東京都公安条例事件と新潟県公安条例事件:デモ行進を許可制にする条例と、集会・集団行動の自由

ひとことで言うと、デモ行進(集団行進・集団示威運動)に事前の許可を求める条例(一般に「公安条例」と呼ばれます)について、最高裁判所大法廷は2つの判決で、どちらの条例も憲法に違反しないとしました。ただし、合憲とした筋道が違います。

  • 新潟県公安条例事件(昭和29年11月24日判決):「一般的な許可制」で事前に抑えることは許されない。しかし、特定の場所・方法について、合理的かつ明確な基準のもとで許可や届出を求めることは許される、という線を引いた。
  • 東京都公安条例事件(昭和35年7月20日判決):集団行動の性質を強く見て、条例の許可制は「その実質において届出制とことなるところがない」として合憲とした。

この記事では、2つの判決が何を判断したかだけを書きます。デモの目的・団体、判決の当否や学説の評価は書きません。集会の自由の一般論と成田新法は違憲審査基準の記事、市民会館の使用(泉佐野市民会館事件)は表現の自由の記事、罰則の明確さ(徳島市公安条例事件)は人身の自由の記事に任せます。

身近な例で考えると

架空の「みなと県」で考えます。会社員のまいさんは、仲間と大通りで行進をしたいと考えています。

  1. みなと県には、道路や公園で行進・集団示威運動をするとき、事前に公安委員会(警察を管理する県の委員会)の許可を受けなければならない、という条例がある。
  2. まいさんたちは、行進の日時・道順を書いて許可を申請した。
  3. 条例には、許可しない場合の基準が書いてある。条例に違反して許可なく行進すると、罰則がある。

憲法21条1項は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」を保障しています。行進も、多くの人が集まって意見を外に示す行動で、東京都公安条例事件の判決も、表現の自由との関係で判断しています。一方で、道路を大勢で使えば、ほかの人の通行や安全とぶつかることがあります。そこで、事前に許可を求めることが「表現を前もって抑えること」にならないかが争われました。

たとえるなら、学校の体育館を使う前に「使用届」を出すのと、「使用許可」をもらうのとの違いです。届なら原則として使えますが、許可なら認められないかぎり使えません。ただし本物の判例では、条例が「許可」という言葉を使っていても、言葉だけでなく仕組みの中身で判断されました。

条文ではこう決まっている

  • 憲法21条1項:集会・結社・言論・出版その他一切の表現の自由を保障する。
  • 憲法94条:地方公共団体は、「法律の範囲内で条例を制定することができる」。
  • 地方自治法14条3項:条例に違反した人に、2年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金、拘留、科料、没収の刑、または5万円以下の過料を科す規定を置ける(法令に特別の定めがあるものを除く)。

公安条例は、この14条3項にもとづいて罰則を置いています。条例そのものの条文は、判決文が引いている範囲でしか確かめていないので、この記事では条例の条番号に立ち入りません。条例と規則の関係、条例で罰則を置ける範囲は条例と規則の記事で扱っています。

2つの判決は何を判断したか

新潟県公安条例事件(最高裁判所大法廷昭和29年11月24日判決)

(昭和26年(あ)第3188号。刑集8巻11号1866頁)

  • 届出制:行列行進や公衆の集団示威運動について、単なる届出制を定めることは「格別」(それは別として)とした。
  • 一般的な許可制:「一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反し許されない」。
  • 許される形:「特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に」、あらかじめ許可や届出を求め、「公共の安全に対し明らかな差迫つた危険を及ぼすことが予見されるとき」は許可しない・禁止できるとする規定を置いても、直ちに違憲とはならない。
  • この条例の読み方:許可が要るのは、道路・公園など公衆が自由に交通できる場所を行進したり占めたりする行動を指すと読み、こうした行動でも「特段の事由のない限り許可することを原則とする趣旨」と読んだ。結論は、憲法12条・21条・28条・98条に違反しない。

判決は、条例の許可の基準の文言(公安を害するおそれがないと認める場合に許可する、という書き方)が一般的・抽象的で、明確な表現に改めることが望ましい、とも述べています。また、この判決には1人の裁判官の少数意見と、2人の裁判官の補足意見があります。少数意見は、この条例は実質において一般的な禁止に当たるとして、違憲とする意見です。法廷意見とは分けて覚えます。

東京都公安条例事件(最高裁判所大法廷昭和35年7月20日判決)

(昭和35年(あ)第112号。刑集14巻9号1243頁)

  • 集団行動の性質:集団行動は、多数の人の集まりそのものの力、つまり「潜在する一種の物理的力」によって支えられていて、場合によっては一瞬にして暴徒と化すおそれがある、とした。
  • 必要な措置:そのため、法と秩序を守るために「必要かつ最小限度の措置」を事前に講ずることはやむを得ない、とした。
  • 言葉より中身:条例が憲法に合うかは、許可・届出といった概念や用語だけで判断すべきでなく、条例全体の精神を実質的・有機的に見て判断するとした。
  • 許可の義務:公安委員会は、集団行動が「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」のほかは、許可しなければならない。このため、「この許可制はその実質において届出制とことなるところがない」とした。
  • 場所の書き方:原判決は、条例が集会・集団行進は「道路その他公共の場所」、集団示威運動は「場所のいかんを問わず」と定めている点を、制限が具体性を欠き不明確だと批判していた。法廷意見は、集団行動を法的に規制する必要があるなら、場所を「ある程度包括的にかかげ、またはその行われる場所の如何を問わないものとすることは止むを得ない」とした。

この事件では、原審の東京地方裁判所が条例を違憲・無効としていました。大法廷は、条例を違憲・無効とする原判決は「破棄を免れない」として、事件を差し戻しました。期限までに許可するかどうかの通知がないとき許可があったものとみなす規定が条例にない点についても、法廷意見は、それを理由に条例を違憲とするのは筋道が逆だとしています。この判決には2人の裁判官の反対意見があり、許可制は違憲だとする立場です。反対意見と法廷意見を混ぜないようにします。

法廷意見は、表現の自由は「最大限度に尊重しなければならない」と述べたうえで、表現の自由を口実にして集団行動で平和と秩序を壊すことは許されない、という両方の言い方をしています。条例の運用によって、平穏で秩序ある集団行動まで抑えてはならない、とも述べています。

2つの判決を1枚で比べる

くらべる点新潟県公安条例事件東京都公安条例事件
判決の日昭和29年11月24日(大法廷)昭和35年7月20日(大法廷)
許可の基準の見方特定の場所・方法、合理的かつ明確な基準なら許される。一般的な許可制は許されない直接危険が明らかな場合のほかは許可しなければならない
判断の筋場所・方法を限っているかを見た集団行動の性質を強く見て、実質は届出制と同じとした
結論合憲(上告棄却)合憲(違憲とした原判決を破棄・差戻し)

東京都公安条例事件の法廷意見は、新潟県公安条例事件の判決を引いていません。新潟の判決を引いて違いを述べているのは、反対意見のほうです。東京の判決は、新潟の判決を変更するとは述べていません。2つの判決の筋道の違いは、判決文に書かれた理由の範囲で覚えます。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 許されないとされた形:みなと県が、場所も方法も限らず、県内でのあらゆる集団の行動に事前の許可を求め、基準も示さない条例を作った。新潟県公安条例事件の言う「一般的な許可制」による事前の抑制に当たり、憲法の趣旨に反するとされる形です。
  2. 許されるとされた形:道路や公園など公衆が自由に通る場所での行進に限って許可を求め、公共の安全に明らかな差し迫った危険が予見されるときに限って許可しない、とする条例。新潟県公安条例事件の線の内側です。
  3. ひっかけやすい例(言葉は「許可」):条例が「許可」という言葉を使い、場所も広く定めているが、直接の危険が明らかな場合のほかは許可しなければならない仕組みだった。東京都公安条例事件は、実質は届出制と変わらないとして合憲としました。「許可」の文字だけで違憲とは決まりません。
  4. 別の論点の例:罰則の対象になる行為の書き方があいまいだ、という争いは、許可制の問題ではなく、明確性(31条)の問題です。徳島市公安条例事件で扱われます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 「許可制は違憲」とまとめる型:新潟県公安条例事件が許されないとしたのは「一般的な」許可制。特定の場所・方法について、合理的かつ明確な基準のもとでの許可制は許されるとした。
  • 危険の言い方の取り違え:新潟は「公共の安全に対し明らかな差迫つた危険」、東京は「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」。どちらの判決の言葉かを分ける。
  • 結論の形:東京都公安条例事件は、条例を違憲・無効とした原判決(東京地方裁判所)を破棄して差し戻した。「最高裁が違憲とした」は誤り。
  • 反対意見との混同:みなす規定がないことや抽象的な基準を重く見て違憲としたのは、反対意見・少数意見。法廷意見ではない。
  • 条例の罰則:地方自治法14条3項の上限は、2年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金。過料は5万円以下。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
行列行進や集団示威運動について、場所や方法を限らずに一般的な許可制を定め、事前に抑えることも、公共の安全を守る目的であれば憲法の趣旨に反しない、とするのが新潟県公安条例事件の判例である。

答え:✕ 分かれ目は、許可制の範囲を限っているかです。最高裁判所大法廷昭和29年11月24日判決は、一般的な許可制を定めて事前に抑制することは「憲法の趣旨に反し許されない」としました。正しくは、特定の場所・方法について、合理的かつ明確な基準のもとで許可や届出を求めることが許される、という判例です。目的が公共の安全でも、範囲を限らない許可制は許されません。実質で届出制と同じだとして合憲とした東京都公安条例事件の理由と取り違えないようにします。

問2(このサイトのオリジナル問題)
ある条例は、集団行動に公安委員会の「許可」を求めているが、公共の安寧の保持に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合のほかは許可しなければならないと定めている。東京都公安条例事件の判例によれば、この許可制は実質において届出制と異なるところがない。

答え:○ 分かれ目は、許可・届出の言葉でなく中身で見ることです。最高裁判所大法廷昭和35年7月20日判決は、条例の合憲性を概念や用語だけで判断すべきでないとし、直接の危険が明らかな場合のほかは許可を義務づけている点から、許可制は「その実質において届出制とことなるところがない」として21条に違反しないとしました。「許可制」と書いてあれば一般的な許可制として違憲、と考えると✕を選びます。一般的な許可制を許されないとしたのは新潟県公安条例事件で、範囲を限らない許可制の話です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
東京都公安条例事件で最高裁判所は、許可するかどうかの通知が期限までにないとき許可があったものとみなす規定が条例にないことを理由の一つとして、条例を違憲・無効とした。

答え:✕ 分かれ目は、法廷意見と、原判決・反対意見の区別です。昭和35年7月20日の大法廷判決は、みなす規定がないことを理由に条例を違憲とするのは筋道が逆だとし、条例は21条に違反しないとして、条例を違憲・無効とした原審の東京地方裁判所の判決を破棄し差し戻しました。正しくは、最高裁は合憲としています。みなす規定がないことを重く見て違憲としたのは、この判決の反対意見です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 新潟県公安条例事件(昭和29年11月24日大法廷):一般的な許可制は許されない。特定の場所・方法、合理的かつ明確な基準なら許可制・届出制も許される。結論は合憲。
  • 東京都公安条例事件(昭和35年7月20日大法廷):集団行動の「潜在する一種の物理的力」を見て、必要かつ最小限度の事前の措置はやむを得ないとした。許可制は実質において届出制と同じとして合憲。
  • 東京の事件は、違憲とした原判決を破棄・差戻し。みなす規定がないことを重く見たのは反対意見。
  • 罰則のあいまいさ(明確性)は徳島市公安条例事件、施設の使用は泉佐野市民会館事件。論点を分けて覚える。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました。判決は、裁判所ウェブサイトの裁判要旨と判決全文(PDF)で確かめました(2026年10月17日確認)。引用した判決の言葉は、判決全文で確かめた短い一節だけです。

このサイトで次に読むなら、公の施設の記事です。集会のための施設を自治体が貸すかどうかという、デモ行進とは別の場面の決まりを、地方自治法の条文で確かめられます。

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