募集株式の発行とは、会社が新しく株式を発行したり、持っている自己株式を処分したりして、引き受ける人を募り、出資してもらうことです。決める機関は、会社の種類で分かれます。非公開会社(全部の株式に譲渡制限がある会社)は株主総会の特別決議、公開会社は原則として取締役会です。ただし公開会社でも、払込金額が引き受ける人に特に有利なときは、株主総会の特別決議が要ります。
発行に不満のある株主が争う手段も、時期で分かれます。発行の前なら「やめることの請求」(差止め)、発行の後なら「無効の訴え」です。この記事は、募集株式の発行の決め方と争い方を扱います。株主の権利や株式の譲渡そのものは株式の記事で、会社をつくるときの株式の引受けは株式会社の設立の記事で扱っています。
身近な例で考えると:2つの会社の新株発行
登場するのは、次の2つの会社です。
| 会社 | 種類 | 状況 |
|---|---|---|
| — | — | — |
| ひかり食品株式会社 | 非公開会社(取締役会あり) | 株主は社長のゆうとさん(60%)とさくらさん(40%) |
| みなと精機株式会社 | 公開会社 | 株主が数百人いて、株は自由に売り買いされる |
ひかり食品が、工場を建てるため、取引先のたけしさんに新しく株を発行したいとします。新しい株がたけしさんに渡ると、さくらさんの持株の割合(持株比率)は下がります。株主の顔ぶれを自分たちで決めたい非公開会社では、これは大きな問題です。そこで会社法は、株主割当て以外の方法で発行するときは、株主総会の特別決議で決めることにしています。
みなと精機が、同じく設備資金のために新しく株を発行したいとします。株主が多い公開会社で、そのたびに株主総会を開くのは大変です。そこで会社法は、取締役会で決められるようにしています。そのかわり、払込金額が特に有利なとき(たとえば時価よりずっと安いとき)は、ほかの株主の持つ株の価値が下がるので、株主総会の特別決議に戻します。
たとえるなら、非公開会社は「仲間うちの店」で、新しい仲間を入れるには全員の集まりの大きな賛成が要る、という作りです。公開会社は「大きな店」で、店長会議(取締役会)で決めてよいが、安売りで仲間を入れるときだけは集まりに戻す、という作りです。ただし本物のルールでは、非公開会社でも、株主総会の決議で募集事項の決定を取締役会に任せる方法があります(200条1項)。
条文ではこう決まっている
決める機関(199条〜202条)
- 199条1項:募集のたびに、募集株式の数、払込金額(またはその算定方法)、金銭以外の財産を出資させるときはその内容と価額、払込みの期日または期間、増える資本金などを定める(募集事項)。
- 199条2項:募集事項の決定は、株主総会の決議による(特別決議。309条2項5号)。
- 199条3項:払込金額が引き受ける人に特に有利な金額なら、取締役は、株主総会でその金額で募集する必要がある理由を説明しなければならない。
- 200条1項・3項:株主総会の決議で、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に任せられる。そのときは、数の上限と払込金額の下限を決める。任せる決議は、払込みの期日(期間なら末日)が決議の日から1年以内の募集にだけ効力がある。
- 201条1項:199条3項の場合(有利発行)を除き、公開会社では、199条2項の「株主総会」を「取締役会」と読み替える。
- 201条3項・4項:公開会社が取締役会で募集事項を決めたときは、払込みの期日(期間なら初日)の2週間前までに株主に通知する。公告で代えてもよい。
- 202条:株主に株式の割当てを受ける権利を与える方法(株主割当て)もある。このときの決定は、定款の定めがあれば取締役・取締役会、公開会社なら取締役会、それ以外は株主総会。
割当て・出資・株主になる日(204条〜209条)
- 204条2項:募集株式が譲渡制限株式なら、だれに何株割り当てるかの決定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議による。定款で別に定められる。
- 206条の2:公開会社で、引受人が総株主の議決権の過半数を持つことになるときは、株主に通知する。議決権の10分の1以上を持つ株主が反対を通知したら、原則として株主総会の決議が要る。
- 208条:引受人は、払込みの期日または期間内に、払込金額の全額を払い込む(現物出資なら全部を給付する)。この払込みの債務と会社に対する債権を相殺することはできない。出資しなければ、株主になる権利を失う。
- 209条1項:期日を決めたときはその期日に、期間を決めたときは出資をした日に、株主になる。
争う手段(210条・212条・828条)
- 210条:発行が法令・定款に違反するとき、または著しく不公正な方法によるときで、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に発行をやめることを請求できる。
- 212条1項:取締役と通じて著しく不公正な払込金額で引き受けた人は、公正な価額との差額を会社に支払う義務を負う。
- 828条1項2号:発行の無効は、効力が生じた日から6か月以内(非公開会社は1年以内)に、訴えでしか主張できない。訴えを起こせるのは株主等(株主・取締役など)。
決める機関の見分けの表
| 場面 | 非公開会社 | 公開会社 |
|---|---|---|
| — | — | — |
| ふつうの発行(株主割当て以外) | 株主総会の特別決議 | 取締役会 |
| 特に有利な払込金額 | 株主総会の特別決議(理由の説明) | 株主総会の特別決議(理由の説明) |
| 株主割当て | 定款があれば取締役会など、なければ株主総会 | 取締役会 |
| 201条3項の通知・公告 | かからない(株主総会で決めるため) | 期日の2週間前までに通知か公告 |
| 無効の訴えの期間 | 1年以内 | 6か月以内 |
非公開会社で期間が長いのは、株主が発行を知りにくいことが多いからだ、と考えると覚えやすくなります。期間などの数字をまとめて見直すなら会社法の数字の一覧の記事が使えます。
当てはまる例・当てはまらない例:無効原因の判例
発行の後に無効とされるかどうかは、判例が細かく決めています。ここでの「当てはまる」は、無効原因になる、という意味です。
- 当てはまる例(非公開会社の特別決議がない):最高裁判所第三小法廷平成24年4月24日判決は、非公開会社で株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法で募集株式を発行した場合、その特別決議を欠く瑕疵(かし=きず)は無効原因になるとしました。
- 当てはまる例(差止めの仮処分に違反):最高裁判所第一小法廷平成5年12月16日判決は、新株発行差止めの仮処分命令に違反して新株を発行したことは、無効原因になるとしました。
- 当てはまる例(通知・公告がない):最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決は、新株発行に関する公告または通知(旧商法の定め。今の201条3項・4項の通知・公告にあたる)を欠くことは、差止めを請求しても差止めの事由がないため許されなかったと認められる場合でない限り、無効原因になるとしました。株主が差止めを求める機会を奪うからです。
- 当てはまらない例(公開会社の取締役会決議がない):最高裁判所第二小法廷昭和36年3月31日判決は、会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、有効な取締役会の決議がなくても、その発行は有効だとしました(旧商法のもとの判例)。
- ひっかけやすい例(著しく不公正な方法):最高裁判所第一小法廷平成6年7月14日判決は、代表権のある取締役による新株発行は、著しく不公正な方法でされ、取締役がその株を引き受けて持ち続け、会社が小規模で閉鎖的であるなどの事情があっても、有効だとしました(旧商法のもとの判例)。今の非公開会社で株主総会の特別決議を欠く発行は、上の平成24年判決により無効原因になる点と区別します。著しく不公正な方法は、発行前なら差止めの理由になりますが(210条2号)、発行後に無効とはされにくい、と押さえます。
非公開会社では総会決議を欠くと無効、公開会社では取締役会決議を欠いても有効、と結論が逆になります。決める機関が違う理由(持株比率を守るか、資金集めの速さを優先するか)と結びつけると、取り違えにくくなります。
似ているルールとの違い:差止めと無効の訴え
| 比べる点 | 発行をやめることの請求(210条) | 無効の訴え(828条) |
|---|---|---|
| — | — | — |
| 時期 | 発行の前 | 発行の効力が生じた後 |
| 請求する人 | 不利益を受けるおそれのある株主 | 株主等(株主・取締役など) |
| 理由 | 法令・定款違反、著しく不公正な方法 | 判例が認める無効原因 |
| 期間 | 発行まで | 6か月以内(非公開会社は1年以内) |
差止めは「まだ止められる段階」の手段、無効の訴えは「もう出回った株を消す」手段です。後者は、すでに株を取得した人や取引の安全にかかわるので、主張できる人・期間・理由がしぼられています。
試験ではここをまちがえやすい
募集株式の発行で取り違えやすいのは、決める機関と期間の数字です。
- 公開会社なら常に取締役会:有利発行は、公開会社でも株主総会の特別決議です(201条1項かっこ書きの「199条3項の場合を除き」)。
- 非公開会社の決議の種類:普通決議ではなく特別決議です(309条2項5号)。
- 無効の訴えの期間:公開会社6か月、非公開会社1年。設立無効の訴え(成立の日から2年以内。828条1項1号)と混ぜない。
- 相殺:引受人は、払込みの債務と会社への債権を相殺できません(208条3項)。
- 株主になる日:期日を決めたらその期日、期間を決めたら出資をした日です(209条1項)。
- 無効原因の判例の向き:非公開会社の特別決議を欠く→無効原因。公開会社の取締役会決議を欠く→有効。仮処分違反・通知公告の欠缺→無効原因。著しく不公正な方法→有効。
会社法全体の中でこの論点をどこまでやるかは、商法・会社法は捨てていいかの記事で配点と合わせて整理しています。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
公開会社であるみなと精機株式会社が、取引先に特に有利な払込金額で募集株式を発行する。この場合、取締役会の決議だけでは足りず、株主総会の特別決議で募集事項を定め、取締役はその金額で募集する理由を説明しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、公開会社の特則の例外です。公開会社は199条2項の「株主総会」を「取締役会」と読み替えますが、201条1項は「第百九十九条第三項に規定する場合を除き」としているので、有利発行では株主総会の決議(309条2項5号の特別決議)に戻ります。取締役は理由を説明します(199条3項)。公開会社は取締役会で決める、とだけ覚えていると✕に見えます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
非公開会社であるひかり食品株式会社が、株主総会の特別決議を経て、取引先のたけしさんに募集株式を発行した。この発行の無効は、発行の効力が生じた日から6か月以内に、訴えをもって主張しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、会社の種類による期間の違いです。828条1項2号は、株式の発行の無効の訴えの期間を、効力が生じた日から6か月以内とし、公開会社でない株式会社では「一年以内」としています。正しくは1年以内です。6か月は公開会社の期間で、設立無効の訴えの2年(同項1号)とも区別します。
問3(このサイトのオリジナル問題)
公開会社が、取締役会で募集事項を定めたのに、株主への通知も公告もしないまま新株を発行した。判例によれば、差止めの事由がないため差止請求が許されなかったと認められる場合でない限り、この発行には無効原因がある。
答え:○ 分かれ目は、通知・公告を欠くことの重さです。最高裁判所第三小法廷平成9年1月28日判決は、新株発行に関する公告または通知を欠くことは、差止めの事由がないため差止請求が許されないと認められる場合でない限り、無効原因になるとしました(旧商法の定めについての判例)。取締役会の決議を欠いても有効とした判例(昭和36年3月31日)と同じく有効だ、と考えると✕に見えます。通知・公告は、株主が差止めを求めるための前提だからです。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。
まとめ
- 募集事項を決めるのは、非公開会社は株主総会の特別決議、公開会社は取締役会。公開会社でも有利発行は株主総会の特別決議と理由の説明。
- 公開会社が取締役会で決めたら、期日の2週間前までに株主へ通知か公告。
- 払込みは全額、相殺は不可。期日か、期間内に出資した日に株主になる。
- 発行前は差止めの請求(法令・定款違反、著しく不公正な方法)。発行後は無効の訴え(6か月、非公開会社は1年)。
- 無効原因:非公開会社の特別決議を欠く、仮処分違反、通知・公告の欠缺。有効:公開会社の取締役会決議を欠く、著しく不公正な方法。
次に読むなら、株式会社の機関の記事がおすすめです。この記事で出てきた株主総会の特別決議と取締役会が、どの会社に置かれ、何を決めるのかがつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「会社法」(第199条〜第202条、第204条、第205条、第206条の2、第208条〜第212条、第309条、第828条を確認。令和8年4月1日時点の条文)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成24年4月24日判決(平成22年(受)第1212号)」(非公開会社で株主総会の特別決議を経ない募集株式発行の効力)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成5年12月16日判決(平成元年(オ)第666号)」(新株発行差止めの仮処分命令違反と無効原因)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成9年1月28日判決(平成5年(オ)第317号)」(公告又は通知を欠くことと新株発行の無効原因)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和36年3月31日判決(昭和32年(オ)第79号)」(有効な取締役会の決議を経ない新株発行の効力)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成6年7月14日判決(平成2年(オ)第391号)」(著しく不公正な方法によってされた新株発行の効力)
働く人の法律試験ノート