行政書士試験の行政法の判例は、「何条の話か」で6つに分けると、覚える範囲が見えてきます。取消訴訟の入口の3つ(処分性=行政事件訴訟法3条2項、原告適格=9条、訴えの利益=9条1項かっこ書き)、裁量の審査(30条)、行政指導(行政手続法2条6号・32条以下)、国家賠償(国家賠償法1条・2条)です。
この記事は、当サイトの各記事で裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨を確かめた最高裁判所の判例を、分野ごとに1枚の表にした索引です。判例ごとに「事案の一行・結論・理由の要点」をそろえ、まちがえやすい所を表の下に書きます。判例集を買う前に、まずこの範囲の判例を、結論と理由の一言で言えるかを確かめてください。判例を1件ずつまとめる方法は判例の覚え方の記事にあります。
この一覧の使い方
- 分野の見出しで「何条の話か」を確かめる。
- 表の「事案の一行」だけを見て、結論と理由を口に出す。
- 言えなかった判例に印を付け、くわしい記事で確かめる。
- 結論が逆になる組(○と✕)を、まちがえやすい所で確かめる。
日付は最高裁判所の判決の年月日です。「最大」は大法廷、「最一小」などは小法廷を表します。
分野別の判例一覧
処分性(行政事件訴訟法3条2項)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最一小 昭和39年10月29日 | 都のごみ焼却場の設置 | 処分でない | 私法上の契約で設置、議会への提出は内部の手続 |
| 最三小 昭和43年12月24日 | 墓地埋葬の通達 | 処分でない | 行政の内部の命令で、国民を直接拘束しない |
| 最三小 昭和54年12月25日 | 税関長の輸入禁制品該当の通知 | 処分 | 通知で適法に輸入できなくなる法律上の効果 |
| 最一小 昭和57年4月22日 | 工業地域の指定 | 処分でない | 一般的・抽象的で、法令の制定と同じ |
| 最一小 昭和57年7月15日 | 反則金の納付の通告 | 処分でない | 納付の義務はなく、刑事手続で争う |
| 最一小 平成14年1月17日 | 二項道路の告示による一括指定 | 処分 | 個々の土地に具体的な私権の制限 |
| 最二小 平成17年7月15日 | 病院開設中止の勧告 | 処分 | 従わないと相当程度の確実さで指定を受けられない |
| 最二小 平成18年7月14日 | 水道料金を改める条例 | 処分でない | 限られた特定の者にだけ適用されるものではない |
| 最大 平成20年9月10日 | 土地区画整理事業計画の決定 | 処分 | 法的地位に直接の影響、実効的な救済 |
| 最一小 平成21年11月26日 | 特定の保育所を廃止する条例 | 処分 | 限られた特定の者に直接、処分と実質的に同視 |
- 「条例・計画・通知は処分でない」と型で言い切る肢に注意。同じ型で○✕の組があります。
- 区画整理の事業計画の大法廷判決は、以前の判例(昭和41年2月23日大法廷判決など)を変更しています。
- 型ごとの覚え方は処分性の判例の記事で並べています。
原告適格(行政事件訴訟法9条1項・2項)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最三小 昭和53年3月14日 | 主婦連ジュース(一般消費者の不服申立て) | 認めない | 一般消費者というだけでは法律上の利益なし |
| 最二小 平成元年2月17日 | 新潟空港の周辺住民 | 認める | 騒音で社会通念上著しい障害を受ける者 |
| 最一小 平成元年4月13日 | 近鉄特急の通勤定期の利用者 | 認めない | 認可の規定はもっぱら公益のため |
| 最三小 平成元年6月20日 | 伊場遺跡の研究者 | 認めない | 文化財の利益は公益に吸収 |
| 最三小 平成9年1月28日 | がけ崩れの危険がある開発許可の周辺住民 | 認める | 生命・身体に直接の被害が予想される範囲 |
| 最大 平成17年12月7日 | 小田急線の高架化の沿線住民 | 認める(付属街路は認めない) | 騒音・振動で著しい被害を直接受けるおそれ |
| 最一小 平成21年10月15日 | 場外車券売場の周辺 | 医療施設の開設者は認め、住民は認めない | 位置の基準が守る利益の範囲 |
- 9条2項は、法令の文言だけでなく、趣旨・目的、関係法令、利益の内容・性質、害される態様・程度を考えると定めています。
- 同じ判決の中で結論が分かれる組(小田急、サテライト大阪)は、取り違えやすい組です。
- 一覧のほかの判例(もんじゅ、長沼、公衆浴場)は原告適格の判例の記事で扱います。
訴えの利益(行政事件訴訟法9条1項かっこ書き)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和28年12月23日 | メーデーの皇居外苑の使用不許可 | 失われる | その日が過ぎた |
| 最大 昭和40年4月28日 | 免職のあと立候補した公務員 | 残る | 給料の請求権などを回復できる |
| 最三小 昭和55年11月25日 | 免停から無違反で1年 | 失われる | 名誉・信用は事実上の効果 |
| 最二小 昭和59年10月26日 | 工事完了後の建築確認 | 失われる | 工事の完了 |
| 最二小 平成4年1月24日 | 工事完了後の土地改良事業の認可 | 残る | 元に戻せないことは事情判決の問題 |
| 最二小 平成5年9月10日 | 工事完了後の開発許可(市街化区域) | 失われる | 検査済証の交付後 |
| 最二小 平成10年4月10日 | 再入国不許可のあとの出国 | 失われる | 出国した |
| 最二小 平成21年2月27日 | 優良運転者の記載のない更新 | 残る | 記載のある免許証で更新される法的地位 |
| 最三小 平成27年3月3日 | 処分基準で加重の理由になる前の処分 | 残る | 不利益に扱われる期間内 |
| 最一小 平成27年12月14日 | 工事完了後の開発許可(市街化調整区域) | 残る | 予定建築物を建てられる効果が残る |
- 「工事が終われば訴えの利益はない」と一般化する肢に注意。区域や処分の種類で分かれます。
- 組で覚える判例は訴えの利益の判例の記事で並べています。
行政裁量(行政事件訴訟法30条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最三小 昭和52年12月20日 | 神戸税関の職員の懲戒免職 | 違法でない | 社会観念上著しく妥当を欠く場合に限り違法 |
| 最大 昭和53年10月4日 | マクリーン(在留期間の更新不許可) | 違法でない | 事実の基礎を欠くか、社会通念上著しく妥当性を欠くか |
| 最一小 平成4年10月29日 | 伊方原発の設置許可 | 違法でない | 審査基準の不合理、看過し難い過誤・欠落を審査 |
| 最二小 平成8年3月8日 | 信仰上の理由での剣道実技の拒否と退学 | 違法 | 代替措置を何も検討せず一切拒否 |
| 最三小 平成18年2月7日 | 学校施設の目的外使用の不許可(呉市) | 違法 | 判断要素の選択や判断過程の合理性を審査 |
| 最一小 平成18年11月2日 | 小田急線の高架式の採用 | 違法でない | 考慮すべき事情を考慮したかを審査 |
- 30条は「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り」取り消せると定めています。不当は取消訴訟の理由になりません。
- 型ごとの説明は行政裁量の判例の記事にあります。
行政指導(行政手続法2条6号・32条以下)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最三小 昭和60年7月16日 | 品川のマンションの建築確認の留保 | 違法となる場合あり | 協力できない意思を真摯かつ明確に示したあとの留保 |
| 最一小 平成5年2月18日 | 武蔵野市の教育施設負担金の寄付の要求 | 違法 | 行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使 |
| 最二小 平成17年7月15日 | 病院開設中止の勧告 | 処分に当たる | 行政指導として定められていても結果が重い |
- 行政手続法2条6号は、行政指導を「処分に該当しないもの」と定義しています。勧告に処分性を認めた判例と並べて覚えます。
- 品川と武蔵野は、どちらも国家賠償の事件です。
国家賠償(国家賠償法1条・2条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最三小 昭和30年4月19日 | 公務員個人への請求 | できない | 国・公共団体が賠償し、個人は直接責任を負わない |
| 最二小 昭和31年11月30日 | 制服で職務をよそおった警察官 | 1条の責任あり | 客観的な職務執行の外形 |
| 最一小 昭和57年4月1日 | 一連の健康診断の過程の被害 | 特定できなくても免れない場合あり | いずれかに違法行為がなければ被害なし |
| 最二小 昭和62年2月6日 | 公立学校の教育活動 | 公権力の行使に含む | ― |
| 最二小 平成元年11月24日 | 宅建業者への監督権限の不行使 | 違法でない | 著しく不合理と認められるときでない限り |
| 最三小 平成16年4月27日 | じん肺の規制権限の不行使 | 違法 | 権限を直ちに行使しなかった |
| 最一小 昭和45年8月20日 | 国道の落石 | 2条の責任あり | 過失不要、予算不足だけでは免れない |
| 最一小 昭和59年1月26日 | 改修中の河川の水害(大東) | 原則として瑕疵なし | 財政・技術・社会的な諸制約のもとでの安全性 |
| 最二小 昭和53年7月17日 | 公務員の失火 | 失火責任法を適用 | 4条の「民法」に含まれる |
- 1条の判例は国家賠償法1条の判例の記事で要件ごとに並べています。2条は、道路と河川で物差しが違うことを組で覚えます(故障車の放置は瑕疵あり、直前に倒された赤色灯は瑕疵なし、改修済みの河川は多摩川水害の物差し)。
- 立法行為は、例外的な場合に限って1条の違法になります(在宅投票の昭和60年11月21日判決、在外選挙の平成17年9月14日大法廷判決)。
判例集を買う前に:この範囲で足りるかの見方
判例集は、扱う判例の数が増えるほど回しにくくなります。当サイトの考え方は、次のとおりです。
- まず、この一覧の判例を「事案の一行」を見て、結論と理由の一言で言えるようにする。
- 言えるようになったあと、手持ちの過去問や問題集の解説に、この一覧にない判例が出てきたら、その判例だけを足す。
- 多肢選択式で判決文の言葉を読みたい場合は、判例集や裁判所ウェブサイトの判決全文で、理由の部分を読む。
行政法の勉強の順番は、行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法の条文が先で、判例はその条文の言葉の意味として読むと結びつきます。
試験ではここをまちがえやすい
- 結論の入れ替え:組で○✕が分かれる判例(保育所の条例と水道料金の条例、区画整理と用途地域、新潟空港と近鉄特急、市街化区域と市街化調整区域の開発許可)。
- 理由のすり替え:「影響が大きいから処分」「従う義務があるから勧告は処分」「予算がないから瑕疵なし」。
- 要件の取り違え:処分性・原告適格・訴えの利益は別の要件。保育所の事件は処分性○・訴えの利益✕、長沼の事件は原告適格○・訴えの利益✕。
- 違法と不当:裁量の範囲の中の不当は、取消訴訟では争えない(30条)。
- 国家賠償の違法:処分の結果が誤っていても、国家賠償法上は直ちに違法とならない場合がある(平成5年3月11日、所得の過大な認定)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
C市は、宅地開発の指導要綱にもとづき、マンションを建てる業者Yに教育施設負担金の寄付を求めた。応じない業者には水道の給水を拒むなどの制裁があり、Yは事実上寄付を強いられた。判例によれば、市のこの行為は、行政指導の限度を超えた違法な公権力の行使に当たる。
答え:○ 分かれ目は、行政指導が任意の協力を求める限度を超えたかです。最高裁判所第一小法廷平成5年2月18日判決は、市が指導要綱にもとづき教育施設負担金の寄付を求めた行為について、水道の給水を拒むなどの制裁を背景に事実上強制した事情のもとで、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使に当たるとしました。「寄付のお願いは行政指導で、処分ではないから違法にならない」と考えると✕にしてしまいます。処分性の問題ではなく、国家賠償法1条1項の違法の問題として判断された事件です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
日本に住む外国人Zさんが再入国の許可を申請したが、不許可とされた。Zさんはそのまま日本から出国した。判例によれば、出国したあとも、Zさんは再入国不許可処分の取消しを求める訴えの利益をもつ。
答え:✕ 分かれ目は、出国によって訴えの利益が失われるかです。最高裁判所第二小法廷平成10年4月10日判決は、再入国不許可処分を受けた者が出国した場合には、不許可処分の取消しを求める訴えの利益は失われるとしました。正しくは、Zさんの訴えの利益はなくなります。免職されたあと立候補した公務員に、給料の請求権などを理由に訴えの利益を認めた大法廷の判決(昭和40年4月28日)と、結論を取り違えないようにします。
問3(このサイトのオリジナル問題)
市立中学校の体育の授業中に、教師の不注意な指導で生徒がけがをした。判例によれば、公立学校の教師の教育活動も、国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に含まれる。
答え:○ 分かれ目は、「公権力の行使」の広さです。最高裁判所第二小法廷昭和62年2月6日判決は、国家賠償法1条1項の公権力の行使には、公立学校における教師の教育活動も含まれるとしました。命令や強制のような権力的な行為ではないので✕と迷いやすい肢です。私立学校の教師の事故は、国家賠償法ではなく民法の不法行為・使用者責任の問題になります。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 行政法の判例は、何条の話かで6分野(処分性・原告適格・訴えの利益・裁量・行政指導・国家賠償)に分ける。
- 判例ごとに「事案の一行・結論・理由の要点」を言えるようにし、まちがえやすい組(○✕が逆の判例)を並べる。
- 入口の3要件は別の要件。同じ事件で処分性○・訴えの利益✕のように分かれることがある。
- 裁量は30条、行政指導は2条6号の定義と、限度を超えたときの国家賠償。
- 国家賠償は、1条は要件ごと、2条は道路と河川の物差しの違いで覚える。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。判例は裁判所ウェブサイトで判示事項・裁判要旨を確かめました。個々の判例の出典は、各分野のくわしい記事にも載せています。
- e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」(3条2項、9条、30条、31条)
- e-Gov法令検索「行政手続法」(2条6号)
- e-Gov法令検索「国家賠償法」(1条〜4条)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成5年2月18日判決(昭和63年(オ)第890号)」(教育施設負担金)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成10年4月10日判決(平成6年(行ツ)第152号)」(再入国不許可と出国)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和62年2月6日判決(昭和59年(オ)第1058号)」(公立学校の教育活動)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和60年7月16日判決(昭和55年(オ)第309号)」(建築確認の留保)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 平成20年9月10日判決(平成17年(行ヒ)第397号)」(区画整理事業計画)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 平成17年12月7日判決(平成16年(行ヒ)第114号)」(小田急線・原告適格)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和53年10月4日判決(昭和50年(行ツ)第120号)」(マクリーン事件)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和45年8月20日判決」(国道の落石)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和59年1月26日判決(昭和53年(オ)第492号)」(大東水害)
働く人の法律試験ノート