ひとことで言うと、国会議員には、仕事を自由に続けられるように、①歳費(さいひ=給料)を受ける、②会期中は原則として逮捕されない、③議院での発言や表決について院外で責任を問われない、の3つの特権がある、というルールです(憲法49条〜51条)。
不逮捕特権は「会期中」の話なので、国会がいつ開かれるか(常会・臨時会・特別会)と、衆議院の解散中に開かれる参議院の緊急集会の知識とつながります。この記事では、3つの特権と例外、関係する判例、国会の種類の順に扱います。三権の関係の全体は三権分立の記事にあります。
身近な例で考えると
登場人物は、衆議院議員のみなとさんと、参議院議員のあかりさんです。
- 1月に常会が始まった。会期中、みなとさんに、ある事件の疑いがかかった。警察は逮捕したいと考えた。
- 会期中の逮捕には、原則として衆議院の許諾が要る。内閣が衆議院に許諾を求め、衆議院が許諾すれば逮捕できる。
- 一方、あかりさんは、参議院の委員会の質疑で、ある会社の名前を挙げて厳しく批判した。会社は「名誉を傷つけられた」と怒っている。
- 議院で行った演説・討論・表決について、あかりさんは院外で責任を問われない。ただし、議院の中での懲罰は別の話になる。
たとえるなら、試合中の選手が、相手チームの都合で勝手に退場させられないようにするルールです。ただし本物のルールでは、守られるのは会期中だけで、現行犯や議院の許諾があれば逮捕できます。特権は「何をしても許される」という意味ではありません。
条文ではこう決まっている
| 特権 | 条文 | 中身 | 例外・注意 |
|---|---|---|---|
| 歳費 | 憲法49条、国会法35条 | 国庫から相当額の歳費を受ける | 額は一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く)より少なくない |
| 不逮捕特権 | 憲法50条、国会法33条 | 会期中は、院の許諾がなければ逮捕されない | 院外の現行犯は許諾なしで逮捕できる |
| 会期前の逮捕 | 憲法50条後段 | 議院の要求があれば会期中は釈放する | 釈放の要求の発議は議員20人以上の連名(国会法34条の3) |
| 免責特権 | 憲法51条 | 議院で行った演説・討論・表決について院外で責任を問われない | 院内の懲罰は別。除名は出席議員の3分の2以上(58条2項) |
- 不逮捕特権の「法律の定める場合」:憲法50条は「法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず」としています。法律(国会法33条)が定める例外は、①院外における現行犯罪と、②その院の許諾がある場合です。
- 許諾を求めるのはだれか:内閣です。裁判所や裁判官が令状を出す前に内閣に出した要求書を受け取ったあと、速やかに、その写しを付けて議院に許諾を求めます(国会法34条)。
- 会期前に逮捕されていた議員:内閣は、会期の始めに、令状の写しを付けてその議員の名前を議長に通知します(国会法34条の2第1項)。議院が要求すれば、会期中は釈放されます(憲法50条)。
- 緊急集会中の参議院議員:参議院の緊急集会中も、参議院の議員は、院外の現行犯の場合を除き、参議院の許諾がなければ逮捕されません(国会法100条1項)。
免責特権に関係する判例
| 判例 | 場面 | 結論 |
|---|---|---|
| 最三小 平成9年9月9日 | 国会議員が国会の質疑の中で、ある個人の名誉を低下させる発言をした | 議員個人は責任を負わない。国が国家賠償の責任を負うのは、権限の趣旨に明らかに背いたといえる特別の事情があるとき |
| 最大 昭和42年5月24日 | 地方議会の議員の発言 | 判決理由の中で、地方議会議員の発言について免責特権を憲法上保障していると解すべき根拠はないとした |
平成9年の判決で注意したいのは、議員個人が責任を負わない理由です。判決は、発言が憲法51条の「演説、討論又は表決」に当たるかどうかを論ずるまでもなく、職務として行われた発言について、国が賠償責任を負うことがあるのは別として、公務員である議員個人は責任を負わない、としました。国家賠償法1条の考え方による結論です。国の責任が認められるには、議員が職務とかかわりなく違法・不当な目的で事実を示した、あるいは虚偽と知りながらあえて事実を示したなど、特別の事情が要るとしました。国家賠償法1条の判例は国家賠償法1条の判例の記事でまとめています。
国会の種類:常会・臨時会・特別会と緊急集会
| 種類 | 開かれるとき | 会期など |
|---|---|---|
| 常会 | 毎年1回(憲法52条)。1月中に召集するのが常例(国会法2条) | 150日間(国会法10条) |
| 臨時会 | 内閣が召集を決定できる。いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、決定しなければならない(憲法53条) | 両議院一致の議決で定める(国会法11条) |
| 臨時会(任期満了の後) | 衆議院議員の任期満了による総選挙のあと、任期が始まる日から30日以内(国会法2条の3) | 同上 |
| 特別会 | 衆議院の解散→40日以内に総選挙→選挙の日から30日以内に召集(憲法54条1項) | 同上。常会と併せて召集できる(国会法2条の2) |
| 参議院の緊急集会 | 衆議院の解散中、国に緊急の必要があるとき、内閣が求める(憲法54条2項) | とられた措置は臨時のもの。次の国会開会後10日以内に衆議院の同意がなければ効力を失う(54条3項) |
会期は召集の当日から数えます(国会法14条)。臨時会の召集を議員の側から求めるときは、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の議員が連名で、議長を経由して内閣に要求書を出します(国会法3条)。緊急集会を求めるときは、内閣総理大臣が集会の期日を定め、案件を示して、参議院議長に請求します(国会法99条1項)。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(会期中・許諾なし):常会の会期中、院外の現行犯でもないのに、衆議院の許諾なくみなとさんを逮捕することはできません。
- 当てはまらない(院外の現行犯):会期中でも、みなとさんが院外で現行犯として捕まる場合は、衆議院の許諾は要りません(国会法33条)。
- 当てはまらない(会期外):国会が閉会している間は、不逮捕特権はありません。ただし、閉会中に逮捕された議員も、次の会期が始まり議院が要求すれば釈放されます(憲法50条)。
- 当てはまらない(地方議会の議員):市議会の議員の本会議での発言は、憲法51条の免責特権の対象ではありません。判例は、地方議会議員に免責特権を憲法上保障していると解すべき根拠はないとしています(昭和42年判決)。
- ひっかけやすい(院内の懲罰):免責特権は「院外で」責任を問われないという意味です。議院が院内の秩序を乱した議員を懲罰すること(58条2項)は妨げられません。
似ているルールとの違い
「お金の身分保障」は、国会議員と裁判官で書き方が違います。裁判官の報酬は、在任中減額することができないと憲法に書かれています(79条6項・80条2項)。国会議員の歳費の条文(49条)には、その言葉がありません。裁判官の身分保障は裁判官の身分保障の記事で比べています。
| 比べる点 | 不逮捕特権(50条) | 免責特権(51条) |
|---|---|---|
| 守る範囲 | 会期中の身体の自由 | 議院で行った演説・討論・表決 |
| 期間 | 会期中だけ(緊急集会中の参議院議員も) | 条文に会期の限定はない |
| 例外 | 院外の現行犯、院の許諾 | 院内の懲罰は別 |
試験ではここをまちがえやすい
- 不逮捕特権の例外の取り違え:許諾が要らないのは「院外における」現行犯。会期外は特権の対象外。会期前に逮捕された議員の釈放は「議院の要求があれば」。
- 許諾を求める主体:議院に許諾を求めるのは内閣(国会法34条)。裁判所が直接求めるのではありません。
- 免責特権の判例の理由:平成9年判決は、議員個人が責任を負わない理由を、51条に当たるかを論ずるまでもなく、国家賠償の枠組みで導きました。
- 任期満了と解散の取り違え:解散のあとの総選挙の後に開かれるのは特別会(54条1項)。任期満了による総選挙の後に開かれるのは臨時会(国会法2条の3)。
- 臨時会と緊急集会の主体:臨時会の召集を決定するのは内閣。緊急集会を求めるのも内閣で、参議院が自分で開くのではありません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
常会の会期中、衆議院議員Aが、院外で犯罪を行い、その場で現行犯として逮捕された。衆議院の許諾がなかったとしても、この逮捕は国会法に反しない。
答え:○ 分かれ目は、院外の現行犯かどうかです。国会法33条は、各議院の議員は「院外における現行犯罪の場合を除いては」会期中その院の許諾がなければ逮捕されないと定めています。憲法50条の「会期中逮捕されず」だけを覚えていると✕にしてしまいます。50条は「法律の定める場合を除いては」としており、その法律が国会法33条です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
国会議員Aが、国会の質疑の中で、民間の病院の院長Bの名誉を低下させる発言をし、BがA個人に損害賠償を求めた。判例は、Aの発言が憲法51条の「演説、討論又は表決」に当たることを理由に、A個人は責任を負わないとした。
答え:✕ 分かれ目は、議員個人が責任を負わない理由です。最高裁判所第三小法廷平成9年9月9日判決は、発言が51条の「演説、討論又は表決」に当たるかどうかを論ずるまでもなく、職務として行われた発言について、公務員であるA個人はBに対して責任を負わないとしました。正しくは、結論は同じでも、理由は国家賠償の枠組み(国家賠償法1条)です。51条を理由にしたと考えるのは、結論から理由を取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
衆議院議員の任期満了による総選挙が行われた。この場合に、国会法の定めにより、新しい議員の任期が始まる日から30日以内に召集しなければならない国会は、臨時会である。
答え:○ 分かれ目は、総選挙のきっかけが解散か任期満了かです。国会法2条の3第1項は、任期満了による総選挙が行われたときは、その任期が始まる日から30日以内に臨時会を召集しなければならないと定めています(その期間内に常会が召集された場合などは、ただし書で除かれます)。「総選挙のあとは特別会」と覚えていると✕にしてしまいます。特別会は、衆議院の解散による総選挙の日から30日以内に召集される国会です(憲法54条1項)。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。統治の数字をまとめて確かめたい人は、憲法の一問一答も使えます。
まとめ
- 国会議員の特権は、歳費(49条)・不逮捕特権(50条)・免責特権(51条)の3つ。
- 不逮捕特権は会期中だけ。院外の現行犯と院の許諾は例外。許諾を求めるのは内閣。
- 免責特権は、議院での演説・討論・表決について院外で責任を問われないこと。院内の懲罰は別。地方議会議員には憲法上の保障はない(判例)。
- 解散後の総選挙→特別会、任期満了の総選挙→臨時会。解散中の緊急の必要→参議院の緊急集会。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、判決の理由の部分は判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(49条〜54条、58条2項、79条6項、80条2項)
- e-Gov法令検索「国会法」(2条、2条の2、2条の3、3条、10条、11条、14条、33条、34条、34条の2、34条の3、35条、99条、100条)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成9年9月9日判決(平成6年(オ)第1287号)」(国会議員の質疑等での発言と国家賠償責任)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和42年5月24日判決(昭和38年(あ)第1184号)」(地方議会議員の発言と免責特権。判決理由の部分)
このサイトで次に読むなら、憲法の勉強法です。統治の条文の数字と主体を、人権の判例とどう分けて覚えるかを確かめられます。
働く人の法律試験ノート