国政調査権と議院の権能:62条の範囲と限界、議院規則・懲罰・資格争訟

ひとことで言うと、国政調査権は、衆議院と参議院がそれぞれ、国政について調べるための権限です。調査のために、証人の出頭と証言、記録の提出を求めることができます(日本国憲法62条)。国会全体の権限ではなく、各議院が単独で持つ権限です。

この記事では、「国会の権能」と「各議院の権能」を分けた表を軸に、国政調査権の中身と、証人についての法律(議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律。以下「議院証言法」)を説明します。議員の不逮捕特権・免責特権と国会の種類は国会議員の特権と国会の種類で扱っています。

身近な例で考えると

登場するのは、民間の会社の元社長・たなかさんです。参議院が、国の補助金の使い方を調べることになりました(架空の話です)。

  1. 参議院が、補助金の使い方を調べるため、たなかさんに証人として出頭と証言を求めた。衆議院はこの調査に加わっていない。
  2. 議院証言法1条により、各議院から国政に関する調査のために証人として求められたときは、法律に別段の定めがある場合を除き、何人でも応じなければならない。
  3. たなかさんは宣誓して証言した。質問の中に、たなかさんの配偶者が刑事訴追を受けるおそれのある事柄があった。たなかさんは、その点の証言を拒むことができる(議院証言法4条1項1号)。
  4. 宣誓した証人がうそを述べると、3月以上10年以下の拘禁刑の対象になる(同法6条1項)。正当な理由なく出頭しないときなども、1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金の対象になる(同法7条1項)。

この調査は、参議院だけで始められます。62条が「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ」と書いているからです。

たとえ話と、本物との違い

学校の生徒総会が二つの部会に分かれていて、それぞれの部会が、学校のお金の使い方を独自に調べられる、という仕組みに似ています。ただし本物の国政調査では、呼ばれた証人は法律で応じる義務を負い、うその証言には刑罰があります。一方で、証言を拒める場合も法律で決まっています。

条文ではこう決まっている

国政調査権(62条)

原文は「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」です。かみくだくと、次のとおりです。

  • だれが:衆議院と参議院が、それぞれ(各々)。
  • 何を:国政に関する調査。
  • どうやって:証人の出頭と証言、記録の提出を要求できる。

証人についての決まり(議院証言法)

  • 応じる義務:議案などの審査や国政に関する調査のため、証人として出頭・証言・書類の提出を求められたら、別段の定めがある場合を除き、何人でも応じなければならない(1条)。
  • 拒める場合:自分や、配偶者・三親等内の血族・二親等内の姻族などが、刑事訴追を受けたり有罪判決を受けたりするおそれのあるときは、宣誓・証言・書類の提出を拒める(4条1項)。
  • 公務員の職務上の秘密:本人や役所から職務上の秘密だと申し立てられたら、その役所か監督庁の承認がなければ証言を求められない(5条1項)。承認を拒むときは理由を疏明(そめい=一応の説明)する(同条2項)。議院が理由を受け入れられないときは、証言が「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明」を求められる(同条3項)。求めてから10日以内に内閣が声明を出さなければ、証人は証言しなければならない(同条4項)。

調査の限界に関わる条文

62条の言葉には、調査の限界は書かれていません。どこまで調べられるかは、次の条文との関係で考えることになります。

  • 裁判官の独立:「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」(76条3項)。調査が、裁判の中身に口を出す形になれば、この条文とぶつかるおそれがあります。
  • 人権:「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」(38条1項)。議院証言法4条の証言拒否は、この考え方とつながる決まりです。
  • 公務員の秘密:議院証言法5条の承認・疏明・内閣の声明の手続。

試験の準備では、まず62条の主語(各議院)と、議院証言法の決まり(応じる義務・拒める場合・秘密の手続)を、条文の言葉で押さえておきます。

ほかの「各議院の権能」(55条・57条・58条)

  • 資格争訟(しかくそうしょう)の裁判:各議院は、その議員の資格に関する争いを裁判する。議席を失わせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決が要る(55条)。
  • 役員の選任:各議院は、議長その他の役員を選ぶ(58条1項)。
  • 議院規則:各議院は、会議その他の手続と内部の規律に関する規則を定める(58条2項)。
  • 懲罰(ちょうばつ):各議院は、院内の秩序をみだした議員を懲罰できる。除名には、出席議員の3分の2以上の多数による議決が要る(58条2項ただし書)。懲罰の種類は、公開議場での戒告・陳謝、一定期間の登院停止、除名の4つ(国会法122条)。
  • 秘密会:会議は公開が原則で、出席議員の3分の2以上の多数で議決すれば秘密会を開ける(57条1項)。

特別多数の定めがない議事は、出席議員の過半数で決めます(56条2項)。除名以外の懲罰には特別多数の定めがないので、出席議員の過半数で決まります。

国務大臣の出席(63条)

内閣総理大臣その他の国務大臣は、どちらかの議院に議席を持っていてもいなくても、いつでも議案について発言するため議院に出席できます。答弁や説明のため出席を求められたときは、出席しなければなりません(63条)。議院の側から見ると、内閣に説明を求める手段の一つです。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:参議院が、衆議院とは別に、補助金の使い方を調べるため、たなかさんに証人として出頭を求める。62条の「各々」に当たります。
  • 当てはまる例:たなかさんが、自分の配偶者が刑事訴追を受けるおそれのある事柄について証言を拒む。議院証言法4条1項1号で認められています。
  • 当てはまらない例:裁判官をやめさせる裁判(弾劾裁判)を、参議院が単独で行う。弾劾裁判所は、国会が両議院の議員で組織して設けるものです(64条1項)。各議院の権能ではありません。弾劾裁判の手続は裁判官の身分保障の記事で説明しています。
  • 当てはまらない例:資格争訟の裁判で、出席議員の過半数の賛成だけで議員の議席を失わせる。55条ただし書は、出席議員の3分の2以上の多数を求めています。
  • ひっかけやすい例:懲罰はどれも3分の2が要る、と考えること。特別多数が要るのは除名だけで、登院停止などは出席議員の過半数で決まります(58条2項・56条2項)。
  • ひっかけやすい例:公務員の証人が職務上の秘密を理由に証言を拒んだら、それで終わり、と考えること。議院は内閣の声明を求められ、10日以内に声明がなければ、証人は証言しなければなりません(議院証言法5条3項・4項)。

似ているルールとの違い

国会の権能と各議院の権能

権能持つのは条文
法律の議決国会(両議院で可決)59条
予算の議決・条約の承認国会60条・61条
弾劾裁判所の設置国会64条
内閣総理大臣の指名国会67条
憲法改正の発議国会(各議院の総議員の3分の2以上)96条
国政調査各議院62条
資格争訟の裁判各議院55条
役員の選任・規則・懲罰各議院58条

見分け方は、条文の主語です。「国会は」「国会の議決で」なら国会の権能、「両議院は、各々」なら各議院の権能です。

議院で決めるときの数

決めること必要な数条文
資格争訟で議席を失わせる出席議員の3分の2以上55条
懲罰で除名する出席議員の3分の2以上58条2項
秘密会を開く出席議員の3分の2以上57条1項
除名以外の懲罰・ふつうの議事出席議員の過半数56条2項
議事を開く(定足数)総議員の3分の1以上の出席56条1項
表決を会議録に記載出席議員の5分の1以上の要求57条3項

議院の中で決める3分の2は、どれも「出席議員」が分母です。「総議員」の3分の2は、憲法改正の発議(96条1項)です。分母の違いは憲法の勉強法の記事でも、人数の例で説明しています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 主語の入れ替え:「国政調査権は国会の権能で、両議院の議決が一致しなければ行使できない」とする形。62条は「両議院は、各々」です。
  • 国会と各議院:弾劾裁判所は国会(64条)、資格争訟の裁判と懲罰は各議院(55条・58条)。
  • 特別多数の範囲:3分の2が要るのは、懲罰のうち除名だけ(58条2項ただし書)。登院停止などは過半数(56条2項)。
  • 分母:資格争訟・除名・秘密会は「出席議員」の3分の2。憲法改正の発議は「総議員」の3分の2。
  • 国務大臣の出席:「議席のない国務大臣は、求められても出席しなくてよい」とする形。63条は、議席の有無にかかわらず、求められたら出席しなければならないとしています。
  • 証言拒否:自分だけでなく、配偶者や一定の親族が刑事訴追を受けるおそれのあるときも拒める(議院証言法4条1項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
参議院は、国の補助金の使い方を調べるため、衆議院とは別に、単独で、民間の会社の元社長Aに証人として出頭と証言を求めることができる。

答え:○ 分かれ目は、国政調査権の主体です。62条は「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ」と定め、証人の出頭・証言の要求もできるとしています。国政調査権は各議院がそれぞれ持つ権限なので、参議院だけで行えます。法律の議決や首相の指名のような「国会」の権能(59条・67条)と取り違えると、両議院の一致が要ると考えて✕に見えます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
国務大臣Bは、衆議院にも参議院にも議席を持たない民間出身の大臣である。Bが議院から答弁のため出席を求められた場合でも、議席を持たないBには、議院に出席する義務はない。

答え:✕ 分かれ目は、出席が「できる」のか「しなければならない」のかと、議席の有無が関係するかです。63条は、国務大臣は議席を「有すると有しないとにかかはらず」議案について発言するため出席でき、答弁や説明のため出席を求められたときは「出席しなければならない」と定めています。正しくは、Bにも出席の義務があります。出席できるという前半だけを覚えていると○に見えます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
衆議院が、院内の秩序をみだした議員Cに、一定期間の登院停止の懲罰を科す。この議決には、除名の場合と異なり、出席議員の3分の2以上の多数は要らない。

答え:○ 分かれ目は、特別多数が要る懲罰の範囲です。58条2項ただし書が出席議員の3分の2以上を求めるのは「議員を除名するには」の場合だけです。登院停止にはその定めがないので、56条2項により出席議員の過半数で決まります。資格争訟で議席を失わせる場合(55条)や除名の3分の2を、懲罰全体に広げて覚えていると✕に見えます。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 国政調査権は各議院がそれぞれ持つ。証人の出頭・証言・記録の提出を求められる(62条)。
  • 証人は原則として応じる義務がある。自分や近い親族が刑事訴追を受けるおそれがあれば拒める。公務員の秘密は承認・疏明・内閣の声明の手続(議院証言法1条・4条・5条)。
  • 各議院の権能:資格争訟(55条)、役員の選任・規則・懲罰(58条)。国会の権能:法律・予算・条約・弾劾裁判所・首相の指名・改正の発議。
  • 議席を失わせる資格争訟・除名・秘密会は出席議員の3分の2以上。そのほかの懲罰は出席議員の過半数。

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参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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