「やる気が出たら勉強する」という形にすると、残業や疲れが続く週に止まります。続けるために先に決めておくのは、やる気ではなく「いつ・どこで・何を」です。「もし◯◯したら、△△をする」という1文で決めておけば、その場で迷わずに始められます。
あわせて、崩れた日のための「もし〜したら」も用意します。そして、やったことを1行だけ記録します。1日抜けても、次の日に同じきっかけで戻れば大丈夫です。この記事では、この3つを行政書士試験・宅建試験の勉強に落として説明します。
やる気に頼ると、なぜ止まるのか
働きながらの勉強は、毎日「今日はやるか」「何をやるか」を決め直すことになりがちです。しかも、その判断をするのは、仕事が終わって疲れている時間です。帰宅して「さて、何をやろう」と考えているうちに、30分がなくなる。こういう日が続くと、勉強そのものより「決めること」が重く感じられてきます。
気分は日によって変わります。気分のいい日だけ進む計画は、繁忙期や体調の悪い週にまとめて止まります。行政書士試験も宅建試験も年に1回です。止まった週を取り戻す時間は、あとから簡単には作れません。
そこで当サイトでは、決める作業を前もって済ませておき、その場では「きっかけが来たら始めるだけ」にすることをすすめています。やる気の有無を毎日問わない形にするということです。
「いつ・どこで・何を」を決めると、何が変わるのか
この「もし◯◯したら、△△をする」という形の計画は、心理学では「実行意図」(じっこういと=行動の段取りを前もって決めた計画)と呼ばれています。研究も積み重なっています。
どんな研究か:Gollwitzer と Sheeran(2006年)は、実行意図についての研究をまとめて分析しました(メタ分析=たくさんの研究の結果を集めて、全体として効果があるかを調べる方法)。実行意図は、「状況Yになったら、目標に向けた行動Xを始める」という形で、目標に向けて動く「いつ・どこで・どのように」を決めておく計画です。
何が分かったか:94の独立した検証の結果から、実行意図は目標の達成にプラスの効果があり、その大きさは「中くらいから大きめ」(効果量 d=0.65)と報告されています。
注意すること:これは目標の達成全般についての研究をまとめたもので、資格試験の勉強そのものを調べたものではありません。また、数字は平均の効果です。決めれば誰でも同じだけ続く、という意味ではありません。
試験勉強ではこう使う:「行政法をがんばる」という目標だけで終わらせず、「いつ(きっかけ)」「どこで」「何を(教材とページまで)」を1文にします。作り方は次の章で説明します。
試験勉強の「もし〜したら」はどう作るか
作るときの決まりは3つです。
- 「いつ」は時刻より、毎日ほぼ決まって起きる行動にする:「21時から」は、残業がある日にずれます。「夕食の片づけが終わったら」「電車で座ったら」「昼ごはんを食べ終えたら」のように、毎日起きる行動をきっかけにします。きっかけは、目で見て分かるものほど使いやすくなります。
- 「どこで」は、教材にすぐ手が届く場所にする:机の上に問題集を開いたまま置いておく。通勤で使う問題集は、かばんに入れたままにする。スマホで解くなら、そのアプリや保存したページを開きやすい所に置く。始めるまでの手間を、1つでも減らします。
- 「何を」は、教材・範囲・量まで決める:「行政法をやる」では、その場でまた迷います。「問題集の行政手続法、前回の続きから5問」「宅建業法の一問一答を10問」のように、開いたらすぐ手が動くところまで決めます。前の日の最後に、次に解く問題に付せんを貼っておくと、翌日すぐに始められます。
平日に30〜60分とれる人の例です。全部をいっぺんに始める必要はありません。
| きっかけ(もし〜したら) | 場所 | やること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 電車で座ったら | 通勤の電車 | 前の日に✕を付けた肢を見直す | 15分 |
| 昼ごはんを食べ終えたら | 職場の席 | 宅建業法の一問一答を10問 | 10分 |
| 夕食の片づけが終わったら | 机 | 行政手続法の問題を前回の続きから5問と解説 | 30分 |
| 布団に入る前に | 寝室 | その日に✕だった肢を1回声に出す | 5分 |
当サイトのすすめは、最初は「もし〜したら」を1つか2つだけ作ることです。一度に4つ作ると、守れない日が増えて、計画そのものが嫌になりやすいからです。1つが2週間ほど回ったら、次の1つを足します。寝る前の時間の使い方は寝る前の15分の記事で、平日・すき間・休日の役割分担は時間の使い方の記事で扱っています。
作った1文は、頭の中に置いておかずに書き出します。手帳の最初のページやスマホのメモに、「夕食の片づけが終わったら、机で、行政手続法の問題を5問」とそのまま書きます。
崩れる日のための「もし〜したら」も先に作る
計画が止まるのは、ふだんの日ではなく、予定どおりにいかない日です。残業、飲み会、寝坊、出張、家族の用事。こうした日に「今日は無理だ」となると、そのまま2日、3日と空きます。そこで、崩れる場面ごとに、代わりのやり方も同じ1文の形で決めておきます。
- もし残業で帰宅が21時を過ぎたら、夕食後の30分はやめて、布団の上で✕の肢を5つだけ見る。
- もし夜に飲み会があるなら、行きの電車で15分ぶんを前倒しする。
- もし寝坊して通勤中にできなかったら、昼休みの後半10分に回す。
- もし2日続けてできなかったら、3日目は量を半分にして「問題集を開いて1問解く」だけを目標にする。
ポイントは、代わりのやり方を「ふだんより小さく」することです。疲れた日に、ふだんと同じ量を求めると、結局ゼロになります。5分でも開けば、翌日にふだんのきっかけへ戻るのが楽になります。疲れた日・残業の日の最低ラインは、疲れた日の記事でくわしく扱っています。
1週間の中に、遅れを取り戻すための「調整の日」を置いておくのも、崩れにくくする方法です。1週間の組み方は、勉強時間の考え方の記事で例を示しています。
1日抜けたら、それまでの積み重ねはむだになるのか
「毎日続けないと習慣にならない」と考えると、1日抜けただけで気持ちが切れてしまいます。この点について参考になる研究があります。
どんな研究か:Lally ら(2010年)は、96人の参加者に、食べる・飲む・体を動かすといった行動を1つ選んでもらいました。そして、毎日同じ場面で12週間くり返してもらいました。データを分析できたのは82人です。毎日、その行動を「考えずに自然にできる」感じ(自動性)がどれくらいあるかを記録してもらいました。
何が分かったか:同じ状況でくり返すと、自動性は少しずつ上がり、やがて伸びが落ち着く曲線を描きました。上限の95%に届くまでの日数は、人によって18日から254日まで大きく違いました(長いほうの数字は、観察した12週間を超えるため、計算による予測です)。そして、1回行動を抜かしても、習慣ができていく流れに大きな影響はありませんでした。
注意すること:調べたのは、水を飲む・運動するといった単純な行動です。法律の勉強のように、日によって中身が変わる作業が、同じ日数で習慣になるとは言えません。
試験勉強ではこう使う:
- 連続日数にこだわらない:1日抜けたら、翌日は同じきっかけで始めるだけにします。抜けた日のぶんを翌日にまとめて取り返そうとしないほうが、戻りやすくなります。
- きっかけと場所を変えない:この研究は「毎日同じ状況で」くり返したときの話です。きっかけを日によって変えると、習慣になりにくいと考えられます。変えるのは、そのきっかけが合っていないと分かったとき(次の章)だけにします。
- 数週間たっても面倒に感じるのはふつう:18日で慣れる人もいれば、何か月もかかる人もいます。「まだ面倒だから自分には向いていない」と判断するのは早すぎます。
やったことを記録すると、続けやすくなるのか
どんな研究か:Harkin ら(2016年)は、「目標に向けた進み具合をこまめに確かめる」よう働きかけた実験を集めて分析しました。138の研究、合わせて約2万人分のデータです。
何が分かったか:進み具合を確かめるよう促された人は、目標の達成にプラスの効果がありました(効果量 d=0.40)。とくに、確かめた内容を書いて記録したときと、結果を人に報告したり公開したりしたときに、効果が大きくなっていました。
注意すること:これも試験勉強だけを調べた研究ではありません。記録すれば点が上がる、という話ではなく、「自分がどこまで進んだかを目で見える形にすると、行動を続けやすい」という結果として受け取ってください。
試験勉強ではこう使う:記録は1日1行で十分です。書く項目は4つにします。
- 日付
- 決めたきっかけで始められたか(できた/代わりのやり方でやった/できなかった)
- 解いた範囲と量
- 根拠まで言えた肢の数
たとえば「10/12 夕食後できた 行政手続法10肢 ○6 △3 ✕1」のように書きます。○△✕の付け方は、「できたつもり」を防ぐ記事で説明しています。時間だけでなく中身も残しておくと、「時間はやったのに進んでいない週」に気づけます。
週に1回、この記録を見返します。見るのは、「できなかった」が続いているきっかけです。たとえば「夕食後」が週に3回できていないなら、夕食後は家事や家族の予定で崩れやすい時間なのかもしれません。その場合は、気合いを入れ直すより、きっかけを朝の通勤に移すなど、計画のほうを直します。
人に伝えるのも1つの方法です。家族に「夕食の片づけのあと30分は勉強する」と言っておけば、その時間に声をかけられにくくなり、自分でも始めやすくなります。
今日からやること
- 明日の「もし〜したら」を1つ書く。きっかけ・場所・教材と範囲と量まで入れる(例:電車で座ったら、問題集の行政手続法を前回の続きから5問)。
- その教材を、決めた場所に置く。開いたままにするか、次の問題に付せんを貼る。
- 崩れる日のための「もし〜したら」を1つ書く(例:帰宅が21時を過ぎたら、✕の肢を5つだけ見る)。
- 記録用のメモを作り、今日の1行を書く。
- 1週間後に記録を見返し、続かなかったきっかけを別の行動に変える。
このサイトで次に読むなら、働く人の1日の勉強の流れ(例)がおすすめです。この記事で作った「もし〜したら」を、朝・昼・夜・寝る前にどう並べるかの具体例になります。すでに疲れて止まりかけている人は、先に疲れた日の最低ラインを決めておくと、崩れた日を短くできます。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1(94の独立した検証、d=0.65。概要はコンスタンツ大学のリポジトリで確認)
- Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. https://doi.org/10.1002/ejsp.674(96人を募集し82人を分析、12週間、18〜254日、1回の抜けの影響)
- Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229. https://doi.org/10.1037/bul0000025(138研究・19,951人、d=0.40。概要はWhite Rose Research Onlineで確認)
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