請負と委任をわかりやすく:仕事を頼む2つの契約の違い

ひとことで言うと、請負(うけおい)は「仕事を完成させること」を約束する契約です。委任(いにん)は「頼まれた事務を、注意をつくして処理すること」を約束する契約です。家のリフォームは請負、家を売る手続きを任せるのは委任、と考えると入りやすくなります。

ちがいの中心は「結果まで約束するか」です。請負人は完成させないと原則として報酬をもらえません。受任者(じゅにんしゃ=任された人)は、結果が出なくても、きちんと処理すれば約束を果たしたことになります。この差から、報酬の時期、途中でやめたときの扱い、解除のルールが分かれていきます。

この記事では、請負と委任(準委任をふくむ)を扱います。請負の目的物に欠陥があったときの細かいルールは契約不適合責任をわかりやすく、約束が守られないときの解除や損害賠償の基本は債務不履行と解除をわかりやすくで説明しています。雇用と寄託は扱いません。

身近な例で考えるとどうなるか

登場人物は3人です。頼む人=カフェを開くみさきさん、工務店のだいちさん、個人で不動産業を営むけんたさんです。

  1. みさきさんは、店のキッチンのリフォームをだいちさんに200万円で頼みました。だいちさんは「完成させます」と約束しています。これが請負です。
  2. みさきさんは、前に住んでいたマンションの部屋を売る手続きを、けんたさんに任せました。買い手と売買契約を結ぶところまで任せています。これが委任です。
  3. キッチンが完成し、だいちさんが引き渡しました。報酬の200万円は、引き渡しと同時に払うのが原則です。
  4. けんたさんは広告を出して買い手を探しましたが、まだ見つかりません。それでも、注意をつくして探していれば、約束違反ではありません。委任は「売れること」までは約束していないからです。

たとえるなら、請負は「ケーキを1台焼いて届ける」注文、委任は「店番を任せる」お願いに近いものです。ケーキは届かなければ代金を払いません。店番は、売上が少なくても、きちんと番をしていれば役目は果たしています。ただし本物のルールでは、委任の報酬は特約(とくやく=当事者の取り決め)がなければもらえない、という点がたとえと違います。

条文ではどう決まっているか

請負(632条〜642条)

  • 成り立ち(632条):一方が「ある仕事を完成すること」を約束し、相手が「仕事の結果に対して」報酬を払うと約束すれば成り立つ。民法上、書面は成立の条件になっていない。
  • 報酬の時期(633条):仕事の目的物の引渡しと同時に払う。引渡しがいらない仕事(演奏など)は、仕事を終えた後に請求できる(624条1項を準用)。
  • 途中で終わったときの報酬(634条):①注文者のせいではない理由で完成できなくなった、②完成前に契約が解除された。この2つの場合、できた部分が分けられて、注文者がそれで利益を受けるなら、その部分を「完成」とみなす。請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる。
  • 欠陥があったとき:売買の契約不適合責任のルールが準用される(559条)。注文者は、直してもらう(追完)・報酬を減らす・損害賠償・解除を求められる。
  • 注文者の材料・指図が原因のとき(636条):注文者が出した材料の性質や、注文者の指図(さしず=やり方の指示)で生じた不適合は、責任を問えない。ただし、請負人が材料や指図が不適当だと知りながら告げなかったときは別。
  • 通知の期間(637条):種類・品質の不適合は、注文者が知った時から1年以内に請負人へ通知しないと、責任を問えなくなる。ただし、引渡しの時に請負人が知っていたか、重大な過失で知らなかったときは、この制限はかからない。
  • 注文者の解除(641条):請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも「損害を賠償して」解除できる。
  • 注文者の破産(642条):注文者が破産手続開始の決定を受けたら、請負人か破産管財人が解除できる。ただし、請負人からの解除は仕事の完成後はできない。

委任と準委任(643条〜656条)

  • 成り立ち(643条):一方が「法律行為をすること」を相手に頼み、相手が承諾すれば成り立つ。法律行為(ほうりつこうい)は、契約のように権利や義務を生む行為のこと。
  • 準委任(656条):法律行為ではない事務(帳簿づけ・病気の診察など)を頼む契約にも、委任の規定がそのまま当てはまる。
  • 注意の程度(644条):受任者は「善良な管理者の注意」(善管注意〔ぜんかんちゅうい〕=その立場の人に通常求められる注意)で処理する。報酬がなくても同じ。
  • ほかの人に任せる(644条の2):委任者の許しがあるか、やむを得ない事由があるときでなければ、復受任者(ふくじゅにんしゃ=さらに任された人)を選べない。
  • 報告と引渡し(645条・646条):委任者に求められたらいつでも状況を報告し、終わったら遅滞なく結果を報告する。受け取ったお金や物は委任者に渡す。
  • 報酬(648条):特約がなければ、報酬を請求できない。報酬を受ける約束があっても、原則は事務を終えた後に請求する。委任者のせいではない理由で続けられなくなったときや、途中で終わったときは、すでにした分の割合で請求できる。
  • 成果に払う約束(648条の2):「売れたら払う」のように成果に報酬を払う約束で、成果の引渡しがいるなら、報酬は引渡しと同時に払う。途中で終わったときは、請負の634条が準用される。
  • 費用(649条・650条):費用がかかるときは、受任者は前払いを求められる。立て替えたら、その費用と支出した日からの利息を請求できる。自分に過失なく損害を受けたら、その賠償も請求できる。
  • 解除(651条):委任は「各当事者がいつでも」解除できる。ただし、相手に不利な時期に解除したときや、受任者の利益(報酬だけを目的とするものは除く)も目的とする委任を委任者が解除したときは、相手の損害を賠償する。やむを得ない事由があれば賠償はいらない。
  • 終わる理由(653条):①委任者か受任者の死亡、②委任者か受任者の破産手続開始の決定、③受任者が後見開始の審判を受けたこと。
  • 終わった後(654条・655条):急ぎの事情があれば、受任者側は、委任者側が処理できるようになるまで必要な処分をする。終わった理由は、相手に通知するか、相手が知っていたときでなければ、相手に主張できない。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(634条の割合報酬):だいちさんが工事の途中で大けがをし、完成できなくなった。みさきさんのせいではない。取り付け済みの流し台がそのまま使えて、みさきさんがその利益を受けるなら、だいちさんはその割合の報酬を請求できます。
  2. 当てはまらない(634条ではなく536条2項):みさきさんが勝手に店を閉めて、だいちさんを中に入れなくなった。注文者のせいで完成できなくなったので、634条1号の場面ではありません。みさきさんは、報酬の支払いを拒めません(536条2項)。ただし、だいちさんが材料代など支払いを免れた分は、みさきさんに返します。
  3. 当てはまらない(636条):みさきさんが「この安い床材を使って」と材料を持ちこみ、そのせいで床がすぐ反った。注文者の材料が原因なので、責任は問えません。ただし、だいちさんが「この床材はキッチンに向かない」と知りながら黙っていたなら、責任を問えます。
  4. ひっかけやすい(委任の解除と賠償):みさきさんは、買い手との契約の日の前日に、けんたさんへの依頼をやめた。委任はいつでも解除できますが、けんたさんに不利な時期なので、やむを得ない事由がなければ損害を賠償します。「解除できない」のではなく「解除はできるが賠償がいる」という形です。
  5. ひっかけやすい(死亡):けんたさんが亡くなると、委任は終わります(653条1号)。一方、だいちさんの請負には、653条のような「死亡で終わる」という定めがありません。

似ているルールとどう違うか

比べる点請負委任・準委任
約束すること仕事の完成(632条)事務の処理(643条・656条)
報酬契約の要素。引渡しと同時(633条)特約がなければ無報酬(648条1項)
途中で終わった利益の割合で請求(634条)履行の割合で請求(648条3項)
いつでも解除注文者だけ。完成前、損害を賠償して(641条)両方。場合により賠償(651条)
死亡終了の定めなしどちらの死亡でも終了(653条)

覚え方は「請負は結果、委任は信頼」です。請負は結果がほしい契約なので、結果が出るまで報酬はなく、結果がいらなくなった注文者は、損を埋めればやめられます。委任は相手を信頼して任せる契約なので、信頼がなくなればどちらからでもやめられ、本人が亡くなれば終わります。

注意の程度も比べておきます。委任の受任者は、報酬がなくても善管注意を負います(644条)。これに対し、物を無報酬で預かる人(無報酬の受寄者)は「自己の財産に対するのと同一の注意」でよいとされています(659条)。「無償だから注意が軽くなる」は、委任には当てはまりません。

委任で「部屋を売る契約を結ぶ」ところまで任せるときは、ふつう代理権(本人のかわりに契約する資格)も与えます。代理人が任された範囲をこえたときのルールは代理をわかりやすくで整理しています。委任は「頼む側と任される側の約束」、代理は「その結果が相手との間で本人に効く仕組み」と分けて考えると混ざりません。

試験ではどこをまちがえやすいか

  • 解除できる人を広げる型:641条で「いつでも」解除できるのは注文者だけで、完成前に限られます。「請負人もいつでも解除できる」は誤りです。
  • 641条の賠償を落とす型:注文者の解除は「損害を賠償して」します。賠償なしで自由にやめられるわけではありません。
  • 委任の報酬を逆にする型:委任は特約がなければ報酬を請求できません。「委任は有償が原則」は誤りです。
  • 無償なら注意が軽いとする型:無報酬の受任者でも善管注意を負います。
  • 651条の賠償の条件をずらす型:受任者の利益も目的とする委任でも、解除そのものはできます。賠償がいるかどうかの問題です。また、報酬をもらうことだけでは「受任者の利益」に当たりません。
  • 終了の事由を入れかえる型:後見開始で終わるのは受任者が後見開始の審判を受けたときです。委任者の後見開始は653条に並んでいません。
  • 通知期間の起算点をずらす型:637条の1年は「不適合を知った時から」で、引渡しの時からではありません。1年以内にするのは「通知」で、裁判を起こすことまでは求めていません。

行政書士試験では、5肢択一式で請負と委任の条文を並べ、報酬・解除・終了事由の一部を入れかえる形が考えられます。記述式(40字程度)なら、「注文者が完成前に契約をやめるには、どうすればよいか」に「損害を賠償して解除する」と条文の言葉で書けるかがポイントになりやすい形です。

宅建試験では、建物の建築やリフォームの請負で、欠陥があったときの注文者の手段や通知の期間を問う形が考えられます。宅建業者に売買の仲介を頼む場面のルール(契約の種類や報酬の上限)は宅建業法で決まっています。媒介契約や報酬の制限の記事で整理しています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
りょうさんは、工務店に自宅の物置の建築を頼んだ。物置が完成する前であれば、りょうさんは、いつでも損害を賠償して契約を解除できる。同じように、工務店も、完成する前であれば、いつでも損害を賠償して契約を解除できる。

答え:✕ 完成前にいつでも解除できるのは注文者だけです(641条)。請負人にこの解除権はありません。注文者が破産手続開始の決定を受けたときの解除(642条)は別の話です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
あやかさんは、友人に無報酬で、自分の中古自転車をフリマアプリで売る手続きを頼んだ。友人は報酬をもらわないので、自分の物と同じ程度の注意で処理すれば足りる。

答え:✕ 受任者は、報酬の有無にかかわらず善良な管理者の注意を負います(644条)。「自己の財産に対するのと同一の注意」でよいのは、無報酬で物を預かる受寄者です(659条)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ゆうきさんは、知人に土地を売る手続きを任せていた。知人が後見開始の審判を受けた場合、この委任は終了する。

答え:○ 受任者が後見開始の審判を受けたことは、委任の終了事由です(653条3号)。委任者が後見開始の審判を受けても、653条では終了事由になっていない点とセットで覚えます。

まとめ

  • 請負は「完成」、委任は「処理」を約束する。法律行為でない事務は準委任で、委任の規定が当てはまる。
  • 請負の報酬は引渡しと同時。途中で終わっても、分けられて注文者が利益を受ける部分は割合で請求できる。
  • 委任は特約がなければ無報酬。無報酬でも善管注意。
  • いつでも解除:請負は注文者だけ(完成前・損害を賠償して)、委任は両方(不利な時期などは賠償)。
  • 委任は死亡・破産手続開始・受任者の後見開始で終わる。請負には死亡で終わる定めがない。

次に読むなら、事務管理と不当利得をわかりやすくがおすすめです。頼まれていないのに他人の事務をした場合のルール(事務管理)は、委任の条文の一部を借りて組み立てられていて、委任と並べると両方の違いがはっきりします。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。

  • e-Gov法令検索「民法」(536条、559条、624条、632条、633条、634条、636条、637条、641条、642条、643条、644条、644条の2、645条、646条、648条、648条の2、649条、650条、651条、653条、654条、655条、656条、659条)