買戻し(かいもどし)は、不動産を売るときに「決めた期間のうちに、受け取った代金と契約の費用を返せば、売買をなかったことにできる」と、売買と同時に取り決めておくことです。この取り決めを買戻しの特約といいます(民法579条)。
数字は3つだけです。期間は10年を超えられず、長く定めても10年になる。期間を定めなかったら5年以内。定めた期間は、あとから延ばせない(580条)。売買契約と同時に特約を登記すれば、第三者にも主張できます(581条1項)。
はじめに、試験での位置づけを正直に書きます。当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、買戻しが主な論点の問題は1問(平成3年度)、ほかの論点の問題の中に出たのが1問(平成2年度)でした。直近10回には出ていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。平成4年度以降は一度も出ていない論点なので、この記事の範囲(期間・返すお金・登記・再売買の予約との違い)で止め、深追いしないのが時間の使い方としては合っています。
身近な例で考えると
登場人物は3人です。土地を売る人=町工場を営むまさきさん、土地を買う人=かなこさん、かなこさんから土地を買った人=りょうさんです。
- まさきさんは、工場の機械を買い替えるお金が必要になり、工場の隣の空き地をかなこさんに1,000万円で売ることにした。
- まさきさんは「仕事が持ち直したら、この土地を取り戻したい」と考えた。そこで、売買契約を結ぶのと同時に、「5年以内に代金1,000万円と契約の費用を返せば、売買を解除できる」という買戻しの特約を結んだ。
- 所有権の移転の登記と一緒に、買戻しの特約も登記した。
- 3年後、かなこさんは土地をりょうさんに売った。
- 4年目に、まさきさんは期間内に1,000万円と契約の費用をそろえて提供し、買戻しをした。特約を登記していたので、まさきさんは、りょうさんに対しても買戻しを主張できる。
たとえるなら、買戻しは「質屋に品物を預けて、期限までにお金を返せば取り戻せる」しくみに似ています。ただし本物のルールでは、対象は不動産で、土地の所有権はいったん本当にかなこさんに移ります。品物を預けるだけの質とは違います。
条文ではこう決まっている
- 特約の中身(579条前段):不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別に合意したときは、その合意で定めた金額)と契約の費用を返して、売買を解除できます。
- 果実と利息(579条後段):特に決めなければ、その間の土地の果実(土地を貸して得た地代など)と、代金の利息とは、相殺したものとみなします。売主は代金の利息を払わなくてよく、買主は地代などを返さなくてよい、ということです。
- 期間(580条):買戻しの期間は10年を超えられません。特約で10年より長く定めたときは10年になります(1項)。期間を定めたら、あとから延ばすことはできません(2項)。期間を定めなかったときは、5年以内に買戻しをしなければなりません(3項)。
- 登記による対抗(581条1項):売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しを第三者に対抗できます。
- 登記の後に借りた人(581条2項):特約の登記の後に対抗要件を備えた賃借人は、残りの期間のうち1年を超えない期間に限って、売主に対抗できます。売主を害する目的で貸したときは、この限りではありません。
- 買戻しのしかた(583条1項):売主は、期間内に代金と契約の費用を提供しなければ、買戻しができません。
- 買主が使った費用(583条2項):買主や転得者が土地に費用を使っていたときは、売主はその償還をします(196条による)。
- 登記に書く事項(不動産登記法96条):買戻しの特約の登記には、買主が支払った代金(別に合意したときはその金額)と契約の費用、期間の定めがあればその定めを書きます。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:特約で買戻しの期間を15年と定めた。→ 特約は無効にならず、期間が10年になります(580条1項)。
- 当てはまる例:代金は1,000万円だが、「買い戻すときは900万円と契約の費用を返す」と合意した。→ 579条は「別段の合意をした場合」の金額を認めているので、この合意どおりになります。
- 当てはまらない例:売買契約から半年後に、「やはり買い戻せるようにしたい」と特約を結んだ。→ 579条の買戻しは「売買契約と同時に」する特約です。あとから結んだものは、この条文の買戻しにはなりません。同じ目的なら、次の節の再売買の予約など、別のしくみを考えることになります。
- 当てはまらない例:期間を5年と定めていたが、4年目に、2人で「あと3年延ばそう」と決めた。→ 定めた期間は延ばせません(580条2項)。
- ひっかけやすい例:期間を定めずに特約を結んだ。→ 「定めがなければ10年」ではなく、5年以内に買戻しをしなければなりません(580条3項)。
- ひっかけやすい例:特約を登記しておかなかった。→ かなこさんから土地を買ったりょうさんに対しては、買戻しを主張できません(581条1項の反対の場面)。
再売買の予約とはどう違うか
同じ目的(売った物をあとで取り戻す)で使われるものに、再売買の予約があります。売るときに「あとで買主が売主に売り戻す」ことを予約しておくもので、民法の「売買の一方の予約」(556条)のしくみを使います。予約をした人が「売買を完結する」と意思表示した時に、売買の効力が生じます。
| 比べる点 | 買戻し | 再売買の予約 |
|---|---|---|
| 根拠の条文 | 579条〜585条 | 556条(売買の一方の予約) |
| しくみ | 最初の売買を解除する | 新しく売買をする |
| 期間 | 10年以内。定めなければ5年。延ばせない | 580条の制限は買戻しの規定 |
| 登記 | 買戻しの特約の登記(581条) | 請求権を守る仮登記(不動産登記法105条2号) |
試験で押さえるのは、「10年・5年・延ばせない」は買戻しの条文の数字だ、という点です。再売買の予約の期間をどう考えるかまで深追いする必要は、出題の数から見て低いと考えます。
なお、買戻しは「売買を解除する」しくみなので、契約の解除の一般的なルールと並べて覚えると整理しやすくなります。売った土地に欠陥があったときの責任は契約不適合責任の記事、登記の種類(本登記・仮登記)は不動産登記法の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
出題はまれです。条文の中で取り違えやすいのは次の点です。
- 10年・5年:期間の上限は10年。定めがなければ5年。「定めがなければ10年」「上限5年」の入れ替えに注意。
- 長く定めたとき:10年を超える期間を定めても、特約全体が無効になるのではなく10年になる。
- 延長:定めた期間はあとから延ばせない(短くする・延ばすの話ではなく「伸長できない」と覚える)。
- 返すお金:代金そのものだけでなく、合意した金額でもよい(令和2年4月施行の改正で加わった)。それに契約の費用を足す。利息は、特に決めなければ果実と相殺とみなされ、払わない。
- 時期:特約は売買契約と同時。登記も売買契約と同時にしてはじめて第三者に対抗できる。
- 対象:579条は「不動産の売主」の規定。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
まさきさんは、自分の土地をかなこさんに売り、売買契約と同時に、買戻しの期間を15年とする特約を結んだ。この場合、特約は無効にはならず、買戻しの期間は10年となる。
答え:○ 分かれ目は、10年を超える期間を定めたときの扱いです。買戻しの期間は10年を超えることができず、特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は10年になります(民法580条1項)。「上限を超えた特約は無効」と考えると✕にしてしまいます。期間を定めなかったときは、10年ではなく5年以内に買戻しをしなければなりません(同条3項)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
まさきさんは、土地を代金1,000万円でかなこさんに売り、売買契約と同時に買戻しの特約を結んだ。この特約で、買戻しのときにまさきさんが返す金額を代金と異なる900万円(ほかに契約の費用)と定めても、その定めは効力を生じない。
答え:✕ 分かれ目は、返すお金を代金と違う額にできるかどうかです。579条は、買主が支払った代金について「別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額」としています。正しくは、900万円と契約の費用を返すという合意は有効です。返すお金が「代金」に限られていたのは改正前の579条で、令和2年4月施行の改正前の知識と入れ替えた形です。合意した金額は、特約の登記にも書きます(不動産登記法96条)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
まさきさんとかなこさんは、買戻しの期間を5年と定めていたが、4年目に、2人の合意で期間をさらに3年延ばした。この場合、まさきさんは、最初の売買から8年目まで買戻しをすることができる。
答え:✕ 分かれ目は、定めた期間をあとから延ばせるかどうかです。買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができません(580条2項)。正しくは、延長の合意は効力がなく、まさきさんは最初に定めた5年以内に代金と契約の費用を提供しなければ買戻しができません(583条1項)。10年を超えた期間が10年に縮む同条1項とは別のルールで、「10年以内なら延ばせる」と考えるのが取り違えです。
まとめ
- 買戻しは、不動産の売買と同時に結ぶ特約。代金(合意した額でもよい)と契約の費用を返して、売買を解除する。
- 期間は10年以内(長く定めれば10年)。定めなければ5年。定めた期間は延ばせない。
- 売買契約と同時に特約を登記すれば、第三者に対抗できる。
- 出題は全40回で主1問・副1問。数字と時期の入れ替えだけ押さえて先へ進む。
民法の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。次に読むなら、不動産登記法の記事がおすすめです。買戻しの特約の登記や、再売買の予約で使う仮登記が、登記簿のどこにどう載るかを見ておくと、「登記すれば第三者に対抗できる」の意味が具体的になります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(556条、579条、580条、581条、582条、583条)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(96条、105条)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えるのに使った過去の試験問題)
働く人の法律試験ノート