ひとことで言うと、却下(きゃっか)は「入口の要件を欠くので、中身を判断せずに退ける」こと、棄却(ききゃく)は「中身を判断したうえで、理由がないとして退ける」ことです。理由があると認めて申立てを通すことは、一般に認容(にんよう)と呼ばれます。行政不服審査法の条文では、認容の場面は「処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更する」のように、何をするかで書かれています。
同じ却下・棄却でも、審査請求と再審査請求では「裁決」、再調査の請求では「決定」、取消訴訟では「判決」で行います。この記事では、4つの手続の却下・棄却・認容を1枚の表に並べ、審査庁が処分を変えられる範囲と、取消訴訟の「訴え却下」と「請求棄却」の違いを確かめます。審理の流れは審査請求の記事、事情裁決と事情判決の比べは行政不服審査法と行政事件訴訟法の違いの記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の内容を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
| 人物・機関 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| さくらさん | 配送の事業をしている人 | 事業の停止60日の処分を受けた |
| D大臣 | 処分をした行政庁(処分庁) | 上級行政庁がないので、審査請求も受ける(審査庁) |
| 裁判所 | 取消訴訟を審理する | 訴えが適法か、処分が違法かを判断する |
審査請求は、処分庁に上級行政庁がない場合や、処分庁が主任の大臣である場合は、その処分庁にします(行政不服審査法4条1号)。この例では、さくらさんの審査請求はD大臣にします(この例の処分と法律は説明のための仮のものです)。審査請求の結果は、次の3つのどれかになります。
- さくらさんが、審査請求の期間(18条)を過ぎてから、正当な理由もなく審査請求をした。→ D大臣は、中身を調べる前の段階で却下の裁決をする。
- 期間内の審査請求で、D大臣が中身を調べたところ、処分に違法も不当もなかった。→ 棄却の裁決をする。
- 中身を調べたところ、違反の程度に比べて60日は重すぎる(不当)と分かった。→ 処分の全部を取り消すか、停止を30日に変更する裁決をする(認容)。
たとえるなら、却下は「書類の受付の段階で、申込みの形が整っていないので審査に回さない」、棄却は「審査に回したが、条件に合わないので通さない」です。ただし本物の手続では、却下も棄却も同じ「裁決」という正式な判断です。却下は、中身について判断していない点が棄却と違います。
条文ではこう決まっている
処分についての審査請求(行政不服審査法45条・46条・48条)
- 却下(45条1項):審査請求が法定の期間経過後にされたものである場合その他不適法である場合は、審査庁は、裁決で却下する。
- 棄却(45条2項):審査請求が理由がない場合は、裁決で棄却する。
- 事情裁決(45条3項):処分が違法・不当でも、取り消すと公の利益に著しい障害を生ずる場合などに、公共の福祉に適合しないと認めるときは、棄却できる。このときは裁決の主文で処分が違法・不当であることを宣言する。
- 認容(46条1項):審査請求が理由がある場合は、裁決で処分の全部・一部を取り消し、またはこれを変更する。ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁でも処分庁でもない場合は、変更はできない。
- 申請を退けた処分を取り消すとき(46条2項):一定の処分をすべきと認めるなら、上級行政庁である審査庁は処分庁にその処分をするよう命じ、処分庁である審査庁は自らその処分をする。
- 不利益変更の禁止(48条):審査庁は、審査請求人の不利益に処分を変更することはできない。
事実上の行為・不作為(47条・49条)
- 事実上の行為(47条):理由があれば、裁決で違法・不当である旨を宣言し、処分庁以外の審査庁は処分庁に撤廃・変更を命じ、処分庁である審査庁は自ら撤廃・変更する。上級行政庁以外の審査庁は、変更を命ずることはできない。
- 不作為(49条):申請から相当の期間が経過しないでされたものなど不適法なら却下(1項)、理由がなければ棄却(2項)。理由があれば、不作為が違法・不当である旨を宣言し、一定の処分をすべきと認めるときは、上級行政庁である審査庁は処分を命じ、不作為庁である審査庁は自ら処分をする(3項)。
再調査の請求と再審査請求(58条・59条・64条・65条)
- 再調査の請求:処分庁が決定で却下(58条1項)・棄却(58条2項)する。理由があれば、決定で処分を取り消し、または変更する(59条1項)。請求人の不利益には変更できない(59条3項)。
- 再審査請求:再審査庁が裁決で却下(64条1項)・棄却(64条2項)する。理由があれば、裁決で原裁決等の全部または一部を取り消す(65条1項)。変更の定めはない。
取消訴訟の判決
行政事件訴訟法に定めがない事項は、民事訴訟の例によります(行政事件訴訟法7条)。民事訴訟法140条は、訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、口頭弁論を経ないで「判決で、訴えを却下することができる」と定めています。不適法な訴えが判決で却下されることを前提にした規定です。取消訴訟を起こせるのは、処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者です(行政事件訴訟法9条1項)。こうした訴えの要件を欠けば訴えは不適法で、却下になります。要件を満たした訴えでは、裁判所は処分が違法かを判断し、違法でなければ請求を棄却し、違法なら処分を取り消します。処分が違法でも、取り消すと公の利益に著しい障害を生ずる場合などには請求を棄却でき、このときは判決の主文で処分が違法であることを宣言します(31条1項。事情判決)。
| 手続(判断の名前) | 却下:入口で不適法 | 棄却:理由がない | 認容:理由がある |
|---|---|---|---|
| 処分の審査請求(裁決) | 45条1項 | 45条2項(事情裁決は3項) | 取消し・変更(46条1項)。不利益変更はできない(48条) |
| 不作為の審査請求(裁決) | 49条1項 | 49条2項 | 違法・不当の宣言と、処分を命ずる・自らする(49条3項) |
| 再調査の請求(決定) | 58条1項 | 58条2項 | 取消し・変更(59条1項)。不利益変更はできない(59条3項) |
| 再審査請求(裁決) | 64条1項 | 64条2項(3項・4項も棄却) | 取消し(65条1項) |
| 取消訴訟(判決) | 訴えの却下(訴えの要件を欠く) | 請求の棄却(事情判決も棄却。31条1項) | 処分の取消し |
再審査請求の64条3項は、審査請求を却下・棄却した原裁決が違法・不当でも、もとの処分が違法・不当のいずれでもないときは、再審査請求を棄却する、という定めです。4項は事情裁決にあたる定めです。
当てはまる例・当てはまらない例
却下に当てはまる例:処分でないものへの審査請求
審査請求ができるのは「行政庁の処分に不服がある者」です(2条)。法的な義務を課さない行政指導のように、処分に当たらないものについて審査請求をしても、その審査請求は不適法です。審査庁は中身を判断せず、45条1項により裁決で却下します。期間を過ぎた審査請求も同じく却下です。
却下に当てはまらない例:中身を判断して「処分は正しい」とした
期間内の適法な審査請求で、D大臣が中身を調べ、処分に違法も不当もないと判断したときは、却下ではなく棄却です(45条2項)。「さくらさんの言い分が通らなかった」という結果は同じでも、中身に入ったかどうかで言葉が分かれます。
ひっかけやすい例:審査庁は処分を重くできるか
D大臣は処分庁なので、理由があれば停止の日数を変更できます(46条1項)。しかし変更できるのは、さくらさんの不利にならない方向だけです。審理の中で「60日は軽すぎた」と考えても、90日に延ばす裁決はできません(48条)。審査請求は、請求した人の権利利益を救うための手続だからです。
ひっかけやすい例:「重すぎる」は裁判でも取消しの理由になるか
行政不服審査法は、行政庁の「違法又は不当な処分」について不服申立てを認める法律で(1条1項)、審査請求では、処分が違法でなくても不当なら取り消せます。取消訴訟では、裁判所が取り消せるのは違法な処分です。裁量処分なら、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り取り消せます(行政事件訴訟法30条)。同じ「重すぎる」という主張でも、不当にとどまるなら、取消訴訟では請求棄却になります。
似ているルールとの違い
裁決・決定・判決:判断をする機関で名前が変わる
審査請求と再審査請求の判断は「裁決」、再調査の請求の判断は「決定」、取消訴訟の判断は「判決」です。再調査の請求は、処分庁が自分の処分を簡易な手続で見直す制度なので、判断をするのも処分庁で、名前も「決定」になります。くわしくは再調査の請求と再審査請求の記事で確かめられます。
住民監査請求:条文に「却下」「棄却」の語はない
地方自治法242条の条文には、「却下」「棄却」の語は出てきません。監査委員は、請求に理由がないと認めるときは、理由を付けてその旨を書面で請求人に通知し、公表します。理由があると認めるときは、議会・長などに期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告し、その内容を請求人に通知し、公表します(242条5項)。不適法な請求を退けることを「却下」と呼ぶのは、条文の言葉ではなく、監査委員の判断の呼び方として使われている言葉です。
判例の「結果:棄却」は上告の棄却
裁判所ウェブサイトの最高裁判所の判例のページには「結果」の欄があり、「棄却」「破棄差戻」などと書かれています。最高裁判所の判例で「棄却」とあるのは、上告など、最高裁判所への申立てを退けたという意味です。原告の請求が棄却されたのか、訴えが却下されたのかは、その事件の原判決の内容によるので、「結果:棄却」だけで「請求棄却」と読まないようにします(判例のページの読み方は判例の読み方の記事)。取消判決の効力は取消訴訟の判決の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
- 却下と棄却の入れ替え:期間を過ぎた・処分でないものを対象にした・訴えの要件(原告適格・訴えの利益など)を欠く、は入口の問題なので却下。中身を判断して理由がないなら棄却。
- 変更できる者:審査請求の審査庁は、処分庁の上級行政庁か処分庁なら変更もできる(46条1項)。再審査庁は取消しだけ(65条1項)。
- 変更の向き:審査請求でも再調査の請求でも、請求人の不利益に変更できない(48条・59条3項)。
- 言葉の取り違え:再調査の請求の判断は「決定」で、「裁決」ではない(58条・59条)。
- 事情裁決・事情判決は「棄却」の一種:処分が違法(事情裁決は違法・不当)でも棄却し、主文で違法(違法・不当)を宣言する(45条3項、行政事件訴訟法31条1項)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
さくらさんは、上級行政庁がないD大臣から事業の停止60日の処分を受け、D大臣に審査請求をした。D大臣は、審理の中で処分が軽すぎると考えても90日に変更することはできないが、審査請求に理由があると認めれば、裁決で停止を30日に変更することはできる。
答え:○ 分かれ目は、審査庁が処分を変更できるかと、その向きです。審査請求に理由があるとき、審査庁は処分を取り消すほか変更もでき、変更ができないのは審査庁が処分庁の上級行政庁でも処分庁でもない場合です(行政不服審査法46条1項)。D大臣は処分庁なので変更でき、そのうえで審査請求人の不利益に変更することは48条で禁じられています。「審査庁は取り消すか退けるかだけ」と考えると✕にしてしまいます。取消ししかできないのは、再審査請求の再審査庁です(65条1項)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
けんたさんは、市から受けた行政指導(法的な義務を課さない求め)に納得できず、その行政指導について審査請求をした。この場合、審査庁は、審査請求に理由がないものとして、裁決で棄却する。
答え:✕ 分かれ目は、入口の問題か中身の問題かです。審査請求ができるのは「行政庁の処分」に不服がある場合で(行政不服審査法2条)、行政指導は、定義の上で「処分に該当しないもの」とされています(行政手続法2条6号)。そのため、行政指導についての審査請求は不適法です。正しくは、審査庁は中身を判断せず、45条1項により裁決で却下します。45条2項の棄却は、適法な審査請求の中身を判断して、理由がないとするときの裁決です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
けんたさんは、隣の土地の業者が受けた許可の取消訴訟を起こしたが、裁判所は、けんたさんには取消しを求める法律上の利益がなく原告適格がないと判断した。この場合、裁判所は、許可が違法かどうかを判断したうえで、請求を棄却する判決をする。
答え:✕ 分かれ目は、訴えの要件を欠いたときの判決の種類です。取消訴訟を起こせるのは法律上の利益を有する者に限られ(行政事件訴訟法9条1項)、これを欠く訴えは不適法です。正しくは、裁判所は許可の違法を判断せずに、判決で訴えを却下します。取消訴訟には民事訴訟の例が当てはまり(7条)、民事訴訟法140条は、不適法な訴えが判決で却下されることを前提に、不備を補正できないときは口頭弁論を経ないでも却下できると定めています。請求棄却は、適法な訴えで処分が違法でないとき、または事情判決(31条1項)のときの判決です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「行政法」で続けて解けます。
まとめ
- 却下=入口で不適法(期間経過・処分でない・訴えの要件を欠く)。棄却=中身を判断して理由がない。認容=理由がある。
- 審査請求・再審査請求は「裁決」、再調査の請求は「決定」、取消訴訟は「判決」。
- 審査請求の認容は取消し・変更(46条1項。上級行政庁でも処分庁でもない審査庁は変更不可)。再審査請求は取消しだけ(65条1項)。
- 審査請求・再調査の請求とも、請求人の不利益には変更できない(48条・59条3項)。
- 住民監査請求の条文(地方自治法242条)には「却下」「棄却」の語はなく、通知・公表と勧告で書かれている。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめました。
- e-Gov法令検索「行政不服審査法」(1条、2条、4条、45条〜49条、58条、59条、64条、65条)
- e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」(7条、9条1項、30条、31条)
- e-Gov法令検索「民事訴訟法」(140条)
- e-Gov法令検索「行政手続法」(2条6号)
- e-Gov法令検索「地方自治法」(242条)
このサイトで次に読むなら、行政不服審査法と行政事件訴訟法の違いの記事です。期間・執行停止・教示と、事情裁決と事情判決の違いを、同じ表の形で確かめられます。
働く人の法律試験ノート