行政立法をわかりやすく:法規命令と行政規則の違い

行政立法(ぎょうせいりっぽう)とは、国会ではなく、内閣や大臣などの役所がルールを作ることです。ひとことで言うと、国民をしばるルールが「法規命令(ほうきめいれい)」、役所の中だけで通じるルールが「行政規則(ぎょうせいきそく)」です。

法規命令は、法律に任された範囲でしか作れません。範囲を超えると無効です。行政規則の代表は通達(つうたつ)で、職員は従いますが、国民や裁判所はしばられません。この記事では、令和8年4月1日時点で施行されている法令をもとに、この2つの違いを扱います。意見公募手続(パブリックコメント)のくわしい流れは別の記事に任せます。

身近な例で考えると

登場人物を紹介します。この話は、後で紹介する最高裁判決の事件をもとに、分かりやすく作り変えたものです。

人物立場したこと
国会法律を作る薬の売り方の細かい点を省令に任せた
大臣省令を作るネットで売れない薬を決めた
あおいさん小さな薬局の店主ネットで市販薬を売りたい
けんたさん国の役所の職員上司の通達どおりに仕事をする
  1. 国会が、薬の法律に「売り方の細かい点は、省令で決める」と書きました。これを委任(いにん=任せること)といいます。
  2. 大臣が省令で「この種類の薬は、ネットで売ってはいけない」と決めました。
  3. あおいさんは、ネットで売れなくなりました。「法律はネット販売を禁止していない。省令が、任された範囲を超えている」と考えて、裁判を起こします。
  4. 一方、けんたさんの役所では、上司が「この種類の書類は、こう確かめること」という通達を出しました。けんたさんは従います。でも、あおいさんがこの通達にしばられるわけではありません。

省令は、あおいさんのような国民をしばります。だから、国会の法律が任せた範囲を超えていないかが問題になります。通達は、けんたさんたち職員への指示です。国民を直接しばらないので、扱いがまったく違います。

たとえると、法規命令はお店とお客さんの両方が守る「利用規約」です。行政規則は、店員だけが見る「仕事のマニュアル」です。ただし本物のルールでは、利用規約にあたる法規命令は、国会の法律に任された範囲でしか作れません。また、マニュアルにあたるものでも、審査基準のように外に公にする決まりがあるものもあります。

条文ではこう決まっている

法規命令の種類と作る人

  • 政令(せいれい):内閣が作ります。憲法73条6号は、内閣の仕事として「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること」を挙げています。
  • 省令(しょうれい):各省の大臣が作ります(国家行政組織法12条1項)。
  • このほかにも、役所の種類に応じた命令や規則があります。試験では、まず政令と省令で考え方をつかめば足ります。

委任命令と執行命令

国家行政組織法12条1項は、大臣が省令を出せる場合を2つに分けています。

  • 執行命令(しっこうめいれい):「法律若しくは政令を施行するため」の命令。法律を動かすための手続きや書類の形などを決めます。
  • 委任命令(いにんめいれい):「法律若しくは政令の特別の委任に基づいて」作る命令。法律に任された中身(誰に何を義務づけるかなど)を決めます。

法律の委任がないとできないこと

  • 政令の罰則:法律の委任がある場合を除いて、罰則を設けられません(憲法73条6号ただし書)。
  • 政令の義務・権利の制限:「法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない」(内閣法11条)。
  • 省令:法律の委任がなければ、罰則も、義務を課す規定も、国民の権利を制限する規定も設けられません(国家行政組織法12条3項)。

つまり、国民に何かを義務づける中身は、国会の法律から任されて初めて作れます。執行命令だけでは、新しい義務は作れません。

行政規則(訓令・通達・告示)

  • 訓令・通達:大臣などは、「所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる」とされています(国家行政組織法14条2項)。あて先は役所の中の機関と職員です。
  • 告示(こくじ):公に知らせる必要があるときに出す形式です(同条1項)。告示は「形」の名前なので、中身によっては国民をしばることもあります。行政手続法も、処分の要件を定める告示を「命令」に含めています(2条8号イ)。
  • 行政規則は役所の中のルールなので、法律の委任がなくても作れると説明されます。そのかわり、国民の権利や義務を直接決めることはできません。

行政手続法の「命令等」

  • 行政手続法は、次の4つをまとめて「命令等」と呼びます(2条8号)。①法律に基づく命令または規則、②審査基準、③処分基準、④行政指導指針。
  • ②〜④は、役所が判断に使う内部の基準です。それでも、作るときの手続きのルールがかかります。
  • 命令等を定めるときは、根拠となる法令の趣旨に合うようにしなければなりません(38条1項)。定めた後も、必要に応じて見直すよう努めます(38条2項)。
  • 審査基準は、定めたうえで、原則として公にしておかなければなりません(5条1項・3項)。処分基準は、定めて公にするよう「努めなければならない」です(12条1項)。

命令等を定めるときに広く意見を求める手続きは意見公募手続をわかりやすくで、審査基準と処分基準の違いは行政手続法をわかりやすくで扱っています。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:委任の範囲を超えた省令は無効

あおいさんの話のもとになった事件です。最高裁判所第二小法廷の平成25年1月11日判決は、当時の薬事法施行規則(省令)の規定を判断しました。一般用医薬品のうち第一類・第二類の薬について、郵便などで売ることを一律に禁止する限度で、薬事法の委任の範囲を超えて違法・無効だとしました。

当てはまる例:委任の範囲を超えた規則も無効

最高裁判所第三小法廷の平成3年7月9日判決です。当時の監獄法施行規則は、未決勾留者(みけつこうりゅうしゃ=裁判が終わる前で、拘置所に入れられている人)と14歳未満の人との面会を禁じていました。判決は、この禁止の限度で、規則は監獄法の委任の範囲を超えて無効だとしました。

ひっかけやすい例:規則が無効でも、従った職員に過失があるとは限らない

同じ平成3年の判決は、拘置所長が規則に従って面会を許さなかったことに、国家賠償法上の過失はないとしました。規則が長い間使われ、有効かどうか実務で疑われていなかった、などの事情があったからです。「規則が無効なら、従った職員には過失がある」とは言えません。過失の考え方は国家賠償法をわかりやすくで確かめられます。

当てはまらない例:通達そのものの取消しは求められない

最高裁判所第三小法廷の昭和43年12月24日判決です。墓地の管理について、役所が法律の解釈を示した通達が出されました。墓地を経営する人が、その通達の取消しを求めて裁判を起こしました。判決は、通達は行政組織の内部の命令にすぎず、国民の権利や義務に直接具体的な影響を与えないので、取消しの訴えは許されないとしました。取消訴訟で争える「処分」に当たるかどうかの考え方は、取消訴訟の要件をわかりやすくで扱っています。

ひっかけやすい例:通達がきっかけの課税

最高裁判所第二小法廷の昭和33年3月28日判決です。パチンコ球遊器(パチンコの台)に物品税(当時あった税金)がかけられました。この課税は、通達がきっかけでした。判決は、課税が通達を機縁(きえん=きっかけ)としたものでも、通達の内容が法の正しい解釈に合っていれば、課税は法律の根拠に基づく処分だとしました。大事なのは「通達だから」ではなく、「法律の正しい解釈に合っているか」です。

当てはまらない例:執行命令で新しい義務を作る

大臣が、法律の委任なしに「届出のときは、近所の人全員の同意書も出すこと」と省令で決めたとします。書類の形を決める執行命令のつもりでも、中身は国民に新しい義務を課すものです。国家行政組織法12条3項により、法律の委任がなければ設けられません。

似ているルールとの違い

比べる点法規命令行政規則
しばる相手国民も役所も役所の中(職員)
法律の委任義務・権利制限には必要いらないと説明される
裁判所有効なら判断の基準になるしばられない
例政令・省令通達・訓令・審査基準
比べる点委任命令執行命令
根拠の言葉特別の委任に基づいて施行するため
決める中身任された権利義務の中身手続き・書類の形など
新しい義務委任の範囲で置ける置けない

もう一つ、まぎらわしいのが地方公共団体の条例と規則です。条例は住民が選んだ議会が作るルールで、国の役所が作る行政立法とは仕組みが違います。条例と規則をわかりやすくで分けて整理しています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 通達の力を大きくする型:「通達は国民を拘束する」「裁判所は通達の解釈に従う」は誤り。通達は職員への指示です。
  • 通達を取消訴訟で争えるとする型:昭和43年12月24日判決は、通達の取消しの訴えを許されないとしました。
  • 罰則を一律に禁止する型:「政令には罰則を設けられない」は言いすぎ。法律の委任があれば設けられます(憲法73条6号ただし書)。
  • 執行命令と委任命令を入れかえる型:新しい義務を置けるのは、法律の委任がある場合です。
  • 無効と過失を結びつける型:規則が無効でも、従った公務員に過失があるとは限りません(平成3年7月9日判決)。
  • 審査基準と処分基準を入れかえる型:審査基準は定めて公にする義務(原則)。処分基準は努力義務。

行政書士試験では、行政法の一般的な法理論として、法規命令と行政規則の性質を「正しい説明はどれか」で問う形が考えられます。判例の結論(委任の範囲を超えて無効、通達は争えない)を、理由とセットで覚えておくと選びやすくなります。行政手続法の「命令等」の定義や38条は、条文の言葉どおりに問われやすい形です。この論点は宅建試験の範囲ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
ある大臣が、職員向けの通達で法律の解釈を示した。この通達は、役所の外の国民も拘束し、裁判所もこの解釈に従って判断しなければならない。

答え:✕ 通達は、所管の機関と職員に向けた指示です(国家行政組織法14条2項)。国民や裁判所はしばられません。裁判所は、法律の正しい解釈に合っているかを自分で判断します。

問2(このサイトのオリジナル問題)
各省の大臣は、法律を施行するために必要であれば、法律の委任がなくても、省令で国民に新しい義務を課す規定を設けることができる。

答え:✕ 省令には、法律の委任がなければ、罰則を設けることも、義務を課す規定や国民の権利を制限する規定を設けることもできません(国家行政組織法12条3項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
行政手続法の「命令等」には、法律に基づく命令だけでなく、審査基準、処分基準、行政指導指針も含まれる。

答え:○ 行政手続法2条8号は、この4つをまとめて「命令等」と定めています。命令等を定めるときは、根拠となる法令の趣旨に合うようにしなければなりません(38条1項)。

まとめ

  • 法規命令は国民をしばるルール(政令・省令など)。行政規則は役所の中のルール(通達・訓令など)。
  • 義務を課す・権利を制限する・罰則を置くには、法律の委任が必要。執行命令だけではできない。
  • 委任の範囲を超えた命令は無効(平成25年1月11日、平成3年7月9日の最高裁判決)。
  • 通達は国民も裁判所もしばらず、取消しの訴えで争えない(昭和43年12月24日判決)。
  • 行政手続法の「命令等」は、命令・規則、審査基準、処分基準、行政指導指針の4つ。

次に読むなら、意見公募手続をわかりやすくがおすすめです。この記事で見た「命令等」を作るときに、役所が国民の意見をどう聞くかが分かり、行政手続法の条文がつながります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。