成長マインドセット(能力は努力ややり方で伸ばせる、という考え方)が試験の点を上げるかについて、研究の答えは「全体では効果は小さく、大人ではさらにはっきりしない」です。考え方と成績の結びつきを調べたメタ分析(たくさんの研究の結果をまとめて計算し直す方法)では、結びつきは弱く、大人では見られませんでした。考え方を変える短い授業の効果も全体では小さく、研究の質を考えると効果はないとする分析があります。
一方で、成績の低い生徒など、条件によっては効果が見られたとする大規模な実験もあります。この記事では、研究ごとに「何を調べたか・だれに・結果の大きさ」を並べ、言い切れることと言い切れないことを分けます。そのうえで、大人の資格勉強で使える部分を「点が伸びないのを才能のせいにせず、やり方を見直す」ところまでに絞ります。考え方を変えれば受かる、という話ではありません。
成長マインドセットと固定マインドセットは、何が違うのか
マインドセットは、心理学者のキャロル・ドゥエック(Carol S. Dweck)らが研究してきた考え方で、「人の能力の性質についての思い込み」を指します。
- 成長マインドセット:人の能力は決まったものではなく、時間をかけて伸ばせる、という考え方です(Dweck と Yeager、2019年)。
- 固定マインドセット:能力は生まれつきほぼ決まっていて、あまり変わらない、という考え方です。
この理論は、成長マインドセットをもつ人ほど難しい課題を避けず、失敗しても立て直しやすく、その結果として成績が上がる、と考えます。研究では、この主張を次の2つに分けて確かめてきました。①ふだんの考え方と成績は結びついているか。②短い授業で考え方を変えると、成績は上がるか。
考え方と成績は、どれくらい結びついているのか
①を調べた代表的な研究が、Sisk・Burgoyne・Sun・Butler・Macnamara(2018年)の1つめのメタ分析です。
- 何を調べたか:129の研究(合わせて約36万6千人)で、考え方の質問の答えと、成績との結びつきをまとめました。
- 結果の大きさ:結びつきの強さを表す相関係数(0なら無関係、1なら完全に一致)は、全体で0.10でした。著者は「とても弱い」と書いています。
- 年齢による違い:子どもでは0.19、10代では0.15でしたが、大人では0.02で、意味のある結びつきは見られませんでした(大人の結果は89件のデータから)。
働きながら資格試験を受ける人は「大人」の側に入ります。この結果からは、大人では「成長マインドセットをもっている人ほど点が高い」とは言えません。また、相関(結びつき)の研究なので、子どもの結果についても、考え方が成績を上げたのか、成績がよいから考え方が前向きになったのかは分かりません。
考え方を変える短い授業で、成績は上がるのか
②の「介入」(考え方を変えるための短い授業や読み物)の研究は、結果が分かれています。
- Sisk ら(2018年)の2つめのメタ分析:29の研究(約5万7千人)をまとめると、効果の大きさは d=0.08 でした(d は2つの組の差の大きさを表す数で、0に近いほど差が小さいことを表します)。大人だけを見ると、意味のある効果は見られませんでした。家庭の経済状況が厳しい生徒では d=0.34 でしたが、もとになったデータは7件で、著者は慎重に読むよう書いています。
- Yeager ら(2019年)の全国規模の実験:アメリカの公立高校65校の9年生(高校の最初の学年)12,490人を、くじで組に分けました。成長マインドセットの授業は、オンラインで約25分を2回、合わせて1時間に満たない長さです。成績が低めだった生徒では、主要科目の成績の平均(GPA)が0.10上がりました。効果は、まわりの生徒に「難しいことに挑む」雰囲気がある学校で大きくなっていました。
Yeager らの実験は、大人数をくじで分けた質の高い設計で、「ある条件の生徒には小さな効果がある」ことを示しています。ただし対象は高校生で、効果が見られたのは成績が低めの生徒、大きさは成績の平均で0.10です。大人の資格試験の点がどれだけ動くかは、この実験からは分かりません。
研究の質をめぐって、どんな議論があるのか
2023年には、介入の研究をまとめ直した2つの分析が、同じ雑誌(Psychological Bulletin)の同じ号に載り、違う読み方を示しました。なお、Macnamara と Burgoyne は、Sisk ら(2018年)の著者でもあります。
- Macnamara と Burgoyne(2023年):63の研究(約9万8千人)で、全体の効果は d=0.05 と小さく、「よい結果ほど発表されやすい」偏り(出版バイアス)を補正すると、意味のある効果ではなくなりました。授業で実際に考え方が変わったことを確かめた13の研究でも、研究の質が最も高い6つの研究でも、意味のある効果は見られませんでした。また、よい結果を出すと経済的な利益のある著者の研究ほど、効果が大きく出ていました。著者は、介入に見える効果は、研究の設計の不十分さ、報告の不備、偏りによるものである可能性が高い、と結論づけています。
- Burnette ら(2023年):くじで組を分けた研究から53の独立した対象者の組をまとめ、「効果が最も期待される対象者」に絞り、しかも授業が計画どおりに行われた研究に限ると、成績への効果は d=0.14 でした。ただし、これからの介入で出る効果の幅の見込み(95%予測区間)は −0.08〜0.35 と広く、0を下回る値も含んでいます。著者は、これからの介入の効果は大きくばらつきうると書いています。
2つの分析の違いは、「全体として効果はないと見るか」「条件がそろえば小さな効果があると見るか」です。どちらの分析でも、効果が大きいという結果は出ていません。当サイトは、この議論にどちらかの結論を出す立場にはありませんが、少なくとも「考え方を変えれば点が大きく伸びる」と言える状態ではない、と整理します。
研究ごとに、何を調べ、どれくらいの結果だったか
| 研究 | 何を調べた | だれに | 結果の大きさ |
|---|---|---|---|
| Sisk ら 2018(1つめ) | 考え方と成績の結びつき | 129研究・約36.6万人 | 全体で弱い(0.10)。大人では見られない(0.02) |
| Sisk ら 2018(2つめ) | 考え方を変える授業の効果 | 29研究・約5.7万人 | 全体で d=0.08。大人では見られない |
| Yeager ら 2019 | 約1時間のオンライン授業 | 米国の高校9年生12,490人 | 成績が低めの生徒で成績の平均が0.10上がった |
| Macnamara と Burgoyne 2023 | 授業の効果と研究の質 | 63研究・約9.8万人 | d=0.05。偏りを補正すると効果は見られない |
| Burnette ら 2023 | だれに・どんな実施で効くか | 53の対象者の組 | 条件を絞ると d=0.14。結果のばらつきが大きい |
表の研究の対象は、ほとんどが子どもと学生です。働きながら資格試験を受ける大人を対象にした研究は、当サイトが確かめた範囲では見つかりませんでした。
大人の資格勉強では、どこまで使えるのか
研究から言えるのは、「成長マインドセットを身につければ点が上がる」とまでは言えない、ということです。そのうえで、当サイトでは、この考え方を次の一点に絞って使うことを勧めます。
点が伸びないとき、「自分には向いていない」と才能の問題にする前に、やり方の型を見直す。
これは、考え方を変える授業の効果を当てにする使い方ではありません。才能は今週から変えられませんが、やり方は今週から変えられる、という当サイトの整理によるものです。受かる気がしないときの記事では、点が伸びない理由を「読むだけ」「解きっぱなし」「範囲を広げすぎ」「本番の形で解いていない」の4つの型に分け、型ごとの立て直し方を書いています。「伸ばせる」と考えるなら、まずこの4つのどれに当たるかを確かめるのが、行政書士・宅建の勉強での具体的な形です。
反対に、次のような使い方はしないほうがよいと当サイトは考えます。
- 「努力すれば伸びる」を、量を増やすことだけに使う:同じやり方で時間だけ増やしても、型の問題は残ります。変えるのは、解き方・復習のしかた・範囲の決め方です。
- 落ち込んだ自分を「固定マインドセットだからだ」と責める:大人では、考え方と成績の結びつきは見られませんでした。点が低いことを、自分の考え方のせいだと決めつける根拠はありません。気持ちが崩れた日の立て直し方は、社会人の勉強がしんどいときの記事で扱っています。つらさが長く続くときは、勉強で乗り切ろうとせず、身近な人や相談窓口に相談してかまいません。
- 考え方の本や動画に、勉強の時間を回す:考え方を変える授業の効果は、ここまでの研究では小さいか、はっきりしません。限られた時間は、問題を解く時間に回すほうがよい、と当サイトは考えます。
点が伸びない週は、何をどの順で見直すか
考え方の話を、行動に落とした順番です。模試や○✕の点が2週続けて伸びなかったときを想定しています。
- 間違えた問題を分野ごとに数える:「全部だめ」ではなく、どの分野で何問落としたかを数字にします。
- 落とした理由を1つずつ書く:知らなかった、知っていたが取り違えた、時間が足りなかった、のどれかに分けます。
- 4つの型のどれに当たるかを決める:一番多い理由から、型を1つ選びます。
- 変えるのは1つだけ、2週間続ける:一度に全部変えると、何が効いたか分かりません。
- 2週間後に、同じ分野の点で比べる:伸びたら続け、伸びなければ次の型を疑います。
試験に落ちたあとの1年の組み直しは落ちたあとの記事、目標の置き方そのものはモチベーションの上げ方の記事で扱っています。
今日からやること
- 「考え方を変えれば点が上がる」とは期待しない。研究では、大人で結びつきが見られなかった。
- 点が伸びないと感じたら、才能の問題にする前に、直近の間違いを分野ごとに数える。
- 間違いの理由を「知らなかった・取り違えた・時間が足りなかった」に分け、4つの型のどれかを1つ選ぶ。
- やり方を1つだけ変えて2週間続け、同じ分野の点で比べる。
参考にした研究・資料(2026年10月確認)
- Dweck, C. S., & Yeager, D. S. (2019). Mindsets: A view from two eras. Perspectives on Psychological Science, 14(3), 481–496. https://doi.org/10.1177/1745691618804166
- Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018). To what extent and under which circumstances are growth mind-sets important to academic achievement? Two meta-analyses. Psychological Science, 29(4), 549–571. https://doi.org/10.1177/0956797617739704
- Yeager, D. S., Hanselman, P., Walton, G. M., et al. (2019). A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573, 364–369. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1466-y
- Macnamara, B. N., & Burgoyne, A. P. (2023). Do growth mindset interventions impact students’ academic achievement? A systematic review and meta-analysis with recommendations for best practices. Psychological Bulletin, 149(3–4), 133–173. https://doi.org/10.1037/bul0000352
- Burnette, J. L., Billingsley, J., Banks, G. C., Knouse, L. E., Hoyt, C. L., Pollack, J. M., & Simon, S. (2023). A systematic review and meta-analysis of growth mindset interventions: For whom, how, and why might such interventions work? Psychological Bulletin, 149(3–4), 174–205. https://doi.org/10.1037/bul0000368
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