損害賠償額の予定と違約金:民法420条と宅建業法38条(代金の2割)

損害賠償額の予定は、契約を破られたときに払うお金の額を、前もって決めておくことです。民法では、当事者が自由に額を決められます(民法420条1項)。違約金という名前で決めたお金も、損害賠償額の予定と推定されます(同3項)。

宅建業者が自ら売主となり、買主が宅建業者でない宅地・建物の売買では、この自由に上限がかかります。債務不履行(契約を守らないこと)を理由とする解除に伴う損害賠償額の予定と違約金は、合わせて代金の2割までです(宅建業法38条1項)。2割を超える定めをしても、無効になるのは超える部分だけです(同2項)。

この記事では、38条を民法420条と比べ、計算の事例で当てはめます。8種制限(業者が自ら売主のときの8つの制限)の全体は8種制限の記事にあります。

身近な例で考えると

登場人物は次のとおりです。

人物立場したこと
ひまわりホーム宅建業者(売主)新築の一戸建てを売る
はるかさん会社員(宅建業者ではない)その家を3,000万円で買う
つばさ不動産宅建業者(買主)ひまわりホームから土地を買う

ひまわりホームは、はるかさんとの契約書に「どちらかが契約を守らず、相手が契約を解除したときは、損害賠償の予定として400万円、違約金として300万円を払う」と書こうとしました。38条に当てはめると、次のようになります。

  1. 代金3,000万円の2割は600万円。
  2. 損害賠償額の予定400万円と違約金300万円を合わせると700万円で、600万円を超える。
  3. 超える100万円の部分は無効。合わせて600万円までの定めとして効力を持つ。

一方、同じひまわりホームが、宅建業者のつばさ不動産に土地を売る契約では、38条はかかりません。業者どうしの取引には8種制限が適用されないからです(78条2項)。違約金を代金の3割と決めても、宅建業法上は無効になりません。

たとえるなら、38条は「業者がお客さんと決める違約金の天井」です。ただし本物のルールでは、天井を超えた定めがまるごと消えるのではなく、天井を超えた部分だけが消えます。

条文ではこう決まっている

民法420条(賠償額の予定)

  • 当事者は、債務不履行について損害賠償の額を予定することができる(1項)。
  • 賠償額の予定は、履行の請求や解除権の行使を妨げない(2項)。
  • 違約金は、賠償額の予定と推定する(3項)。

令和2年4月1日に施行された改正の前は、1項に「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」という一文がありました。改正でこの一文はなくなっています。

宅建業法38条(損害賠償額の予定等の制限)

  • 宅建業者が自ら売主となる宅地・建物の売買契約で、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の10分の2を超えることとなる定めをしてはならない(1項)。
  • 1項に反する特約は、代金の額の10分の2を超える部分について無効とする(2項)。
  • 買主も宅建業者であるときは、38条は適用されない(78条2項)。

条文のポイントは4つです。①売主が宅建業者であること。②「合算した額」で、予定と違約金を別々に2割ずつではないこと。③条文は「当事者の債務の不履行」としていて、買主の不履行の場合に限っていないこと。④無効は「超える部分について」だけであること。

説明と書面

損害賠償額の予定・違約金は、契約の前に重要事項として説明します(35条1項9号)。契約の後に渡す37条書面には、定めがあるときにその内容を書きます(37条1項8号)。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例(2割の上限がかかる)

  • はるかさんの例(代金3,000万円)で、違約金だけを900万円と決めた。600万円を超える300万円の部分が無効です。
  • 同じ例で、損害賠償額の予定を500万円、違約金を200万円とした。合わせて700万円なので、100万円の部分が無効です。別々に見るとどちらも600万円以下ですが、38条は合算で見ます。

当てはまらない例(2割の上限がかからない)

  • ひまわりホームが宅建業者のつばさ不動産に売る場合。業者間の取引なので38条は適用されません(78条2項)。
  • 個人のまことさん(宅建業者ではない)が自宅を売り、ひまわりホームが媒介だけをする場合。売主が業者ではないので、38条はかかりません。媒介する業者がいても、「業者が自ら売主」には当たりません。
  • はるかさんの例で、損害賠償額の予定も違約金も決めなかった場合。38条は「予定し、又は違約金を定めるとき」の制限なので、決めていなければかかりません。はるかさんが代金を払わず契約が解除されたら、ひまわりホームは、実際に生じた損害を示して賠償を求めることになり、2割の上限はありません。

ひっかけやすい例

  • 「2割を超える違約金の定めは、全部が無効になり、損害賠償は実際の損害で決まる」は誤りです。無効になるのは2割を超える部分だけで、2割までの定めは有効です(38条2項)。
  • 「違約金と損害賠償額の予定は、それぞれ代金の2割まで決められる」も誤りです。上限は合わせて2割です。
  • 手付の2割(39条1項)は別の規定です。手付は「代金の2割を超える手付を受け取れない」、違約金は「2割を超える部分が無効」で、効果の書き方が違います。手付の性質と解除は手付の記事にあります。

似ているルールとの違い

比べる点民法420条宅建業法38条
かかる契約すべての契約業者が自ら売主・買主が業者でない宅地建物の売買
額の上限定めなし予定と違約金を合わせて代金の2割
違約金の扱い賠償額の予定と推定予定と合算して上限を見る
上限を超えたとき(上限がない)超える部分だけ無効

民法の債務不履行による損害賠償や解除の要件は、債務不履行の記事で説明しています。業者どうしの取引で8種制限が外れる範囲は業者間取引の記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回では、損害賠償額の予定等の制限は、単独で主な論点になった問はなく、8種制限をまとめて聞く問などの中の肢として6問に出ていました(直近10回では1問)。8種制限をまとめて聞く問(8種制限(総合))は全40回で35問、直近10回で7問です(数え方は宅建の出題論点ランキング)。38条は、8種制限の中で、次の形で取り違えやすい所です。

  • 合算か別々か:予定と違約金を別々に2割まで、とする形。
  • 全部無効か一部無効か:2割を超えた定めが全部無効、とする形。
  • だれが売主か:媒介する業者がいる個人間の売買や、業者間の売買に38条を当てはめる形。
  • 予定がないとき:予定をしなくても実際の損害は代金の2割までしか請求できない、とする形。
  • 手付との混同:手付の2割(受け取れない)と違約金の2割(超える部分が無効)の効果を入れ替える形。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者でないBに代金4,000万円で建物を売る契約で、損害賠償額の予定を500万円、違約金を500万円と定めた。Bの債務不履行によりAが契約を解除したとき、この定めに基づいてAがBに請求できるのは、合わせて800万円までである。

答え:○ ○です。分かれ目は、予定と違約金を合算して見るかどうかです。宅建業法38条1項は、損害賠償額の予定と違約金を「合算した額」が代金の10分の2を超える定めを禁じ、2項は超える部分を無効にします。4,000万円の2割は800万円なので、合計1,000万円のうち200万円が無効で、800万円までは有効です。それぞれ500万円で2割以下だから全部有効、と考えると✕にしてしまいます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが媒介し、宅建業者でないCが売主、宅建業者でないDが買主となる土地の売買で、違約金を代金の3割と定めた。この定めは、宅建業法により、代金の2割を超える部分について無効となる。

答え:✕ 分かれ目は、宅建業者が自ら売主かどうかです。38条は「宅地建物取引業者がみずから売主となる」売買の制限で、媒介する業者がいても、売主Cが業者でなければかかりません。正しくは、この定めは宅建業法では無効になりません。業者が媒介するときにかかるのは、重要事項説明(35条)や37条書面の規定で、8種制限と取り違えた文です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者でないBに代金3,000万円で宅地を売る契約で、損害賠償額の予定も違約金も定めなかった。Bの債務不履行によりAが契約を解除し、Aに900万円の損害が生じたときでも、AがBに請求できる損害賠償の額は、代金の2割の600万円が上限となる。

答え:✕ 分かれ目は、38条が「予定し、又は違約金を定めるとき」の制限であることです。予定も違約金も定めていなければ38条はかからず、民法の原則どおり、Aは実際に生じた損害を示して賠償を求めます。正しくは、900万円の損害を示せば、2割を超えて請求できます。2割の上限は、前もって額を決める定め(予定・違約金)にかかるもので、それを実際の損害の請求の上限と取り違えた文です。

まとめ

  • 民法420条:賠償額は前もって自由に決められる。違約金は賠償額の予定と推定。予定は履行の請求や解除を妨げない。
  • 宅建業法38条:業者が自ら売主で買主が業者でない売買では、予定と違約金を合わせて代金の2割まで。超える部分だけ無効。
  • 業者間の取引、業者が媒介するだけの個人間の売買には、38条はかからない。
  • 予定も違約金も決めていなければ、2割の上限はなく、実際の損害を示して請求する。
  • 8種制限の○✕は、宅建の5分○✕ドリルで続けて解けます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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