地方自治の本旨:住民自治と団体自治、憲法92条〜95条と地方自治法の対応

ひとことで言うと、地方自治の本旨(ほんし=本来のねらい)は、①その地域の住民が、自分たちのことを自分たちで決める(住民自治)と、②国から独立した団体(都道府県・市町村)が、地域の仕事を自分の責任で行う(団体自治)の2つを指す、と説明されます。憲法92条がこの言葉を使い、93条〜95条が中身を具体的に決めています。

ただし、「住民自治」「団体自治」という言葉は条文にはありません。教科書で共通して使われる説明です。試験で正誤を決めるのは、93条〜95条と、それを受けた地方自治法の条文です。この記事では、憲法の各条が地方自治法のどの規定につながるかを表にします。財政の条文は財政と地方自治の記事、条例の限界は条例と規則の記事で扱っています。

身近な例で考えると

登場するのは、山あいの小さな村「さくら村」に住む会社員のゆいさんです(架空の話です)。

  1. ゆいさんは、4か月前にとなりの町からさくら村に引っ越してきた。今月、村長の選挙がある。ゆいさんは日本国民で20歳。引き続き3か月以上村に住所があるので、選挙権がある(地方自治法18条)。
  2. さくら村は人口がとても少ないので、条例で議会を置かず、選挙権を持つ人全員が集まる「村総会」を設けている(地方自治法94条)。ゆいさんも村総会の一員になる。
  3. 村長は、副村長を選びたい。副村長は住民の選挙ではなく、村長が議会の同意を得て選ぶ(地方自治法162条)。町村総会には、町村の議会に関する規定が準用される(同法95条)ので、議会の同意は村総会の同意になる。
  4. 村は、川にごみを捨てることを禁じる条例を作った。地方公共団体は、法律の範囲内で条例を作ることができる(憲法94条)。法律より厳しい条例や、法律にない対象の条例が許されるかは上乗せ条例・横出し条例の記事で扱っています。
  5. ある日、国会が「さくら村だけ」に適用される法律を作ろうとした。この法律は、さくら村の住民の投票で過半数の同意を得なければ、国会は制定できない(憲法95条)。

1と2と5は「住民が自分で決める」場面、4は「村という団体が自分で仕事をする」場面です。3は、住民が直接選ぶ人と、そうでない人の線引きの話です。

たとえ話と、本物との違い

マンションの管理組合にたとえると、住民自治は「住人が集会で決めること」、団体自治は「管理組合が、管理会社の言いなりではなく自分で規約を作れること」です。ただし本物の地方自治では、地方公共団体の組織と運営は国の法律(地方自治法など)で決められていて(92条)、条例も「法律の範囲内で」しか作れません(94条)。管理組合のように、規約だけで何でも決められるわけではありません。

条文ではこう決まっている

憲法の4つの条文(92条〜95条)

  • 92条:地方公共団体の組織と運営に関する事項は、「地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」。決めるのは条例ではなく法律で、その法律は本旨に沿っていなければならない。
  • 93条1項:地方公共団体には、法律の定めるところにより、議事機関(ぎじきかん=話し合って決める機関)として議会を置く。
  • 93条2項:地方公共団体の長、議会の議員、「法律の定めるその他の吏員(りいん=職員)」は、その地方公共団体の住民が直接選挙する。
  • 94条:地方公共団体は、財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能(けんのう=力)を持ち、「法律の範囲内で」条例を制定できる。
  • 95条:一つの地方公共団体だけに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その住民の投票で過半数の同意を得なければ、国会は制定できない。

地方自治法の受け止め方

  • 役割(1条の2第1項):地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域の行政を「自主的かつ総合的に」実施する役割を広く担う。
  • 国の役割(1条の2第2項):国は、国際社会での国家の存立にかかわる事務などを重点的に担い、「住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として」役割を分担する。
  • 法人(2条1項):地方公共団体は、法人とする。国とは別の、権利と義務を持つ団体だということ。
  • 議会(89条1項):普通地方公共団体(都道府県・市町村)に、住民が選挙した議員で組織する議会を置く。
  • 町村総会(94条・95条):町村は、条例で、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。町村総会には、町村の議会に関する規定が準用される。
  • 長と議員の選挙(17条・18条):長と議員は選挙人が投票で選ぶ。選挙権は、日本国民で年齢満18年以上、引き続き3か月以上その市町村の区域内に住所がある人が持つ。
  • 副知事・副市町村長(162条):長が議会の同意を得て選任する。住民の直接選挙ではない。
  • 直接請求(12条・13条):日本国民である住民は、条例の制定・改廃(地方税・分担金・使用料・手数料に関するものを除く)、事務の監査、議会の解散、議員・長などの解職を請求する権利を持つ。
  • 条例(14条1項・2項):法令に違反しない限りで、地域の事務について条例を作れる。義務を課したり権利を制限したりするには、法令に特別の定めがある場合を除き、条例によらなければならない。

判例:特別区は93条2項の「地方公共団体」か

東京都の特別区の区長を、区議会が都知事の同意を得て選ぶ仕組みに変えた法律(当時の地方自治法281条の2第1項)が、93条2項に反するかが争われました。最高裁判所大法廷昭和38年3月27日判決(昭和37年(あ)第900号)は、この規定は93条2項に違反しないとしました。

  • 基準:法律で地方公共団体とされているだけでは足りない。「事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在し」、さらに「相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とする」。地方の財源のしくみ(地方交付税など)は地方交付税と地方財政にあります。
  • 当てはめ:当時の特別区は、この基準からみて、93条2項の地方公共団体とは認められない。
  • 結論:区長の選び方をどうするかは「立法政策の問題」で、93条2項に違反しない。

いまの地方自治法では、特別区には、法律や政令に特別の定めがある場合を除き、市に関する規定が適用されます(283条1項)。このため、区長は市長と同じく選挙で選ばれます。判例が示したのは「当時の区長公選の廃止は違憲ではない」ということで、「区長を選挙で選んではいけない」ということではありません。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:市長と市議会議員を、市の住民が直接選挙で選ぶ。93条2項と地方自治法17条のとおりです。
  • 当てはまる例:人口の少ない村が、条例で議会を置かず、村総会を設ける。地方自治法94条が認めています。93条1項は「法律の定めるところにより」議会を置くとしていて、その法律が町村総会という例外を用意している、と読みます。
  • 当てはまらない例:副市長を、市の住民が直接選挙で選ぶ。副市長は、市長が議会の同意を得て選任します(162条)。93条2項の「法律の定めるその他の吏員」は、法律が直接選挙すると定めた職員のことで、副市長はこれに当たりません。
  • 当てはまらない例:転入して2か月の人が、市長選挙で投票する。選挙権には、引き続き3か月以上の住所が要ります(18条)。
  • ひっかけやすい例:特別区の判例を「特別区の区長は選挙で選んではいけないとした」と読むこと。判例は、区長公選の廃止を違憲としなかっただけです。いまの区長は選挙で選ばれます(283条1項・17条)。
  • ひっかけやすい例:地方公共団体の組織や運営を、それぞれの団体が条例で自由に決められると考えること。92条は「法律でこれを定める」としています。条例で決められるのは、法律の範囲内のことです(94条、地方自治法14条1項)。

似ているルールとの違い

憲法の条文と地方自治法の対応

憲法中身地方自治法主に関わる自治
92条組織・運営は法律で地方自治法そのもの両方の土台
93条1項議会を置く89条1項(町村総会は94条)住民自治
93条2項長・議員は住民が直接選挙17条・18条住民自治
94条財産・事務・行政と条例2条1項(法人)・14条団体自治
95条特別法は住民投票で過半数261条(投票の手続)両方の面がある
(なし)直接請求12条・13条住民自治

95条の住民投票は、国会の議決のあと、地方自治法261条の手続で行われます(議院の議長から内閣総理大臣への通知、長が選挙管理委員会に投票を行わせるなど)。直接請求は憲法に条文がなく、地方自治法が住民自治を広げて定めた制度です。署名の数や請求先は直接請求と住民監査請求の記事で表にしています。

だれが選ぶか:国と地方の比べ方

役職選び方条文
都道府県知事・市町村長住民が直接選挙憲法93条2項・地方自治法17条
地方議会の議員住民が直接選挙同上
副知事・副市町村長長が議会の同意を得て選任地方自治法162条
内閣総理大臣国会議員の中から国会が指名憲法67条1項

国は、国会が首相を選ぶ仕組み(議院内閣制)です。地方は、長も議員も住民が別々に選ぶ仕組みです。「地方の長も議会が選ぶ」とする形は、国の仕組みと混ぜたものです。

試験ではここをまちがえやすい

  • 本旨の中身を条文に求める:「住民自治」「団体自治」は条文の言葉ではありません。92条に書かれているのは「地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」だけです。
  • 直接選挙の範囲:93条2項で住民が直接選ぶのは、長・議員・法律の定めるその他の吏員。副知事・副市町村長は長が議会の同意を得て選びます(162条)。
  • 議会の設置:町村は条例で議会を置かず町村総会を設けられます(94条)。市と都道府県にはこの定めはありません。
  • 特別区の判例の結論:区長公選の廃止は93条2項に違反しない(最大判昭和38年3月27日)。理由は「当時の特別区は憲法上の地方公共団体に当たらない」こと。地方自治法上の地方公共団体かどうかの話ではありません。
  • 選挙権の要件:日本国民・満18年以上・引き続き3か月以上の住所(18条)。外国人の地方選挙権の判例は人権の主体の記事で扱っています。
  • 95条の数字:住民投票で「過半数」の同意。3分の2ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
人口の少ないA村は、条例で議会を置かず、村の選挙権を持つ人全員による総会を設けることにした。憲法93条1項は議会の設置を定めているが、地方自治法上、A村はこの総会を設けることができる。

答え:○ 分かれ目は、議会を置かない例外が法律にあるかどうかです。地方自治法94条は、町村は条例で、89条1項の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができると定めています。93条1項は「法律の定めるところにより」議会を置くとしており、その法律が例外を用意しています。93条1項の「議会を設置する」だけを覚えていると✕に見えます。この例外は町村だけで、市や都道府県にはありません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
B市の市長が、副市長を選ぶことにした。憲法93条2項によれば、副市長も、市長や市議会議員と同じく、B市の住民の直接選挙で選ばれる。

答え:✕ 分かれ目は、副市長の選び方です。副知事と副市町村長は、普通地方公共団体の長が議会の同意を得て選任します(地方自治法162条)。正しくは、住民の直接選挙ではなく、市長が議会の同意を得て選びます。93条2項の「その他の吏員」は、法律が直接選挙すると定めた職員で、副市長は当たりません。住民が直接選挙で選ぶのは、長と議員です(同法17条)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
日本国民で20歳のCさんは、2か月前にD市に転入し、住民票も移した。今月行われるD市長の選挙で、Cさんは選挙権を有する。

答え:✕ 分かれ目は、住所の期間です。地方公共団体の議員と長の選挙権は、日本国民で年齢満18年以上の者で、引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有するものが持ちます(地方自治法18条)。正しくは、2か月では足りず、Cさんには選挙権がありません。年齢と国籍の要件は満たしているので、○に見えます。3か月は住所の要件で、選挙権の年齢(満18年以上)とは別の要件です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 地方自治の本旨は、住民自治と団体自治の2つで説明される。条文にあるのは「本旨に基いて、法律でこれを定める」(92条)。
  • 93条:議会を置く(町村総会の例外は地方自治法94条)。長・議員は住民が直接選挙(副知事・副市町村長は長が議会の同意で選任)。
  • 94条:法律の範囲内で条例を作れる。95条:一つの団体だけの特別法は住民投票で過半数。
  • 特別区の区長公選の廃止は93条2項に反しない(最大判昭和38年3月27日)。いまは市の規定が適用され、区長は選挙で選ばれる。

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参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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