自治事務と法定受託事務の違い:定義・例・条例を作れるか・国の関与と審査請求

ひとことで言うと、地方公共団体(都道府県・市町村など)の事務は2つに分かれます。法定受託事務は、本来は国(第一号)や都道府県(第二号)が果たすべき役割の事務で、法律や政令で特に定めたものです(地方自治法2条9項)。自治事務は、それ以外の全部です(2条8項)。この2つの区分は、それまでの機関委任事務をなくした改正(平成11年に公布され、平成12年4月に施行された、いわゆる地方分権一括法による改正)でできたもので、経緯は地方分権一括法の記事で扱っています。

どちらも地方公共団体の事務です。区別で変わるのは、国や都道府県の関与(かんよ=口出しや指図)の強さと、処分に不服があるときの審査請求の行き先です。条例を作れることと議会の調査は、どちらの事務にも原則として及びます。関与の手続と国地方係争処理委員会は国の関与と係争処理で、条例と規則の違いは条例と規則で扱っています。この記事は、事務の区分そのものと、区分で何が変わるかに絞ります。

身近な例で考えると

登場するのは、かえで市の市役所で働くのぞみさんと、市に住むけんたさんです。かえで市は、みなと県の中にあります(市と県の名前は架空です)。

場面1:同じ窓口でも、事務の種類が違う

  1. けんたさんが、子どもの出生届を出しに市役所へ来た。戸籍に関する事務は市町村長が扱い、戸籍法1条2項がこれを第一号法定受託事務としている。
  2. 同じ日、けんたさんは、かえで市が条例で独自に設けた子育て支援の事務の窓口にも寄った。法律や政令で法定受託事務と特に定められていないので、自治事務になる。
  3. のぞみさん「どちらも市の仕事です。ただ、国の口出しの強さや、不服があったときの申立て先が違うんです」

場面2:処分に不服があったら

けんたさんが、ある法律で法定受託事務とされた事務について、かえで市長から不許可の処分を受けたとします。個別の法律に特別の定めがなければ、審査請求の相手は、みなと県知事です(255条の2第1項2号)。もし処分をしたのがみなと県知事なら、その法律を所管する大臣が相手になります(同項1号)。

自治事務についての市長の処分なら、255条の2は働きません。行政不服審査法4条1号の原則により、処分をした市長に上級行政庁がないので、市長に審査請求をします。

たとえ話と、本物との違い

お店にたとえると、自治事務は店が自分で決めた商品の販売、法定受託事務は本社から「この手順で扱うように」と特に指定された商品の取次ぎのようなものです。取次ぎの商品には、本社が手順の基準を示したり、直すよう指示したりできます。ただし本物では、法定受託事務も「本社(国)の事務」ではなく、地方公共団体自身の事務です。条例も作れますし、議会も調べられます。

条文ではこう決まっている

定義(2条8項・9項・10項)

  • 第一号法定受託事務:法律・政令で都道府県・市町村・特別区が処理するとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るもの。国がその適正な処理を特に確保する必要があるとして、法律・政令に特に定めるもの(2条9項1号)。
  • 第二号法定受託事務:法律・政令で市町村・特別区が処理するとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るもの。都道府県が適正な処理を特に確保する必要があるとして、法律・政令に特に定めるもの(2条9項2号)。
  • 自治事務:地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のもの(2条8項)。
  • どの事務が法定受託事務かは、地方自治法の別表第一(第一号)・別表第二(第二号)と、政令に示されています(2条10項)。戸籍法1条2項のように、それぞれの法律の中にも書かれています。

見分け方の順番は「法定受託事務と特に定められているか」が先です。定められていなければ、自治事務です。自治事務を一つずつ列挙した条文はありません。また、第二号は、市町村・特別区が処理する事務だけです。都道府県の事務に第二号法定受託事務はありません。

条例と議会の調査(14条1項・100条1項)

  • 条例:地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて「第二条第二項の事務」に関し、条例を制定できる(14条1項)。2条2項の事務には自治事務も法定受託事務も入るので、法定受託事務についても条例を作れます。
  • 議会の調査:議会は、その団体の事務に関する調査ができ、特に必要なときは選挙人その他の関係人の出頭・証言・記録の提出を請求できる(100条1項)。除かれるのは、自治事務では労働委員会・収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるもの、法定受託事務では国の安全を害するおそれなどがあるとして政令で定めるものです。

関与の種類と原則(245条・245条の3)

245条1号は、関与の型を7つ並べています。イ 助言・勧告、ロ 資料の提出の要求、ハ 是正の要求、ニ 同意、ホ 許可・認可・承認、ヘ 指示、ト 代執行です。2号は協議、3号はそれ以外の個別の関わりです。245条の3は、関与を必要最小限にするよう国に求めたうえで、事務の区分ごとに次のように定めます。

  • 自治事務:できる限り、代執行(ト)と3号の関与を受けないようにする(2項)。同意(ニ)・許可等(ホ)・指示(ヘ)も、条文が挙げる特別な場合を除いて、要することのないようにする(4項〜6項)。
  • 法定受託事務:できる限り、3号の関与を受けないようにする(2項)。是正の指示(245条の7)と代執行(245条の8)は、法定受託事務についての手続として置かれています。

主な関与の条文

  • 技術的な助言・勧告、資料の提出の要求(245条の4):各大臣や都道府県の執行機関が、地方公共団体の事務の運営について行える。事務の区分を問いません。
  • 是正の要求(245条の5):各大臣は、都道府県の自治事務の処理が法令に違反しているときなどに求められる。市町村については、第一号法定受託事務を除く事務が対象で、大臣は都道府県の執行機関に「求めるよう指示」する(2項)。求めを受けた団体は、必要な措置を講じなければならない(5項)。
  • 是正の指示(245条の7):各大臣は都道府県の法定受託事務について、都道府県の執行機関は市町村の法定受託事務について、講ずべき措置に関し必要な指示ができる。
  • 処理基準(245条の9):各大臣は都道府県の法定受託事務について、都道府県の執行機関は市町村の法定受託事務について、処理に当たり「よるべき基準」を定められる。市町村の第一号法定受託事務は、特に必要があれば大臣も定められる(3項)。自治事務には、この条文はありません。

法定受託事務の処分への審査請求(255条の2)

法定受託事務に係る処分と不作為(ふさくい=申請に応答しないこと)の審査請求は、他の法律に特別の定めがある場合を除き、次の相手にします(255条の2第1項)。

処分をした機関審査請求の相手号
知事など都道府県の執行機関その事務の法律・政令を所管する大臣1号
市町村長など(教育委員会・選挙管理委員会を除く)都道府県知事2号
市町村教育委員会都道府県教育委員会3号
市町村選挙管理委員会都道府県選挙管理委員会4号

不作為についての審査請求は、表の相手に代えて、その不作為に係る執行機関にすることもできます(同項後段)。自治事務の処分にはこの条文がないので、行政不服審査法4条の原則に戻ります。審査請求の流れは審査請求の記事で説明しています。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例(第一号法定受託事務):市町村長が扱う戸籍の事務。戸籍法1条2項が、地方自治法2条9項1号の第一号法定受託事務とすると定めています。
  • 当てはまる例(自治事務):かえで市が条例で独自に設けた子育て支援の事務。法律・政令で法定受託事務と特に定められていないので、自治事務です。
  • 当てはまらない例:「法律にもとづく事務だから法定受託事務」と考えること。法律にもとづいて地方公共団体が処理する事務でも、法律・政令で法定受託事務と特に定められていなければ、自治事務です。
  • 当てはまらない例:みなと県が処理する事務を、第二号法定受託事務に分けること。第二号は、市町村・特別区が処理する事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割のものに限られます。
  • ひっかけやすい例:法定受託事務についての市長の処分は、国の役割の事務だから大臣に審査請求する、と考えること。255条の2第1項2号により、市町村長の処分は都道府県知事が相手です。大臣が相手になるのは、知事など都道府県の執行機関の処分です(1号)。
  • ひっかけやすい例:個別の法律に特別の定めがある場合。255条の2は「他の法律に特別の定めがある場合を除くほか」と書いているので、その法律の定めが先です。たとえば戸籍事件についての市町村長の処分には、家庭裁判所に不服の申立てができるという定めが戸籍法122条に置かれています。

似ているルールとの違い

比べる点自治事務法定受託事務
定義法定受託事務以外(2条8項)国・都道府県の役割で、法律・政令に特に定める(2条9項)
条例作れる(14条1項)作れる(14条1項)
議会の調査及ぶ。政令で除く事務あり(100条1項)及ぶ。政令で除く事務あり(100条1項)
直させる関与是正の要求(245条の5)是正の指示(245条の7)
処理基準定めなし定められる(245条の9)
代執行受けないようにする(245条の3第2項)手続あり(245条の8)
審査請求行政不服審査法4条の原則255条の2の相手

表の上の3行は「どちらも同じ」、下の4行は「区分で違う」です。違いは、国や都道府県がどこまで口を出せるか、という一つの軸にまとまります。法定受託事務は、国や都道府県が適正な処理を「特に確保する必要がある」事務なので、基準・指示・代執行という強い手段が用意されています。

地方自治法の中でどこまで勉強するかは、地方自治法は捨てていいかで、範囲と覚える数字を整理しています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 第一号と第二号の主体:第一号は「国が本来果たすべき役割」で、都道府県・市町村・特別区の事務。第二号は「都道府県が本来果たすべき役割」で、市町村・特別区の事務だけ(2条9項)。
  • 自治事務の決め方:自治事務を列挙した条文はなく、「法定受託事務以外のもの」です(2条8項)。
  • 条例と議会の調査:「法定受託事務には条例を作れない」「議会の調査は及ばない」とする形。どちらも原則として及びます(14条1項・100条1項)。除かれるのは政令で定めるものだけです。
  • 是正の要求と是正の指示:自治事務は是正の要求(245条の5)、法定受託事務は是正の指示(245条の7)。名前が似ているので、事務の区分とセットで覚えます。なお、市町村の第二号法定受託事務は、大臣の指示による是正の要求(245条の5第2項)の対象にも入ります(除かれるのは第一号法定受託事務)。
  • 処理基準:「自治事務についても大臣が処理基準を定められる」とする形。245条の9は法定受託事務だけです。技術的な助言・勧告(245条の4)は、区分を問いません。
  • 審査請求の相手:市町村長の処分は知事、知事の処分は大臣(255条の2第1項)。教育委員会と選挙管理委員会は、それぞれ県の同じ委員会です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
E市長が、法律で法定受託事務とされた事務について、Fに不許可の処分をした。個別の法律に審査請求の特別の定めはない。この場合、Fは、その法律を所管する大臣ではなく、E市が属するG県の知事に審査請求をする。

答え:○ 分かれ目は、処分をしたのが市町村長か都道府県知事かです。法定受託事務に係る市町村長の処分の審査請求は、都道府県知事に対してします(255条の2第1項2号)。所管の大臣が相手になるのは、知事など都道府県の執行機関の処分です(同項1号)。「国の役割の事務だから大臣」と考えると✕に見えます。自治事務の処分なら、行政不服審査法4条1号により、上級行政庁のない市長に審査請求をします。

問2(このサイトのオリジナル問題)
各大臣は、その所管する法律に係る都道府県の自治事務の処理について、都道府県がその事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができ、都道府県はその基準に沿って事務を処理することになる。

答え:✕ 分かれ目は、処理基準を定められる事務の区分です。処理に当たり「よるべき基準」(処理基準)を各大臣が定められるのは、都道府県の法定受託事務です(245条の9第1項)。正しくは、自治事務について処理基準を定める条文はありません。自治事務にも使えるのは、技術的な助言・勧告と資料の提出の要求(245条の4)です。処理基準と技術的な助言を取り違えると○に見えます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
H市議会は、H市が処理する法定受託事務についても、政令で除かれるものを除き、地方自治法100条による調査を行い、特に必要があれば関係人の出頭や証言を請求することができる。

答え:○ 分かれ目は、議会の調査が法定受託事務に及ぶかどうかです。100条1項は、調査の対象を「当該普通地方公共団体の事務」とし、法定受託事務からは、国の安全を害するおそれなどで政令で定めるものだけを除いています。「法定受託事務は国の役割の事務だから、議会は調べられない」と考えると✕に見えます。法定受託事務も市の事務なので、条例も作れます(14条1項)。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。

まとめ

  • 法定受託事務は、国(第一号)や都道府県(第二号)の役割の事務で、法律・政令に特に定めたもの。自治事務はそれ以外(2条8項・9項)。
  • どちらも地方公共団体の事務。条例は作れ、議会の調査も原則として及ぶ(14条1項・100条1項)。
  • 直させる関与は、自治事務が是正の要求、法定受託事務が是正の指示。処理基準と代執行は法定受託事務の仕組み。
  • 法定受託事務の処分の審査請求は、市町村長の処分なら知事、知事の処分なら大臣(255条の2)。

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参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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