読むより「思い出す」ほうが覚える:テキストと問題集の使い分け

テキストを何回読んでも覚えられないのは、読むことが「思い出す練習」になっていないからです。読み返すと、文が目に入るので分かった気になります。けれど試験で求められるのは、何も見ずに頭から取り出すことです。思い出すこと自体に覚えを強くするはたらきがあることは、学習の研究で何度も確かめられています。これをテスト効果(思い出すことで記憶が強くなること)といいます。

ですから、順番を変えます。テキストは短く読んですぐ閉じる。問題集で思い出す。答え合わせのときにテキストへ戻る。テキストは「覚える道具」ではなく「確かめる辞書」、問題集は「思い出す道具」と役割を分けます。行政書士試験や宅建試験の選択肢の問題では、選択肢を見る前に答えを考え、1つ1つの選択肢について「どこが正しいか・どこが誤りか」を言えるかで確かめます。

読み返すより思い出すほうが、本当に残るのか

よく知られた実験に、Roediger & Karpicke(2006年)があります。大学生180人が、英語の試験対策の本からとった短い説明文(太陽について、ラッコについて)を学びました。学び方は次の3通りです。「4回読む」「3回読んで、1回思い出して書く」「1回読んで、3回思い出して書く」。思い出して書くときは、白い紙に覚えていることをできるだけ書き出します。答え合わせはありません。そのあと、5分後か1週間後に、文章の中身をどれだけ書き出せるかをテストしました。

学び方5分後1週間後
4回読む83%40%
3回読んで1回思い出す78%56%
1回読んで3回思い出す71%61%

5分後には、たくさん読んだ組が一番よくできました。ところが1週間後には順番が逆になり、思い出す回数が多い組ほどよく覚えていました。もう一つ大事なのは、学んだ直後に「1週間後にどれくらい覚えていると思うか」をたずねた結果です。一番自信があったのは4回読んだ組でした。読み返しは、自信を高めるわりに、1週間後の記憶はあまり高めなかったのです。

試験は、勉強した5分後ではなく、何週間も何か月も先にあります。勉強した直後の「よく分かった」という感じで、勉強のしかたを選ばないことが大切です。

一度思い出せたら、もう練習しなくていいのか

これも調べられています(Karpicke & Roediger、2008年)。大学生が、スワヒリ語と英語の単語の組み合わせ40組を覚えました。一度思い出せた組を、そのあとも思い出すテストに出し続ける条件と、テストからは外して読むだけにする条件などを比べています。1週間後のテストでは、テストに出し続けた条件は約80%を思い出せました。テストから外した条件は、読むことは続けた場合で36%、読むことも外した場合で33%にとどまりました。読み返しを続けても、思い出す練習をやめた分は取り戻せなかったのです。

しかも、学生たちの「1週間後に何組思い出せるか」の予想は、どの条件でもほぼ同じで、実際の成績とは関係がありませんでした。一度正解した問題を「もうできた」と外し、あとは読み返すだけにすると、思ったより早く抜けていきます。正解した問題も、間をあけてまた解きます。間のあけ方は間をあけて繰り返す復習の記事で説明しています。

それでも読み返してしまうのはなぜか

読み返しは、学生がもっともよく使う勉強法です。大学生177人に、ふだんの勉強のしかたを書いてもらった調査があります(Karpickeら、2009年)。84%がノートや教科書の読み返しを挙げ、55%はそれを一番よく使うやり方だと答えました。思い出す練習(自分でテストする)を挙げたのは11%でした。

一方、10種類の勉強法についての研究をまとめて評価した論文(Dunloskyら、2013年)は、練習テスト(思い出す練習)と分散学習(間をあけて繰り返すこと)の2つを「効果が高い」と評価しました。読み返しは、線を引く・要約するなどと並んで「効果が低い」の側に入っています。

読み返しが選ばれやすいのは、楽で、スラスラ読めるからです。思い出す練習は、出てこないもどかしさがあり、できない自分が見えてしまいます。その居心地の悪さこそが、覚えを強くしている途中のしるしだと考えてください。線を引く、まとめノートを作るなど、ほかの「時間のわりに効果が薄い」やり方は効果が薄い勉強のしかたの記事で取り上げます。

選択肢の問題で「思い出す」とは何をすることか

行政書士試験の択一式は5つの選択肢から、宅建試験は4つの選択肢から選ぶ形です。選択肢の問題には落とし穴があります。選択肢を読んで「見たことがある」と感じたものを選ぶのは、思い出しているのではなく、見分けているだけだということです。

選択肢の問題で練習するときの注意を示した実験があります(Butler & Roediger、2008年)。大学生72人が歴史の短い文章を読み、選択肢の問題を解きました。1週間後に、選択肢なしで答えを書くテストをしています。答え合わせをしなかった問題では、まちがいの選択肢を「正しい」と思いこんで書いてしまう答えが24%ありました。問題を解かなかった場合(16%)より多い数字です。答え合わせをした問題では、それが14〜15%に下がり、正しく書けた答えも増えました。答え合わせは、1問ごとでも、問題を全部解き終えてからまとめてでも効果がありました。

ここから、当サイトは選択肢の問題を次の手順で解くことをすすめます。

  1. 選択肢を手やしおりで隠し、問題文だけを読む。何が問われているか、答えのポイントは何かを、頭の中で一言にする。
  2. 選択肢を1つずつ出し、正しいか誤りかと、その理由を一言で言う。誤りなら「どこが違うか」を言う。
  3. 答え合わせをする。正解した問題でも、理由が言えなかった選択肢には印をつける。解きっぱなしにはしない。

理由を言う練習の例を、2つ示します(このサイトのオリジナル問題)。

  • 行政手続法では、許認可を取り消す不利益処分をするとき、弁明の機会の付与をすれば足りる。→誤り。原則として聴聞が必要(13条1項1号)。
  • 宅建業法のクーリング・オフは、電話で申込みの撤回を伝えれば、その時点で効力が生じる。→誤り。書面で行い、書面を出した時に効力が生じる(37条の2第1項・第2項)。

「誤り」だけで止めず、「どう直せば正しくなるか」まで言えれば、その知識は別の聞かれ方をしても取り出せます。理由まで言えたか、自信がなかったかの見分け方は「できたつもり」を防ぐ記事で、○・△・✕の3段階に分けて説明します。

テキストと問題集は、どう使い分けるか

思い出す練習を中心にすると、教材の役割は次のように分かれます。

教材役割使うタイミング
テキスト地図と辞書最初に短く読む/答え合わせで戻る
白い紙自分で書き出すテキストを閉じた直後
問題集思い出す道具読んだ直後と、復習の回
条文答えのよりどころ理由が言えなかった選択肢の確認

テキストを何周も通して読み返すのは、やめます。テキストに戻るのは、問題で思い出せなかった所、理由が言えなかった所だけです。そのほうが、テキストを読む時間がぐっと短くなり、その分を思い出す練習に回せます。

ただし、まったく読んだことのない単元で、いきなり問題を解くのはおすすめしません。Bjork & Bjork(2011年)は、思い出すのに少し苦労する練習は役に立つけれど、学ぶ人の力でこなせないほどの難しさは、ただの妨げになると書いています。最初の1回は短く読み、何についての単元なのかをつかんでから思い出す練習に入ります。

問題集は、分野ごとに並んだものを使うと、読んだ単元の問題をすぐ解けます。公式に公開されている過去問の使い方は、行政書士試験は過去問の記事、宅建試験は宅建の独学の記事にまとめています。

30分・60分の勉強は、どう組むか

読む時間より、思い出す時間と答え合わせの時間を多くとります。次は当サイトの例です。

流れ60分の例(行政書士)30分の例(宅建)
短く読む15分:行政手続法の不利益処分8分:クーリング・オフ
閉じて書き出す5分:聴聞になる場合・弁明になる場合3分:できない場合・期間・方法
問題で思い出す30分:分野別過去問を肢ごとに15分:分野別過去問を肢ごとに
テキストに戻る10分:理由が言えなかった肢だけ4分:理由が言えなかった肢だけ

「閉じて書き出す」は、テキストを閉じて、白い紙にいま読んだことを見出しだけでも書き出す作業です。きれいに書く必要はありません。書けなかった所が、そのあと問題を解くときに注意して読む所になります。

最後に印をつけた選択肢は、2〜3日後のすき間時間に、一問一答の形でもう一度思い出します。机の時間とすき間時間の分け方は働きながらの時間の使い方の記事で説明しています。

思い出す練習でつまずきやすいのはどこか

  • 出てこないまま考えこむ:当サイトでは、選択肢なら1つにつき10〜20秒、白い紙に書き出すときでも1分ほど考えて出てこなければ、答えを見ることをすすめます。答えを見たあと、少し時間をおいてもう一度思い出せば、それも練習になります。
  • 答えの番号を覚えてしまう:同じ問題をくり返すと、「この問題は3番」と番号で覚えがちです。番号ではなく、選択肢ごとの理由が言えるかで確かめます。
  • 正解した問題を二度と解かない:一度できた問題も、間をあけてもう一度解きます。外すのは、日をあけて2回続けて理由まで言えた問題だけにします。
  • 解いて終わりにする:答え合わせをしないと、まちがった選択肢を正しいと覚えこむことがあります。点数を見るだけでなく、選択肢ごとに確かめます。

思い出す練習は、読み返しよりもできない所がはっきり見えるので、点数が低く感じられることがあります。それは練習中の点数です。Roediger & Karpickeの実験でも、直後の点が一番高かったのは読むだけの組でした。

今日から何を変えるか

  • テキストを読んだら、すぐ閉じて、白い紙に覚えていることを1〜5分書き出す。
  • 選択肢の問題は、選択肢を隠して問題文だけ読み、答えのポイントを先に考える。
  • 選択肢ごとに、正しいか誤りかと理由を一言で言う。言えなかった選択肢に印をつける。
  • テキストを通して読み返すのをやめ、印をつけた所だけテキストと条文に戻る。
  • 正解した問題も、間をあけてもう一度解く。

次に読むなら、「できたつもり」を防ぐ記事がおすすめです。この記事でつけた印を、○・△・✕の3段階に分けると、次にどの問題をいつ解き直すかが決めやすくなります。

参考にした研究・資料(2026年10月確認)

  • Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.(DOI/PubMed)
  • Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.(DOI/PubMed)
  • Karpicke, J. D., Butler, A. C., & Roediger, H. L. (2009). Metacognitive strategies in student learning: Do students practise retrieval when they study on their own? Memory, 17(4), 471–479.(DOI)
  • Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58.(DOI)
  • Butler, A. C., & Roediger, H. L. (2008). Feedback enhances the positive effects and reduces the negative effects of multiple-choice testing. Memory & Cognition, 36(3), 604–616.(DOI/PubMed)
  • Bjork, E. L., & Bjork, R. A. (2011). Making things hard on yourself, but in a good way: Creating desirable difficulties to enhance learning. In Psychology and the real world: Essays illustrating fundamental contributions to society.(著者の研究室のPDF)
  • 行政書士試験研究センター「令和7年度 合否判定基準」(PDF)(5肢択一式)、不動産適正取引推進機構「試験概要」(50問・4肢択一式)
  • e-Gov法令検索:行政手続法13条、宅地建物取引業法37条の2

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