選択債権:AかBのどちらを渡すかはだれが選ぶか、選ぶ前に一方が無くなったら(民法406条〜411条)

ひとことで言うと、選択債権(せんたくさいけん)は、「車Aか車Bのどちらか」のように、いくつかの給付(きゅうふ=渡す物やすること)の中から選んで決まる債権です。選ぶ人を決めていなければ、選ぶのは債務者(渡す側)です(民法406条)。選ぶ前に一方が無くなっても、残りの一方に決まるのは、選ぶ権利を持つ人の過失で無くなったときだけです(410条)。

この記事では、①だれが選ぶか、②選ばないときにどうなるか、③選んだ後に変えられるか、④選ぶ前に一方が無くなったとき、を扱います。「お米10キロ」のように種類と量で決める債権は種類債権の記事、物が無くなったあとの損害賠償・解除・代金の扱いは履行不能の記事で扱います。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

登場人物は、中古車を売るまさきさんと、買うりおさんです。売る人=まさきさん(債務者)、買う人=りおさん(債権者)です(架空の話です)。

  1. 4月1日:まさきさんは、手元の白い車Aか青い車Bのどちらか1台を、100万円でりおさんに売る契約をした。どちらにするかを選ぶ人は決めなかった。引渡しは5月10日。
  2. 選ぶ人を決めていないので、選ぶ権利(選択権)はまさきさんにある(406条)。
  3. 5月10日が過ぎても、まさきさんはどちらにするか言わない。
  4. 5月12日:りおさんは「5月20日までに、どちらを渡すか決めてください」と催告した。
  5. 5月20日を過ぎても、まさきさんは選ばない。選択権はりおさんに移り、りおさんが選べる(408条)。

たとえるなら、選択債権は「AランチかBランチのどちらかを出す約束」です。どちらを出すかは、ふつうは店(出す側)が決めます。ただし本物のルールでは、店がいつまでも決めないと、客の催告で客が決められるようになります。さらに、選んだ結果は「注文した時から、そちらの約束だった」ことになります(411条)。

条文ではこう決まっている

  • 選択権はだれにあるか(406条):債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、選択権は「債務者に属する」。契約で債権者や第三者が選ぶと決めることもできます。
  • 選び方と撤回(407条):選択権は、相手方に対する意思表示で行使する(1項)。その意思表示は「相手方の承諾を得なければ、撤回することができない」(2項)。
  • 選ばないとき(408条):債権が弁済期にある場合に、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を持つ当事者がその期間内に選ばないときは、選択権は相手方に移る。
  • 第三者が選ぶとき(409条):選択は、債権者か債務者に対する意思表示でする(1項)。第三者が選べないとき、選ぶ意思がないときは、選択権は「債務者に移転する」(2項)。
  • 不能による特定(410条):給付の中に不能のものがある場合に、その不能が「選択権を有する者の過失によるものであるとき」は、債権は残ったものについて存在する。
  • 選択の効力(411条):選択は、債権の発生の時にさかのぼって効力を生じる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

410条は令和2年4月施行の改正で変わった

改正前の410条は、給付の中に初めから不能なものや後で不能になったものがあれば、債権は残ったものについて存在する、を原則にしていました(1項)。そのうえで、選択権を持たない当事者の過失で不能になったときは1項を使わない、としていました(2項)。今の410条は、残りに決まるのを「選択権を有する者の過失」のときだけにしています。だれのせいでもなく不能になったときの答えが、改正の前と後で逆になります。

当てはまる例・当てはまらない例

選ぶ前に一方が無くなったとき(410条の当てはめ)

まさきさん(売る人)が選択権を持っているとして、選ぶ前に車Aが壊れて直せなくなった場合です。

車Aが無くなった原因債権はBに決まるかその後
選択権を持つまさきさんの過失決まる(410条)まさきさんは車Bを渡す
選択権のないりおさんの過失決まらないまさきさんはAもBも選べる。Aを選べば、りおさんは代金を拒めない(536条2項)
だれのせいでもない(落雷など)決まらないAを選べば履行不能。りおさんは代金を拒め、解除もできる(536条1項・542条1項1号)

選択権がりおさんにある契約なら、表の1行目と2行目の立場が入れ替わります。りおさんの過失で車Aが無くなれば、債権は車Bに決まります。まさきさんの過失なら決まらず、りおさんは無くなった車Aを選んで、損害賠償を求める道を残せます(415条)。

ほかの当てはめ

  • 当てはまる(選択債権):「この土地の東側の区画か西側の区画のどちらかを売る」。区画が特定されていて、どちらかを選ぶ約束です。
  • 当てはまらない(種類債権):「この車種の中古車を1台」。どの1台かは種類と量で決まり、選ぶ相手が個別に並んでいるわけではありません。特定のルールは401条2項です。
  • ひっかけやすい(第三者が選ぶ約束):二人が、査定士のしのさんに選んでもらうと決めた。しのさんが「選びたくない」と言ったら、選択権は債務者のまさきさんに移ります(409条2項)。催告した相手方に移る408条とは、移る先が違います。
  • ひっかけやすい(選んだ後の変更):まさきさんが「車Bにします」と伝えた後は、りおさんの承諾がなければ撤回できません(407条2項)。承諾があれば撤回できます。

似ているルールとの違い

選択債権と種類債権は、どちらも「はじめは渡す物が一つに決まっていない」債権です。決まり方が違います。

比べる点選択債権種類債権
例車Aか車Bのどちらかこの車種の中古車1台
一つに決まる時選択の意思表示(407条)必要な行為の完了か、同意を得た指定(401条2項)
決まった効果債権の発生の時にさかのぼる(411条)以後その物が目的物(401条2項)
決まる前に1つ無くなったら選択権者の過失なら残りに決まる(410条)ほかから用意し直す

選択権が移る先も、2つの条文で違います。

場面移る先条文
当事者が催告されても期間内に選ばない催告した相手方408条
第三者が選べない・選ぶ意思がない債務者409条2項

408条は、弁済期にあることと、相当の期間を定めた催告が前提です。弁済期の前に催告しても、選択権は移りません。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトは宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)の論点を数えていますが、選択債権は論点として分けておらず、問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。条文が6つと少なく、主体と移る先を取り違える形に絞って押さえます。

  • 選ぶのは債権者、とする形:決めていなければ債務者です(406条)。
  • 移る先の入れ替え:当事者が選ばないときは相手方へ(408条)、第三者が選ばないときは債務者へ(409条2項)。
  • 不能なら残りに決まる、とする形:今の410条で残りに決まるのは、選択権を持つ人の過失のときだけです。だれのせいでもない不能や、相手方の過失による不能では決まりません。改正前の410条の覚え方が残っていると誤ります。
  • 選んだら変えられない、とする形:撤回には相手方の承諾が要る、が条文です(407条2項)。承諾があれば撤回できます。
  • 選んだ時から効力、とする形:選択は債権の発生の時にさかのぼります(411条本文)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
まさきさんは、車Aか車Bのどちらかをりおさんに売る契約をし、選ぶ人は決めなかった。引渡しの日の後、りおさんが相当の期間を定めて選ぶよう催告したのに、まさきさんが期間内に選ばないときは、選択権はりおさんに移る。

答え:○ 分かれ目は、選ばないときに選択権がどこへ移るかです。選ぶ人を決めていないので、選択権はまず債務者のまさきさんにあります(民法406条)。弁済期にあって、相手方が相当の期間を定めて催告しても選択権を持つ人が選ばないときは、選択権は相手方に移ります(408条)。選ぶのは売る側と決まっているから移らない、と考えると✕に見えます。第三者が選ぶ約束で第三者が選ばないときは、移る先は債務者で(409条2項)、この場面とは違います。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1と同じ契約で、選択権を持つまさきさんが選ぶ前に、落雷で車Aが焼けた。まさきさんにもりおさんにも落ち度はなかった。この場合、債権は残った車Bについて存在することになる。

答え:✕ 分かれ目は、不能がだれの過失によるかです。今の410条は、給付の中に不能のものがある場合に、その不能が「選択権を有する者の過失によるものであるとき」に限って、債権は残ったものについて存在するとしています。正しくは、落雷はまさきさんの過失ではないので、債権は車Bに決まらず、まさきさんは車Aを選ぶこともできます。不能になった給付があれば残りに決まるとしていたのは、令和2年4月施行の改正前の410条1項で、それと取り違えた文です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
選択権を持つまさきさんは、りおさんに「車Bを渡します」と伝えた。その後、まさきさんが車Aを渡したくなった場合でも、りおさんが承諾すれば、まさきさんは選択を撤回することができる。

答え:○ 分かれ目は、撤回を止めているのがだれの利益のためかです。選択の意思表示は「相手方の承諾を得なければ、撤回することができない」とされています(民法407条2項)。裏から読むと、相手方のりおさんが承諾すれば撤回できます。選択は債権の発生の時(この例では契約の時)にさかのぼって効力を生じる(411条)ので、一度選べば変えられないと考えると✕に見えます。さかのぼるのは選択の効力の話で、撤回の可否は407条2項で決まります。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 選択権は、決めていなければ債務者(406条)。行使は相手方への意思表示で、撤回には相手方の承諾がいる(407条)。
  • 弁済期に相当の期間を定めて催告しても選ばなければ、選択権は相手方へ(408条)。第三者が選ばなければ債務者へ(409条2項)。
  • 選ぶ前に一方が不能になっても、残りに決まるのは選択権を持つ人の過失のときだけ(410条。令和2年4月施行の改正後)。
  • 選択は債権の発生の時にさかのぼる。ただし第三者の権利は害せない(411条)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。改正前の410条は、e-Gov法令検索で令和2年3月31日時点の民法を確かめました。

このサイトで次に読むなら、債務不履行と解除の記事です。選んだ車が無くなったあと、損害賠償と解除のどちらを使えるかを、帰責事由の要否で分けて確かめられます。

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