ひとことで言うと、情報公開・個人情報保護審査会は不開示とされた文書を直接見て調べられますが、裁判所は、明文の規定がない限り、文書を見て判断するインカメラ審理をできません。最高裁判所第一小法廷平成21年1月15日決定は、訴訟で使う証拠は当事者が吟味・反論できたものに限られるという民事訴訟の基本原則に反する、としました。
インカメラ審理(in camera=裁判官室で、の意味)は、相手方に見せずに、判断する人だけが文書を見る審理のことです。この記事では、この決定と、文書を「保有していない」とされたときにだれが保有を示すか、不開示の理由はどこまで書くかの判例を表で整理します。不開示情報の種類(5条の各号)は情報公開法の記事に任せ、審査会の運営の実務は扱いません。
身近な例で考えると
登場するのは、会社員のゆきさんと、国の架空の役所「まなび省」です。
- ゆきさんは、まなび省の大臣に、ある委託事業の報告書の開示を請求した(情報公開法3条)。
- まなび省は、報告書の大部分を不開示とした。ゆきさんは「隠すほどの情報ではないはずだ」と考えた。
- ゆきさんが審査請求をすると、大臣は情報公開・個人情報保護審査会に諮問した(19条1項)。審査会は、まなび省に報告書を出させて、委員が直接見て調べられる(審査会設置法9条1項)。
- 審査請求が退けられたので、ゆきさんは不開示決定の取消訴訟を起こした。ゆきさんは「裁判官だけでも報告書を見て判断してほしい。自分は見なくてかまわない」と申し出た。
- 判例によれば、ゆきさんが立ち会う権利を放棄しても、裁判所は報告書を見て判断するための検証や提示の命令をすることはできません。
- 裁判所は、報告書そのものを見ないまま、双方が出した主張と証拠から、不開示情報に当たるかを判断することになります。
たとえると、審査会は「答案を見て採点を確かめられる先生」、裁判所は「答案を見ずに、双方の説明だけで判断する審判」です。ただし本物の裁判所も、当て推量で決めるのではありません。当事者が出した主張と証拠にもとづいて判断します。見ないのは、争われている文書そのものです。
条文ではこう決まっている
情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)
- 3条:何人も、行政機関の長に対し、当該行政機関の「保有する」行政文書の開示を請求できる。
- 8条:文書があるかないかを答えるだけで不開示情報を開示することになるときは、存否を明らかにしないで請求を拒否できる。
- 9条2項:文書の全部を開示しないときは、開示をしない旨の決定をし、書面で通知する。この「全部を開示しないとき」には、8条で拒否するときと、文書を「保有していないとき」が含まれる。
- 19条1項:開示決定等について審査請求があったときは、裁決をする行政機関の長は、原則として情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない。
情報公開・個人情報保護審査会設置法9条
- 1項:審査会は、必要があると認めるときは、諮問庁に行政文書等の提示を求められる。この場合、何人も、提示された文書の開示を審査会に求めることはできない。
- 2項:諮問庁は、この求めを拒めない。
- 3項:審査会は、文書に記録された情報の内容を、審査会の指定する方法で分類・整理した資料を作って出すよう求められる。
不開示の理由の示し方は、情報公開法には特別の定めがありません。開示請求は行政手続法の「申請」(2条3号)に当たり、情報公開法に行政手続法の適用を除く定めもないので、不開示決定は申請を拒否する処分として、行政手続法8条(同時に理由を示す。書面でするときは理由も書面で)がかかると条文から読めます。
民事訴訟法のインカメラ(223条6項)
民事訴訟法にも、裁判所が文書を見る手続が1つあります。文書提出命令の申立てで、その文書が提出を拒める文書(220条4号イ〜ニ)に当たるかを判断するため必要なときは、裁判所は所持者に文書を提示させることができ、だれもその開示を求められません(223条6項)。これは「出させるかどうか」を決めるための手続で、不開示が正しいかという本案の判断に使うものではありません。
判例を1枚で見る
| 判例 | 問い | 結論 | まちがえやすい所 |
|---|---|---|---|
| 最一小決 平成21年1月15日 | 裁判所のインカメラ審理 | 明文の規定がない限り許されない | 立会権を放棄しても許されない |
| 最二小 平成26年7月14日 | 文書の保有はだれが示すか | 取消しを求める側が主張立証 | 過去に作られた事実だけでは推認されないことがある |
| 最一小 平成4年12月10日 | 非開示の理由の書き方 | 根拠の号だけでは原則不十分 | 条例の事件 |
インカメラ審理は許されない(平成21年1月15日決定)
最高裁判所第一小法廷 平成21年1月15日決定(平成20年(行フ)第5号)
- 事案:情報公開法にもとづく不開示決定の取消訴訟で、原告が、不開示とされた文書を検証の目的として被告に提示させるよう申し立てた。原告は、検証に立ち会う権利を放棄するとしていた。
- 結論:不開示とされた文書を目的とする検証を、被告に受忍義務を負わせて行うことは、原告が立会権を放棄するなどしても許されず、検証の目的として被告に提示を命ずることも許されない。
- 理由の要点:訴訟で用いられる証拠は、当事者の吟味・弾劾(反論)の機会を経たものに限られるのが民事訴訟の基本原則。情報公開訴訟で証拠調べとしてのインカメラ審理を行うことは、この原則に反するから、明文の規定がない限り許されない。情報公開法は、審査会が文書を直接見分して調査審議できる規定を設けたが、裁判所がインカメラ審理を行える明文の規定は設けなかった。
- まちがえやすい所:決定は、どんな場合でもできないとしたのではなく、「明文の規定がない限り」許されないとしました。立法で導入する場合について述べた補足意見が付いています。
文書の保有はだれが示すか(平成26年7月14日判決)
最高裁判所第二小法廷 平成26年7月14日判決(平成24年(行ヒ)第33号)
- 事案:外交交渉の過程で作られたとされる文書の開示が請求され、行政機関は「保有していない」として不開示とした。請求した人たちが取消しを求めた。
- 結論:行政機関が文書を保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟では、取消しを求める者が、不開示決定の時にその行政機関がその文書を保有していたことについて主張立証責任を負う。
- 理由の要点:情報公開法では、行政機関が文書を保有していることが、開示請求権が成り立つための要件とされているから。
- まちがえやすい所:過去のある時点で職員が文書を作ったことが立証されても、決定の時まで保有していたと推認できるかは、文書の内容や性質、作成の経緯、決定までの期間、保管の体制や状況などに応じて個別に検討するとしました。この事件では、推認は認められませんでした。
非開示の理由の書き方(平成4年12月10日判決)
最高裁判所第一小法廷 平成4年12月10日判決(平成4年(行ツ)第48号)
- 事案:東京都の公文書の開示等に関する条例にもとづく開示請求に対し、非開示決定の通知書に「条例第9条第8号に該当」とだけ書かれていた。
- 結論:この非開示決定は、条例7条4項の定める理由付記の要件を欠き、違法である。
- 理由の要点:付記する理由は、開示請求者が、非開示の事由のどれに当たるのかを、その根拠とともに了知(りょうち=分かること)できるものでなければならない。単に根拠の規定を示すだけでは、文書の種類・性質などとあいまって請求者がそれを当然知りうるような場合は別として、十分でない。
- まちがえやすい所:情報公開法ではなく条例の事件です。国の行政機関の不開示決定では、上で見た行政手続法8条の理由の提示が問題になります。
審査会と裁判所はどう違うか
| 比べる点 | 情報公開・個人情報保護審査会 | 裁判所(取消訴訟) |
|---|---|---|
| 文書を直接見る | できる(設置法9条1項) | 明文の規定がない限りできない |
| 分類・整理した資料 | 出させられる(9条3項) | 明文の規定はない |
| 判断の形 | 答申(諮問に答える) | 判決 |
| かかわる場面 | 審査請求の裁決の前 | 不開示決定の取消訴訟 |
インカメラ審理の可否は、だれの手続かで答えが分かれます。審査会の手続で「何人も提示された文書の開示を求められない」のは、文書を見るのが審査会だけだからです。審査請求の手続の流れは審査請求の記事、個人情報の開示請求との違いは行政機関等の個人情報保護の記事で扱っています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:ゆきさんの取消訴訟で、裁判所に「裁判官だけで報告書を見てほしい」と申し立てる。立会権を放棄しても、検証も提示の命令もできません(平成21年決定)。
- 当てはまる例:まなび省が「その文書は保有していない」として不開示決定をした。取消訴訟では、ゆきさんの側が、決定の時にまなび省が文書を保有していたことを主張立証します(平成26年判決)。
- 当てはまらない例:ゆきさんの審査請求について、審査会がまなび省に報告書の提示を求める。審査会は直接見て調べられます(設置法9条1項)。インカメラ審理を否定した判例は、裁判所の訴訟の話です。
- 当てはまらない例:民事訴訟で、文書提出命令の申立ての対象の文書が提出を拒める文書に当たるかを判断するため、裁判所が所持者に提示させる。民事訴訟法223条6項の明文があるので、できます。
- ひっかけやすい例:「過去にまなび省の職員が文書を作ったことが分かれば、決定の時にも保有していたと当然に認められる」とすること。平成26年判決は、推認できるかを個別に検討するとしました。
試験ではここをまちがえやすい
- 主体の入れ替え:審査会のインカメラ(設置法9条1項)を、裁判所もできるとする形。裁判所は明文の規定がない限りできません。
- 立会権の放棄:「原告が立会権を放棄すれば許される」とする形。決定は、放棄するなどしても許されないとしました。
- 限定の語の落とし:「インカメラ審理は、法律で定めても許されない」と言い切る形。決定の言葉は「明文の規定がない限り」です。
- 立証の向き:「文書を保有していないことは、行政機関の側が立証する」とする形。保有していたことを、取消しを求める側が主張立証します。
- 理由の書き方:「根拠の条項・号を示せば理由の提示として足りる」とする形。請求者が当然知りうる場合を除き、それだけでは足りません(平成4年判決は条例の事件)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
情報公開法にもとづく不開示決定の取消訴訟で、原告Hが、不開示とされた文書を裁判官だけが見ることに同意し、検証に立ち会う権利を放棄した。判例によれば、原告が立会権を放棄していれば、裁判所が被告にその文書の提示を命じて検証することは妨げられない。
答え:✕ 分かれ目は、原告が立会権を放棄すれば許されるかです。最高裁判所第一小法廷平成21年1月15日決定は、不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは、原告が立会権を放棄するなどしたとしても許されず、提示を命ずることも許されないとしました。正しくは、明文の規定がない限り、裁判所は文書を見て判断できません。審査会が文書の提示を求められる規定(審査会設置法9条1項)を、裁判所の手続と取り違えた誤りです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
J省の長は、Kさんが開示を請求した文書について、保有していないことを理由に不開示決定をした。Kさんがこの決定の取消訴訟を起こした場合、判例によれば、決定の時にJ省がその文書を保有していたことは、Kさんの側が主張立証しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、保有の主張立証責任がどちらにあるかです。最高裁判所第二小法廷平成26年7月14日判決は、文書を保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟では、取消しを求める者が、決定の時に行政機関がその文書を保有していたことについて主張立証責任を負うとしました。保有していることが開示請求権の成立要件とされているからです。文書を管理する役所の側が立証する、と考えると✕に見えます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
L県の条例は非開示決定の通知書に理由を付記するよう定めているが、L県の機関がMさんに出した通知書には「条例第9条第8号に該当」とだけ書かれていた。判例によれば、文書の種類や性質とあわせてMさんが根拠を当然知りうる場合を除き、この理由付記は条例の要求を満たさない。
答え:○ 分かれ目は、根拠の号を示すだけで理由付記として足りるかです。最高裁判所第一小法廷平成4年12月10日判決は、東京都の条例の事件で、付記する理由は、請求者が非開示の事由のどれに当たるかを根拠とともに了知できるものでなければならず、根拠の規定を示すだけでは、文書の種類・性質などから当然知りうる場合を別として十分でないとしました。号を書けば足りる、と考えると✕に見えます。この判決は条例の理由付記の事件で、国の行政機関の不開示決定では、申請を拒否する処分の理由の提示(行政手続法8条)が問題になります。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 審査会は不開示の文書を直接見て調べられる(設置法9条1項)。裁判所は、明文の規定がない限りインカメラ審理をできない(平成21年1月15日決定)。原告が立会権を放棄しても同じ。
- 理由は、証拠は当事者の吟味・弾劾の機会を経たものに限られるという民事訴訟の基本原則。
- 「保有していない」を理由とする不開示決定では、取消しを求める側が、決定時の保有を主張立証する(平成26年7月14日判決)。過去に作られたことからの推認は個別に判断。
- 非開示の理由は、どの事由に当たるかを根拠とともに分かるように書く。根拠の号だけでは原則として足りない(平成4年12月10日判決。条例の事件)。
- 民事訴訟法223条6項は、文書提出命令の判断のための提示で、明文がある例。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、理由の要点は判決・決定の全文で確かめました。条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成21年1月15日決定(平成20年(行フ)第5号)」(不開示とされた文書の検証と提示命令)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成26年7月14日判決(平成24年(行ヒ)第33号)」(文書の保有の主張立証責任)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成4年12月10日判決(平成4年(行ツ)第48号)」(非開示決定の理由付記)
- e-Gov法令検索「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(3条、8条、9条2項、19条1項)
- e-Gov法令検索「情報公開・個人情報保護審査会設置法」(9条1項〜3項)
- e-Gov法令検索「行政手続法」(8条)
- e-Gov法令検索「民事訴訟法」(223条6項)
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