当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟をわかりやすく:抗告訴訟との違い

行政事件訴訟法は、役所がかかわる裁判を4種類に分けています(2条)。抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟です。この記事では、抗告訴訟以外の3つを扱います。

ひとことで言うと、当事者訴訟は、役所の処分に不服を言うのではなく、当事者どうしで権利や立場を争う裁判です。民衆訴訟は、自分の利益と関係なく、選挙人などの立場で役所の違法を正す裁判です。機関訴訟は、役所の機関どうしの権限の争いです。民衆訴訟と機関訴訟は、法律に定めがあるときしか起こせません。

この記事は令和8年4月1日時点の法令で書いています。抗告訴訟の6種類は、取消訴訟とそれ以外の抗告訴訟の記事に任せます。

身近な例で考えると

人物立場争いたいこと
たかしさん土地を収用された人補償金が少なすぎる
A市道路を広げる工事をする側補償金は妥当だと考える
まなさん海外に住む日本人次の選挙で投票したい
ひなたさん有権者選挙のやり方が違法だった
B市の市長市の長議会の議決が違法だと考える

たかしさん:補償の額だけを争いたい

  1. A市が道路を広げるため、たかしさんの土地が必要になりました。
  2. 県の収用委員会(しゅうようういんかい)が、土地を収用(しゅうよう=強制的に取得すること)する裁決をし、補償金の額も決めました。
  3. たかしさんは収用には納得しましたが、補償金が少なすぎると考えています。
  4. 補償金の額だけを争うなら、相手は収用委員会ではありません。お金を払う側のA市を被告にして裁判を起こします。

決めたのは収用委員会でも、本当にもめているのは「たかしさんとA市の間のお金の話」です。だから、その当事者どうしで争わせます。これが形式的当事者訴訟です。

まなさん・ひなたさん・B市長の場合

  • まなさんは、処分を争うのではありません。「自分は次の選挙で投票できる立場にある」と確認してほしいのです。これは実質的当事者訴訟(公法上の法律関係に関する確認の訴え)の形になります。
  • ひなたさんは、自分が損をしたからではなく、選挙人として選挙の違法を正したいと考えています。これは民衆訴訟です。法律が認めた選挙の訴えの形で起こします。
  • B市の市長と議会の争いは、市の中の機関どうしの権限の争いです。これは機関訴訟で、地方自治法が定めた手順と期間を守る必要があります。

たとえると、抗告訴訟は「審判の判定そのものに抗議する」裁判です。当事者訴訟は「試合をした選手どうしで決着をつける」裁判です。民衆訴訟は「観客が、ルール違反を正してと申し出る」もので、機関訴訟は「審判団の中で、誰が判定する役かを争う」ものです。ただし本物の制度では、民衆訴訟と機関訴訟は、法律が特に認めた場面と人に限られます。

条文ではこう決まっている

当事者訴訟(4条)は2つの型

  • 形式的当事者訴訟(4条前段):当事者の間の法律関係を確認したり形成したりする処分・裁決に関する訴訟で、法令の規定により、その法律関係の当事者の一方を被告とするもの。たかしさんの補償額の訴えがこれです。
  • 実質的当事者訴訟(4条後段):「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」。まなさんの地位の確認がこれです。

当事者訴訟の主な決まり

  • 出訴の通知(39条):形式的当事者訴訟が起こされたら、裁判所は、処分・裁決をした行政庁にそのことを知らせます。たかしさんの例なら、県の収用委員会に通知がいきます。
  • 出訴期間(40条):法令に出訴期間の定めがある当事者訴訟は、正当な理由があれば、期間を過ぎても起こせます(その法令に別の定めがある場合を除く・1項)。被告をまちがえたときの救済(15条)も準用されます(2項)。
  • 準用(41条):行政庁の訴訟参加(23条)、職権による証拠調べ(24条)、判決が関係行政庁をしばる拘束力(33条1項)、訴訟費用の裁判の効力(35条)などが準用されます。取消判決が第三者にも効く決まり(32条)は、ここに入っていません。

民衆訴訟(5条)と機関訴訟(6条)

  • 民衆訴訟:国や公共団体の機関の、法規に合わない行為を正すよう求める訴訟。「選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格」で起こすものです(5条)。
  • 機関訴訟:国や公共団体の「機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争」についての訴訟(6条)。
  • 起こせる場面と人(42条):「民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」。
  • 準用(43条):処分の取消しを求めるものには取消訴訟の規定を(9条と10条1項を除く)、無効確認を求めるものには無効等確認の訴えの規定を(36条を除く)、それ以外には当事者訴訟の規定を(39条と40条1項を除く)準用します。誰が起こせるかは個別の法律で決まるので、原告適格の9条などが外されています。

なぜ民衆訴訟と機関訴訟は法律の定めが必要なのでしょうか。裁判所が扱うのは、もともと「法律上の争訟(そうしょう)」、つまり自分の権利や義務についての争いです(裁判所法3条1項)。民衆訴訟と機関訴訟は自分の権利の争いではないので、同じ条文の「その他法律において特に定める権限」として、法律が認めたときだけ扱う、と説明されます。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:土地収用の補償額(形式的当事者訴訟)

土地収用法133条は、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えを、裁決書の正本の送達を受けた日から6月以内に起こすとしています(2項)。被告は、起こす人が起業者(工事をする側)なら土地所有者や関係人、土地所有者や関係人なら起業者です(3項)。たかしさんはA市を被告にします。補償そのものの考え方は損失補償をわかりやすくで扱っています。

ひっかけやすい例:補償額以外を争うとき

たかしさんが「そもそも収用自体が違法だ」と争うなら、補償の訴えではありません。収用委員会の裁決に関する訴えとして、裁決書の正本の送達を受けた日から3月以内に起こします(土地収用法133条1項)。こちらは裁決を争う抗告訴訟で、取消訴訟の要件の考え方は取消訴訟の要件をわかりやすくで確かめられます。

当てはまる例:投票できる地位の確認(実質的当事者訴訟)

最高裁判所大法廷の平成17年9月14日判決です。海外に住む日本人が、次の衆議院小選挙区選挙と参議院選挙区選挙で、在外選挙人名簿への登録にもとづき投票できる地位にあることの確認を求めました。判決は、この訴えを「公法上の法律関係に関する確認の訴え」として適法とし、投票できる地位にあると確認しました。

ひっかけやすい例:処分を防ぐための確認の訴え

最高裁判所第一小法廷の平成24年2月9日判決です。教職員が、式典での国歌斉唱に関する職務命令に従う義務がないことの確認を求めました。判決は目的で分けました。懲戒処分を防ぐ目的なら、法律が定めた差止めの訴えで争えるので、確認の訴えは不適法。処分以外の不利益(勤務成績の評価を通じた昇給への影響など)を防ぐ目的なら、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして確認の利益がある(訴えを起こす意味がある)としました。ただし、結論として教職員側の請求は認められていません。差止めの訴えの条件は取消訴訟以外の抗告訴訟をわかりやすくで整理しています。

当てはまる例:選挙の訴えと住民訴訟(民衆訴訟)

  • 衆議院議員・参議院議員の選挙の効力に異議がある選挙人や候補者は、選挙の日から30日以内に、高等裁判所に訴えを起こせます(公職選挙法204条)。ひなたさんが使う形です。
  • 住民訴訟(地方自治法242条の2)も民衆訴訟の例です。住民監査請求をした住民だけが起こせます。くわしくは直接請求と住民監査請求・住民訴訟をわかりやすくへ。

当てはまる例:議会と長、国と地方の争い(機関訴訟)

  • 議会の議決が違法だと長が考えたときは、まず再議(さいぎ=もう一度議決させること)に付します。それでも違法なら、市町村長は知事に審査を申し立てます(地方自治法176条4項・5項)。その裁定に不服があれば、議会または長は、裁定のあった日から60日以内に裁判所に出訴できます(同条7項)。B市長の例です。流れは議会と長の関係をわかりやすくでも扱います。
  • 国の関与に不服がある地方公共団体の長などは、審査の申出をした後、国の行政庁を被告として、高等裁判所に関与の取消しなどを求める訴えを起こせます(地方自治法251条の5)。

当てはまらない例:法律の定めがない「正したい」訴え

ひなたさんが、自分の権利とは関係なく「市の計画が法律に合っていない」と考えても、それを正す訴えを定めた法律がなければ、民衆訴訟は起こせません(42条)。住民訴訟のように法律がある場合も、住民監査請求を先にするなど、その法律の条件を守る必要があります。

似ているルールとの違い

訴え何を争うか起こせる人例
抗告訴訟処分などへの不服法律上の利益がある人など取消訴訟
当事者訴訟公法上の法律関係その関係の当事者補償額の訴え
民衆訴訟違法な行為の是正法律が定める人選挙の訴え
機関訴訟機関どうしの権限法律が定める機関国の関与の訴え

抗告訴訟と当事者訴訟は、自分の権利や立場を守るための訴え(主観訴訟)です。民衆訴訟と機関訴訟は、法が正しく守られるようにするための訴え(客観訴訟)と呼ばれます。

比べる点形式的当事者訴訟実質的当事者訴訟
中身処分・裁決に関する訴え公法上の法律関係の訴え
被告法令が定める当事者の一方法律関係の相手方
出訴の通知(39条)あるない
例収用の補償額投票できる地位の確認

試験ではここをまちがえやすい

  • 形式的当事者訴訟の被告をずらす型:「補償額の訴えは、裁決をした収用委員会を被告とする」は誤り。法令が定める当事者の一方(起業者や土地所有者)が被告です。
  • 42条を落とす型:「民衆訴訟は、法律上の利益がなくても誰でも起こせる」は誤り。法律に定める場合に、法律に定める者だけです。
  • 定義を入れかえる型:5条(民衆訴訟)の「自己の法律上の利益にかかわらない資格」と、6条(機関訴訟)の「機関相互間における権限」を取りちがえる形。
  • 出訴の通知の向きをまちがえる型:39条で通知するのは裁判所で、あて先は処分・裁決をした行政庁です。
  • 準用の範囲を広げる型:当事者訴訟に準用されるのは33条1項の拘束力などで、32条の第三者効は入っていません(41条)。
  • 確認の訴えの使い分けの型:処分を防ぐ目的なら差止めの訴え、処分以外の不利益を防ぐ目的なら公法上の法律関係に関する確認の訴え(平成24年2月9日判決)。

行政書士試験では、5肢択一式で、4つの訴えの定義(2条〜6条)や42条・43条の言葉を入れかえる形が考えられます。具体的な場面(補償額、選挙、議会と長)を示して「どの訴えに当たるか」を選ばせる形にも備えておくと安心です。地方自治法の住民訴訟や議会と長の争いは、地方自治法の問題としても問われうるので、両方の記事を行き来して覚えると混ざりにくくなります。この論点は宅建試験の範囲ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
たかしさんは、県の収用委員会が裁決で決めた補償金の額が少ないと考えている。補償金の額を争う訴えは、裁決をした収用委員会が属する県を被告として起こさなければならない。

答え:✕ 損失の補償に関する訴えは、土地所有者や関係人が起こすときは起業者を被告にします(土地収用法133条3項)。たかしさんはA市を被告にします。これが形式的当事者訴訟です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
B市の市長と市議会の間の権限の争いは機関訴訟に当たるので、法律に定めがなくても、市長は裁判所に訴えを起こすことができる。

答え:✕ 機関訴訟は、民衆訴訟と同じく、法律に定める場合において、法律に定める者に限り起こせます(42条)。議会の議決をめぐる争いなら、地方自治法176条の手順と期間に従います。

問3(このサイトのオリジナル問題)
海外に住むまなさんが、次の国政選挙で投票できる地位にあることの確認を求める訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして起こすことができる。

答え:○ 最高裁判所大法廷の平成17年9月14日判決は、在外国民が次回の衆議院小選挙区選挙・参議院選挙区選挙で投票できる地位にあることの確認を求める訴えを、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法としました(4条後段)。

まとめ

  • 行政事件訴訟は、抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟の4つ(2条)。
  • 形式的当事者訴訟は、処分に関する訴えでも当事者どうしで争う(例:収用の補償額、被告は起業者など)。
  • 実質的当事者訴訟は、公法上の法律関係に関する確認の訴えなど(例:投票できる地位の確認)。
  • 民衆訴訟は自己の法律上の利益にかかわらない資格で、機関訴訟は機関どうしの権限争い。どちらも法律に定める場合・定める者だけ(42条)。

次に読むなら、取消訴訟以外の抗告訴訟をわかりやすくがおすすめです。抗告訴訟の6種類と並べると、「処分に不服を言うのか、立場の確認を求めるのか」で訴えを選ぶ考え方がはっきりします。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。