敷金をわかりやすく:返す時期・貸主や借主が替わったとき・35条と37条・印紙税まで

敷金(しききん)は、名前が何であっても、家賃などの借主の債務を担保するために、借主が貸主に預けるお金です(民法622条の2第1項)。貸主は、賃貸借が終わって部屋を返してもらった時に、未払いの家賃などを差し引いた残りを返します。貸主が替わったとき(オーナーチェンジ)は、新しい貸主が敷金を返す義務を引き継ぎます(605条の2第4項)。借主が替わったとき(賃借権の譲渡)は、敷金は新しい借主に引き継がれず、元の借主に返します(622条の2第1項2号)。

宅建試験では、敷金は民法だけでなく、宅建業法の重要事項説明(35条)と37条書面、税の印紙税でも出てきます。この記事は、分野をまたいだ「敷金の地図」です。民法の賃貸借の細部(修繕・転貸・原状回復)は賃貸借の記事で扱っているので、ここでは要点とつながりに絞ります。

身近な例で考えると:あかりさんの部屋と、替わる貸主・借主

登場人物を紹介します。

人物立場したこと
けいすけさんはじめの貸主アパートの持ち主。途中で建物を売る
あかりさんはじめの借主家賃8万円、敷金16万円、礼金8万円で借りた
ひろみさん新しい貸主けいすけさんからアパートを買った
そうまさん新しい借主あかりさんから賃借権を譲り受けた
ことのは不動産宅建業者けいすけさんとあかりさんの契約を媒介した
  1. 契約の前:ことのは不動産は、あかりさんに、敷金16万円・礼金8万円の額と目的、退去のときの敷金の精算のしかたを説明する(宅建業法35条)。契約の後に渡す37条書面にも、家賃以外のお金の額・時期・目的を書く(37条2項)。
  2. 住んでいる間:あかりさんが家賃を2か月ためた。けいすけさんは、敷金を未払いの家賃に充てることができる。あかりさんの側から「敷金で払ったことにして」とは言えない(民法622条の2第2項)。
  3. 貸主が替わる:けいすけさんがアパートをひろみさんに売った。あかりさんは部屋の引渡しを受けて住んでいるので、借家の対抗要件があります(借地借家法31条)。貸主の立場はひろみさんに移り、敷金を返す義務もひろみさんが引き継ぐ(民法605条の2第1項・4項)。ひろみさんがあかりさんに「私が貸主だ」と主張するには、所有権の移転の登記が要る(同条3項)。
  4. 借主が替わる:あかりさんは、ひろみさんの承諾を得て、賃借権をそうまさんに譲った。あかりさんが預けた敷金は、そうまさんには引き継がれない。ひろみさんは、あかりさんの未払い分を差し引いて、あかりさんに返す(622条の2第1項2号)。そうまさんは、必要なら新しく敷金を預ける。
  5. 退去:そうまさんが部屋を出るとき、ひろみさんが敷金を返すのは、部屋を返してもらった後です。「敷金を返すまで部屋を出ない」とは言えない(622条の2第1項1号)。

たとえると、敷金は「部屋と一緒に貸主の側に付いていく預け金」です。だから貸主が替われば新しい貸主に付いていき、借主が替わっても新しい借主には付いていきません。ただし本物のルールでは、新しい貸主が借主に主張するには登記が要り、借主が替わる場合は貸主の承諾が前提です(612条)。

条文ではこう決まっている(民法)

  • 定義(622条の2第1項):いかなる名目によるかを問わず、家賃など賃貸借から生じる借主の金銭の債務を担保する目的で、借主が貸主に渡すお金。礼金のように返さない約束のお金は、担保のためのお金ではないので、この定義には当たりません。
  • 返す時(622条の2第1項):①賃貸借が終わり、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。②借主が適法に賃借権を譲り渡したとき。
  • 返す額(同項):受け取った敷金から、賃貸借にもとづく借主の金銭の債務(未払いの家賃、原状回復の費用など)を差し引いた残り。ふつうに使って生じた傷みと年月による変化は、借主が元に戻す義務の対象から除かれています(621条)。
  • 充当(622条の2第2項):借主が払わないとき、貸主は敷金を充てられる。借主から充当を求めることはできない。
  • 貸主が替わったとき(605条の2):対抗要件を備えた賃貸借の不動産が売られると、貸主の立場は買主に移り(1項)、敷金を返す義務も買主が引き継ぐ(4項)。買主が貸主の立場を借主に主張するには、所有権の移転の登記が要る(3項)。売主と買主の合意で貸主の立場を移す場合も、借主の承諾は要らず、同じく登記と敷金の引継ぎの定めが使われます(605条の3)。
  • 先取特権との関係(316条):貸主が敷金を受け取っているときは、敷金で弁済を受けられない部分についてだけ、建物の賃貸の先取特権を持ちます。

分野をまたいで並べると

分野敷金について決まっていること根拠
民法部屋を返した後に返す。貸主の交代では引き継ぐ622条の2・605条の2
宅建業法35条代金・借賃以外のお金(敷金・礼金)の額と目的35条1項7号
宅建業法35条貸借では、敷金の精算のしかた規則16条の4の3第11号
宅建業法35条業者が受け取る預り金(50万円未満は除く)の保全措置の有無35条1項11号・規則16条の3
宅建業法37条借賃以外のお金の定めがあれば、額・時期・目的37条2項3号
報酬計算に使えるのは返さない権利金で、敷金は使えない報酬告示第6
印紙税返す敷金の受取書は売上代金以外。5万円以上で200円印紙税法別表第一 第17号
  • 35条の説明事項のうち、貸借で加わるもの(設備、契約期間と更新、敷金の精算など)の全体は、貸借の重要事項説明の記事で表にしています。
  • 37条書面の記載事項の全体と、35条との比べは37条書面の記事へ。
  • 報酬の計算で権利金を使える場合(居住用の建物を除く賃貸借)は、報酬の上限の記事に計算例があります。
  • 印紙税:売上代金とは、資産を使わせることなどの「対価」です。国税庁の印紙税法基本通達は、反対給付に当たらないものの例に担保物(保証金など)を挙げ、売上代金に当たらないとしています(別表第一 第17号文書の15)。あとで返す敷金はこれに当たるので、その受取書は売上代金以外の受取書です。ただし、敷金や保証金という名前でも、後日返さないと決めた部分(いわゆる敷引き)は、権利金と同じく使わせることの対価として売上代金に入ります(同通達の13)。土地の賃貸借の契約書で、記載金額に敷金が入らないことは印紙税と登録免許税の記事で扱っています。なお、商人でない個人の行為など、営業に関しない受取書は非課税です(国税庁 No.7105)。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例

  • 「保証金」という名前で預けたお金でも、家賃などの担保が目的なら、民法の敷金のルールがかかります(622条の2第1項の「いかなる名目によるかを問わず」)。
  • ひろみさん(新しい貸主)は、けいすけさんとの売買の登記を済ませた。→ あかりさんに家賃を請求でき、退去のときは敷金を返す義務を負います(605条の2第3項・4項)。

当てはまらない例

  • あかりさんが、ひろみさんの承諾なしに、賃借権をそうまさんに譲った。→ 622条の2第1項2号は「適法に」譲り渡したときです。承諾のない譲渡(612条1項)は、この返還の場面に当たりません。
  • 礼金8万円を、退去のときに返してほしいと言う。→ 返さない約束のお金で、敷金の定義(債務の担保)に当たりません。

ひっかけやすい例

  • 敷金と部屋の明渡し:同時ではなく、明渡しが先です(622条の2第1項1号)。敷金を理由に部屋を留め置くこともできません。
  • 預り金の50万円:ことのは不動産が受け取るお金が50万円未満なら、35条1項11号の「支払金又は預り金」から除かれ、保全措置の有無の説明はいりません(施行規則16条の3第1号)。

似ているルールとの違い:貸主が替わる・借主が替わる

場面敷金はどうなるか根拠
貸主が替わる(対抗要件あり)新しい貸主が返す義務を引き継ぐ605条の2第4項
借主が替わる(貸主の承諾あり)引き継がれず、元の借主に返す622条の2第1項2号
賃貸借が終わる部屋を返してもらった後に返す622条の2第1項1号

貸主が替わるときは、借主は新しい貸主に「この人に貸してほしい」と選び直す必要がありません。部屋に住み続けるので、預け金も部屋と一緒に新しい貸主へ移るほうが筋が通ります。借主が替わるときは、元の借主が預けたお金で新しい借主の債務まで担保させる理由がないので、元の借主に返します。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、賃貸借が主な論点の問題は26問(23回)、ほかの論点の問題の中に25問でした。ほかの論点の中に出た数としては、全論点の中で2番目に多い論点です。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では、主な論点として8問、ほかの論点の中に6問出ています(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。敷金は、借地借家法・転貸・宅建業法の問題の1肢として混ざりやすい論点です。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 借主が替わったとき:新しい借主に引き継がれる、は誤り。元の借主に返す。
  • 貸主が替わったとき:新しい貸主に引き継がれる。主張には登記が要る。
  • 返す時:部屋の返還が先。同時履行ではない。
  • 充当:貸主からはできる。借主からは求められない。
  • 宅建業法:額と目的(35条1項7号)、精算(貸借の説明事項)、37条書面は「定めがあるとき」の記載事項。
  • 預り金:50万円未満は35条1項11号の対象外。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
AからAの建物を借りているBは、Aの承諾を得て、賃借権をCに譲渡した。BがAに預けていた敷金は、特段の合意がない限りCに引き継がれ、賃貸借が終わったときにCに返される。

答え:✕ 分かれ目は、借主が替わったときの敷金の行き先です。借主が適法に賃借権を譲り渡したときは、貸主は、その時に、敷金から借主の債務を差し引いた残りを元の借主に返します(民法622条の2第1項2号)。正しくは、Bに返され、Cには引き継がれません。貸主が替わったときに新しい貸主が返す義務を引き継ぐ(605条の2第4項)のと取り違えた形です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
AはBに建物を貸し、敷金を受け取っている。Bが家賃を2か月払わなかったときは、Aは、賃貸借の期間の途中であっても、敷金をその未払いの家賃に充てることができる。

答え:○ 分かれ目は、敷金を充てられる時期と、だれが充てられるかです。借主が賃貸借にもとづく金銭の債務を払わないときは、貸主は敷金をその弁済に充てることができます(622条の2第2項前段)。✕に見えるのは「敷金は契約が終わってから精算するお金」と考えやすいからです。逆に、B(借主)の側から「敷金で払ったことにして」と求めることはできません(同項後段)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aは、建物の貸借の媒介にあたり、借主Bから敷金30万円を預かることになった。この場合、Aは、その預り金について保全措置を講ずるかどうかを、重要事項として説明しなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、支払金・預り金の説明の対象となる額です。35条1項11号の支払金又は預り金からは、受け取る額が50万円未満のものが除かれています(宅建業法施行規則16条の3第1号)。正しくは、30万円の敷金は対象外で、保全措置の有無の説明はいりません。敷金の額と目的(35条1項7号)や、貸借での敷金の精算のしかた(施行規則16条の4の3第11号)の説明とは別の事項なので、混同しないようにします。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 敷金は、名前を問わず、借主の金銭の債務を担保するために預けるお金。返すのは部屋を返してもらった後。
  • 貸主が替われば、新しい貸主が返す義務を引き継ぐ(主張には登記)。借主が替われば、元の借主に返す。
  • 貸主は途中でも敷金を未払い分に充てられる。借主からは求められない。
  • 宅建業法:35条で額と目的、貸借では精算のしかたを説明。37条書面は借賃以外の金銭の定めがあれば額・時期・目的。50万円未満の預り金は11号の対象外。
  • 返す敷金の受取書は売上代金以外の受取書(5万円以上は200円)。返さない部分は売上代金に入る。報酬計算に使える権利金は返さないお金で、敷金は使えない。

次に読むなら、貸借の重要事項説明の記事がおすすめです。敷金の精算のほかに、貸借で説明する事項がまとめて確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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