株主代表訴訟をわかりやすく:会社に代わって取締役を訴える要件と流れ

ひとことで言うと、取締役が会社に損害を与えたのに、会社が責任を追及しないとき、株主が会社のために、会社に代わって取締役を訴えることができる、という仕組みです(会社法847条)。会社法では「責任追及等の訴え」と呼びます。いきなり訴えるのではなく、まず会社に「訴えてください」と請求し、会社が60日以内に訴えないときに、株主が訴えます。

この記事は、責任を追及する手続を扱います。取締役がどんなときに会社への責任を負うか(任務を怠った責任、利益相反取引など)は、取締役の責任の記事で説明しています。

身近な例で考えると

舞台は、上場している「みなみ食品」(公開会社で、監査役を置いている会社)です。登場人物は次のとおりです。

人物立場したこと
だいすけさんみなみ食品の取締役任務を怠り、会社に1億円の損害を与えた
ちひろさん株主(1年前から株を持っている)会社に、だいすけさんを訴えるよう請求した
みのりさんみなみ食品の監査役会社を代表して、ちひろさんの請求を受けた
  1. ちひろさんは、みなみ食品に、だいすけさんの責任を追及する訴えを起こすよう、書面で請求した。監査役設置会社では、この請求を受けるのは監査役で、監査役のみのりさんが会社を代表する(386条2項1号)。
  2. 請求の日から60日たっても、会社は訴えを起こさなかった。
  3. ちひろさんは、会社のために、だいすけさんを被告として訴えた(847条3項)。勝てば、だいすけさんは賠償金を会社に払う。
  4. ちひろさんは、訴えたあと遅滞なく、会社に訴訟告知(そしょうこくち=裁判が始まったことを知らせる手続)をした(849条4項)。会社は、そのことを公告するか、株主に通知する(849条5項)。

たとえるなら、マンションの管理組合が、共用部分をこわした人に修理代を請求しないとき、住民の一人が組合のために請求するようなものです。ただし本物のルールでは、株主が受け取るのではなく、勝って払われるお金は会社に入ります。株主は、会社の財産が戻ることで間接的に得をする立場です。

条文ではこう決まっている

だれが請求できるか(847条1項・2項)

会社請求できる株主根拠
公開会社6か月前から引き続き株式を持つ株主(定款でもっと短くできる)847条1項
公開会社でない会社株主であれば、保有期間は問わない847条2項
共通の除外定款で権利を行使できないとされた単元未満株主847条1項(189条2項)

公開会社とは、発行する株式の全部または一部について、譲渡で取得するのに会社の承認が要るという定款の定めを置いていない会社です(2条5号)。つまり、1種類でも自由に譲渡できる株式があれば公開会社です。すべての株式に譲渡の制限がある会社が「公開会社でない会社」で、保有期間の要件がありません。どちらの会社でも、株式の数(議決権の割合)の要件は、847条にはありません。

何の責任を追及できるか

847条1項は、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等、清算人の責任を追及する訴えなどを挙げています。役員等とは、取締役・会計参与・監査役・執行役・会計監査人のことです(423条1項)。範囲について、最高裁判所第三小法廷平成21年3月10日判決は、会社法の前の商法267条1項の代表訴訟について、取締役の地位にもとづく責任のほか、取締役が会社との取引で負った債務についての責任も含まれるとしました。

訴えられない場合・すぐ訴えられる場合

  • 訴えられない(847条1項ただし書):責任追及等の訴えが、その株主や第三者の不正な利益を図る目的、または会社に損害を加える目的のときは、請求できません。
  • 60日を待たない(847条5項):60日を待つと会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合は、株主は直ちに訴えられます。ただし、1項ただし書の目的があるときは別です。
  • 訴えない理由の通知(847条4項):会社が60日以内に訴えない場合、請求した株主などから求められたときは、会社は、遅滞なく、訴えない理由を書面などで通知します。

訴えたあとの決まり(848条〜853条)

項目決まり条
どこに訴えるか会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所だけ848条
訴えの額の扱い訴訟の目的の価額の算定では、財産権上の請求でない請求とみなす(訴訟の目的の価額は160万円とみなされるので、請求額が大きくても訴えの手数料は増えない。民事訴訟費用等に関する法律4条2項)847条の4第1項
担保被告の申立てで、裁判所は株主に担保を命じられる。被告は訴えが悪意によることを疎明する847条の4第2項・3項
参加株主や会社は、共同訴訟人として、または一方を補助するため参加できる849条1項
会社が取締役の側に参加監査役(2人以上なら各自)などの同意が要る849条3項
和解会社が当事者でない和解は、会社の承認がなければ確定判決と同じ効力を持たない。裁判所の通知から2週間以内に書面で異議がなければ承認とみなす850条1項〜3項
勝ったとき必要な費用(訴訟費用を除く)や弁護士の報酬のうち相当な額を会社に請求できる。一部勝訴も含む852条1項
負けたとき悪意があったときを除き、会社に損害を賠償しなくてよい852条2項
なれあいの判決原告と被告が共謀して会社の権利を害する目的で判決をさせたときは、再審の訴えができる853条1項

和解の場面では、総株主の同意で責任を免除する424条などは適用されません(850条4項)。訴えの途中で株主でなくなっても、株式交換・株式移転や合併で完全親会社などの株式を取得したときは、訴えを続けられます(851条1項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(1年保有の株主):上のちひろさんの例。公開会社で6か月以上持っているので請求でき、60日たっても会社が訴えないので、会社のために訴えられます。
  • 当てはまらない(公開会社で3か月保有):みなみ食品の株を3か月前に買ったばかりの株主は、定款で期間を短くしていない限り、請求できません。
  • 当てはまる(非公開会社で1か月保有):株式の譲渡に承認が要る家族経営の会社で、1か月前に株を相続した株主でも、請求できます(847条2項)。
  • 当てはまらない(会社を困らせる目的):会社の信用を落として株価を下げる目的で訴えようとする場合は、請求できません(847条1項ただし書)。
  • ひっかけやすい(すぐ訴える):取締役が財産を隠そうとしていて、60日待つと回収できなくなるおそれがある。この場合は、提訴の請求をしても60日を待たずに直ちに訴えられます(847条5項)。

似ているルールとの違い

株主が自分で動ける仕組みは、ほかにもあります。数字と期間の違いで取り違えやすいので、並べます。会社法の数字は会社法の数字の一覧でまとめて確かめられます。

仕組みだれのため保有の要件(公開会社)
責任追及等の訴え(847条)会社のため。賠償金は会社に入る6か月前から引き続き。株式の数の要件はない
最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え(847条の3)子会社のため親会社の議決権または株式の100分の1以上を6か月前から
旧株主による責任追及等の訴え(847条の2)もとの会社のため株式交換などの効力が生じた日の6か月前からその日まで株主だった者

847条の3(いわゆる多重代表訴訟)も、親会社が公開会社でなければ6か月の要件はありません(847条の3第6項)。代表訴訟は、取締役が負う責任の中身(423条など)とは別の、責任を追及する「入口」の手続だと分けておくと、整理しやすくなります。会社の機関の全体は機関設計の記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 保有期間:公開会社は6か月前から引き続き(定款で短縮可)。公開会社でない会社は期間の要件なし。株式の数の要件はない。
  • 待つ期間:請求の日から60日。回復することができない損害のおそれがあれば直ちに。
  • 訴訟告知の主体:訴えた株主が、会社に訴訟告知をする(849条4項)。会社は、公告か株主への通知をする(849条5項)。
  • 請求を受ける人:監査役設置会社では、取締役の責任追及の請求は監査役が会社を代表して受ける(386条2項1号)。代表取締役ではありません。
  • 費用と負けたとき:一部勝訴でも相当額を会社に請求できる。負けても、悪意がなければ会社に賠償しなくてよい。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
公開会社でないX社の株式を、Aは2か月前に取得した。X社の定款には保有期間についての定めがない。この場合でも、Aは、X社に対し、取締役Bの責任を追及する訴えを起こすよう請求できる。

答え:○ 分かれ目は、会社が公開会社かどうかです。会社法847条2項は、公開会社でない株式会社について、1項の「6か月前から引き続き株式を有する」という要件を外しています。定款に定めがないので6か月が要ると考えると✕にしてしまいます。6か月の保有が要るのは公開会社の場合で、定款でこれより短くすることもできます(847条1項)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
公開会社X社の株主Aが、会社のために取締役Bに対する責任追及等の訴えを起こした。この場合、X社は、遅滞なく、Aに対して訴訟告知をしなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、訴訟告知をする人とされる人です。会社法849条4項は、責任追及等の訴えを起こした株主が、遅滞なく、会社に対して訴訟告知をしなければならないと定めています。正しくは、AがX社に訴訟告知をします。X社が、訴えがあったことを公告するか株主に通知する義務(849条5項)と入れ替えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
株主Aが会社のために起こした責任追及等の訴えで、請求の一部だけが認められた。この場合でも、Aは、支払うべき弁護士の報酬のうち相当と認められる額の支払を、会社に請求できる。

答え:○ 分かれ目は、一部勝訴が含まれるかと、だれに請求するかです。会社法852条1項は、株主が勝訴(一部勝訴を含む)した場合に、必要な費用(訴訟費用を除く)や弁護士の報酬について、その範囲内で相当と認められる額の支払を会社に請求できると定めています。全部勝たないと請求できない、あるいは負けた取締役に請求する、と考えると✕にしてしまいます。負けた場合は、悪意があったときを除き、会社への損害賠償の義務を負わないという別の規定(852条2項)です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。会社法の条文を事例で20問確かめたい人は、会社法の一問一答も使えます。

まとめ

  • まず会社に提訴を請求し、60日以内に会社が訴えなければ、株主が会社のために訴える(847条1項・3項)。
  • 公開会社は6か月前から引き続き保有(定款で短縮可)。公開会社でない会社は期間の要件なし(847条2項)。
  • 不正な利益・会社に損害を加える目的なら請求できない。回復できない損害のおそれがあれば直ちに訴えられる。
  • 管轄は本店所在地の地方裁判所だけ。株主が会社に訴訟告知し、会社は公告か株主に通知する。
  • 一部勝訴でも相当額の費用を会社に請求できる。負けても悪意がなければ会社に賠償しない。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の会社法を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。

このサイトで次に読むなら、取締役の責任の記事です。代表訴訟で追及する責任の中身(任務を怠った責任、利益相反取引の推定など)を、この記事の手続とつなげて確かめられます。