監督処分(かんとくしょぶん)とは、ルールを破った宅建業者や宅建士に、国土交通大臣や都道府県知事が下す処分のことです。業者には「指示」「業務停止(1年以内)」「免許取消し」の3つ、宅建士には「指示」「事務禁止(1年以内)」「登録消除」の3つがあります(宅地建物取引業法65条・66条・68条・68条の2)。いちばん重い免許取消しと登録消除は、免許や登録をした行政だけができます。
監督処分は行政による処分で、裁判所が科す刑罰(拘禁刑・罰金)とは別のものです。この記事では、両方をまとめて扱います。条文は e-Gov 法令検索の現行の条文(2026年4月1日施行の改正を反映したもの)で確かめています。
身近な例で考えると
名古屋市の不動産会社「みなと不動産」と、そこで働く宅建士のあやかさんの話です。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| みなと不動産 | 宅建業者(愛知県知事の免許) | 岐阜県でも土地の売買を仲介している |
| あやかさん | 宅建士(愛知県知事の登録) | みなと不動産の事務所で働く |
| りくさん | 岐阜県で土地を買った人 | 大事なことを知らされずに買った |
- みなと不動産は、岐阜県の土地の取引で、りくさんに大事なことをわざと伝えなかった(47条1号違反)。
- 岐阜県知事は、自分の県の中での業務なので、みなと不動産に「指示」や「業務停止」ができる(65条3項・4項)。ただし免許の取消しはできない。
- 免許をくれた愛知県知事は、指示・業務停止に加えて、情状が特に重ければ免許を取り消す(66条1項9号)。
- 別の話として、あやかさんが知人の会社に「宅建士として名前を使っていいよ」と名義を貸した。登録をしている愛知県知事は、あやかさんに指示や事務禁止ができる(68条1項・2項)。
- あやかさんの処分について、みなと不動産にも落ち度があれば、みなと不動産も指示の対象になる(65条1項4号)。
たとえると、監督処分は運転免許の「違反の注意・免許停止・免許取消し」に近い仕組みです。ただし本物のルールでは、注意(指示)や停止は、業務をしている地域の知事もできます。取り消せるのは、免許や登録をした行政だけです。
条文ではこう決まっている
業者への処分と、だれができるか
| 処分 | 免許をくれた大臣・知事 | 業務をしている地域の知事 |
|---|---|---|
| 指示 | できる(65条1項) | できる(65条3項) |
| 業務停止(1年以内) | できる(65条2項) | できる(65条4項) |
| 免許取消し | できる(66条・67条) | できない |
指示(65条1項)は、次のときにできます。
- 業務に関して取引の関係者に損害を与えた、または与えるおそれが大きいとき(1号)。
- 業務に関して取引の公正を害する行為をした、または害するおそれが大きいとき(2号)。
- 業務に関してほかの法令に違反し、業者として不適当と認められるとき(3号)。
- 宅建士が68条などの処分を受け、業者の責めに帰すべき理由(業者の落ち度)があるとき(4号)。
- このほか、宅建業法の規定(どの条文でも)か、住宅瑕疵担保履行法の決められた規定(11条1項の供託、12条1項の届出、15条1項の説明など)に違反したとき(柱書)。
業務停止(65条2項)は、「一年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止」を命じるものです。主な理由は次のとおりです。
- 指示の理由のうち3号・4号にあたるとき(1号の2)。1号・2号(損害・取引の公正)は、業務停止の理由としては、認可を受けた業者の取引一任代理等に関するものに限られます(1号)。
- 決められた条文に違反したとき(2号)。名義貸し(13条)、営業保証金の届出前の開業(25条5項)、誇大広告(32条)、自分のものでない物件の売買(33条の2)、重要事項説明(35条)、37条書面、手付金等の保全(41条・41条の2)、秘密を守る義務(45条)、報酬の超過受領(46条2項)、業務上の禁止事項(47条・47条の2)、住宅瑕疵担保履行法11条1項・13条など。
- 指示に従わないとき(3号)。宅建業法にもとづく処分に違反したとき(4号)。
- 宅建業に関して不正または著しく不当な行為をしたとき(5号)。
免許取消し(66条1項)は、次のときに「取り消さなければならない」とされています。行政に選ぶ余地はありません。
- 業者本人が、免許の欠格事由の一部(5条1項1号・5〜7号・10号・14号)にあたることになった(1号)。破産して復権していない、拘禁刑以上の刑や一定の罪の罰金刑を受けて5年たっていない、暴力団員等、心身の故障で適正に営めない、暴力団員等に支配されている、などです。
- 未成年者の法定代理人、法人の役員、政令で定める使用人が、欠格事由(5条1項1〜7号・10号)にあたることになった(2〜4号)。
- 免許換えが必要なのに、新しい免許を受けていないことが分かった(5号)。
- 免許を受けてから1年以内に事業を始めない、または引き続き1年以上休んだ(6号)。
- 破産・解散・廃業の届出がなく、その事実が分かった(7号)。不正の手段で免許を受けた(8号)。
- 業務停止の理由にあたり情状が特に重い、または業務停止の処分に違反した(9号)。
一方、免許に付けた条件に違反したときは、取り消すことが「できる」にとどまります(66条2項)。また、事務所の所在地や業者の所在が分からないときは、官報か公報で公告し、公告の日から30日たっても申出がなければ、取り消すことが「できる」とされています(67条1項)。この取消しには、行政手続法第3章(聴聞などの手続き)は適用されません(67条2項)。
宅建士への処分(68条・68条の2)
- 指示:次のどれかにあたるとき(68条1項)。①自分が専任として働いていない事務所で、専任の宅建士だと表示することを業者に許した。②他人に自分の名義の使用を許し、その他人が宅建士だと表示した。③宅建士の事務に関して不正または著しく不当な行為をした。
- 事務禁止:上の①〜③にあたるとき、または指示に従わないとき、「一年以内の期間を定めて」宅建士としての事務を禁止できる(68条2項)。
- だれができるか:指示と事務禁止は、登録をしている知事と、宅建士が事務をしている地域の知事ができる(68条1項〜4項)。
- 登録消除:登録をしている知事が、次のとき「消除しなければならない」(68条の2第1項)。登録の欠格事由(18条1項1〜8号・12号)にあたることになった。不正の手段で登録や宅建士証の交付を受けた。①〜③にあたり情状が特に重い、または事務禁止の処分に違反した。
- 宅建士証をまだ持っていない登録者:宅建士としてすべき事務を行い、情状が特に重いときも、登録が消除される(68条の2第2項3号)。
事務禁止を受けた宅建士は、宅建士証を知事に「提出」し、登録が消除されたときは「返納」します。この区別は宅建士の登録と宅建士証をわかりやすくで整理しています。
処分の前後の手続き(69条〜72条)
- 聴聞(ちょうもん=処分の前に言い分を聞く手続き):65条(指示・業務停止)と68条(指示・事務禁止)の処分をするときは、行政手続法の区分にかかわらず聴聞を行う(69条1項)。免許取消し(66条)や登録消除(68条の2)の聴聞にも、次の決まりがかかる(69条2項)。
- 聴聞の期日の1週間前までに通知し、期日と場所を公示する。審理は公開で行う(69条2項・16条の15第3項・5項)。
- 公告:業務停止(65条2項・4項)と免許取消し(66条)などをしたときは、公告しなければならない(70条1項)。指示(65条1項・3項)はこの公告の対象に入っていない。
- 通知:業務地の知事が指示・業務停止をしたときは、免許をくれた大臣や知事に報告・通知する。宅建士の場合は、登録をしている知事に通知する(70条3項・5項)。
- 指導と立入検査:大臣はすべての業者に、知事は地域内の業者に、指導・助言・勧告ができる(71条)。必要があれば、報告を求めたり事務所に立ち入って帳簿などを検査させたりできる(72条1項)。
罰則(79条〜86条)
| 主な違反 | 刑罰 | 条文 |
|---|---|---|
| 不正の手段で免許、無免許営業、名義貸しで営業させる、業務停止中の営業 | 3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金(両方も) | 79条 |
| 重要な事項の故意の不告知・不実告知 | 2年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金(両方も) | 79条の2 |
| 不当に高額の報酬の要求 | 1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(両方も) | 80条 |
| 誇大広告、届出前の開業、不当な履行遅延、手付の貸付けなど | 6月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(両方も) | 81条 |
| 無免許での表示・広告、報酬の超過受領、宅建士不足の放置など | 100万円以下の罰金 | 82条 |
| 変更の届出をしない、37条書面、証明書・標識・帳簿、秘密の漏えいなど | 50万円以下の罰金 | 83条 |
| 宅建士証の返納・提出・提示をしない など | 10万円以下の過料 | 86条 |
- 両罰規定(84条):従業者などが業務として違反したら、行為をした人のほかに法人などにも罰金。79条・79条の2の違反なら法人は1億円以下、それ以外は各条と同じ額。秘密の漏えい(83条1項3号)は除かれる。
- 秘密の漏えい:告訴がなければ起訴できない(83条2項)。
- 過料(かりょう):刑罰ではない行政上の制裁金。罰金とは別物です。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:みなと不動産が、岐阜県の取引で重要な事項を故意に告げなかった。岐阜県知事は、47条違反を理由に、1年以内の業務停止を命じることができます(65条4項2号)。
- 当てはまらない例:同じ違反で、岐阜県知事がみなと不動産の免許を取り消すことはできません。66条は「その免許を受けた」業者についての処分で、取り消せるのは愛知県知事だけです。
- 当てはまる例:みなと不動産の役員の一人に、拘禁刑の判決が確定した。役員が欠格事由(5条1項5号)にあたることになったので、愛知県知事は免許を取り消さなければなりません(66条1項3号)。
- ひっかけやすい例:免許を受けたあと、1年たっても店を開けていない。この場合は「取り消すことができる」ではなく「取り消さなければならない」です(66条1項6号)。
- ひっかけやすい例:みなと不動産の事務所の場所が分からなくなった。公告から30日たっても申出がなければ、免許を取り消すことが「できる」です(67条1項)。こちらは義務ではありません。
- ひっかけやすい例:あやかさんが岐阜県で宅建士の事務をしていて名義貸しをした。岐阜県知事は指示と事務禁止ができますが、登録を消除できるのは登録をしている愛知県知事だけです(68条3項・4項、68条の2)。
似ているルールとの違い
業者への処分と宅建士への処分は、形がよく似ています。並べると次のとおりです。
| 重さ | 宅建業者 | 宅建士 |
|---|---|---|
| 軽い | 指示(65条1項・3項) | 指示(68条1項・3項) |
| 中くらい | 業務停止:1年以内(65条2項・4項) | 事務禁止:1年以内(68条2項・4項) |
| 重い | 免許取消し:免許権者だけ(66条・67条) | 登録消除:登録知事だけ(68条の2) |
| 公告 | 業務停止・免許取消しなど(70条1項) | 70条1項の対象に入っていない |
もう一つ、免許をもらえない人(5条)と、免許を取り消される人(66条)も重なります。免許の欠格事由そのものは宅建業の免許をわかりやすくで説明しています。66条1項1号は5条1項のすべての号ではなく、1号・5〜7号・10号・14号だけを挙げている点に注意します。
試験ではここをまちがえやすい
監督処分は宅建試験の宅建業法で、「だれが」「何を」できるかを入れかえた形で問われやすいテーマです。
- 処分する人の入れかえ:業務地の知事が免許取消しや登録消除をできるかのように書く形。業務地の知事ができるのは指示と停止(事務禁止)までです。
- 「できる」と「しなければならない」:66条1項と68条の2は「しなければならない」。66条2項(条件違反)と67条(所在不明)は「できる」。
- 期間の数字:業務停止も事務禁止も「1年以内」。事業を始めない・休むは「1年」。所在不明は公告から「30日」。聴聞の通知は期日の「1週間前まで」。
- 公告の有無:指示処分は70条1項の公告の対象に入っていません。業務停止と免許取消しは公告が必要です。
- 聴聞の公開:宅建業法の聴聞は公開で行います(69条2項・16条の15第5項)。行政手続法の聴聞(原則は非公開)とのちがいとして問われる形があります。行政手続法の側から見た聴聞は聴聞と弁明の機会の記事で扱っています。
- 罰則の重さの順:無免許・名義貸し・業務停止中の営業が3年、重要な事項の不告知が2年。法人の罰金1億円は、この2つの条(79条・79条の2)だけです。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
愛知県知事の免許を受けた宅建業者が、岐阜県内の取引で宅建業法に違反し、情状が特に重いとき、岐阜県知事はその業者の免許を取り消すことができる。
答え:✕
免許取消しは、免許をくれた大臣か知事(この場合は愛知県知事)だけができます(66条)。岐阜県知事ができるのは、指示と1年以内の業務停止です(65条3項・4項)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者が免許を受けてから1年以内に事業を始めなかったときは、免許をくれた大臣か知事は、その免許を取り消さなければならない。
答え:○
66条1項6号のとおりです。引き続いて1年以上事業を休んだときも同じです。「取り消すことができる」ではない点に注意します。
問3(このサイトのオリジナル問題)
都道府県知事は、宅建業者に指示処分をしたときは、その旨を公告しなければならない。
答え:✕
70条1項で公告が必要なのは、業務停止(65条2項・4項)や免許取消し(66条)などです。指示(65条1項・3項)は入っていません。
まとめ
- 業者:指示 → 業務停止(1年以内)→ 免許取消し。宅建士:指示 → 事務禁止(1年以内)→ 登録消除。
- 指示と停止は、業務地の知事もできる。免許取消しと登録消除は、免許権者・登録知事だけ。
- 66条1項・68条の2は「しなければならない」。条件違反(66条2項)と所在不明(67条、公告から30日)は「できる」。
- 65条・68条の処分の前には聴聞(公開)。業務停止・免許取消しは公告、指示は公告の対象外。
- 罰則は無免許・名義貸し・停止中の営業が最も重く3年以下の拘禁刑など。法人の1億円は79条・79条の2だけ。
このサイトで次に読むなら、処分の理由になる行為を具体的に並べた宅建業者がしてはいけないことをわかりやすくがおすすめです。何が違反になるかが分かると、処分の問題も読みやすくなります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 宅地建物取引業法(e-Gov 法令検索):5条、16条の15、32条、44条、47条、65条、66条、67条、68条、68条の2、69条、70条、71条、72条、75条、79条、79条の2、80条、81条、82条、83条、84条、85条、86条。現行の条文(最終改正の施行日は2026年4月1日)で確認しました。
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」:出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているもの。
働く人の法律試験ノート