重要事項説明には、災害の危険と建物の安全に関する事項があります。宅建業法35条1項14号と、それを受けた施行規則16条の4の3の1号〜6号です。
結論は3つにまとまります。1つ目、災害の区域とハザードマップ上の位置(造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域・水害の図面)は、宅地でも建物でも、売買でも貸借でも説明します。2つ目、石綿(アスベスト)の調査結果と耐震診断は建物だけの事項で、記録や診断が「あるとき」にその内容を説明します。宅建業者に調査や診断をさせる文言はありません。3つ目、住宅性能評価は、新築住宅の売買・交換だけです。
重要事項説明(35条書面)は、宅建業法でいちばん多く出る論点です。当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、35条書面が主な論点の問題は81問で、全40回のすべてに出ていました。直近10回では29問です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。災害や石綿などの個々の説明事項ごとの数は数えていません)。重要事項説明の全体は重要事項説明の記事で説明しています。
身近な例で考えると
登場人物は4人です。中古の一戸建てを買う人=ゆいさん、海辺の町で賃貸マンションの一室を借りる人=りょうたさん、仲介する宅建業者=みどり不動産、みどり不動産の宅建士=小林さんです。
- ゆいさんが買う家は、昭和55年に新築の工事に着手した木造住宅。小林さんが調べると、土砂災害警戒区域の中にあり、市のハザードマップ(洪水)にも位置が載っていた。
- 前の持ち主は、数年前に建築士の耐震診断を受けていて、その結果の書類が残っていた。石綿の調査をした記録は見つからなかった。
- 小林さんは、ゆいさんに、土砂災害警戒区域の中にあること、ハザードマップ上の家の位置、耐震診断の内容を説明した。石綿については、売主に確かめても調査の記録が見つからなかったので、記録がないことを伝えた。
- りょうたさんが借りる部屋は、津波災害警戒区域の中にあり、市の高潮と洪水のハザードマップにも位置が載っていた。小林さんは、貸借でも、区域の中にあることと、それぞれの図面上の位置を説明した。
たとえるなら、この説明は「天気予報と健康診断の結果を伝えること」に似ています。天気予報(区域や図面)は、公表されているものを調べて伝えます。健康診断の結果(石綿の調査・耐震診断)は、受けた記録があれば伝えます。ただし本物のルールでは、記録がないときに、業者が代わりに診断を受けさせる義務まではありません。そこが、ふつうの「念のため調べておく」とは違います。
条文ではこう決まっている
35条1項14号と施行規則16条の4の3
35条1項14号は、相手方等の利益の保護のために省令で定める事項を説明するとしています。施行規則16条の4の3は、契約ごとに説明する号を決めています。
- 宅地の売買・交換:1号〜3号の2
- 建物の売買・交換:1号〜6号
- 宅地の貸借:1号〜3号の2(と8号〜13号)
- 建物の貸借:1号〜5号(と7号〜12号)
8号以降の貸借だけの事項は貸借の重要事項説明の記事で扱っています。
1号〜6号の中身
- 1号 造成宅地防災区域:宅地造成及び特定盛土等規制法45条1項で指定された造成宅地防災区域の中にあるときは、その旨。
- 2号 土砂災害警戒区域:土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)7条1項で指定された土砂災害警戒区域の中にあるときは、その旨。
- 3号 津波災害警戒区域:津波防災地域づくりに関する法律53条1項で指定された津波災害警戒区域の中にあるときは、その旨。
- 3号の2 水害の図面:水防法施行規則11条1号により、市町村長が提供する図面に宅地・建物の位置が表示されているときは、その図面における所在地。図面は、洪水・雨水出水(内水)・高潮の浸水想定区域を示したもので、いわゆる水害ハザードマップです。
- 4号 石綿:建物について、石綿の使用の有無の調査の結果が記録されているときは、その内容。
- 5号 耐震診断:建物(昭和56年6月1日以降に新築の工事に着手したものを除く)が、指定確認検査機関・建築士・登録住宅性能評価機関・地方公共団体が行う耐震診断を受けたものであるときは、その内容。
- 6号 住宅性能評価:住宅の品質確保の促進等に関する法律の住宅性能評価を受けた新築住宅であるときは、その旨。
宅地・建物、売買・貸借で要る・要らないの表
| 説明事項 | 宅地(売買・貸借) | 建物の売買・交換 | 建物の貸借 |
|---|---|---|---|
| 1 造成宅地防災区域 | 説明する | 説明する | 説明する |
| 2 土砂災害警戒区域 | 説明する | 説明する | 説明する |
| 3 津波災害警戒区域 | 説明する | 説明する | 説明する |
| 3の2 水害の図面上の位置 | 説明する | 説明する | 説明する |
| 4 石綿の調査結果の記録 | しない | 説明する | 説明する |
| 5 耐震診断の内容 | しない | 説明する | 説明する |
| 6 住宅性能評価の新築住宅 | しない | 説明する | しない |
覚え方は、上から順に「災害は全部」「石綿・耐震は建物ならどちらも」「性能評価は建物を買うときだけ」です。表の右下(住宅性能評価・建物の貸借)だけが、建物なのに説明しない所です。
「調査する義務はない」型を見分ける
4号と5号は、条文の書き方に注目します。
- 4号は「調査の結果が記録されているときは、その内容」。
- 5号は「耐震診断を受けたものであるときは、その内容」。
どちらも、記録や診断が「あるとき」に、その内容を説明する形です。宅建業者に、石綿の調査をさせたり、耐震診断を受けさせたりする文言はありません。だから「記録がないときは、業者が自ら調査して説明しなければならない」という肢は、条文にない義務を足した誤りです。国土交通省も、石綿と耐震診断の説明事項を加えた省令改正の意見募集の結果で、この説明義務は調査や耐震診断の実施そのものを宅建業者に義務づけるものではないとしています。そのうえで、記録がないとき・診断を受けていないときは、その旨を説明するのが適当としています。
これと逆の書き方をしているのが、既存の建物の建物状況調査(35条1項6号の2イ)です。こちらは「実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要」なので、実施していないことも説明の対象になります。ただし、こちらも業者に調査を実施させる義務はありません。くわしくは建物状況調査の記事で確かめてください。
区域の事項(1号〜3号)は、「区域内にあるときは、その旨」です。図面の事項(3号の2)は、「図面に位置が表示されているときは、その図面における所在地」です。浸水が想定される区域の外であっても、図面に物件の位置が載っていれば、その位置を示して説明します。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:ゆいさんの家は昭和55年に着工し、建築士の耐震診断を受けていた。→ 5号により、その内容を説明します。
- 当てはまる例:りょうたさんの部屋は、市の洪水と高潮の両方の図面に位置が載っていた。→ 3号の2は、建物の貸借でも説明します。図面ごとに、その図面における所在地を示します。
- 当てはまらない例:昭和60年に新築の工事に着手した建物が、耐震診断を受けていた。→ 昭和56年6月1日以降に着工した建物は、5号の対象から外れています。5号の事項としての説明は要りません。
- 当てはまらない例:新築住宅の貸借の媒介で、住宅性能評価を受けていた。→ 6号は建物の売買・交換だけの事項です。建物の貸借では説明しません。
- ひっかけやすい例:昭和56年5月に新築の工事に着手し、同じ年の10月に完成した建物。→ 基準は完成の日ではなく「新築の工事に着手」した日です。昭和56年6月1日より前の着工なので5号の対象に入り、耐震診断を受けていれば内容を説明します。
- ひっかけやすい例:土砂災害「特別」警戒区域の中の宅地の売買。→ 2号の「土砂災害警戒区域」の事項とは別に、特別警戒区域での開発の許可などの制限(土砂災害防止法10条1項)が、35条1項2号の法令上の制限として施行令3条1項に挙がっています。区域の「その旨」と、法令上の制限の「概要」は、別の号の話です。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 災害の区域・図面(1〜3号の2) | 石綿・耐震(4・5号) | 建物状況調査(6号の2イ) |
|---|---|---|---|
| 対象 | 宅地・建物すべて | 建物だけ | 既存の建物 |
| 説明する中身 | その旨・図面上の所在地 | 記録・診断があるときの内容 | 実施の有無と結果の概要 |
| 業者が調べさせる義務 | ― | なし | なし |
造成宅地防災区域と、許可がいる「宅地造成等工事規制区域」は、どちらも宅地造成及び特定盛土等規制法の区域です。工事の許可などの制限は35条1項2号の法令上の制限、造成宅地防災区域の中にあることは14号(施行規則1号)です。区域のしくみは宅地造成及び特定盛土等規制法の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
まちがえやすいのは次の点です。
- 災害の区域と図面は貸借でも:「貸借では説明不要」と外す肢に注意。宅地の貸借・建物の貸借のどちらでも説明する。
- ハザードマップは位置を示す:区域の外でも、図面に位置が表示されていれば説明する。洪水・雨水出水・高潮のどの図面も対象。
- 石綿・耐震は「記録・診断があるとき」:業者が調査・診断をする義務はない。
- 耐震の基準は着工日:昭和56年6月1日以降に新築の工事に着手した建物は除く。完成日と入れ替えた肢に注意。
- 住宅性能評価は建物の売買・交換だけ:新築住宅でも、貸借では説明しない。
- 石綿・耐震は宅地では関係しない:建物の事項なので、宅地の売買・貸借では説明しない。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、中古住宅の売買の媒介をする場合、その建物について石綿の使用の有無の調査の結果が記録されていないときは、Aは、自ら石綿の使用の有無の調査を行い、その結果を買主に説明しなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、石綿の事項が「記録があるとき」の説明か、調査の義務かです。施行規則16条の4の3第4号は、調査の結果が記録されているときに、その内容を説明するとしています。正しくは、Aが自ら調査をする義務はありません。国土交通省は、記録がないときはその旨を説明するのが適当としています。実施していないことも説明の対象になる建物状況調査(35条1項6号の2イ)の書き方と混ぜると、何か調べて説明しなければと考えてしまいます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、建物の賃貸借の媒介をする場合、市町村長が提供する水害の図面にその建物の位置が表示されているときは、Aは、借主に対し、その図面における建物の所在地を説明しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、水害の図面の事項が建物の貸借でも説明の対象になるかどうかです。施行規則16条の4の3は、建物の貸借について1号〜5号を説明するとしていて、3号の2(水害の図面上の所在地)が入っています。貸借では説明事項が減ると考えると✕にしてしまいます。建物の貸借で外れるのは、6号の住宅性能評価です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者Aが、昭和56年5月に新築の工事に着手し、同年10月に完成した建物の売買の媒介をする。この建物が建築士の行う耐震診断を受けているときは、Aは、その内容を買主に説明しなければならない。
答え:○ 分かれ目は、耐震診断の事項の対象を決める日付です。施行規則16条の4の3第5号は、昭和56年6月1日以降に「新築の工事に着手したもの」を除くとしています。この建物の着工は同年5月なので対象に入り、診断の内容を説明します。完成が6月1日より後なので対象外、と完成日で考えると✕にしてしまいます。条文の基準は完成の日ではなく、新築の工事に着手した日です。
まとめ
- 造成宅地防災区域・土砂災害警戒区域・津波災害警戒区域・水害の図面上の位置は、宅地・建物、売買・貸借のすべてで説明する。
- 石綿の調査結果と耐震診断は建物だけ。記録・診断が「あるとき」に内容を説明し、業者が調査する義務はない。
- 耐震診断の対象は、昭和56年5月31日以前に新築の工事に着手した建物。
- 住宅性能評価を受けた新築住宅であることは、建物の売買・交換だけで説明する。
宅建業法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「宅建業法」の重要事項説明(水害ハザードマップ・石綿の調査結果)の問題で続けて解けます。次に読むなら、貸借の重要事項説明の記事がおすすめです。この記事の表のうち「建物の貸借」の列を、設備や契約期間などの貸借だけの事項と合わせて見ると、貸借の説明事項がひとまとまりで覚えられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(35条1項2号・6号の2・14号)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行令」(3条1項・3項)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(16条の4の3第1号〜6号)
- e-Gov法令検索「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(10条1項)
- e-Gov法令検索「水防法施行規則」(2条、5条、8条、11条)
- 国土交通省「『宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令案』に対する主な意見の概要とそれに対する国土交通省の考え方について」(石綿の調査・耐震診断の実施を宅建業者に義務づけるものではない、とした回答)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えるのに使った過去の試験問題)
働く人の法律試験ノート