宅建の民法の横断問題:制度をまたいで比べる問の解き方

宅建の民法には、1つの言葉を軸に、いくつもの制度をまたいで問う問題があります。たとえば「辞任」という言葉で、委任の受任者・後見人・遺言執行者などを並べ、それぞれの辞め方を問う形です。この記事では、こうした問題を「横断問題」と呼びます。

解き方の結論は3つです。1つ目、問題文と4つの肢に共通する言葉(辞任・死亡・期間など)を見つける。2つ目、肢ごとに「どの制度の話か」に印を付け、その制度でその言葉がどう決まっているかを思い出す。3つ目、ふだんの勉強で、何度も出てくる言葉ごとに自分で比較表を作っておく。制度ごとに覚えた知識を、言葉ごとに並べ直しておくことが、この問題の準備になります。

横断問題はどれくらい出ているか

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、1問の中で民法の複数の制度をまたぐ問題(当サイトの分類で「民法(総合)」)を主な論点とする問題は15問あり、13回の試験に出ていました。

直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は2回ずつ)では3問で、そのうち2問は「正しいものはいくつあるか」と数を問う個数問題でした。令和4年度には、「辞任」という1つの言葉で、委任・親権・後見・遺言執行者をまたぐ形の問題が出ています。分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。

毎回出る論点ではありません。それでも、横断問題で問われる中身は、委任・代理・相続・貸借など、ほかの問題でも問われる条文です。新しい知識を足すより、すでに覚えた知識を並べ直すことが点につながる問題、と考えると取り組みやすくなります。

横断問題は、なぜ解きにくいのか

ふだんの勉強は、制度ごとに進みます。委任の章で委任のルールを読み、後見の章で後見のルールを読みます。頭の中の知識も、制度ごとの引き出しに入っています。

横断問題は、その引き出しを横に開けさせます。「辞任」と聞かれて、委任の引き出し、後見の引き出し、遺言の引き出しを順に開け、同じ言葉の答えを取り出して比べなければなりません。しかも、制度どうしの違いが一語(「正当な事由」と「やむを得ない事由」など)しかないことがあります。

さらに、横断問題は個数問題の形をとることがあります。個数問題は、4つの肢をすべて正しく判定しないと点になりません。解き方は個数問題の解き方の記事で説明しています。

解き方の手順

  1. 共通する言葉に線を引く。問題文の柱(「〜に関する次の記述のうち」)と4つの肢を見て、全部に出てくる言葉を探します。「辞任」「死亡」「期間を定めなかったとき」「承諾」などです。
  2. 肢ごとに制度名を書く。肢の横に「委任」「後見」「使用貸借」のように、どの制度の話かを書きます。主語(受任者・後見人・借主など)を見れば分かります。
  3. 制度ごとの答えを思い出し、肢と比べる。その制度で、その言葉がどう決まっているかを思い出します。ここで比較表が頭にあると速くなります。
  4. 違いが一語の所に印を付ける。「正当な事由」と「やむを得ない事由」、「借主の死亡」と「貸主の死亡」のように、制度の間で入れ替えやすい所が、正誤の分かれ目になりやすい所です。
  5. 自信のない肢は△にして先に進む。個数問題なら、○✕の確かな肢から数を絞ります。

比較表の例1:「辞める」ときに何がいるか

自分で作る比較表の見本です。条文は令和8年4月1日施行の民法で確かめています。

立場辞めるときの条件条文
受任者(委任)いつでも解除できる。相手に不利な時期などは損害賠償(やむを得ない事由があれば不要)651条
親権を行う父母やむを得ない事由+家庭裁判所の許可837条1項
後見人正当な事由+家庭裁判所の許可844条
遺言執行者正当な事由+家庭裁判所の許可1019条2項

この表で見るべき所は2つです。1つは、委任だけは家庭裁判所の許可がいらないこと。委任は当事者の契約なので、いつでもやめられます。もう1つは、親権だけが「やむを得ない事由」で、後見人・遺言執行者は「正当な事由」であることです。家庭裁判所の許可がいる3つの中で、言葉が1つだけ違います。委任のくわしいルールは請負と委任の記事にあります。

比較表の例2:だれが死亡すると終わるか

制度終わる死亡条文
委任委任者・受任者のどちらの死亡でも653条1号
代理権本人・代理人のどちらの死亡でも111条1項
使用貸借借主の死亡(貸主の死亡では終わらない)597条3項
賃貸借どちらの死亡でも終わらない(賃借人の地位も相続される)896条
配偶者居住権配偶者の死亡1036条(597条3項の準用)

死亡のほかに、破産と後見開始も並べておくと、さらに強くなります。委任は、委任者・受任者の破産手続開始と、受任者の後見開始でも終わります(653条2号・3号)。代理権は、代理人の破産手続開始・後見開始で消えます(111条1項2号)。本人(委任者)の後見開始は、どちらの条文にもありません。代理のしくみは代理の記事で確かめてください。

比較表の例3:期間を決めなかったとき、どう終わらせるか

契約期間を決めなかったときの終わらせ方条文
消費貸借貸主は相当の期間を定めて返還を催告。借主はいつでも返せる591条
使用貸借目的も決めていなければ、貸主はいつでも解除できる。借主もいつでも解除できる598条2項・3項
賃貸借各当事者はいつでも解約の申入れ。土地は1年、建物は3か月で終わる617条1項
委任期間に関係なく、各当事者はいつでも解除できる651条1項

賃貸借の「土地1年・建物3か月」は民法の数字です。建物の所有を目的とする土地の賃貸借や、建物の賃貸借には借地借家法の別のルールがあります。民法の問題か借地借家法の問題かを、柱の書き方(「民法の規定によれば」「借地借家法の規定によれば」)で確かめてから比べます。

自作の4肢で練習する

例題(このサイトのオリジナル問題)
期間を定めなかった契約に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。1 消費貸借の当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、いつでも直ちに返還を請求でき、借主はその請求の時に返還しなければならない。2 使用貸借の当事者が期間も使用・収益の目的も定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。3 建物の所有を目的としない土地の賃貸借で期間を定めなかったときは、解約の申入れの日から3か月を経過することによって終了する。4 委任の当事者が委任の期間を定めたときは、その期間中は、各当事者は委任の解除をすることができない。

答え:2 共通する言葉は「期間を定めなかった(定めた)とき」です。肢ごとに制度名を書くと、1は消費貸借、2は使用貸借、3は賃貸借、4は委任です。

  • 1 ✕:貸主は「相当の期間を定めて」返還の催告をすることができます(591条1項)。正しくは、すぐ返す義務はなく、相当の期間がいります。いつでも解除できる使用貸借(598条2項)と入れ替えた形です。
  • 2 ○:期間も目的も定めなかった使用貸借は、貸主がいつでも解除できます(598条2項)。ただで貸しているので、貸主を長く縛らない作りです。
  • 3 ✕:民法の土地の賃貸借は、解約の申入れから1年で終わります(617条1項1号)。正しくは1年で、3か月は建物の賃貸借の期間(同項2号)です。
  • 4 ✕:委任は、各当事者がいつでも解除できます(651条1項)。正しくは、期間を定めていても解除はでき、相手に不利な時期の解除などは損害賠償の問題になるだけです(同条2項)。

この例題で正解できなかった肢があれば、その制度の記事に戻るのではなく、比較表の該当する行を読み直してください。横断問題で必要なのは、制度ごとの深い知識より、同じ言葉の答えを並べて違いを言えることです。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
Aは、Bに土地の売却を委任し、その代理権を与えた。その後、Aが後見開始の審判を受けたとしても、Bの代理権は、そのことを理由としては消滅しない。

答え:○ 分かれ目は、だれの後見開始が終了の原因になるかです。代理権は、本人の死亡と、代理人の死亡・破産手続開始の決定・後見開始の審判で消えます(民法111条1項)。委任も、受任者の後見開始では終わりますが、委任者の後見開始は終了の原因にありません(653条3号)。本人が判断する力をなくしたら代理も終わると考えると✕にしてしまいます。代理人Bが後見開始の審判を受けた場合は、代理権が消えます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
後見人は、やむを得ない事由があるときに限り、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

答え:✕ 分かれ目は、辞任の条件を表す一語です。後見人は「正当な事由」があるときに、家庭裁判所の許可を得て辞任できます(844条)。正しくは「やむを得ない事由」ではなく「正当な事由」です。「やむを得ない事由」と家庭裁判所の許可で辞するのは、親権を行う父母の親権・管理権の辞任(837条1項)で、これと入れ替えた形です。遺言執行者は後見人と同じく「正当な事由」です(1019条2項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
Aは、自分の所有する建物をBにただで貸した(使用貸借)。この使用貸借は、貸主Aが死亡したときにも、借主Bが死亡したときにも、終了する。

答え:✕ 分かれ目は、どちらの死亡で終わるかです。使用貸借は「借主の死亡によって」終了します(597条3項)。正しくは、借主Bの死亡では終わりますが、貸主Aの死亡では終わらず、Aの相続人が貸主の立場を引き継ぎます。どちらの死亡でも終わるのは委任(653条1号)で、これと混ぜた形です。賃貸借は、どちらの死亡でも終わりません(896条)。

ふだんの勉強での備え方

  • 言葉ごとのページを作る。ノートやスマホのメモに「辞任」「死亡」「期間の定めがないとき」「承諾・許可」のページを作り、新しい制度を学ぶたびに1行足します。この記事の3つの表が、その最初の形です。
  • 1行は「制度・答え・条文」の3つだけにする。表は4列以下の短いセルにし、違いが一語の所だけ太字にします。
  • 問題を解いて迷った肢を書き足す。○✕ドリルや過去の試験の問題で迷った肢があれば、その肢の言葉のページに行を足します。迷った所が、自分にとっての横断の軸です。
  • 週に1回、表を見ずに埋める。表を隠して、制度名だけを見て答えと条文を思い出します。読み返すより思い出す練習のほうが記憶に残りやすいという研究は、思い出す練習の記事で紹介しています。

権利関係全体の進め方は宅建の権利関係の勉強法にまとめています。

まとめ

  • 横断問題は、1つの言葉で民法の複数の制度を並べて問う問題。全40回で主15問、直近10回で3問(うち2問は個数問題)。
  • 解き方:共通する言葉を見つける→肢ごとに制度名を書く→制度ごとの答えと比べる→違いが一語の所に印を付ける。
  • 「辞任」は、委任はいつでも、親権は「やむを得ない事由」、後見人・遺言執行者は「正当な事由」+家庭裁判所の許可。
  • 「死亡」は、委任・代理は両方、使用貸借は借主だけ、賃貸借は終わらない。
  • 制度ごとの知識を、言葉ごとの比較表に並べ直しておくのが準備になる。

権利関係の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。迷った肢は、この記事の表の形で書き足していくと、横断問題の準備になります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。

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