時効取得(じこうしゅとく)は、他人の物を長いあいだ自分の物として使い続けた人が、その権利を手に入れるしくみです。所有権なら、20年、または使い始めの時に善意・無過失なら10年で取得します(民法162条)。
まちがえやすいのは、そのあとの「登記がいるかどうか」です。ひとことで言うと、時効が完成する前に土地を買った人には、登記がなくても勝てる。完成した後に買って登記した人には、登記がないと負ける。この分かれ目は判例が決めています。さらに、賃借権(ちんしゃくけん)や地役権(ちえきけん)も、条件を満たせば時効で取得できます。
この記事では、1つの土地の話で、登記の要否、起算点、賃借権・地役権の時効取得、国土利用計画法(国土法)の届出までをまとめて当てはめます。時効の年数・完成猶予と更新・消滅時効は時効をわかりやすくで説明しています。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ひろしさん | 土地の持ち主 | 遠方に住み、土地を見に来ない |
| なおみさん | 占有者 | その土地を駐車場として使い続ける |
| けんじさん | 時効完成の前の買主 | 15年目に土地を買い、登記した |
| まゆさん | 時効完成の後の買主 | 21年目に土地を買い、登記した |
- なおみさんは、となりの空き地がひろしさんの土地だと知りながら、自分の駐車場として柵を立て、使い始めた。他人の土地と知っているので、時効は20年です。
- 使い始めて15年目に、ひろしさんがこの土地をけんじさんに売り、けんじさんが登記をした。なおみさんは使い続けた。
- 20年がたち、なおみさんの取得時効が完成した。なおみさんは時効を援用(えんよう=時効の利益を受けると主張すること)できる。
このとき、なおみさんは、登記がなくても、けんじさんに「この土地は私のものです」と主張できます。けんじさんは、時効が進んでいる途中で持ち主になった人です。なおみさんから見ると、時効で所有権を失う「当事者」と同じ立場だからです。
では、時効が完成した後の21年目に、ひろしさんがまゆさんに売り、まゆさんが先に登記をした場合はどうでしょう。こちらは、ひろしさんから「なおみさん」と「まゆさん」へ、同じ土地が二重に譲られたのと同じ形になります。先に登記をしたまゆさんが勝ちます。たとえるなら、同じ自転車が2人に渡りかけて、先に名札を付けたほうが勝つ形です。ただし本物のルールでは、名札にあたるのは登記で、早く使い始めたかどうかでは決まりません。
条文と判例ではこう決まっている
条文
- 162条(所有権):20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、所有権を取得する(1項)。占有の開始の時に善意で、過失がなかったときは10年(2項)。
- 163条(所有権以外の財産権):所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、162条の区別に従い20年または10年で、その権利を取得する。
- 144条・145条:時効の効力は起算日にさかのぼる。時効は、当事者が援用しなければ、裁判所はそれで裁判できない。
- 283条(地役権):地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得できる。
- 177条:不動産の物権の得喪・変更は、登記をしなければ第三者に対抗できない。
判例(裁判所のウェブサイトで確かめたもの)
| 場面 | 結論 | 判例 |
|---|---|---|
| 時効の進行中に買って登記した人 | 登記なしで時効取得を主張できる | 最高裁第三小法廷 昭和41年11月22日判決 |
| 時効完成後に買って登記した人 | 登記がなければ、善意か悪意かを問わず対抗できない | 最高裁第一小法廷 昭和33年8月28日判決 |
| 起算点 | 占有を始めた時から数える。援用する人が選んで早めたり遅らせたりできない | 最高裁第一小法廷 昭和35年7月27日判決 |
| 土地の賃借権 | 継続的な用益の外形と、賃借の意思が客観的に表れていれば時効取得できる | 最高裁第三小法廷 昭和43年10月8日判決 |
起算点を選べないことは、2つ目の判例と組み合わさって効いてきます。もし好きな時点から数えられるなら、時効完成後に買った人がいても、「完成はその人の登記の後だった」と言い張れてしまいます。それを許さないのが昭和35年の判決です。
なお、時効完成後の第三者が登記をした後も、なおみさんがさらに時効に必要な期間占有を続けたときは、その第三者に登記なしで対抗できる、という判例(最高裁第一小法廷 昭和36年7月20日判決)もあります。二重譲渡と登記の関係は不動産の二重譲渡と登記でくわしく扱っています。
賃借権と地役権も時効で取得できるか
163条の「所有権以外の財産権」には、土地の賃借権や地役権も入ります。ただし、どちらも「ただ使っていた」だけでは足りません。
- 賃借権:なおみさんが、ひろしさんの土地を、持ち主だと名乗るひろしさんの親せきから「借りる」約束をして、毎月の地代を払いながら20年使い続けた。→土地を続けて使っている外形があり、地代の支払いで「借りる意思」が外から見て分かります。昭和43年の判決の条件に当たるので、なおみさんは、本当の持ち主のひろしさんに対しても、賃借権を時効で取得したと主張しえます。地代を払わずに勝手に使っていただけなら、「借りる意思」が表れていません。
- 地役権:なおみさんが、ひろしさんの別の土地に砂利を敷いて通路を作り、毎日そこを通って自宅に出入りしてきた。→続けて使い(継続)、通路があるので外から見て分かる(外形上認識できる)ので、通行地役権の時効取得が問題になります(283条)。通路もなく、ときどき横切るだけなら、この2つを満たしません。
地役権そのもののルール(要役地と承役地、付従性)は相隣関係と地役権で説明しています。
同じ土地をほかの分野から見ると
時効取得は、権利関係だけの話ではありません。法令上の制限の国土法では、届出がいるかどうかの判断に使われます。
国土法23条の事後届出は、「土地売買等の契約」を結んだときに、権利を取得する人が契約の日から2週間以内に届け出るものです。「土地売買等の契約」は、土地の権利の移転・設定を対価を得て行う契約(予約を含む)をいいます(14条1項)。時効取得は契約ではなく、法律の効果で権利を手に入れるものです。だから、なおみさんが市街化区域で2,000平方メートル以上の土地を時効取得しても、事後届出はいりません。相続や贈与(対価がない)がいらないのと同じ並びで覚えると整理できます。届出の面積や一団の土地は国土利用計画法の届出で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の宅建試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、時効が主な論点の問は17問(17回)、直近10回では主な論点で6問、ほかの論点の問の中に1問でした。物権変動・対抗要件が主な論点の問は21問で、直近10回では5問です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。時効取得と登記は、この2つの論点が重なる所です。
- 前と後を入れ替える型:「時効完成前に登記した第三者には、時効取得者は登記がなければ対抗できない」は誤り。登記がいるのは完成後の第三者。
- 悪意の第三者なら登記不要とする型:完成後の第三者には、善意か悪意かを問わず登記がいる(昭和33年判決)。背信的悪意者のような例外は別の話です。
- 起算点をずらす型:起算点は占有を始めた時。援用する人が選べない(昭和35年判決)。
- 10年の善意・無過失の時点:判断するのは「占有の開始の時」。途中で他人の物と気づいても10年のまま(162条2項)。
- どんな地役権でも時効取得できるとする型:継続的で、外形上認識できるものに限る(283条)。
- 時効取得にも事後届出がいるとする型:時効取得は契約ではないので、国土法の事後届出はいらない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
なおみさんは、ひろしさんの土地と知りながら、所有の意思をもって平穏・公然と占有を始めた。15年後、ひろしさんがこの土地をけんじさんに売り、けんじさんが登記した。その後なおみさんの占有が20年に達した場合、なおみさんは登記がなくても、けんじさんに時効取得を主張できる。
答え:○ 分かれ目は、けんじさんが時効完成の前に登記した第三者か、後に登記した第三者かです。時効の進行中に元の持ち主から譲り受けて登記した人に対しては、時効取得者は登記がなくても時効による所有権の取得を主張できます(最高裁第三小法廷 昭和41年11月22日判決)。けんじさんが先に登記しているので、177条で登記の早い者勝ちと考えると✕を選んでしまいます。登記がないと負けるのは、時効完成後に譲り受けて登記した人です(最高裁第一小法廷 昭和33年8月28日判決)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
なおみさんがひろしさんの土地の占有を始めて20年が過ぎた後、ひろしさんがこの土地をまゆさんに売り、まゆさんが登記した。この場合、なおみさんは、時効の起算点を占有開始より後の時点にずらして、時効の完成がまゆさんの登記より後だと主張すれば、登記なしでまゆさんに対抗できる。
答え:✕ 分かれ目は、起算点を援用する人が選べるかどうかです。時効期間は、時効の基礎となる事実(占有)が始まった時から数え、援用する人が起算点を選んで完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできません(最高裁第一小法廷 昭和35年7月27日判決)。正しくは、まゆさんは時効完成後の第三者なので、なおみさんは登記がなければまゆさんに対抗できません(昭和33年8月28日判決)。登記なしで勝てる「時効完成前の第三者」の扱いを、起算点をずらして使おうとした取り違えです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
なおみさんは、市街化区域内にあるひろしさんの土地3,000平方メートルを、時効によって取得した。この場合、なおみさんは、国土利用計画法23条の事後届出をする必要はない。
答え:○ 分かれ目は、時効取得が「土地売買等の契約」に当たるかどうかです。事後届出は、土地売買等の契約を結んだ権利取得者が、契約の日から2週間以内にするものです(国土利用計画法23条1項)。土地売買等の契約は、対価を得て行う権利の移転・設定の契約(予約を含む)をいいます(14条1項)。市街化区域の2,000平方メートル以上なので届出がいると考えると✕にしてしまいますが、時効取得は契約ではありません。同じく契約でない相続や、対価のない贈与も届出はいりません。
まとめ
- 所有権の時効取得は20年、占有開始の時に善意・無過失なら10年。効力は起算日にさかのぼる。
- 時効完成の前の第三者には登記なしで主張できる。完成の後の第三者には、善意・悪意を問わず登記がいる。
- 起算点は占有開始の時。選んでずらせない。
- 賃借権は、続けて使う外形と、借りる意思が外から見えることが条件。地役権は、継続的で外形上認識できるものだけ。
- 時効取得は契約ではないので、国土法の事後届出はいらない。
権利関係の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。次に読むなら、不動産の二重譲渡と登記がおすすめです。時効完成後の第三者との関係が「二重譲渡と同じ」と言われる理由が、177条の第三者の範囲と合わせて分かります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。判例は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索で、判示事項と裁判要旨を確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(144条、145条、162条、163条、177条、283条)
- e-Gov法令検索「国土利用計画法」(14条、23条)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和41年11月22日判決」(取得時効と登記。時効の進行中の譲受人)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和33年8月28日判決」(不動産所有権の時効取得と対抗要件)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和35年7月27日判決」(取得時効の時効期間の起算点)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和36年7月20日判決」(時効による不動産の所有権取得とその対抗要件。第三者の登記後の占有継続)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和43年10月8日判決」(土地賃借権の時効取得)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えるのに使った過去の試験問題)
働く人の法律試験ノート