一括競売とは:抵当権を付けたあとに建てられた建物を、土地と一緒に競売できる場合

一括競売(いっかつけいばい)は、抵当権を付けたあとに、その土地に建物が建てられたとき、抵当権者が土地と一緒に建物も競売できる制度です(民法389条1項)。

ひとことで言うと、「更地として担保にとった土地に、あとから建物が建ったら、まとめて売ってよい」というルールです。ただし、抵当権者が優先して受け取れるのは、土地の代価だけです(389条1項ただし書)。建物の持ち主が、抵当権者に対抗できる土地の利用権(借りる権利など)を持っているときは使えません(同条2項)。

抵当権を付けた時に、同じ持ち主の建物がすでにあった場合は、一括競売ではなく法定地上権(388条)の場面です。この記事では、389条の要件と効果、使えない場合を、法定地上権と並べて確かめます。法定地上権の判例は法定地上権の記事にあります。条文は令和8年4月1日時点のものです。

身近な例で考えると

人物立場したこと
なおきさん土地の持ち主更地にひかり信用金庫の抵当権を付けてお金を借りた
ひかり信用金庫抵当権者返済が止まり、競売を申し立てる
あかねさん土地を借りた人抵当権の登記のあとに土地を借り、家を建てた
けんたさん買う人競売で土地を買う
  1. なおきさんは、何も建っていない土地に、ひかり信用金庫のための抵当権を付けて登記した。信用金庫は、更地として土地を評価した。
  2. その後、なおきさんは土地をあかねさんに貸し、あかねさんが家を建てた。賃貸借は抵当権の登記より後なので、あかねさんの借りる権利は、信用金庫に対抗できない。
  3. なおきさんの返済が止まり、信用金庫は競売を申し立てることにした。
  4. 土地だけを競売すると、買ったけんたさんの土地の上に、あかねさんの家が残る。抵当権を付けた時に建物がなかったので、法定地上権は成り立たない(388条)。
  5. 信用金庫は、389条1項により、土地とあかねさんの家をまとめて競売できる。389条は、建物を建てた人を限っていない。
  6. 代金のうち、信用金庫が優先して受け取れるのは、土地の代価の分だけ。家の代価から、ほかの債権者より先に受け取ることはできない。

まとめて売れば、買った人の土地の上に、使う権利のない建物が残る、という形を避けられます。たとえるなら、一括競売は「担保にとった空き地に、あとから置かれた物置ごと売りに出す」ことです。ただし本物のルールでは、物置(建物)の代金は抵当権者が先取りできません。抵当権の効力は、土地の上の建物には及ばないからです(370条)。

条文ではこう決まっている

  • 389条1項本文:「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。」
  • 389条1項ただし書:「ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。」
  • 389条2項:「前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。」
  • 要件をかみくだくと、①抵当権を設定した後に、②その土地に建物が建てられ、③建物の所有者が、抵当権者に対抗できる土地の占有の権利を持っていないこと。建物を建てた人がだれかは問わない。
  • 「できる」:389条は「競売することができる」と書いている。抵当権者は、土地だけを競売することもできる。
  • 改正前との違い:平成15年の改正(平成15年法律第134号)より前の389条は、「其設定者ガ抵当地ニ建物ヲ築造シタルトキ」と、抵当権を設定した人が建てた建物に限っていた。いまは建てた人を問わず、そのかわりに2項(抵当権者に対抗できる権利を持つ人の建物には使えない)が加わった。「設定者が建てた建物に限る」と覚えていると取り違える。
  • 対抗できる権利の例:抵当権の登記より前に、賃借権の登記をした賃貸借(605条)や、土地の上に借地権者が登記した建物を持つ借地権(借地借家法10条1項)。抵当権より後の賃貸借でも、登記した賃貸借について、先に登記した抵当権者の全員が同意し、その同意の登記があれば、同意した抵当権者に対抗できる(387条1項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(持ち主が自分で建てた):なおきさん自身が、抵当権を付けたあとに倉庫を建てた。信用金庫は、土地とともに倉庫も競売できる。
  • 当てはまる(抵当権に対抗できない借主が建てた):上のあかねさんの例。
  • 当てはまらない(建物が先にあった):抵当権を付けた時に、なおきさんの家がすでに建っていた。389条の「設定後に…築造されたとき」にあたらない。競売で土地と家の持ち主が分かれれば、家のために法定地上権が成り立つ(388条)。
  • 当てはまらない(対抗できる借りる権利がある):あかねさんが、抵当権の登記より前に土地を借り、賃借権の登記もしていた。あかねさんの権利は抵当権者に対抗できるので、一括競売はできない(389条2項)。
  • ひっかけやすい(先に借りただけ):あかねさんが抵当権の登記より前に土地を借りたが、賃借権の登記はなく、家を建てたのも抵当権の登記の後だった。抵当権の登記の時には対抗要件がなかったので、抵当権者に対抗できず、一括競売はできる。決め手は契約の日付ではなく、対抗要件を備えた時と抵当権の登記の先後です。

抵当権と借りる権利のどちらが優先するかは抵当権と賃借権の優劣で、借地権の対抗要件(建物の登記)は借地権の対抗要件で、それぞれ表にしています。

似ているルールとの違い

比べる点法定地上権(388条)一括競売(389条)一括売却(民事執行法61条)
建物がいつあるか抵当権を付けた時にある抵当権を付けた後に建つ問わない
持ち主土地と建物が同じ持ち主問わない問わない
だれが決めるか法律の効果抵当権者が選ぶ執行裁判所
建物はどうなる地上権付きで残る土地と一緒に売られる一緒に売られる

法定地上権は「建物を残す」制度、一括競売は「更地として評価した抵当権者が、建物ごと売れる」制度で、向きが逆です。民事執行法61条の一括売却は、執行裁判所が、競売の手続にかかっている不動産を、相互の利用のうえで他の不動産と一括して同じ買受人に買わせるのが相当と認めるときに決める売り方です(差押債権者や債務者が違う不動産でもよい)。抵当権者の権利として定めた389条とは別のしくみです。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している宅建試験の問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、抵当権が主な論点の問題は29問で、直近10回(平成30年度〜令和7年度)では5問でした。ほかの論点の問題の中で抵当権を副の論点として扱ったものは7問でした。一括競売だけの数は、分けて数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 時点:一括競売は、抵当権を付けた「後」に建った建物だけ。先にあった建物は法定地上権の問題。
  • 建てた人:抵当権を付けた本人に限らない。借りた人が建てた建物も入る。
  • 優先の範囲:抵当権者が優先して受けられるのは土地の代価だけ。
  • 使えない場合:建物の所有者が、抵当権者に対抗できる占有の権利を持つとき。契約の先後ではなく、対抗要件と抵当権の登記の先後で決まる。
  • 義務ではない:「競売することができる」。土地だけの競売もできる。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
なおきさんは、自分の倉庫が建っている自分の土地だけに、ひかり信用金庫のための抵当権を付けて登記した。返済が止まった場合、信用金庫は、民法389条により、土地とともに倉庫も競売することができる。

答え:✕ 分かれ目は、建物が建ったのが抵当権を付ける前か後かです。389条1項は「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたとき」に限っています。正しくは、倉庫は抵当権を付けた時にすでにあったので389条は使えず、土地の競売で持ち主が分かれれば、倉庫のために法定地上権が成り立ちます(388条)。倉庫も売りたいなら、倉庫にも抵当権を付けておく必要があります。建物が先なら388条、後なら389条という組を、逆に当てはめた文です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
あかねさんは、ひかり信用金庫の抵当権の登記より前に、なおきさんから土地を借りたが、賃借権の登記はせず、倉庫を建てたのも抵当権の登記の後だった。この場合、信用金庫は、土地とともにあかねさんの倉庫を競売することができる。

答え:○ 分かれ目は、あかねさんの借りる権利が抵当権者に対抗できるかです。389条2項は、建物の所有者が抵当地の占有について抵当権者に対抗できる権利を持つときは、一括競売を使えないとしています。土地の賃借権を対抗するには、賃借権の登記(民法605条)か、土地の上に登記した建物を持つこと(借地借家法10条1項)が要りますが、抵当権の登記の時にはどちらもありませんでした。先に借りたのだから対抗できると考えると✕にしてしまいます。決め手は、契約の先後ではなく、対抗要件と抵当権の登記の先後です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ひかり信用金庫の抵当権の登記の後、なおきさんは土地をあかねさんに貸し、あかねさんが家を建てた。信用金庫がこの賃貸を口頭で承認していた場合、信用金庫は、土地とともにあかねさんの家を競売することはできない。

答え:✕ 分かれ目は、抵当権者の承認だけで、借りる権利が抵当権者に対抗できるようになるかです。抵当権より後の賃貸借が抵当権者に対抗できるのは、登記した賃貸借について、先に登記した抵当権者の全員が同意し、その同意の登記があるときです(民法387条1項)。正しくは、口頭で承認しただけでは対抗できる権利にならず、389条2項にあたらないので、信用金庫は家も一緒に競売できます。387条の「同意の登記」の手続を、ただの承認と取り違えた文です。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。抵当権の配当や法定地上権もあわせて解く○✕20問は宅建の抵当権の問題にあります。

まとめ

  • 抵当権を付けたあとに土地に建物が建てられたら、抵当権者は土地とともに建物も競売できる(389条1項)。建てた人は問わない。
  • 優先して受けられるのは土地の代価だけ(389条1項ただし書)。
  • 建物の所有者が、抵当権者に対抗できる占有の権利を持つときは使えない(389条2項)。
  • 抵当権を付けた時に同じ持ち主の建物があれば、一括競売ではなく法定地上権(388条)。
  • 一括競売は抵当権者の権利で、執行裁判所が決める民事執行法61条の一括売却とは別のしくみ。

次に読むなら、共同抵当をわかりやすくがおすすめです。土地だけでなく建物にも抵当権を付けておく共同抵当では、競売の代金をどう分けるかが別のルール(392条)で決まります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。

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