聴聞と弁明の機会の付与をわかりやすく:どちらになるかの分かれ目と手続きの違い

役所が人に不利益な処分(許可を取り消す、営業を止めるなど)をするとき、その前に相手の言い分を聞く決まりがあります。ひとことで言うと、その手続きが「聴聞(ちょうもん)」と「弁明(べんめい)の機会の付与」です。許可の取消しのような重い処分の前は聴聞、それ以外は弁明が原則です(行政手続法13条1項)。

聴聞は「期日を決めて、会って言い分を聞く」ていねいな手続きです。弁明は「言い分を書面で出してもらう」簡単な手続きです。この記事は、令和8年度試験の基準日である令和8年4月1日時点の条文で書いています。

身近な例で考えると

登場人物は次の3人です。

人物立場したこと
はるとさんラーメン店の店主市長から飲食店の営業許可をもらっている
市長許可を出した役所のトップ処分を決める立場(法律では「行政庁」)
中村さん市の職員聴聞の進行役(主宰者)に指名される

ここでは行政手続法の基本ルールだけで考えます。実際の営業許可の法律には、別の決まりが置かれていることもあります。

市の検査で、はるとさんの店に衛生上の問題が見つかりました。市長は「営業許可を取り消そう」と考えます。許可の取消しは重い処分なので、聴聞の出番です。流れは次のとおりです。

  1. 市長は、聴聞の日までに相当な期間をおいて、はるとさんに書面で知らせます。中身は「どんな処分をするつもりか」「その理由になった事実」「聴聞の日と場所」などです。
  2. はるとさんは、市が集めた検査の記録を見せてほしいと求めます(文書の閲覧)。
  3. 聴聞の日、中村さんが進行役を務めます。はじめに市の担当者が、処分の内容と理由を説明します。
  4. はるとさんは意見を言い、証拠を出します。中村さんの許可があれば、市の担当者に質問もできます。
  5. 中村さんは、話し合いの記録(調書)と、「はるとさんの言い分に理由があるか」についての意見(報告書)を市長に出します。
  6. 市長は、調書と報告書の意見を十分に参酌(さんしゃく=よく考えに入れる)して、取り消すかどうかを決めます。

もし市長が考えたのが「許可は残したまま、営業を数日止める命令」だったらどうでしょう。許可そのものはなくならないので、原則は弁明の機会の付与です。はるとさんは、言い分を書いた「弁明書」と証拠を出します。会って話す期日は、原則として開かれません。

学校でたとえると、聴聞は「先生に呼ばれて面談し、記録が残る」形です。弁明は「言い分を紙に書いて出す」形です。ただし本物の聴聞では、処分を決める人とは別に進行役が指名されます。そして、その記録と意見をよく考えに入れて決める義務がある点が、ふつうの面談とは違います。

条文ではこう決まっている

13条1項は、行政庁が不利益処分をしようとするときは、相手の意見を聞く手続きをとらなければならない、と定めています。どちらの手続きになるかは、次のとおりです。

  • 聴聞になる(1号):イ 許認可等(許可・免許など)を取り消すとき。ロ イのほか、相手の資格や地位を直接に奪うとき。ハ 法人の役員の解任、業務に従事する人の解任、会員の除名を命じるとき。ニ イ〜ハ以外でも、行政庁が「相当」と認めるとき。
  • 弁明の機会の付与になる(2号):1号のどれにも当たらないとき。

13条2項は、どちらの手続きもとらなくてよい場合を5つ挙げています。

  1. 公益のため緊急に処分する必要があり、意見を聞く手続きをとれないとき。
  2. 法令で必要な資格がない・なくなったことが判決書などの客観的な資料ではっきりしていて、それを理由にする処分のとき。
  3. 施設や設備が技術的な基準に合わないことが、計測や実験などで確かめられ、基準に従うよう命じるとき。
  4. 納めるお金の額を決める、一定の額を納めるよう命じる、などお金に関する処分のとき。
  5. 義務の内容がとても軽いので、意見を聞く必要がないとして政令で決めた処分のとき。

そもそも「不利益処分」とは何かは、2条4号に書かれています。法令にもとづいて、特定の人に向けて、直接に義務を課したり権利を制限したりする処分です。ただし、申請を拒否する処分など、申請した本人に向けた処分は除かれます(ロ)。相手の同意のもとでする処分(ハ)や、許可の前提になった事実がなくなったという届出を理由に許可の効力を失わせる処分(ニ)も除かれます。

聴聞の手続きの主な決まりは次のとおりです。

  • 通知(15条1項):聴聞の期日までに「相当な期間をおいて」書面で知らせます。知らせるのは4つです。予定している処分の内容と根拠の条文、原因になった事実、期日と場所、担当する組織の名前と所在地です。
  • 居場所が分からないとき(15条3項):役所の事務所の掲示場に掲示して知らせることができます。掲示を始めた日から2週間たつと、届いたものとみなされます(みなす=本当は届いていなくても、届いたものとして扱う)。
  • 代理人(16条):代理人を選べます。代理人は聴聞に関する一切の行為ができ、資格は書面で証明します。
  • 参加人(17条):主宰者は、処分について利害関係のある人(処分で得をしたり損をしたりする、当事者以外の人)に、手続きへの参加を求めたり許したりできます。
  • 文書の閲覧(18条):当事者などは、通知があった時から聴聞が終わる時まで、処分の原因となる事実を示す資料の閲覧を求められます。行政庁は「第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるとき」でなければ拒めません。
  • 主宰者(しゅさいしゃ・19条):行政庁が指名する職員などが進行役です。公平にするため、当事者や参加人、その配偶者・4親等以内の親族・同居の親族、代理人などはなれません。
  • 期日の審理(20条):意見を述べ、証拠を出し、主宰者の許可を得て行政庁の職員に質問できます。審理は原則として公開しません(行政庁が公開を相当と認めるときは公開)。
  • 出頭の代わり(21条):期日に行く代わりに、陳述書と証拠書類を出すこともできます。
  • 終わらせ方(23条):当事者が正当な理由なく来ず、陳述書なども出さないときは、主宰者は改めて機会を与えずに聴聞を終えられます。
  • 調書と報告書(24条・26条):主宰者は調書と報告書を作って行政庁に出します。行政庁はその内容と意見を「十分に参酌して」決めます。
  • 審査請求の制限(27条):聴聞の手続きの中でされた処分(資料の閲覧を断るなど)には、審査請求ができません。

弁明の機会の付与は、もっと簡単です。弁明は原則として弁明書を出して行い、口頭でできるのは行政庁が認めたときだけです(29条)。通知は、弁明書の提出期限までに相当な期間をおいて書面で行います(30条)。聴聞の規定のうち弁明にも使われるのは、2つだけです。居場所が分からないときの通知(15条3項)と、代理人(16条)です(31条)。このように、ほかの場面の規定を少し読み替えて使うことを「準用(じゅんよう)」といいます。

なお、居場所が分からないときの通知の方法は、2026年5月21日に施行された改正で変わりました(令和5年法律第63号)。改正後は「公示の方法」と呼ばれます。総務省令で決める方法でだれでも見られる状態にしたうえで、掲示場に掲示するか、事務所に置いた端末の画面に表示する形です(改正後の15条3項・4項)。令和8年度試験は4月1日時点の条文が範囲です。そのため、この記事は改正前の「掲示場に掲示し、2週間で届いたとみなす」(当時の15条3項)で説明しています。

当てはまる例・当てはまらない例

具体的な場面で、どの手続きになるかを確かめます。

  • 営業許可の取消し → 聴聞。許認可等を取り消す処分なので、13条1項1号イに当たります。
  • 営業停止の命令 → 原則は弁明。許可は残るので、イにもロにも当たりません。ただし行政庁が相当と認めれば、聴聞にすることもできます(ニ)。「営業停止は弁明しかできない」と言い切る文は誤りです。
  • 会社の役員の解任を命じる → 聴聞。法人の役員の解任を命じる処分は、ハに当たります。
  • 新しく出した許可の申請を断る → どちらも不要(ひっかけ)。申請を拒否する処分は、2条4号ロで不利益処分から外れます。「断られた=不利益だから聴聞」ではありません。申請に対する処分のルールで扱います。
  • 廃業の届出を受けて許可の効力をなくす → どちらも不要。届出を理由に効力を失わせる処分は、2条4号ニで不利益処分から外れます。
  • 食中毒が広がっていて今すぐ止めないと危ない → 省略できる。13条2項1号です。ただし理由を示す義務(14条)は別です。差し迫った必要があるときは処分と同時でなくてよく、処分の後の相当の期間内に示します。
  • 納めるお金の額を決める処分 → 省略できる。13条2項4号です。

申請を断る処分と不利益処分の違いは、行政手続法の申請に対する処分と不利益処分の記事でくわしく扱っています。許可の取消しと撤回の考え方は、行政行為の記事が土台になります。

似ているルールとの違い

聴聞と弁明の違いを、表にまとめます。

くらべる点聴聞弁明の機会の付与
使う場面許可の取消しなど重い処分それ以外の不利益処分
言い分の出し方期日に口頭で(陳述書も可)弁明書(口頭は行政庁が認めたとき)
進行役(主宰者)いるいない
資料の閲覧できる(18条)規定なし
参加人ある(17条)規定なし
代理人選べる(16条)選べる(31条で準用)
調書・報告書作る(24条)規定なし

もう一つまぎらわしいのが、行政不服審査法の「口頭意見陳述」です。聴聞は処分の前に、処分をする役所が言い分を聞く手続きです。口頭意見陳述は、処分の後に審査請求をした人が、審理員に口頭で意見を述べる手続きです。時期と、話を聞く人が違います。審査請求の流れは審査請求の記事で確かめてください。

試験ではここをまちがえやすい

行政書士試験では、13条の分かれ目と、聴聞にしかない仕組みが問われやすい形です。

  • 「営業停止の命令をするときは聴聞を行わなければならない」→ 誤り。原則は弁明です。ただし行政庁が相当と認めれば聴聞にもできます。
  • 「申請を拒否するときは弁明の機会を与える」→ 誤り。申請の拒否は不利益処分ではありません。
  • 「弁明の機会の付与でも、資料の閲覧を求められる」→ 誤り。弁明に準用されるのは15条3項と16条だけです。
  • 「聴聞の審理は公開が原則」→ 誤り。原則は非公開で、行政庁が相当と認めるときに公開します。
  • 「行政庁は主宰者の意見に従わなければならない」→ 条文は「十分に参酌して」です。従う義務までは書かれていません。
  • 「当事者が来ないと聴聞を終えられない」→ 誤り。正当な理由なく来ず、陳述書なども出さないときは終えられます。
  • 期間の数字に注意します。聴聞と弁明の手続きで日数が書かれているのは、居場所が分からないときの「2週間」です。聴聞の通知も弁明の通知も「相当な期間をおいて」とされているだけで、日数は書かれていません。

13条1項1号のイ〜ハの言葉は、記述式で書けるようにしておくと安心です。書き方の型は記述式の書き方の記事にまとめています。期間の一覧は期間・数字の一覧で横に並べて確かめられます。

○✕でたしかめよう

(このサイトのオリジナル問題)

問1:市長が、飲食店の営業許可を取り消そうとするときは、原則として弁明の機会の付与を行えば足りる。

答え:✕。許認可等を取り消す処分は、13条1項1号イにより聴聞を行います。

問2:弁明の機会の付与では、弁明は原則として弁明書を提出して行い、口頭で行えるのは行政庁が口頭ですることを認めたときである。

答え:○。29条1項のとおりです。

問3:行政庁が、許可の申請を拒否する処分をしようとするときは、申請者に弁明の機会を与えなければならない。

答え:✕。申請を拒否する処分は、2条4号ロで不利益処分から除かれています。聴聞も弁明も不要です。

まとめ

  • 許可の取消し・資格や地位を奪う処分・役員の解任などは聴聞、それ以外の不利益処分は弁明。
  • 行政庁が相当と認めれば、軽い処分でも聴聞にできる。
  • 申請の拒否や、届出を理由に効力を失わせる処分は、そもそも不利益処分ではない。
  • 主宰者・資料の閲覧・参加人・調書と報告書は、聴聞だけにある仕組み。
  • 緊急のとき、お金の処分のときなど5つの場合は、意見を聞く手続きを省略できる。

次は、処分が出たあとの争い方を読むと流れがつながります。審査請求の記事で、処分の後に役所へ見直しを求める手続きを確かめてください。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。