テキストに線を引く、まとめノートを作る、何度も読み返す。この3つは、学習法を比べた Dunlosky ら(2013年)の論文で、3段階のいちばん下の「有用性が低い」と評価されています。ただし、論文は「全く意味がない」とは書いていません。一部の人・一部のテストでは役に立った例があるものの、効く条件が限られている、という評価です。問題は、かけた時間のわりに、点につながりにくいことです。
なお、書き写しは、この論文が評価した方法に入っていません。ですから「書き写しは効果が低いと分かっている」とは言えません。ただ、ほかの研究から考えると、時間のわりに得るものが小さい可能性があります。働きながら勉強する人がやることは、これらを全部やめることではありません。短くして、「思い出す練習」につなげることです。この記事では、論文が言っていることと言っていないことを分けて紹介し、行政書士・宅建の勉強での直し方を具体的に書きます。
Dunlosky ら(2013年)は何を調べ、どう評価したのか
この論文は、アメリカの研究者5人が、学生が自分で使える10の学習法について、それまでの研究を集めて評価したものです。見たのは、その方法が「どんな年齢や力の人に」「どんな教材で」「どんなテストで」効くかという、効き目の広さです。評価は「高い」「中くらい」「低い」の3段階です。
| 評価 | 学習法 |
|---|---|
| 高い | 練習テスト(自分でテストする)、分散学習(間をあけてくり返す) |
| 中くらい | 「なぜそうなるか」を自分に問う、自分に説明する、種類の違う問題を混ぜる |
| 低い | 要約、線を引く(下線・マーカー)、キーワード記憶法、文章の内容を頭の中の絵にする、読み返し |
ここで大事なのは、「低い」の意味です。論文の説明を整理すると、次のようになります。
- 言っていること:線を引くことと読み返しは、学生に広く使われているのに、成績をいつも上げるとは言えない。要約や線を引くことには、効く条件が限られている。読み返しのかわりに、練習テストをすすめる。
- 言っていないこと:「全く無意味だ」「やってはいけない」。論文は、要約や文章の内容を絵にする方法について、一部の学生・一部のテストでは役に立ったと書いています。線を引くことも、条件によっては役立つ場合があるとしています(次の章)。
つまり「効果が低い」は、「ほかの方法と比べて効く範囲がせまく、どんな人がどんな場面で使っても効く、とは言えない」という評価です。「ゼロ」ではありません。それでも、働く人にとっては十分に見直す理由になります。同じ30分を、評価が「高い」方法に回せるからです。
線を引くのは、なぜ時間のわりに効きにくいのか
Dunlosky らは、線を引くことについて、調べられたほとんどの場面と参加者で、成績をあまり上げないとまとめています。ただし条件つきの話もしています。線を引くのに必要な知識がある人や、文章が難しいときには役立つ場合がある。一方で、文章から推し量って考える問題では、かえって成績を下げるおそれがある、という指摘です。
学生がよく使う勉強法の落とし穴と上手な使い方を調べた Miyatsu ら(2018年)は、よくある失敗として、大事でない所に線を引くこと、線を引いた所を見直しても得が小さいことを挙げています。上手な使い方は、ひとまとまりを読み終えてから、要点に印をつけることです。
行政書士・宅建の勉強に当てはめると、当サイトのすすめ方は次のとおりです(法律の教材で線の引き方を比べた研究は、当サイトでは確認できていません)。
- 1周目は線を引かない:最初は、どこが大事か分かりません。全部が大事に見えて、ページが色だらけになります。
- 問題で問われた所にだけ引く:分野別の問題集を解いて、選択肢で問われた言葉をテキストで探し、そこに引きます。何が大事かを、自分の感覚ではなく問題に決めてもらうのです。
- 引いた線を「隠して言う」目印にする:見返すときは、線の所を指で隠して、何が書いてあったかを言います。線は、読むための印ではなく、思い出す練習の目印にします。
まとめノートは、なぜ働く人に合いにくいのか
まとめノート作りは、論文の言葉でいえば「要約」にあたります。Dunlosky らは、手に入る証拠から、要約の有用性を「低い」と評価しました。そのうえで、もともと要約が上手な人にとっては、効果的な学習法になりうる、とも書いています。全く効かない方法ではなく、うまく使える人と場面が限られる、という評価です。
働く人に合いにくい理由は、時間です。市販のテキストは、もともと要点をまとめたものです。それをもう一度ノートにまとめると、1つの単元に何時間もかかることがあります。作り終えると達成感はありますが、その時間に問題を1問も解いていない、ということが起こります。
かわりに、次の2つをすすめます。
- 見出しだけ写して、中身を何も見ずに書き出す:Miyatsu らは、見出しだけの「骨組み」に中身を埋めていく形のまとめ(多くは先生が骨組みを用意したもの)が、理解や記憶を助けたという研究を紹介しています。骨組みを思い出す手がかりに使うのは、そこからの当サイトの応用です。テキストの目次や見出しを紙に写し、その下に覚えていることを何も見ずに書きます。書けなかった所だけ、テキストで確かめます。まとめる作業が、そのまま思い出す練習になります。
- 表を作るのは、取り違えやすい組だけ:聴聞と弁明の機会の付与、35条書面と37条書面のように、何度も取り違える組だけ、違いを並べた表を1枚作ります。取り違えの見つけ方と記録のしかたは間違いノートの記事、見分ける練習は混ぜて解く記事に書いています。
読み返しは、どこまで意味があるのか
読み返しも「低い」の評価です。ほかの研究も見てみます。
Callender と McDaniel(2009年)は、4つの実験で、教科書のような文章を「1回読む」と「すぐにもう1回読み返す」を比べました。テストは、選択問題、短い記述、要約です。読み返した学生は、多くのテストで、1回だけ読んだ学生とはっきりした差が出ませんでした(一部に例外はありました)。
それでも、読み返しは好まれています。Karpicke ら(2009年)がアメリカの大学生177人にたずねたところ、84%が勉強法として読み返しを挙げ、全体の55%が「いちばんよく使う方法」と答えました。勉強中に思い出す練習(自分でテストする)をしていると答えたのは11%でした。著者らは、多くの学生が勉強中に「分かったつもり」になっているのではないか、と考えています。何度も読んだ文章は、すらすら読めます。それを「覚えた」と取り違えやすいのです。この点は「できたつもり」を防ぐ記事でくわしく扱っています。
Miyatsu らは、読み返しを使うなら、間をあけて読むこと、読み返す前に覚えていることを思い出すことをすすめています。続けてすぐ読み返すやり方は、直後に細かい事実を問うテストには役立つことがある一方、当てはめて考える問題への効果ははっきりしない(研究によって結果が分かれる)、とも書いています。
試験勉強では、読み返しを「思い出してから読む」に変えます。たとえば、行政手続法の章を読み返す前に、見出しだけを見て、中身を30秒で言ってみます。条文なら、条文を開く前に「この条の要件(当てはまる条件)は何だったか」を言ってから読みます。言えなかった所が、その日に読むべき所です。
書き写しはどうか(ここは推測をふくみます)
先に書いたとおり、書き写しは Dunlosky らの10の方法に入っていません。テキストや条文の書き写しを、ほかの勉強法と直接比べた研究も、当サイトでは見つけられていません。ですから、ここからは手がかりからの推測です。
手がかりの1つめは、Slamecka と Graf(1978年)の実験です。参加者は、言葉の組を覚えました。片方の条件では、「rapid(速い)」と「fast(速い)」の組をそのまま読みます。もう片方では、「rapid」と最初の文字「f」だけを見て、同じ意味の言葉を自分で作り出します。結果は、自分で作り出した言葉のほうが、どのテストでもよく覚えていました。これを「生成効果」といいます。見て写すことは、作り出すより「読む」に近い作業です。
手がかりの2つめは、Miyatsu らのまとめです。講義の内容をそのまま写して、あとで見直さないノートは、学習にほとんど役立たないとしています。役立つのは、自分の言葉で言いかえたり整理したりするノートと、その見直しです。
この2つから、当サイトは、見て写すだけの書き写しは時間のわりに得が小さいと考えます。手で書いて覚えたい人は、やり方を少し変えます。条文を1回読んだら、隠して、要件と効果を思い出して書きます。書き終えてから、条文と見比べます。同じ「書く」でも、写すのではなく、思い出して書く形にするのです。
浮いた時間を何に回すか
Dunlosky らが「高い」と評価したのは、練習テスト(自分でテストする)と分散学習(間をあけてくり返す)の2つでした。線を引く・まとめる・読み返す時間を短くした分は、この2つに回します。くわしいやり方は、読むより「思い出す」記事と間をあけて繰り返す記事に書いています。
平日の30分なら、たとえば次のように置きかえます。
| 時間 | 見直す前 | 見直したあと |
|---|---|---|
| 最初の10分 | テキストを読み、線を引く | テキストを読む(線は引かない) |
| 次の10分 | 読んだ所をノートにまとめる | 見出しだけ見て、中身を言う・書き出す |
| 最後の10分 | もう一度読み返す | 同じ単元の問題を解き、問われた所に線を引く |
読む時間はなくなりません。読むことは、理解の入り口として必要です。変えるのは、読んだあとの20分です。そして3日後か1週間後に、同じ単元の問題をもう一度解きます。
今日からやること
- この1週間の勉強時間のうち、線を引く・まとめる・読み返すに使った時間をざっと書き出す。
- 次に読む単元では、線を引かずに読み、読み終えたら見出しだけを見て中身を言ってみる。
- その単元の問題を解き、問われた言葉にだけテキストで線を引く。
- まとめノートを作りかけているなら、取り違えやすい組の比較表1枚だけを残し、残りの時間を問題演習に回す。
次に読むなら、読むより「思い出す」ほうが覚える記事がおすすめです。この記事で浮かせた時間を、テキストと問題集のどちらに、どう使うかを具体的に決められます。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266
- Miyatsu, T., Nguyen, K., & McDaniel, M. A. (2018). Five popular study strategies: Their pitfalls and optimal implementations. Perspectives on Psychological Science, 13(3), 390–407. https://doi.org/10.1177/1745691617710510
- Callender, A. A., & McDaniel, M. A. (2009). The limited benefits of rereading educational texts. Contemporary Educational Psychology, 34(1), 30–41. https://doi.org/10.1016/j.cedpsych.2008.07.001
- Karpicke, J. D., Butler, A. C., & Roediger, H. L., III. (2009). Metacognitive strategies in student learning: Do students practise retrieval when they study on their own? Memory, 17(4), 471–479. https://doi.org/10.1080/09658210802647009
- Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604. https://doi.org/10.1037/0278-7393.4.6.592
働く人の法律試験ノート