないこともあります。休日に一度は、家以外の場所で通しで解いてみると、当日の様子に近い練習になります。
始める前の1分と、気が散ったときの手順
始め方を毎回同じ手順にしておくと、「何からやろう」と迷う時間が減ります。
- スマホの通知を止める(使わないなら別の部屋へ)。
- 紙に「やること一つ」と「終わる時刻」を書く。例:「民法の代理 ✕の解き直し 21:30まで」。
- 横に白い紙を1枚置く。
3つ目の白い紙は、勉強中に気になったことを書き出すためのものです。「明日の会議の資料」「返事をしていないメッセージ」などが頭に浮かんだら、その場で調べたり返したりせず、一言だけ書いて問題に戻ります。休み時間か勉強のあとに、まとめて片づけます。
それでも集中できない日は、疲れが原因のこともあります。そんな日は、時間を短くして「○✕を5問だけ」に下げてかまいません。毎日の勉強を「いつ・どこで・何を」の形で決めておくやり方はやる気に頼らない続け方の記事で、疲れた日の最低ラインは疲れた日の記事で扱っています。
今日からやること
- 勉強を始める前に、スマホの通知を止める設定を入れる。使わないなら手の届かない所に置く。
- 1回の勉強で「やること一つ」と「終わる時刻」を紙に書いてから始める。
- 平日30分なら「25分+5分休み」のように、休む時刻を先に決める。
- 気になったことは白い紙に書き出し、勉強のあとで片づける。
- ホーム画面の最初のページを、勉強のアプリだけにする。
このサイトで次に読むなら、働く人の1日の勉強の流れがおすすめです。この記事で決めた区切り方を、朝・昼・夜・寝る前のどこに置くかの例を載せています。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain drain: The mere presence of one’s own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2). https://doi.org/10.1086/691462
- Ruiz Pardo, A. C., & Minda, J. P. (2022). Reexamining the “brain drain” effect: A replication of Ward et al. (2017). Acta Psychologica, 230, 103717. https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2022.103717
- Hartanto, A., Lua, V. Y. Q., Kasturiratna, K. T. A. S., Koh, P. S., Tng, G. Y. Q., Kaur, M., Quek, F. Y. X., Chia, J. L., & Majeed, N. (2024). The effect of mere presence of smartphone on cognitive functions: A four-level meta-analysis. Technology, Mind, and Behavior, 5(1). https://doi.org/10.1037/tmb0000123
- Böttger, T., Poschik, M., & Zierer, K. (2023). Does the brain drain effect really exist? A meta-analysis. Behavioral Sciences, 13(9), 751. https://doi.org/10.3390/bs13090751
- Stothart, C., Mitchum, A., & Yehnert, C. (2015). The attentional cost of receiving a cell phone notification. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 41(4), 893. https://doi.org/10.1037/xhp0000100
- Rubinstein, J. S., Meyer, D. E., & Evans, J. E. (2001). Executive control of cognitive processes in task switching. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 27(4), 763–797. https://doi.org/10.1037/0096-1523.27.4.763
- Bradbury, N. A. (2016). Attention span during lectures: 8 seconds, 10 minutes, or more? Advances in Physiology Education, 40, 509–513. https://doi.org/10.1152/advan.00109.2016
- Biwer, F., Wiradhany, W., oude Egbrink, M. G. A., & de Bruin, A. B. H. (2023). Understanding effort regulation: Comparing ‘Pomodoro’ breaks and self-regulated breaks. British Journal of Educational Psychology, 93(S2), 353–367. https://doi.org/10.1111/bjep.12593
働く人の法律試験ノート