ひとことで言うと、行政手続条例は、行政手続法が適用されない地方公共団体の手続について、地方公共団体が自分で定める条例です。行政手続法3条3項は、地方公共団体の機関がする条例・規則にもとづく処分、地方公共団体の機関の行政指導、条例・規則にもとづく届出、地方公共団体の機関が命令等を定める行為について、第2章から第6章までを適用しないとしています。そのかわり46条が、地方公共団体に、必要な措置を講ずるよう努めることを求めています。
3条1項・2項・4条を含めた適用除外の全体は行政手続法の適用除外の記事で一覧にしています。この記事では、1人の市長の仕事を例に「どの章がかかり、どこからが条例の出番か」を章ごとに分け、規則・審査基準・46条の範囲という、一覧では見えにくい所を扱います。
身近な例で考えると
架空のみなと市の市長と、市内で店を営むさとしさんの話です。
- さとしさんは、ある法律にもとづく営業の許可を、みなと市長に申請した。市長は、この許可を判断するための審査基準を作って、窓口に備え付けている。
- その審査基準を作るとき、市は、行政手続法の意見公募手続(パブリックコメント)をしなかった。
- 別の件で、市長は、市長が定めた規則にもとづいて、さとしさんに不利益な処分をしようとしている。
- 市の職員は、さとしさんに、店の前の看板を小さくするよう行政指導をした。
1の許可は、市長がする処分でも根拠が法律なので、行政手続法の第2章(申請に対する処分)が適用されます。市長は審査基準を定め、公にしておく必要があります(5条)。一方、2の審査基準を作る行為は、地方公共団体の機関が「命令等を定める行為」なので、第6章の意見公募手続は適用されません(3条3項)。3の規則にもとづく処分と、4の職員の行政指導にも、行政手続法の第2章から第6章は適用されません。これらの手続をどう決めるかが、行政手続条例などの役目です。
たとえるなら、全国大会のルールブック(行政手続法)と、地区大会のルールブック(行政手続条例)です。全国のルールで戦う試合(法律にもとづく処分)は、地区の会場でも全国のルールブックを使います。地区で独自に決めた試合(条例・規則にもとづく処分)は、地区のルールブックを使います。ただし本物の条文では、行政指導と命令等は、根拠が法律でも地方公共団体の機関がするなら全国のルールブックから外れる点が、このたとえとずれます。
条文ではこう決まっている
3条3項:除外される4つ
3条3項は、次の4つについて「次章から第六章までの規定は、適用しない」としています。
- 地方公共団体の機関がする処分のうち、「その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているもの」。
- 地方公共団体の機関がする行政指導(根拠の限定はない)。
- 地方公共団体の機関に対する届出のうち、通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているもの。
- 地方公共団体の機関が命令等を定める行為(根拠の限定はない)。
「規則」には、地方公共団体の長が定める規則(地方自治法15条1項)や、委員会が定める規則(138条の4第2項)などが入ります。議会が定める条例だけではありません。また、除かれるのは第2章から第6章までで、第1章(目的・定義など)と、46条のある第7章(補則)は残ります。
命令等には審査基準も入る(2条8号)
「命令等」は、内閣または行政機関が定める、法律にもとづく命令・規則、審査基準、処分基準、行政指導指針です(2条8号)。この「行政機関」には地方公共団体の機関(議会を除く)が入ります(2条5号ロ)。そのため、市長が定める審査基準も命令等で、その制定には3条3項により第6章(意見公募手続)が適用されません。ただし、法律にもとづく処分について審査基準を定め、公にしておくこと(5条)は、第2章の決まりなので適用されます。
46条:地方公共団体の努力義務
46条の原文は、「地方公共団体は、第三条第三項において第二章から前章までの規定を適用しないこととされた処分、行政指導及び届出並びに命令等を定める行為に関する手続について、この法律の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」です。
- 対象:3条3項で外された4つすべて(処分・行政指導・届出・命令等を定める行為)。
- 強さ:「講ずるよう努めなければならない」=努力義務。
- 形:「必要な措置」で、条例という形は条文で指定されていない。
行政手続条例は地方公共団体ごとに定める
46条の措置として地方公共団体が定める条例を、一般に行政手続条例と呼びます。46条は「必要な措置」を求めるだけなので、条例の名前、どの手続を入れるか(たとえば意見公募の手続を条例に置くかどうか)は、地方公共団体ごとに違います。試験で正誤が決まるのは、個々の条例の中身ではなく、行政手続法の側の3条3項(どこが外れるか)と46条(だれに、どの強さで求めるか)です。
市長の仕事で、章ごとに分けると
| みなと市長がすること | 行政手続法 | 理由 |
|---|---|---|
| 法律にもとづく許可の審査 | 第2章が適用(5条〜11条) | 根拠が法律の処分 |
| その許可の審査基準を作る | 第6章は適用しない | 地方の機関が命令等を定める行為 |
| 規則にもとづく不利益処分 | 第3章は適用しない | 根拠が規則の処分 |
| 職員の行政指導 | 第4章は適用しない | 地方の機関の行政指導 |
同じ許可について、審査(第2章)は行政手続法、審査基準の作り方(第6章)は行政手続法の外、と分かれるのがこの表の要点です。3条3項は「機関ごと」ではなく、「行為ごと・章ごと」に働きます。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(除外される):市長が、市長の定めた規則にもとづいて、さとしさんにした不利益処分。根拠が規則なので、第3章(聴聞・弁明など)は適用されません。手続は市の行政手続条例などによります。
- 当てはまる例(除外される):市長が、法律にもとづく許可の審査基準を作る行為。意見公募手続(第6章)は適用されません。
- 当てはまらない例(適用される):市長が、法律にもとづいて、さとしさんの許可の申請を拒否する処分。根拠が法律なので、第2章の理由の提示(8条)などが適用されます。その事務が自治事務か法定受託事務かは、3条3項の分かれ目ではありません。
- ひっかけやすい例:審査基準は「命令等」なので、市長の審査基準には行政手続法が一切かからない、と考える。審査基準を定めて公にすること(5条)は第2章の決まりで、法律にもとづく処分なら適用されます。外れるのは意見公募の手続(第6章)です。
- ひっかけやすい例:行政手続法が適用されないなら、審査請求もできない、と考える。行政不服審査法には3条3項と同じ除外はなく、条例・規則にもとづく処分も審査請求の対象です。くわしくは行政不服審査法の適用除外の記事で比べています。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 行政手続法(3条3項・46条) | 行政不服審査法 |
|---|---|---|
| 条例・規則にもとづく処分 | 第2章〜第6章を適用しない | 審査請求の対象になる |
| 根拠の条文 | 3条3項で第2章〜第6章を外す | 7条1項の除外に条例・規則の処分は入っていない |
| 地方の機関の行政指導 | 根拠を問わず適用しない | 行政指導は処分ではないので対象外 |
行政手続法が「地方のことは地方で」と分けたのは、事前の手続(処分の前の決まり)です。処分の後に争う仕組み(審査請求・取消訴訟)は、条例にもとづく処分にも開かれています。行政指導そのものの決まり(書面の交付や中止の求め)は行政指導の記事、条例と規則の違いは条例と規則の記事で確かめられます。
試験ではここをまちがえやすい
- 条例だけ:除外されるのは条例にもとづく処分だけで、規則にもとづく処分には行政手続法が適用される、とする形。3条3項は「条例又は規則」です。
- 審査基準の扱い:市長の審査基準にも意見公募手続が要る、または市長は審査基準を定めなくてよい、とする形。意見公募(第6章)は外れ、5条は法律にもとづく処分なら適用されます。
- 46条の範囲:46条の対象を処分と届出に限る形。行政指導と命令等を定める行為も入ります。
- 46条の強さ:「行政手続条例を定めなければならない」とする形。「必要な措置を講ずるよう努めなければならない」で、条例の形も指定されていません。
- 事務の種類で決める:自治事務なら行政手続法が適用されない、とする形。分かれ目は処分の根拠が法律か条例・規則かです。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
A市長は、市長が定めたA市の規則にもとづいて、B社に不利益処分をしようとしている。この場合、A市長は、行政手続法の定めるところにより、B社について聴聞または弁明の機会の付与の手続をとらなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、3条3項の「条例又は規則」です。地方公共団体の機関がする処分のうち、根拠となる規定が条例または規則に置かれているものには、行政手続法の第2章から第6章までは適用されません(行政手続法3条3項)。正しくは、長が定める規則にもとづく処分にも、第3章の聴聞・弁明の機会の付与の規定は適用されません。除外を「条例にもとづく処分」だけと覚えていると○に見えます。手続は、46条を受けてA市が定める行政手続条例などによります。
問2(このサイトのオリジナル問題)
C市長は、法律にもとづく営業の許可について、審査基準を定めて窓口に備え付けている。この審査基準を定めるにあたり、C市長は、行政手続法の意見公募手続を実施する必要はない。
答え:○ 分かれ目は、同じ許可でも章ごとに適用が分かれることです。法律にもとづく処分なので、審査基準を定めて公にすること(行政手続法5条)は適用されます。一方、市長の審査基準は、地方公共団体の機関が定める命令等(2条8号ロ・5号ロ)で、地方公共団体の機関が命令等を定める行為には、第6章の意見公募手続は適用されません(3条3項)。審査基準の義務がかかる以上、意見公募も同じようにかかると考えると✕に見えます。国の行政機関が審査基準を定めるときは、原則として意見公募手続が必要です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
行政手続法46条は、地方公共団体に、3条3項で適用しないこととされた手続について必要な措置を講ずるよう努めることを求めているが、その対象は条例・規則にもとづく処分と届出の手続に限られ、地方公共団体の機関がする行政指導の手続は含まれない。
答え:✕ 分かれ目は、46条の対象の範囲です。46条は、3条3項で第2章から第6章までの規定を適用しないこととされた「処分、行政指導及び届出並びに命令等を定める行為に関する手続」を対象にしています。正しくは、行政指導の手続も、命令等を定める行為の手続も入ります。3条3項で「条例・規則にもとづくもの」という限定が付くのが処分と届出なので、その限定を46条の範囲と取り違えると○に見えます。努力義務である点(「努めなければならない」)は前半のとおりです。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 3条3項で外れるのは、条例・規則にもとづく処分と届出、地方の機関の行政指導(根拠を問わない)、地方の機関が命令等を定める行為。外れるのは第2章〜第6章。
- 「規則」には長の規則も入る。根拠が法律の処分は、市長がしても行政手続法が適用される。
- 市長の審査基準:定めて公にする義務(5条)はかかるが、意見公募(第6章)は外れる。
- 46条:外れた4つすべてについて、必要な措置を講ずるよう努める。その措置として定めるのが行政手続条例。
次に読むなら、意見公募手続の記事がおすすめです。この記事の問2で外れた第6章が、国の行政機関に対してどう働くか(30日以上の期間、結果の公示など)を確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。
- e-Gov法令検索「行政手続法」(第2条第5号・第8号、第3条第3項、第5条、第46条)
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」(第1条第2項、第7条)
- e-Gov法令検索「地方自治法」(第15条第1項、第138条の4第2項)
働く人の法律試験ノート