ひとことで言うと、群馬中央バス事件は、審議会の公聴会の手続に不十分な点があっても、仮に十分な機会を与えていても結論を左右するような資料・意見が出された可能性が認め難いときは、その手続の瑕疵(かし=きず)は処分の取消しの理由にならない、とした最高裁判所の判決です(最高裁判所第一小法廷 昭和50年5月29日判決)。一方で判決は、諮問機関の答申の過程に重大な法規違反があるなど、答申自体に法の趣旨に反する瑕疵があるときは、答申を経てされた処分は違法として取り消される、という考え方も示しています。
この記事では、判決の判断を3つに分けて確かめ、手続の不備で却下処分が違法とされた個人タクシー事件(最高裁判所第一小法廷 昭和46年10月28日判決)と表で比べます。どちらも行政手続法ができる前の判決です。今の行政手続法の決まりとのつながりは最後に条文で確かめます。条文は、令和8年4月1日時点の内容を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
| 人物・機関 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| はるとさん | バス会社の社長 | 新しいバス路線の免許を申請した |
| 大臣 | 免許をするかを決める行政庁 | 法律にしたがって審議会に諮問した |
| 審議会 | 大臣の諮問を受ける機関 | 公聴会を開き、答申(意見)を出した |
- 法律は、大臣が免許をするかを決めるときは、原則として審議会にはかり、その決定を尊重しなければならないと定めている(この例の法律は説明のための仮のもの)。
- 審議会は公聴会を開いたが、はるとさんの計画の問題点(運賃と需要の見込みの関係など)を具体的に示さず、はるとさんが反論する機会を十分に与えなかった。
- 審議会は「免許すべきでない」と答申し、大臣は申請を却下した。
- はるとさんは、公聴会の手続がおかしかったとして、却下処分の取消しを求めた。
判決の考え方では、審議会の審理は、申請者が意見や証拠を十分に出して答申に反映させることを実質的に可能にするものでなければなりません。2番目はその点で手続に瑕疵があります。それでも、仮に機会を与えていても、はるとさんが審議会の判断を左右するに足りる資料や意見を出せた可能性が認め難い事情があれば、却下処分を取り消す理由にはならない、というのが判決の結論の形です。
たとえるなら、面接で質問の時間が短すぎたとしても、応募の条件に明らかに届いていなかったなら、面接をやり直しても結果は同じなので、不合格を取り消す理由にならない、という考え方です。ただし本物の判決は、手続の瑕疵を軽く見てよいとしたのではありません。結論を左右した可能性があるかを、事件の事情にもとづいて判断しています。
判決は何を判断したか
最高裁判所第一小法廷 昭和50年5月29日判決(昭和42年(行ツ)第84号)
一般乗合旅客自動車運送事業(路線バスの事業)の免許の申請が却下され、その取消しが争われた事件で、一般に「群馬中央バス事件」と呼ばれます。当時の道路運送法のもとでは、判決の言葉で「運輸大臣は、自動車運送事業の免許の許否を決する場合には、原則として運輸審議会にはかり、その決定を尊重して、これをしなければならないとされている」仕組みでした。結果は上告棄却で、却下処分を取り消さなかった原判決が維持されました。
- 答申の瑕疵と処分(裁判要旨二):諮問を経ることが必要な処分が諮問を経てされた場合でも、諮問機関の審理・答申の過程に重大な法規違反があることなどにより、答申自体に、法が諮問を経ることを求めた趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、その処分は「違法として取消を免れない」。
- 公聴会の審理のあり方(裁判要旨三):公聴会の審理手続は、客観性のある適正・公正な答申を保障するために公聴会を求める法の趣旨にしたがい、申請者などの利害関係人が、答申の基礎となる事項について証拠・資料と意見を十分に出して、答申に反映させることを実質的に可能にするものでなければならない。
- 本件の瑕疵の扱い(裁判要旨四):申請計画の問題点について申請者に主張・立証の機会を十分に与えなかった瑕疵があっても、「仮に運輸審議会がこのような機会を与えたとしても」、申請者が審議会の認定判断を左右するに足りる資料・意見を出せた可能性があったとは認め難い事情があるときは、その瑕疵は、免許の拒否処分を違法として取り消す事由とはならない。
判決は、公聴会が開かれた場合には、陸運局長がした聴聞の手続の瑕疵は、運輸大臣の処分の適法性に影響を与えない、とも述べています(裁判要旨一)。1番目と3番目は向きが逆に見えますが、1番目は「答申自体に、法の趣旨に反する瑕疵がある」場合、3番目は「結論を左右した可能性が認め難い」場合で、場面が違います。
個人タクシー事件とどう違うか
一般に「個人タクシー事件」と呼ばれる最高裁判所第一小法廷昭和46年10月28日判決は、審査基準を設けて公正に適用し、必要な場合は申請人に主張と証拠提出の機会を与えるべきで、これに反する審査手続による却下処分は違法となるとしました。判決の言葉と、今の審査基準との関係は裁量基準の記事で確かめられます。ここでは群馬中央バス事件との違いだけを比べます。
| 比べる点 | 個人タクシー事件(昭和46年10月28日) | 群馬中央バス事件(昭和50年5月29日) |
|---|---|---|
| 手続の場面 | 担当の行政庁が申請人を審査する手続 | 諮問を受けた審議会の公聴会 |
| 何が問題になったか | 審査基準の設定・適用と、主張・証拠提出の機会 | 申請計画の問題点について主張・立証の機会が十分でなかった |
| 結論 | 却下処分は違法 | 結論を左右した可能性が認め難く、取消事由にならない |
2つの判決は、どちらも申請者に主張・証拠を出す機会を与えるべきだという点では同じ方向です。違いは結論で、群馬中央バス事件は、機会を与えていても判断を左右できた可能性が認め難いという事情から、取消しを認めませんでした。「手続に瑕疵があれば処分は違法」とだけ覚えると、群馬中央バス事件で誤ります。
今の行政手続法とのつながり
行政手続法(平成5年法律第88号)は、申請に対する処分について次のことを定めています。判例の考え方がそのまま条文になったとは言い切れないので、試験では条文の言葉で覚えます。
- 審査基準(5条):行政庁は審査基準を定めるものとする(1項)。できる限り具体的なものにしなければならない(2項)。行政上特別の支障があるときを除き、公にしておかなければならない(3項)。
- 理由の提示(8条):申請を拒否する処分をするときは、同時に、その理由を示さなければならない(1項本文)。書面で処分をするときは、理由も書面で示す(2項)。
- 公聴会の開催等(10条):申請者以外の者の利害を考慮すべきことが法令で許認可等の要件とされている処分では、必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法で申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。申請者以外の者の意見を聴くための規定で、判決の事件の、法律で定められた審議会の公聴会とは仕組みが違います。
申請を拒否する処分は、行政手続法の「不利益処分」から除かれています(2条4号ロ)。そのため、聴聞・弁明の機会の付与の決まりは、申請の拒否にはかかりません。申請に対する処分と不利益処分の決まりの全体は、行政手続法の記事で確かめられます。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例:答申の過程に重大な法規違反がある
法律が求めた審議会の審理に重大な法規違反があり、答申そのものが、法が諮問を求めた趣旨に反するといえるほどのきずを持つ場合です。このとき、大臣が答申を経て処分をしていても、処分は違法として取り消されます(裁判要旨二)。
当てはまらない例:機会があっても判断が変わる可能性が認め難い
はるとさんの例で、問題点を示されて反論の機会があったとしても、審議会の判断を左右するに足りる資料・意見を出せた可能性が認め難い事情があるなら、手続の瑕疵は却下処分の取消事由になりません(裁判要旨四)。
ひっかけやすい例:審議会の答申には拘束力がないから、答申の瑕疵は関係ない
「答申はあくまで意見だから、審議会の手続にどんな問題があっても大臣の処分には関係ない」とするのは、判決と違います。法が諮問を求めた趣旨に反する瑕疵が答申自体にあれば、処分は違法として取消しを免れません。どの瑕疵が処分に効くかを、裁判要旨の二と四で分けて覚えます。
試験ではここをまちがえやすい
- 結論の取り違え:群馬中央バス事件は、却下処分を取り消さなかった判決です。個人タクシー事件(却下処分は違法)と結論を入れ替えないようにします。
- 限定の脱落:取消事由にならないのは、機会を与えても判断を左右するに足りる資料・意見を出せた可能性が「認め難い」事情があるときです。「手続の瑕疵は処分の効力に関係しない」と広げる形は誤りです。
- 答申の瑕疵:答申自体に法の趣旨に反する瑕疵があれば処分は違法(裁判要旨二)。「答申に拘束力はないので関係ない」は誤り。
- 効く瑕疵・効かない瑕疵:公聴会が開かれた場合、陸運局長の聴聞手続の瑕疵は大臣の処分の適法性に影響しない(要旨一)。答申自体の瑕疵は処分を違法にしうる(要旨二)。
- 今の条文の強さ:行政手続法10条の公聴会は「努めなければならない」(努力義務)。5条の審査基準は「定めるものとする」・公にするのは原則義務。8条の理由の提示は義務。
- 時代:どちらの判決も行政手続法の前の判決です。判決の言葉と今の条文を混ぜないようにします。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
バス路線の免許の申請について、諮問を受けた審議会が公聴会で申請者に計画の問題点について主張・立証の機会を十分に与えなかった。判例によれば、機会を与えていても判断を左右するに足りる資料・意見を出せた可能性が認め難い事情があるときは、この瑕疵は却下処分の取消事由にならない。
答え:○ 分かれ目は、手続の瑕疵が結論を左右した可能性です。最高裁判所第一小法廷昭和50年5月29日判決は、主張・立証の機会を十分に与えなかった瑕疵があっても、仮に機会を与えたとしても審議会の認定判断を左右するに足りる資料・意見を提出しうる可能性があったとは認め難い事情があるときは、拒否処分を違法として取り消す事由にならないとしました。手続に瑕疵があれば処分は違法、と考えると✕にしてしまいます。審査手続の不備で却下処分を違法とした個人タクシー事件(昭和46年10月28日判決)と結論が分かれます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
法律が審議会への諮問を求めている処分を、大臣が諮問を経てした。判例によれば、審議会の答申の過程に重大な法規違反があり、答申自体に、法が諮問を求めた趣旨に反すると認められる瑕疵があるときは、大臣が答申を経て処分をしていても、その処分は違法として取り消される。
答え:○ 分かれ目は、諮問機関の答申の瑕疵が処分に影響するかです。最高裁判所第一小法廷昭和50年5月29日判決は、諮問を経てされた処分でも、諮問機関の審理・答申の過程に重大な法規違反があることなどにより、答申自体に法が諮問を要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、処分は違法として取消しを免れないとしました(裁判要旨二)。答申は意見にすぎず大臣を拘束しないから処分には関係ない、と考えると✕にしてしまいます。同じ判決の、結論を左右した可能性が認め難い瑕疵は取消事由にならないという判断(裁判要旨四)と分けて押さえます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
路線バスの免許の申請について、運輸審議会が公聴会を開いて審理した。判例によれば、この場合でも、それとは別に陸運局長が申請者について行った聴聞の手続に瑕疵があれば、運輸大臣の免許の拒否処分は、そのことを理由に違法となる。
答え:✕ 分かれ目は、どの手続の瑕疵が大臣の処分に効くかです。最高裁判所第一小法廷昭和50年5月29日判決は、免許に関し運輸審議会の公聴会が開催された場合には、陸運局長の聴聞手続の瑕疵は、免許の許否に関する運輸大臣の処分の適法性に影響を与えないとしました(裁判要旨一)。正しくは、陸運局長の聴聞の瑕疵は処分を違法にしません。同じ判決で処分を違法にしうるとされたのは、法が諮問を求めた趣旨に反する瑕疵が答申自体にある場合です(裁判要旨二)。どんな手続の瑕疵でも処分を違法にする、と考えた肢です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 群馬中央バス事件=最高裁判所第一小法廷 昭和50年5月29日判決。路線バスの免許申請の却下と、運輸審議会の公聴会。
- 答申自体に法の趣旨に反する瑕疵があれば、答申を経た処分は違法として取消しを免れない(要旨二)。
- 主張・立証の機会が十分でなかった瑕疵も、機会があっても判断を左右できた可能性が認め難ければ取消事由にならない(要旨四)。
- 個人タクシー事件=昭和46年10月28日判決。審査基準の設定・公正な適用と主張・証拠提出の機会。反する手続での却下は違法。
- 今の行政手続法:審査基準(5条)、理由の提示(8条)、公聴会は努力義務(10条)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、引用した判決の言葉は判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「行政手続法」(2条4号ロ、5条、8条、10条)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和50年5月29日判決(昭和42年(行ツ)第84号)」(一般乗合旅客自動車運送事業の免許申請却下処分取消請求)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和46年10月28日判決(昭和40年(行ツ)第101号)」(個人タクシー事業の免許申請の審査と公正手続)
このサイトで次に読むなら、判断過程審査の記事です。裁量処分を、手続ではなく、考慮した事情・考慮しなかった事情から審査するやり方を、日光太郎杉事件の判決で確かめられます。行政法の判例をまとめて見るなら行政法の判例まとめの記事が便利です。
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